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高倉健が、真似や演技ではなく実際に「高倉健」という生き方としていたように思えた。

「高倉健」という生き方 (新潮新書).jpg  谷 充代.jpg  谷 充代 氏[写真:婦人公論]
「高倉健」という生き方 (新潮新書)

 フリー編集者として80年代半ばから2000年代まで高倉健の取材を重ねてきた著者(ラジオ番組をベースにした『旅の途中で』(高倉健著、'03年/新潮社、'05年/新潮文庫)のプロデュース担当者でもある)が、国内外の映画の現場や私的な会合の場や旅先などで、俳優として人としての高倉健を男を追い続ける中で、「健さん」本人をはじめ監督や俳優仲間、スタッフや縁あった人々に細やかな取材を重ね書き綴ってきた全33話のエピソード集です。

 さすが取材に年季が入っているなあという感じ。そして何よりも、高倉健に対する敬愛の念を感じました。本人が亡くなってから、一部いろいろな話も出てきていますが、やはりスターはスターのままでいて欲しいと思うので、個人的にはそうしたものをほじくり返すような動きにはあまり関心がいきません。本書も「いい話」ばかりですが、これはこれでいいのでは。

 印象に残ったのは、「関係を尽くすひと」「一期一会ということに体を張っている」(105p)というところ。この先、また会うかどうか分からない人に対してもそうした姿勢で接することができるというのはスゴイことだなあと。著者はそれを、どこまでいっても自分に執着するブルジョワ的生き方と対比させて、"貴族の無欲"と表現していますが、ある種"孤高の精神"のようなものを感じました(こういうの感じさせる人って、ハリウッドスターにはいないなあ)。

 妻だった江利チエミの墓参りを欠かさなかったことはよく知られていますが、著者も健さんの仕事の前には江利チエミの墓参りをしていて、行くとすでに墓前にウィスキーロックがあったりして、撮影のプランの依頼と併せてその感動を手紙で伝えたところから撮影の仕事を引き受けてもらえたとのこと(113p)。1999年のことで、カメラマンは十文字美信氏(野地秩嘉氏の『高倉健ラストインタヴューズ』('17年/プレジデント社)のカバー写真などもこの人の撮影)。

 『男としての人生―山本周五郎が描いた男たち』(木村久邇典著、グラフ社)という本が気に入っていて、絶版の古書扱いになっていたものを、「自分が百冊引き取る」と言って増刷に漕ぎ着けたという話(136p)も良かったです(同じ山本周五郎好きの黒澤明監督と一度仕事して欲しかった)。

網走番外地g_  .jpg 随筆集『あなたに褒められたくて』の「あなた」が「お母さん」であることはその本の中でも述べられていますが(そう言えば、「網走番外地」('65年/東映)は、主人公が母恋しさに網走刑務所からムショ仲間と手錠につながれたまま脱獄する話だった)、自分の母親が亡くなったとき、まわりの誰にも知られないように仕事を続けていたそうで(144p)、これもスゴイなあと思います。

 地方で地元の人しか知らない温泉場を教えてくれた蕎麦屋の主人が、「アンタね、俺が若いころに観たことがある。ん~と、あの~」と言いつつ名前が出てこず、「ウン、よたもんの俳優だ」「あの、よたもん」と言ったのを、宿に帰る車の中で何度も「あの、よたもん」と口真似しながら、嬉しそうに笑っていたというのもいい話です(174p)。

 著者が海外の撮影にも同行を許され、手持無沙汰に身の回りの世話をしようとすると、「谷、書くためにきているんだろ。そんなことしなくていいよ」と戒めたという(195p)、これなんか、なかなか言えないことだと思います。

後藤久美子.jpg 若者を見ていると時代の変化を感じると言い、「立派だなぁと思ったのは後藤久美子さん。彼女の恋愛は実に正直で堂々としている。恋人と海外で暮らしていて、仕事がある時にだけ日本に帰ってくる。公私混同せずに生きているよね」と言っていて(101p)、自分よりずっと若い人に対しても、いいところを見つけ褒める姿勢も立派です。この「公私混同せず」の考えは彼自身の生き方にも反映されているように思います。また、若い頃に恋人が女優志望であったために一緒に暮らしたいというのを突っぱねたという過去があったとのこと。その本人が、彼女との生計のために俳優になり、何とか食べていけるようになった時にはその彼女と別れてしまったというのは、まさに皮肉の連続と言っていい人生だなあ。

 これまで、高倉健という人は「高倉健」を演じ続ける生き方をせざるを得ず、その壊せない(壊してはいけない)「高倉健」像に縛られるような面もあって、晩年は出演映画数なども減ったのかなあと思っていました。それだけだと、「高倉健」(という虚像)を生きる、ということになりかねないですが、本書を読んで、「高倉健」を本人はわりと自然に生きていた―つまり、真似や演技ではなく実際に「高倉健」という生き方としていたように思えてきました。

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新東宝「最後の生き証人」たちの懐述。丹波哲郎の話が一番面白かった。

新東宝1947-1961.jpg新東宝1947-1961 創造と冒険の15年間.jpg 新東宝1947-19613.JPG
新東宝1947-1961 創造と冒険の15年間』カバー写真「盗まれた恋」('51年 市川崑監督)森雅之/久慈あさみ

 本書は前半が主に90年代半ばから2000年代にかけておこなわれた新東宝作品関係者へのインタビュー集で(故人となっている人が多い。新東宝について言えば「最後の生き証人」たちの懐述ともいえる)、後半が新東宝の全作品(800本超!)のフィルモグラフィーとなっており、このフィルモグラフィーはまさに貴重な資料ですが、前半のインタビュー部分も同じく貴重な記録だと思います。

インタビューの方は、浅野辰雄(監督)から吉田輝雄(俳優)まで五十音順に31人が登場し、石井輝男、小野田嘉幹、曲谷守平といった監督から、宮川一郎といった脚本家、前田通子、三ツ矢歌子といった女優から、丹波哲郎、沼田曜一、由利徹といった男優まで多彩です。

 監督で話が面白かった(興味深かった)のは「ナショナル・キッド」の脚本も手掛けた大貫正義監督で、斎藤寅次郎監督が晩年"寅二郎"に改名したのは、「男はつらいよ」の寅次郎と一緒の名前が嫌だったというのが真相だとか...。

