【2841】 ○ 小松崎 茂 『宇宙少年隊―空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語1』 (2013/11 復刊ドットコム) ★★★☆

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挿画家・小松崎茂としては珍しい「まんが形式による絵物語」(第1巻のみ)。

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宇宙少年隊 (空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語)』['13年/復刊ドットコム]

宇宙少年隊 小松崎_0106.JPG 挿画家・小松崎茂の 「空想科学冒険絵巻」の復刻版(全5巻)の第1巻で、1957(昭和32)年に雑誌「少年」に連載された「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編(1月号~6月号連載・全6回)と「海魔ダイラ」編(7月号~12月号・全6回)を所収しています。因みに、第2巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「おもしろブック」に連載された「海底王国」(全14回)を、第3巻は、1955(昭和30)年に同誌に連載された「銀河Z団」(全9回)を、第4巻は、1955年から翌々年にかけて「少年」に連載された「大暗黒星雲」(全14話)を、第5巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「少年クラブ」に連載された「二十一世紀人」(全14話)を収めていますが、第2巻から第5巻がその名の通り"絵物語"形式なのに対し、この第1巻の「宇宙少年隊」は、コマ割りされ、絵と吹き出しセリフが一体になった「まんが形式による絵物語」となっています(一部、コマ枠外のト書によってストーリーを進めている)。

宇宙少年隊 小松崎_0115.JPG 第1巻「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編は、宇宙少年隊の隊員の和夫と輝彦が、地球侵略を図る遊星ロン宇宙少年隊 小松崎_0111.JPGドゴンの宇宙人の攻撃によって窮地に追い込まれると、いきなり月に住んでいるという"怪人スターマン"が「正義の味方」(自分でそう名乗った)として現れて少年たちを助けてくれ、さらには、少年たちが川で獲ってきたエビガニが「前世紀の怪物」に化けるが、これもロンドゴン星人の仕業で、この放射能で育ったらしいガデスという怪物(前世紀だってこんな生物はいなかったと思うが)も、少年たちがスターマンを呼んで倒してもらうというもの。全部スターマンに負んぶに抱っこですが、スターマンが東海村の原子力研究所に行き、ニュートロンを貰って中性子弾で怪獣を倒すところが、一応、人間とスターマンが協力し合っていることになるのかも。

宇宙少年隊 小松崎_01142.JPG もう一つの「海魔ダイラ」編(原作:木村吉宏)は、少年たちが夏休み旅行で伊豆大島に船で行く途中、突如巨大な宇宙少年隊 小松崎_0113.JPGクラゲの怪物が現れて船を襲い、このダイラと名付けられた怪獣は鋼鉄を喰い荒らす魔物で、原水爆実験で生まれたことがわかり、博士(絶対この手の話に「博士」は出てくる)の助言により、最後はストロンチウム90を撃ち込んで倒すというもの(これもまた毒には毒をもって制すということか)。最後は、「世界は平和をとりもどしたが、原水爆実験がつづく限り不幸な事件はたえないだろう」という博士セリフで終わります(「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)よりずっと以前に「クラゲ怪獣」がいたということか)。

手塚治虫「銀河少年」(昭和28-29年)
銀河少年 手塚.jpg手塚治虫3.jpg 挟み込みの解説によると、漫画家・手塚治虫が昭和28年から29年にか手塚治虫漫画全集未収録作品集(1).jpgけて正調絵物語として「銀河少年」を連載しており、同じようなモチーフで、漫画家と挿絵画家の仕事が入れ替わったようにも見えて興味深いです。ただし、「銀河少年」の方は、途中から「絵ものがたり」の看板を外してコマ割り漫画に移行してしまい、しかも前篇だけで連載終了、後篇は描かれませんでした(国書刊行会から復刻版が出されているほか、『手塚治虫漫画全集未収録作品集①-手塚治虫文庫全集194』('12年/講談社)でも読むことができる。途中で打ち切られ未完のため、「手塚治虫漫画全集」(全400巻)には収録されなかった)。解説でも触れられていますが、小松崎茂は「手塚治虫の絵物語時代」が到来するのではないかと心配していたかもしれません。

 因みに、第2巻の「海底王国」は、H・R・ハガードの小説『洞窟の女王』及びその映画化作品の影響を受けていて、手塚治虫の『ジャングル魔境』もこれに影響を受けています。一方、第3巻の「銀河Z団」は、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』の影響を受けていて、手塚治虫の『ナスビ女王』もこれに影響を受けています。また、「銀河Z団」は、手塚治虫の(後に『鉄腕アトム』となる)『アトム大使』の影響も受けているそうで、小松崎茂と手塚治虫が結構"近接"していた時期があったのだなあと。小松崎茂は、自分たちの「絵物語」はやがて衰退して「まんが」にとって代わられ、その「まんが」の旗手が手塚治虫だと考えていたようですが、その予測は当たったと言えます。

 本書を呼んでも、コマ割りながらも絵は迫力があるものの、ストーリーはちょとどうかな(やや破綻気味?)と思う面もありますが、エディトリアルデザイナーのほうとうひろし氏は、手塚治虫のアトムのロボット漫画で快進撃中だった「少年」編集部から(手塚作品とバッティングしないように?)過剰な介入があったのではないかと推察しています。そのためか、小松崎茂自身も当時落ち込みが激しく、そこへ「あなたの絵と絵コンテが欲しい」と自宅に直談判に来たのがあの特撮監督の円谷英二で、この二人の思いが「地球防衛軍」('57年/東宝)として結実したとのこと。そう言えば「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)のドゴラも、『少年サンデー』の怪獣絵物語用に小松崎茂がデザインした怪物のイラストを円谷英二が立体化したものとのことです。

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