【2866】 ○ 狩野 博幸/河鍋 楠美 『反骨の画家 河鍋暁斎 (とんぼの本)』 (2010/07 新潮社) ★★★★ (○ 狩野 博幸 『もっと知りたい河鍋暁斎―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)』 (2013/04 東京美術) ★★★★)

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美人画、仏画、戯画、幽霊画、挿画にデザインと何でもござれのマルチ・アーティスト。

反骨の画家 河鍋暁斎1.jpg 反骨の画家 河鍋暁斎0.jpg もっと知りたい河鍋暁斎.jpg 河鍋暁斎.jpg
反骨の画家 河鍋暁斎 (とんぼの本)』['10年](21.4 x 15.1 x 1.5 cm)『もっと知りたい河鍋暁斎―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)』['13年](25.7 x 18.2 x 2 cm)河鍋暁斎(1831-1889)

反骨の画家 河鍋暁斎11.jpg反骨の画家 河鍋暁斎22.jpg 「らんぷの本」版『反骨の画家 河鍋暁斎』('10年)は、幕末から明治にかけての激動の時代に活躍し、「画鬼」とも呼ばれた浮世絵師、日本画家の河鍋暁斎(1831-1889)の波乱万丈の人生と多彩な作品を紹介したもので、第1章が河鍋暁斎研究の泰斗で、2008年に京都国立博物館で開催された「絵画の冒険者 暁斎 Kyosai ―近代へ架ける橋―」展の企画者でもある狩野博幸氏のQ&A形式での解説で、第2章が同氏と暁斎の曾孫で記念美術館理事長の河鍋楠美氏の対談になっていて、各章の前後に、河鍋暁斎の作品を紹介したグラフページがあります。

反骨の画家 河鍋暁斎12.jpg 河鍋暁斎は7歳で歌川国芳に学び、10歳で狩野派に入門しており、冒頭のグラフから見てすぐに窺えるように、美人画、仏画、戯画、幽霊画、挿画にデザインと何でもござれのマルチ・アーティストでした。あまりに何でも描けてしまって、"器用貧乏"的に見られるのと、どの分野の作品が代表作と言えるか特定しにくい面があって、実力の割には知名度はそう高くないまま今日まできている感じもします。でも改めて本書でその作品群を鑑賞すると、もっと高く評価されてもいいように思いました(マルチ・アーティストにありがちの、「"能才"ではあるが"天才"ではない」的な評価がずっとされてきたのではないか。)。

 「反骨の画家」とあるのは、40歳の時に風刺画による筆禍事件により獄舎に送られ、笞刑に処せられるなど、結構辛い目に遭っているというのもあるかと思いますが、一方で作品の中には笑いの要素が見られるものも多くあり、また、芸術を指向しつつも、頼まれれば何でも描いたようで(終わりの方にある春画はスゴイね)、その創作のパワーというものは大したものだと思いました。

もっと知りたい河鍋暁斎31.jpg 「アート・ビギナーズ・コレクション」版『もっと知りたい河鍋暁斎―生涯と作品』('13年)は、「らんぷの本」よりやや大判ですが、2012年にこのシリーズの既刊が49巻になった際に版元が50巻目で取り上げほしい画家をネットで募ったところ(それまで江戸時代の絵師・浮世絵画家では伊藤若冲、曾我蕭白、尾形光琳、俵屋宗達、歌川国芳、葛飾北斎が取り上げられていた)多くの要望があったのか、江戸時代の日本の絵師としては、円山応挙とともに新たにフィーチャーされました(本書以降、"「暁斎」関連本"がぱらぱらと刊行されるようになったようにも思える)。

もっと知りたい河鍋暁斎55.jpg こちらも狩野博幸氏によるものであり、河鍋暁斎の人生を追いながらその作品をみていくという形で、序章(1歳~29歳)で生い立ちを紹介した後、その後の人生の軌跡とその時期に描かれた作品を紹介・解説していくというスタイルで、第1章(30歳~40歳)、第2章(41歳~50歳)、第3章(51歳~59歳)という構成になっています。

もっと知りたい河鍋暁斎―03.JPG 「描けと言われば何でも描いた」ことについて、著者の狩野博幸氏は、テオ・アンゲロプロスの「旅芸人の記録」とリドリー・スコットの「エイリアン」の両方を監督しているようなもので、また、そのことが、人々に侮蔑の感情を引き起こし、結果として暁斎はデラシネとなっていかざるを得なかったというようなことを述べていますが、ナルホドなあと。ただ、生前に多くの外国人の画家・美術家・実業家・ジャーナリストらと交流を持ち(「アート・ビギナーズ・コレクション」版はP25にそのリスト掲載)、そうした海外の影響も受け、「その奇想はさらに大きくゆらめいた」とのことです。

 狩野氏は、P86の「貧乏神図」のところで、「全作品のなかで唯一点選べと言われたら、苦しみながらもこの絵を挙げるだろう」としていますが(「らんぷの本」版ではP99に掲載)、コレ、かなりマニアックかも。描いたジャンルが幅広く、画風も多彩で、「代表作」が必ずしも特定されていない分、鑑賞する人それぞれが、この作品がスゴイ、この作品が好み、と言い合える画家でもあるように思いました。

「貧乏神図」

もっと知りたい河鍋暁斎es.jpg 自分自身、まだべスト"暁斎"を特定できないでいますが、「らんぷの本」版表紙になっている、「惺々狂斎画帖・化猫」などはいいなあと。明治3年(1870)年以前の作とされ、「狂斎」とは明治3年に投獄されるまでの暁斎の号であり、狩野氏によれば「狂」こそ聖人への早道であるとの陽明学の最過激思想からきているそうな(この名も官憲に狙われる原因となった)。この絵は、表紙のものがほぼ原寸大で、(「アート・ビギナーズ・コレクション」版はP64に掲載)、今世紀になって発見され、2008年の「絵画の冒険者 暁斎」展で初公開されています。

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