殺人容疑者 映画.jpg 男優で最も話が面白かったのは丹波哲郎で、駆け出しの頃、「殺人容疑者」('52年)製作時に、主役の俳優に予定していた役者が都合できず、困って探していた製作本部から、そこへ使いで行ったところをマネジャーか事務員と間違えられて「君に似た俳優を探してきてくれ」と言われ、「ああ、知ってるよ」と答えたら30人のスタッフに取り囲まれ、「はい、俺だ」とは言えなくなって、「いまちょっと名前は忘れたけれど、事務所に帰れば分かる」と...(最終的にはこの「殺人容疑者」が丹波哲郎のデビュー作となる)。

人喰海女 三ツ矢歌子.jpg 女優では、三ツ矢歌子が面白かったそうでしょうか。一番思い出に残っている作品が「スーパージャイアンツ」シリーズで、女子高生の格好のまま吊られて空を飛ぶシーンが大変で、泣きたくなるぐらいだったが、今思うと楽しかったとか、小野田嘉幹監督の「人喰海女」('60年)で、入浴シーンで「また裸になるのは嫌です」と言ったら、「裸にならなくても、水着を着てタオルで隠せばいいから」といって庇ってくれて、「それで、フッと気持ちが動いたのか、それから二年後に結婚しました(笑)」。

三ツ矢歌子 in「人喰海女」('60年)

前田通子 ]女王蜂の復讐.jpg 前田通子のインタビューでは、志村敏夫監督の「女真珠王の復讐」('56年)で、彼女の後ろ姿の全裸が出てくるのは「アナタハン事件」をベースにしているとか(映画の方?)。「女真珠王の復讐」の時は、脱ぐシーンがあることが事前に分かっていて、裸になることに「ためらいはございませんでした」と。新東宝を辞める契機となった俗に言う「裾まくり事件」(彼女と一緒に志村敏夫監督も辞めた)については、本人は「嫌だ」とも「やりたくない」とも言っていなくて、ただし急な話だったので「うっ」となった時に昼食休憩に入って、そのまま、「前田通子が現場でゴネてる」という話になったとか。

前田通子 in「女真珠王の復讐」('56年)

 前田通子の話も貴重ですが(インタビュー収録は1996年)、真相は「藪の中」といったところでしょうか。やはり一番面白かったのは丹波哲郎かな(彼のことだから話を"盛っている"ことは十分考えられるが)。

 あとがきによれば、本書の企画自体は1990年代初期にスタートしたものの、諸事情があって10数年以上中断し、5年ほど前に蘇って今年['19年]の刊行に至ったとのこと。800本超のフィルモグラフィーは、先に取り上げた『新東宝は"映画の宝庫"だった』('15年/メディアックス)の第五章「新東宝映画完全リスト」の716本を上回りますが、ほぼ全作品にあらすじや解説がついていて、実はこの作業が一番大変であったとのことです。企画が潰えなかったのは、編者らの努力というか執念のお陰と言っていいいと思います。

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タイトル通り「新東宝は"映画の宝庫"だった」のだなあと。

新東宝は 新東宝は映画の宝庫だった 0.jpg 新東宝は映画の宝庫だった h.jpg
新東宝は"映画の宝庫"だった』カバー写真「海女の化物屋敷」('59年)沼田曜一/万里昌代/瀬戸麗子

新東宝は映画の宝庫だった 巻末.jpg 第一章で、新東宝映画の代表作を1作1ページから2ページで紹介、第二章は、著者のエッセー「新東宝映画の歴史 監督 スターたち」、第三章が、中川信夫インタビュー「中川信夫 全作品を語る」で、第四章が、宮川一郎インタビュー「大蔵貢は説明はいらない 面白いところだけ繋げ、と言った。」(共に聞き手は著者)、最後の第五章が「新東宝映画完全リスト」(全716本! 著者による評価とコメント入り。ソフト化されていない作品が多く、資料としても貴重)という構成ですが、1945年から1961年までの新東宝作品を紹介した第一章が全体の半分以上を占め、やはりこれがメインでしょうか。書き溜めていたとは言え、約150本の作品を200ページ近くにわたって、個人的な思い入れも含め(ただしあらすじ等も丁寧に紹介している)解説しているのはスゴイことかもしれません。

稲垣浩監督「忘れられた子等」('49年)/黒澤明監督「野良犬」('49年)
「忘れられた子等」 .jpg野良犬1.jpg 第一章は、萩原遼監督の「大江戸の鬼」('47年)から始まって(著者は、長谷川一夫と高峰峰子のロマンスの情緒が感じられなかったとのことだが)、市川崑監督の「人間模様」('49年)、中川信夫監督の「エノケンのとび助冒険旅行」('49年)、稲垣浩監督の「忘れられた子等」('49年)と、初期40年代の作品は、時代物、サスペンス、コメディ、ヒューマンドラマと、実に内容多彩です。そして、あの黒澤明監督の「野良犬」('49年、配給会社は東宝)(日本で初めての刑事物)も、清水宏監督の「小原庄助小原庄助さん 2.jpg宗方姉妹B.jpgさん」('49年、配給会社は東宝)(相米慎二監督が日本映画のベスト3に挙げていたとのこと)も新東宝映画でした(巻末のリスト見て、小津安二郎監督の「宗方姉妹(むねかたきょうだい)」('50年)も小津安二郎が新東宝に招かれて撮った作品だったこと思い出したが、著者はこの作品を小津映画にしてはイマイチと。確かに)。
清水宏監督「小原庄助さん」('49年)/小津安二郎監督「宗方姉妹」('50年)
 
志村敏夫監督「女真珠王の復讐」('56年)/志村敏夫監督「海女の戦慄」('57年)
女真珠王の復讐00.jpg海女の戦慄jpg.jpg 50年代に入ると。溝口健二監督の「西鶴一代女」('52年)のようなベネチア映画祭で賞を受賞する作品まで出てきて、それでいながら娯楽作品も多く(どちらかと言えば娯楽作品がメイン)、志村敏夫監督、前田通子主演の「女真珠王の復讐」('56年)や(日本映画で初のオールヌード映画。著者によれば、ストーリーはデュマの「岩窟王」の女性版とのこと。ナルホド)、「海女の戦慄」('57年)(ご都合主義だが、前田通子のゴージャスな肉体を味わう映画と思えば一見の価値ありと)などは、まさにこれぞ新東宝映画!という感じです。

