【2838】 ○ 谷口 克広 『検証 本能寺の変 (歴史文化ライブラリー)』 (2007/05 吉川弘文館) ★★★☆

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「本能寺の変」の「Why」に関する諸説を検証。「関与・黒幕説」を悉く論破。

検証 本能寺の変.jpg検証 本能寺の変1.jpg   谷口 克広.jpg 谷口 克広 氏
検証 本能寺の変 (歴史文化ライブラリー)』['07年]

 謎が多いとされている「本能寺の変」を、「織田信長」研究の専門家が検証した本で、著者によればその「謎」とは5W1Hのうちの「Why」であると。つまり、検証の最終目的は、なぜ明智光秀が信長を討ったのかを探ることになると思いますが、著者は、信頼できる史料を曲解せず素直に読むことを念頭に置くとし、本能寺の変を一から検証し直しています。

 まず、多くの史料をもとに本能寺の変を再現し、変直前の信長がどうであったか、本能寺の変を伝える史料にどのようなものがあるか(本能寺の変の史料は意外と数多くある)、変前日の織田諸将の配置はどうであったか、変が勃発してからはどうであった、変後の様子はどうであったかを丁寧に検証していますが、日記・文書といった一次史料、編纂物の中にも、良質なもの、信頼できないもの様々あるのだなあと思わされました。

 次に、本能寺の変研究の流れを、江戸時代における信長評から(江戸時代は結構ボロクソ扱いだったようだ)、明治期以降、今日まで追っています(高柳光寿がそれまで有力だった怨恨説を否定し、野望説を打ち出したのが(『明智光秀―人物叢書』('58年/吉川弘文館)、ひとつ転機だったか)。

 そして次に、いよいよ明智光秀はなぜ織田信長を討ったのか、現在提唱されている諸説と論争の状況を整理しています。それらを纏めると、①朝廷関与(黒幕)説―立花京子(中心はイエズス会)、②足利義昭関与(黒幕)説―藤田達生、③本願寺教如首謀者説―小泉義博、④イエズス会を中心とする南欧勢力関与説―立花京子、⑤光秀単独説―桐野作人・堀新・藤本正行・鈴木眞哉・円堂晃・小島道弘裕、⑥その他―小林正信、となるとしています。

 本書の後半部分は、これらの説を順番に再検証していく内容になっています。まず「関与・黒幕説」について、朝廷関与(黒幕)説(この説は史料の曲解から生じたとしている)、足利義昭関与(黒幕)説(毛利氏に担がれて上洛を望んでいる義昭が、その毛利氏を蚊帳の外に置いて光秀を動かすとは信じ難いと)、その他の関与・黒幕説として、豊臣秀吉関与(黒幕)説(中国大返しを不可能と見て彼を疑うのは筋違い)、本願寺教如首謀者説(後世の編纂物にある記事を無批判に信じる姿勢から生じた説)、南欧勢力黒幕説(日本国内での仲間も限られているイエズス会が、卓上で駒を動かすように日本の政治の中枢を操るなどできるはずがない)―と、順次論破していきます。

 そして、改めて、本能寺の変の原因についての諸説を整理し、待遇上の不満・怨恨説、政策上の対立説、精神的理由説、野望説を再検証していますが、その中から消去法で消去しきれなかった要素(主君信長に対する信頼感の欠如、しばしば行われた侮辱による怨恨、信長家臣としての将来に対する不安、性格不一致)が繋がるものとして、長の「四国対策」の変更を挙げています。

 随分と絞り込んだなあという気がしましたが、信長が長宗我部元親との交流を断ち切り、四国担当だった光秀を外して秀吉に四国に兵を送るよう命じたことが光秀に打撃を与え、光秀が信長に抗議しても足蹴にされたということが、光秀謀反の原因となったというのは、分からなくもない気がしました。

 ただ、この説で行くならば、もう少し拡げて信長との「政策不一致説」という言い方もできるかもしれないし(「性格不一致説」にも繋がるが)、老齢の光秀が(著者によれば、光秀の年齢は本能寺の変の時に、一般には55歳ということになっているが(『明智軍記』)、実は67歳だったと比較的信頼できる資料(『当代記』)あるとのこと)、信長と長宗我部元親の板挟みになって、本書にもあるように鬱々した日々を送っていたということで、「ノイローゼ」説も成り立つかも。さらには、秀吉が四国政策で自分にとって代わったことが原因ならば、これも拡げて「秀吉ライバル視」説という言い方もできるかも。

 いずれにせよ、積極的・消極的の違いはありますが、黒幕説ではなく光秀単独説ということになるかと思います。「四国対策」の変検証 本能寺の変 (歴史文化ライブラリー)obi.jpg更は、「原因」というより「誘因」のような気もしますが(光秀単独説の桐野作人氏も、四国政策の転換が謀反の背景にあったとしている(「歴史読本」編『ここまで分かった!本能寺の変』)('12年/新人物文庫))、日本人が好きな(?)「関与・黒幕説」を悉く論破している点では明快と言える本かもしれません(帯に「信長を殺したのは誰か?」と思わせぶりにあるが、著者によれば明智光秀以外の何者でもないということになる)。

   



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