曲谷守平監督「海女の化物屋敷」('59年)/小野田嘉幹監督「女奴隷船」('60年)カラー作品
海女の化物屋敷33.jpg海女の化物屋敷 09.jpg「女奴隷船」(新東宝)1.jpg「女奴隷船」(新東宝)2.jpg さらに中川信夫監督の「亡霊怪猫屋敷」('58年)や、本書のカバー写真にもなっている曲谷守平監督の「海女の化物屋敷」('59年)といった怪奇スリラーが多く作られ(と言っても、著者が言うように「海女の化物屋敷」の三原葉子などは"明るい探偵役"で、映画自体も怖くない)、「海女の化物屋敷」で映画初主演を果たした菅原文太は小野田嘉幹監督の「女奴隷船」('60年)(著者は「優秀な特撮技術で創られたスケールの大きな海洋冒険アクション」と評価)で丹波哲郎とぶつかります。丹波哲郎は「女真珠王の復讐」で天知茂の敵役で出ていて、この「女奴隷船」では海賊の首領役で菅原文太の敵役に。天知茂は、石井輝夫監督の「黒線地帯」('60年)で主役のトップ屋黒線地帯 1960 dvd.jpg黒線地帯03.jpg黒線地帯 1960① 天知茂(町田広二).jpgに。それをコメディリリーフするのが三原葉子。著者は、「黒線地帯」を中川信夫監督の「東海道四谷怪談」('59年)「地獄」('60年)とともに新東宝映画の三大傑作の一つに挙げています。

石井輝男監督「黒線地帯」('60年)

 新東宝の歴史と、どんな監督が活躍し、どんなスターを輩出したかは、第二章の三部構成の著者のエッセーに詳しいです。しかし、途中から社長になった大蔵貢が低予算の猟奇怪談お色気といった「エロ・グロ路線」を敷いて新東宝の経営を再建、新・黄金時代を築いたかと思ったら、自ら企画の手詰まりで1960年に退陣、翌年には新東宝という会社自体が瓦解するという、この会社の栄枯盛衰の最後の「衰」の部分はあっけなかったなあ。

 活躍した監督は、渡辺邦男、中川信夫、市川崑、石井輝夫、渡辺祐介、土居通芳、小野田嘉幹、志村敏夫など。男優では、初期の頃は、大河内伝次郎、長谷川一夫、後に天知茂、菅原文太、丹波哲郎、若山富三郎、宇津井健、吉田輝雄、中山昭二、高島忠夫など。女優は、初期の頃は、原節子、高峰秀子、後に三ツ矢歌子(「女奴隷船」の小野田嘉幹監督と映画に出た年に結婚)、三原葉子、久保菜穂子、池内淳子、大空真弓、万里昌代など。これだけを見ても、「新東宝は"映画の宝庫"だった」というのは分かる気がします。そうだ、前田通子を忘れてはならない。あれほど会社に貢献した女優をかっとなってクビにしてしまう、そんな大蔵貢のワンマンぶりも、会社を倒産に追い込んだ原因の一つだったように思います。

新東宝1947-1961.jpg ただし、今年['19年]になって刊行された『新東宝1947-1961 創造と冒険の15年間』('19年/ワイズ出版)によると、この本は新東宝関係者へのインタビュー集なのですが、小森白監督などは、大蔵貢の社長就任前に新東宝の経営は傾いており、「悪いのは大蔵貢ではない」と擁護しています(大貫正義監督なども擁護派)。


「大江戸の鬼」長谷川一夫・高峰秀子.jpg「大江戸の鬼」●制作年:1947年●監督:萩原遼●製作:伊藤基彦●脚本:三村伸太郎●撮影:安本淳●音楽:鈴木静一●時間:100分●出演:大河内傳次郎/長谷川一夫/黒川彌太郎/宮川五十鈴/上山草人/汐見洋/岬洋二/鬼頭善一郎/原文雄/小森敏/小島洋々/田中春男/高峰秀子/清川荘司/鳥羽陽之助/伊藤雄之助/阪東橋之助/横山運平/澤井三郎/永井柳太郎/高勢実乗●公開:1947/05●配給:新東宝(評価:★★☆)

高峰秀子・長谷川一夫


忘れられた子等2 vhs.jpg忘れられた子等 2.jpg忘れられた子等 タイトル.jpg忘れられた子等003.jpg「忘れられた子等」●制作年:1949年●監督・製作・脚本:稲垣浩●撮影:安本淳●音楽:西梧郎●原作:田村一二●時間:86分●出演:掘雄二/笠智衆/泉田行夫/岩田直二/葛木香一/浅野光男/葉山富之輔/松浦築枝/滝沢静子/木下サヨ子/宮川喜美枝●公開:1949/10●配給:新東宝(評価:★★★☆)
     
「野良犬」●制作年:1野良犬 1949 0.jpg949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/井田木村 功 野良犬.jpg綾子(淡路恵子)/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-12-18)(評価:★★★★)   
        
小原庄助さん 1949.jpg小原庄助さん 1.jpg「小原庄助さん」●制作年:1949年●監督:清水宏●製作:岸松雄/金巻博司●製作会社:新東宝●脚本:清水宏/岸松雄●撮影:鈴木博●音楽:古関裕而●時間:94分●出演:大河内傳次郎/風見章子/飯田蝶子/清川虹子/坪井哲/川部守一/田中春男/清川荘司/杉寛/宮川玲子/鮎川浩/鳥羽陽之助/日守新一/石川 冷 /尾上桃華/高松政雄/倉橋享/今清水甚二/高村洋三/佐川混/加藤欣子/徳大寺君枝/赤坂小梅●公開:1947/11●配給:東宝(評価:★★★★)
 
宗方姉妹ges.jpg上原謙  高峰秀子 宗方姉妹.jpg「宗方姉妹(むねかたきょうだい)」●制作年:1950年●監督:小津安二郎●製作:児井英生郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:小原譲治●音楽:斎藤一郎●原作:大仏次郎「宗方姉妹」●時間:112分●出演:田中絹代/高峰秀子/上原謙/山村聡/高杉早苗/堀雄二/藤原釜足/河村黎吉/千石規子/一の宮あつ子/堀越節子/坪内美子/斎藤達雄/笠智衆●公開:1950/08●配給:新東宝(評価:★★★☆)
      
女真珠王の復讐9d.jpg女真珠王の復讐1b.jpg女真珠王の復讐 ps.jpg「女真珠王の復讐」●制作年:1956年●監督:志村敏夫●製作:星野和平●脚本:相良準/松木功●撮影:友成達雄●音楽:松井八郎●原作:青木義久「復讐は誰がやる」●時間:89分●出演:前田通子/宇津井健/藤田進/丹波哲郎天知茂/三ツ矢歌子/遠山幸子/小倉繁/若月輝夫/芝田新/林寛/沢井三郎/光岡早苗(後に城山路子)/保坂光代/藤村昌子/石川冷/宮原徹/菊地双三郎/高村洋三/有馬新二/山田長正/国創典(後に邦創典)/伸夫英一/倉橋宏明/高松政雄/山川朔太郎/北一天知茂s.jpg馬/村山京司/竹中弘直/小林猛/川部修詩/大谷友彦/草間喜代四/岡女真珠王の復讐  丹波s.jpg竜弘/池月正/三宅実/西一樹/東堂泰彦/三井瀧太郎/三村泰二/沢村勇/山口多賀志/万里昌子(後に昌代)/有田淳子/藤田博子/森悠子/ジャック・アルテンバイ●公開:1956/07●配給:新東宝(評価:★★★)
天知茂/丹波哲郎
        
前田通子(左から2人目)
海女の戦慄1s.jpg海女の戦慄 前田.jpg海女の戦慄2.jpg「海女の戦慄」●制作年:1957年●監督:志村敏夫●脚本:内田弘三/坂倉英一●撮影:岡戸嘉外●音楽:レイモンド服部●原案:志賀弘●時間:73分●出演:前田通子/天城竜太郎(後に若杉英二)/小倉繁/松本朝夫(後に朝生)/三ツ矢歌子/林寛/芝田新/菊地双三郎/有馬新二/村山京司/九重京司/木下隆二/川原「海女の戦慄」_0.jpg健/桂京子/万里昌子(後に昌代)/大江満彦/石川冷/美舟洋子/有田淳子/秋田真夢/長門順子/水上恵子/島伊津子/保坂光代/辻祐海女の戦慄 スチール.jpg子/葉山由紀子/吉田昌代/水帆順子/太田博之(子役)/武村新/山田長正/信夫英一/広瀬康治/千葉徹/小森敏/国(後に邦)創典/沢村勇/遠藤達雄/高橋一郎/菊川大二郎/南沢潤一●公開:1957/07●配給:新東宝(評価:★★)
「海女の戦慄」(スチール写真)
松本朝夫/三ツ矢歌子/前田通子(手前の3人)

海女の化物屋敷g_1.jpg「海女の化物屋敷」●制作年:1959年●監督:曲谷守平●脚海女の化物屋敷_4.jpg本:杉本彰/赤司直●撮影:岡戸嘉外●音楽:長瀬貞夫●原案:葭原幸造●時間:81分●出演:三原葉子/菅原文太/瀬戸麗子/山村邦子/万里昌代海女の化物屋敷02.jpg沼田曜一/国方伝/五月藤江/岬洋二/九重京司/大原永子/由木城太郎/山下明子/沖啓二/倉橋宏明/白川晶雄/高橋一郎/西朱実/宇田勝哉 ●公開:1959/07●配給:新東宝(評価:★★★)
  
「女奴隷船」ポスター/スチール写真
女奴隷船 ポスター.jpg女奴隷船 スチール.jpg女奴隷船ps.jpg「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波女奴隷船 vhs.jpg映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】_.jpg哲郎/左京路子/沢井三郎/大友純/杉山弘太郎/川部修詩/中村虎彦●公開:1960/01●配給:新東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館(86-10-04)(評価:★★☆)●併映:「女獣」(曲谷守平)主演:菅原文太
女奴隷船 [VHS]」「映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】」  

黒線地帯 [DVD] - 1.jpg石井輝男 黒線地帯8.jpg「黒線地帯」●制作年:1960年●監督:石井輝男●製作:大蔵貢●脚本:石井輝男/宮川一郎●撮影:吉田重業●音楽:渡辺宙明●時間:80分●出演:天知茂/三原葉子/三ツ矢歌子/細川俊夫/吉田昌代/魚住純子/ 守山竜次/鳴門洋二/宗方祐二/瀬戸麗子/南原洋子/菊川大二郎/鮎川浩/城実穂/浅見比呂志/板根正吾/山村邦子/桂京子/小高まさる/大谷友彦/水上恵子/国創典/倉橋宏明/宮浩一/晴海勇三/村山京司/原聖二●公開:1960/01●配給:新東宝(評価:★★★★)

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1945年から1980年の「カルトムービー」を紹介。単著なのでまとまりがあった。

カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980.jpgカルトムービー本当に面白い日本映画 1981「→2013.jpg  誘惑 1948.jpg 誘惑 1948年).jpgあの頃映画 誘惑 [DVD]
カルトムービー 本当に面白い日本映画 1945→1980 (メディアックスMOOK)』['13年]カバー「黒線地帯」('60年/新東宝)天知茂/三原葉子『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1981→2013 (メディアックスMOOK)』['14年]

 1945年から1980年に公開された、ベストテン映画ではないが面白い「カルトムービー」154作を紹介したもの。単著(一人の著者によるもの)なので、トーンが均一でまとまりがありました(著者は続編として『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1981→2013』('14年)も上梓しているが、個人的にはこの"前編"の方が馴染みの作品が多かった)。

IMG_1象を喰った連中.JPG 吉村公三郎監督の「象を喰った連中」('47年)は、確かに、冒頭の出演者のクレジットもわざわざ「象を喰った連中」と「象は喰はない連中」に分けて紹介するというユーモアがありました。本書によれば、宝塚の動物園で病死した象の肉を食べた連中がワクチンを探して大騒ぎになった、という記事を読んだ吉村公三郎監督の着想で生まれた作品とのことで、半分"実話"だった? 最後、著者は、ラストシーンで死を免れたことを喜び、阿部徹が妻と抱き合うシーンで手だけアップになるところが秀逸なのに、「下品だと書いたバカな評論家が当時一人いたことを付け加えておく」と(誰?)。

IMG_2女真珠王の復讐.JPG 志村敏夫監督の「女真珠王の復讐」('56年)は、日本映画史上、女優が初めて大胆なオールヌードを見せた作品として知られ、そのほかにも、前田通子がビキニ姿で海中に潜ったり、手だけで胸を隠して逃げ回るシーンがあるため、単にセクシー映画と見られがちですが、著者は、スピード感溢れるドラマ展開の作りに驚嘆させられると。しかし、やっぱりこの映画は、漂流した一人の女性と32人の男性が南洋の小島で共同生活を送るうちに、女性を巡って殺し合いするまでに発展した、あの「アナタハン事件」がモデルだったのかあ。

IMG_3点と線.JPG 小林恒夫監督の「点と線」('58年)は、犯人の妻役で登場した高峰三枝子は当時40歳で28歳の病弱な妻を演じていますが、著者の言うように、映画の中では年齢に触れられていないので、単に病弱な妻として見れば違和感はないかも。普通なら犯人役など引き受けない大女優がこの役を引き受けたことで、後の市川崑監督の「犬神家の一族」('76年)への出演に繋がり、ブルーリボン助演女優賞を受賞するまでになったと著者は述べています。時刻表のアップは、カラーのシネマスコープでは技術上撮れなかっため、10畳ほどの大きさの時刻表を作り、レールに載せたカメラで接写したとのこと。東京駅のプラットホームの撮影も、国鉄が協力し、列車が止まった深夜に行われたとのこと。本書によって、撮影の苦労の跡が窺えました。

IMG_4モスラ.JPG 本多猪四郎監督の「モスラ」('61年)は、個人的には生まれて初めて観た特撮怪獣映画であり、思い出深いのですが(記憶自体はあとで観直して補強された面もあるかと思うが)、日米合作映画として作られたのだなあ。契約でアメリカのシーンを入れることになっていたのに、予算の都合で日本のシーンだけで撮影を終わらせたところ、アメリカ側から抗議を受け(そりゅあ怒る)、ラストはロリシカ国(ロシアとアメリカの合成語?)に逃げた悪徳興行師(あの小美人を金儲けのために見世物にした)を追って成虫モスラがニューヨークの摩天楼やサンフランシスコの金門橋と思われる街並みを破壊するシーンを撮り直したそうです(観てみたい!)。

IMG_5乾いた花.JPG 篠田正浩監督、石原慎太郎原作の「乾いた花」('64年)は、博打シーンを克明に映像化する篠田正浩監督に対し、脚本の馬場当は物語の骨子が見えにくくなったと不満であったとのことで、配給予定だった松竹も中身が難解だとして公開を見送って8カ月後にやっと封切り、しかも、加賀まりこはスタイリッシュだが裸シーンは本人もそれ以外も無く、人が殺されるシーンも池部良がヤクザの親分を刺すシーンのみで、それも効果音無しの荘厳なオペラでのBGM。それなのに映倫が成人映画に指定(著者は博打シーンのためではないかと推測)-だったにも関わらず、公開されると大ヒットだったとのことです(池部良の本作での演技が、「昭和残侠伝」('65年)での高倉健との共演に繋がった)。

IMG_6大魔神.JPG そのほか、安田公義監督の「大魔神」('65年)(大魔神の身長を4.5メートルに設定し、それは人間の身長の2.5倍の高さが人間が見上げたときに一番恐怖を感じるからという理IMG_7ある殺し屋.JPG由からだったそうだ)、森一生監督、藤原審爾原作の「ある殺し屋」('67年)(市川雷蔵のカッコよさ。「歌手の小林幸IMG_8盲獣.JPG子がまだ中学生で、小料理屋の女中を演じているのもご愛嬌」)や、増村保造監督、江戸川乱歩原作の「盲獣」('67年)(「登場人物たった三人」)など、二頁見開きで紹介されている作品と、そのほかに一頁紹介の作品がありますが、自分がちょっと気にかけている作品がどれも二頁見開き紹介なのが嬉しいです(それだけ、「カルトムービー」としては"メジャー"と言えるのかも)。
    
誘惑ges.jpg誘惑2.jpg 一頁紹介の作品の方がもしかしたら"カルト度"は高いのかなとも思ってしまいますが、そんな一頁紹介作品の中に、吉村公三郎監督の「誘惑」('48年)がありました。吉村公三郎監督としては「象を喰つた連中」「安城家の舞踏会」に次ぐ終戦後第三回作品で、原節子が女子大生役で、唯一の肉親であった父を亡くし、佐分利信が演じる、父の教え子だった妻子ある男性の家に、子どもたちの家庭教師として住み込むことなって、そこから当初無邪気に見えた彼女が次第に小悪魔的に見えるよう変貌し、杉村春子演じる病身の妻がそれに嫉妬するというもの。原節子には、以前から彼女のことが好きだった誘惑547.jpgという男子大学生も現れて、いろいろあった末、最後は、死に行く杉村春子が原節子に夫と妻を託し、原節新藤兼人.png子は迷った末に佐分利信の下へ―(脚本は新藤兼人(1912‐2012/享年100))。ラスト、雪の中、窓辺に立って、「佐分利信へ抱っこをねだるように両手を差し出す原節子」を(実際に佐分利信はお姫様抱っこして彼女を部屋に迎え入れる)、著者は、その仕草が「彼女を再び純愛娘に変えてしまった」としていますが、これってある種"略奪婚"映画ではないかと。メロドラマらしく比較的丁寧に作られていますが、後に原節子が小津安二郎作品などで演じる女性像とあまりに違っているため、作っている側が意図しないところで「カルトムービー」になったような気がします。そ東京の女性3s.jpg東京の女性1.jpgの意味では、原節子が19歳の時に仕事と恋の狭間で悩むキャリアウーマン(高級外車のセールスウーマン)を演じた丹羽文雄原作、伏水修監督の「東京の女性」('39年/東宝)なども「カルトムービー」と言えるかもしれません。

「東京の女性」('39年/東宝)
         
象を喰った連中 001.jpg象を喰った連中01.jpg「象を喰った連中」●制作年:1947年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:斎藤良輔●撮影:生方敏夫●音楽:万城目正 /仁木他喜雄●時間:84分●出演:日守新一/笠智衆/原保美/神田隆/安部徹/村田知英子/空あけみ/朝霧鏡子/文谷千代子/岡村文子/若水絹子/植田曜子/奈良真養/高松栄子/志賀美彌子/中川健三/遠山文雄/西村青兒/永井達郎/横尾泥海男●公開:1947/02●配給:松竹大船(評価:★★★)
   
女真珠王の復讐00.jpg女真珠王の復讐1b.jpg女真珠王の復讐 ps.jpg「女真珠王の復讐」●制作年:1956年●監督:志村敏夫●製作:星野和平●脚本:相良準/松木功●撮影:友成達雄●音楽:松井八郎●原作:青木義久「復讐は誰がやる」●時間:89分●出演:前田通子/宇津井健/藤田進/丹波哲郎天知茂/三ツ矢歌子/遠山幸子/小倉繁/若月輝夫/芝田新/林寛/沢井三郎/光岡早苗(後に城山路子)/保坂光代/藤村昌子/石川冷/宮原徹/菊地双三郎/高村洋三/有馬新二/山田長正/国創典(後に邦創典)/伸夫英一/倉橋宏明/高松政雄/山川朔太郎/北一天知茂s.jpg馬/村山京司/竹中弘直/小林猛/川部修詩/大谷友彦/草間喜代四/岡女真珠王の復讐  丹波s.jpg竜弘/池月正/三宅実/西一樹/東堂泰彦/三井瀧太郎/三村泰二/沢村勇/山口多賀志/万里昌子(後に昌代)/有田淳子/藤田博子/森悠子/ジャック・アルテンバイ●公開:1956/07●配給:新東宝(評価:★★★)
天知茂/丹波哲郎
    
「点と線」 ポスター.jpg「点と線」 ポスター2.jpg「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉志村喬点と線 志村喬.jpg点と線 加藤嘉.jpg点と線_m.jpg点と線 DVD.jpg三島雅夫/堀雄二/河野秋武/奈良あけみ映画 「点と線」(1958年/東映) .jpg/小宮光江/月丘千秋/光岡早苗/楠トシエ/風見章子/織田政雄/曽根秀介/永田靖/成瀬昌彦/神田隆/小宮光江/増田順二/奈良あけみ/花沢徳衛/楠トシエ●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★☆)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)
 
           
モスラ4S.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田モスラ_1.jpg善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:モスラ111 .jpgフランキー堺小泉博香川京子/ジェリー伊藤/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙/志村喬/平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広瀬正一/桜井巨郎/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)

乾いた花sim.jpg乾いた花  title.jpg「乾いた花」●制作年:1964年●監督:篠田正浩●製作:白井昌夫/若槻繁●脚本:馬場当/篠田正浩●撮影:小杉正雄●音楽:武満徹/高橋悠治●原作:石原慎太郎●時間:99分●出演:池部良/加賀まりこ/藤木孝/原知佐子/中原功二/東野英治郎/三乾いた花 (1).jpg上真一郎/宮口精二/佐々木功/杉浦直樹/平田未喜三/山茶花究/倉田爽平/水島真哉/竹脇無我/水島弘/玉川伊佐男/斎藤知子/国景子/田中明夫●公開:1964/03●配給:松竹(評価:★★★★)

大魔神2.jpg大魔神 blu-ray.jpg「大魔神」●制作年:1966年●監督:安田公義●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:84分●出演:高田美和/青山良彦/二宮秀樹/藤巻潤/五味龍太郎/島田竜三/遠藤辰雄/杉山昌三九/伊達三郎/月宮於登女/出口静宏/尾上栄五郎/伴勇太郎/黒木英男/香山恵子/木村玄/橋本力(大魔神)●公開:1966/04●配給:大映(評価:★★★☆)大魔神 Blu-ray BOX

市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」森一生 1967.jpgある殺し屋3.jpg「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村小林幸子 3.jpg保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/ある殺し屋小林幸子.jpg小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/「ある殺し屋」4.bmp「ある殺し屋」3.bmp浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
    
Môjû (1969) .jpg盲獣11.png盲獣090.jpg「盲獣」●制作年:1969年●監督:増村保造●脚本:白坂依志夫●撮影:小林節雄●音楽:林光●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:84分●出演:船越英二/緑魔子/千石規子>●公開:1969/01●配給:大映(評価:★★★)
      
誘惑 原節子 佐分利 杉村.jpg誘惑   1948.jpg「誘惑」●制作年:1948年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:新誘惑」(1948年)原.jpg藤兼人●撮影:生方敏夫●時間:84分●出演:原節子/佐分利信/杉村春子/芳丘直美/河野祐一/山内明/殿山泰司/文谷千代子/神田隆/西村青児/高松栄子●公開:1948/02●配給:松竹大船(評価:★★★)

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意外とメジャー。少しごちゃごちゃした感じになったか。川本三郎インタビューが一番面白かった。

鮮烈!アナーキー日本映画史1959-1979.jpg鮮烈!アナーキー日本映画史1959-1979【愛蔵版】2.jpg 映画秘宝EX爆裂! アナーキー日本映画史1980~2011.jpg 完全版アナーキー日本映画史1959-2016.jpg
映画秘宝EX爆裂! アナーキー日本映画史1980~2011 (洋泉社MOOK)』カバー「愛のむきだし」('09年)満島ひかり『完全版アナーキー日本映画史1959-2016 (映画秘宝COLLECTION)』['16年]
鮮烈! アナーキー日本映画史1959-1979【愛蔵版】 (映画秘宝COLLECTION)』['13年]表カバー「月曜日のユカ」('64年/日活)加賀まりこ/裏カバー「竜馬暗殺」('74年/ATG)原田芳雄

 本書は、2012年に「洋泉社MOOK」として刊行された『映画秘宝EX 鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』('12年)の「映画秘宝COLLECTION」版で、「洋泉社MOOK」では本書の続編にあたる『映画秘宝EX爆裂! アナーキー日本映画史1980~2011』も同年に刊行されていますが、その後、「映画秘宝COLLECTION」版『完全版アナーキー日本映画史1959-2016』('16年)として統合されています。何かが過剰な日本映画のアウトサイダー的作品ばかりを紹介したシリーズで、本章での選評収録作品は以下の通りです。

■60年代
黒い十人の女 ポスター.jpg盲獣poster.jpg 独立愚連隊/野獣死すべし/東海道四谷怪談/地獄/黄線地帯/地平線がぎらぎらっ/黒い十人の女/しとやかな獣/月曜日のユカ/危ないことなら銭になる/君も出世ができる/黒蝪蜒/真田風雲録/座頭市物語/斬る/忍びの者/野獣の青春/十三人の刺客/二匹の牝犬/マタンゴ/太平洋の翼/大魔神/赤い天使/網走番外地飢餓海峡/組織暴力/ある殺し屋/紅の流れ星/「エロ事師たち」より 人類学入門/100発100中/殺人狂時代/日本のいちばん長い日/盲獣/みな殺しの霊歌/江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間/無頼 人斬り五郎/反逆のメロディー/女番長 野良猫ロック/殺しの烙印/荒野のダッチワイフ/処女ゲバゲバ/薔薇の葬列/白昼の襲撃/首/日本暗殺秘録

■70年代
 ゴジラ対ヘドラ/呪いの館 血を吸う眼/でんきくらげ/谷岡ヤスジのメッタメタガキ道講座/新座頭市 破れ!唐人剣/エロス+虐殺/股旅/昭和残侠伝 死んで貰います/博奕打ち いのち札/マル秘色情めす市場/女番長ブルース 牝蜂の逆襲/番格ロック/0課の女 赤い手錠/徳川セックス禁止令 色情大名/女生きてます 盛り場渡り鳥/ポルノの女王 にっぽんSEX旅行/軍旗はためく下に/仁義なき戦い/仁義の墓場/実録 私服銀座警察/子連れ狼 三途の川の乳母車/女囚701号 さそり/修羅雪姫/野獣狩り/旅の重さ/バージンブルース/ノストラダムスの大予言/新幹線大爆破/直撃地獄拳 大逆転/トラック野郎 御意見無用/青春の殺人者犬神家の一族八甲田山/八つ墓村/やくざ残酷秘録 片腕切断/犬神の悪霊/女獄門帖 引き裂かれた尼僧/悶絶!!どんでん返し/悲愁物語/最も危険な遊戯/高校大パニック/復讐するは我にあり/餌食/十九歳の地図

 黒沢明、小津安二郎こそ出てきませんが、娯楽映画として結構メジャーな作品もあり、全体としては、「アナーキー」の定義がやや曖昧なものの、本当にアナーキーと言えるのは半分くらいかも。ただし、一見フツーの娯楽大作に見える作品が、見方によってはアナーキー映画ととれるというを論じ方をしているものもあります。

 これら作品紹介と併せ、中原昌也、斎藤工、町山智浩、桂千穂など識者や俳優などによる「僕の好きな日本映画」というコラムが13本、映画評論家などによる監督評が15本、「モダンホラー」「日活ニューアクション」「ATG映画」といった系譜ごとにみたコラムが32本あり、これらが作品紹介の間々に挿入されています(例えば、「黒い十人の女」('61年)の後に「市川崑」評が、「十三人の刺客」('61年)の後に「東映集団抗争時代劇」のコラムがきている)。したがって、全体としてもほぼ時系列になっているし、切り口も、作品・好み・監督・ジャンルと豊富なのですが、ページをめくるごとにフォーマットが変わったして、ややごちゃごちゃした感じになったかもしれません。

 個人的に一番良かったのは(そこだけ纏まったページになっていたというのもあったかもしれませんが)、中ほどにある川本三郎氏へのインタビューで、「阿佐ヶ谷オデオン座」が彼にとっての映画学校で、そこで「オールナイト」と称して夜10時から名作を1本だけかけていて、「第三の男」などいろいろな作品を観たとのこと。一方で、ピンク映画は「荻窪スター座」で観たというのは、自分も若いころ荻窪に住んでいたことがあるで、何となく懐かしかったです(荻窪東亜会館にあった「荻窪オデヲン」は知っている。荻窪スター座は荻窪オデヲンよりも後に閉館したようだ)。新東宝の三原葉子とか前田通子が好きだっておおぴらには言えなかった(笑)というのは、先々月['19年10月]亡くなった和田誠氏との対談でも言ってたように思います。

 この人、麻布中学、麻布高校、東大法学部、朝日新聞社というエリートコースを歩みながら、ある政治的事件に巻き込まれて朝日新聞社を解雇されるわけですが(その経緯なども記した自伝『マイ・バック・ページ』が'11年に映画化された)、朝日新聞社をクビになったから仕方なく映画評論家になったと言われるけれど、もともとは映画好きで、むしろ非政治的人間で、朝日でも映画記者になりたかったとのこと。でも、今はこの人の過去を知らない人の方が多いと思われ、この人がもとから映画評論家であったと思っている人の方が多いのではないかなあ。

荻窪オデオン座 - 2.jpg荻窪駅付近.jpg荻窪オデヲン.jpg荻窪東亜会館.jpg荻窪オデヲン座・荻窪劇場 1972年7月、荻窪駅西口北「荻窪東亜会館」B1にオープン。1991(平成3)年4月7日閉館。(パンフレット「世にも怪奇な物語」)菅野 正 写真展「平成ラストショー」HPより

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「大河」の予習が1時間で出来る? 謀反の理由は"概ね"「信長非道阻止説」か。

明智光秀.jpg   金栗四三.jpg 小学館学習まんが人物館 加納 2016.jpg 小学館学習まんが人物館 真田 2016.jpg 小学館井伊直虎の城 2016 .jpg
明智光秀 (小学館版学習まんが人物館)』['19年]『金栗四三 (小学館版 学習まんが人物館)』['18年]『嘉納治五郎 (小学館版学習まんが人物館)』['18年]『真田幸村 (小学館版学習まんが人物館)』['16年]『井伊直虎の城: 今川・武田・徳川との城取り合戦』['16年]

 1996年から刊行されている小学館版の「学習まんが人物館」シリーズの1冊ですが(№66)、来年['20年の]のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」が明智光秀の生涯を描いたものであるとのことに合わせての刊行と言えます。因みにこのシリーズでは、今年['19年の]のNHKの大河ドラマ「いだてん」に合わせて、№58『嘉納治五郎』('18年6月刊)、№59『金栗四三』('18年12月刊)が刊行されているほか、'16年の大河ドラマ「真田丸」に合わせて№49『真田幸村』('16年3月刊)が刊行されたりしています(同じ小学館の別のシリーズだが、'17年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」に合わせて『井伊直虎の城:今川・武田・徳川との城取り合戦』('16年11月刊)も刊行されている)。

 ストーリー漫画の体裁をとるシリーズの特徴に沿って、全体は、第1章が「織田信長との出会い」、第2章が「裏切りの戦国の世」、第3章が「一国一城主へ」、第4章が「魔王の家臣として」、第5章が「本能寺の変」というように時系列の流れになっていて、たいへん読みやすく(「大河」の予習が1時間で出来る?)、明智光秀は勿論「いい人」として描かれています(「福知山」の名付け親でもある明智光秀は、丹波では今も愛されているが、領民と一緒に土方仕事までやったとなると、ちょっと作り過ぎか?)

明智光秀 php.jpg小和田哲男.jpg 監修は、大河ドラマ「麒麟がくる」の時代考証を担当している小和田哲男氏であり、同氏の『明智光秀―つくられた「謀反人」』('98年/PHP新書)などを読めば分かりますが、明智光秀の謀反の理由について、「信長非道阻止説」(光秀が信長の悪政・横暴を阻止しようとしたという説)を提唱しています。そして、本書も"概ね"その流れで描かれています(「麒麟がくる」もほぼ間違いなくその方向だろうなあ)。

 ただ、巻末の解説で、光秀謀反の動機についての論争の歴史が簡単に書かれていて、以前は「怨恨説」が主流で、そのほかに「天下取りの野望説」などもあったのが、やがて研究者の間で「黒幕説」が浮上し、朝廷、足利義昭、イエズス会などさまざまな黒幕が言われたものの、その黒幕説も最近では減ったのではないかと。代わって注目されてきているのが「四国問題説」(長宗我部元親関与説)で、ほかには「信長非道阻止説」があると。

 自説を開陳する場ではないと心得ているのか意外と控えめですが、ただ、漫画のストーリーは"概ね"「信長非道阻止説」だったように思います。"概ね"と言うのは、「四国問題」が結構キーポイントになったような描かれ方もしていたりしたためです。

 さらに信長が光秀を手打ちにする場面もあったりして(これだと「怨恨説」も有りになる)、出典の説明が「江戸時代に書かれたある書物には」としかありませんが、これって『続武者物語』でしょうか? 後世に成立しているため信憑性に著しく欠けるとされるもので、後世の人達がなぜ光秀が信長を裏切ったのか理解できず、そこで「信長に仕打ちを受けた光秀が、激しい憎悪から信長を殺害した」という、分かりやすいストーリーを作り上げたのではないかとされているものです。

 また、謀反の直前に愛宕山で行われた連歌の会(愛宕百韻)で、「ときは今 あめが下知る 五月かな」という天下取りを仄めかすような意味深な歌(発句)を詠んだ場面も出てきます(光秀の息子が訝ってその意に気づく)が、下に(注)として「情景を詠んだだけで、天下を取ろうという意志を込めてはいなかったとも言われている」とあります。謀反の直前に公けの場でわざわざそれを暗示するような言動をとることは考えにくく、小和田哲男氏の考えもこの(注)の見方に近かったのではなかったかなあ。

 とまれ、漫画同様いろいろと「絵的」に観る側を引き込むような話を(真偽のほどはともかく)ドラマでも織り込んでいくのでしょう。でも、漫画はこうして注釈をつけることができるけれど、ドラマの場合はどうするのだろう? まあ、「大河」が歴史的にほぼあり得なかったようなことをしばしば"再現"してみせるのは、今に始まった話ではありませんが。

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新たな角度から我々に考えさせるものを投げかけているように思った。

フクシマ 2011-2017.jpgフクシマ 2011-2017 FUKUSHIMA 2011-2017』(30.4 x 30.2 x 2.4 cm)

フクシマ 2011-2017 01.jpeg 写真家が、2011年3月11日の東日本大震災の後、同年6月に川内村、葛尾村、飯舘村に入って2日の撮影をし、以降2018年1月までの6年半の間に120回現地に足を運んで撮った写真を集めたもので、そうして撮った5万点のなかから190点が選ばれています。

 解説の木下直之・東大教授(文化資源学)もあとがきで述べているように、まず、訪ねた地の多くは一般住民は避難を余儀なくされているため、人がいるべき場所に人がいないという不気味さがあります。

 一方で、同じ場所に何度もカメラを据えて定点観測的に風景などを撮っているため、季節の移り変わりの美しい様などが見られ、つい、「ああ、日本の四季っていいなあ」とも思ってしまいます。

 そんな中、今までごく普通の自然の風景であったところへ、フレコンバックと呼ばれる、汚染された廃棄物や大地から剥ぎ取った土が入った黒い袋が、地表を覆い隠すようにずらっと並ぶ光景がみられる写真がいくつも出てくると(そのうちのいくつかはドローンを使って撮影されている)、これはこれで、人がいない不気味さとはまた違った不気味さがあります。

 これらの多くは、廃棄物の仮置き場(大体が高いフェンスに囲まれていているため、あまりマスコミなどで報じられることもない)に入りきらない分を、「仮々置き場」として置いているものだそうで、最終処分地が決まらないままに除染をし続けた(しかも、その"除染"も便宜上そう称してやっているだけのものという指摘もある)、そのツケが回ってきているとも言えます。

 フクシマの人を撮った写真集は結構ありますが(本書の中にも除染作業員を撮ったものがある)、自然を中心に撮ったこの写真集は、また新たな角度から我々に考えさせるものを投げかけているように思いました。

《読書MEMO》
●本書収載「この地に生じたとてつもない何か」((木下直之・東京大学大学院教授・芸術資源論))より
「土田ヒロミが福島でなくフクシマとしたのは、これまで40年にわたって広島ではなくヒロシマを撮ってきたからだ。人類史上のこれからもどこにでも起こりうる出来事として語りつぎたいという思いが込められている。......福島に、複雑怪奇だといいたくなる変化がじわじわ進行している」

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「既視」と「既視感」は違うようだが、「既視感」に満ちた写真集ということでもいいのでは。

渡辺兼人写真集「既視の街」0.jpg渡辺兼人写真集「既視の街」  .jpg
既視の街―渡辺兼人写真集』(32 x 25 x 2 cm)

渡辺兼人写真集「既視の街」1213.jpg 写真家・渡辺兼人(かねんど)の写真集。1947年生まれなので、先に取り上げた篠山紀信氏などよりは下の世代にあたり、活動期は1970年以降。ただし、マスコミに顔出しするようなことはあまりないですが、写真展は定期的に開いているようです。1992年に第7回「木村伊兵衛写真賞」を受賞し、既に大御所と言えるかと思いますが、写真集はあまり多くないなあと思ったら、写真展の方に注力しているようです。

渡辺兼人写真集「既視の街」3839.jpg このモノクロ写真集は、1973年から1980年まで撮影された写真作品を収め、1980年に金井美恵子の小説との共著として新潮社から刊行されており、『既視の町』というのはその時二人が考えたタイトルだそうです。その本の写真の部分を残すために再構成したのが本書で、1980年の単行本に収録された写真53点のうち4点ネガが存在せず、一方、未収録・未発表写真を何点か加えて作った「完全版」であるとのことです。

渡辺兼人写真集「既視の街」5455.jpg したがって、プラネタリウム、高速道路、工場、河、電車が吸い込まれていくビル(銀座線渋谷駅か)、ショウウィンドウ、ビルボード、家、道路、クルマ、干された布団等々、日常見かけるものが多く被写体になっていますが、撮影されたのが昭和48年から55年ということになり、どこか懐かしさを覚えます(取り壊し前のの工場とか、開発前の空き地みたいな写真も多い)。ありきたりの光景にも見えて、不遜にも自分もこれくらい撮れるのではないかと思ってしまうけれども、技術面もさることながら、そもそも、いざ今の時点で同じような光景を探すとなると、意外とたいへんかも。
 
 いつどこで撮られたのか確認してみたくなりますが、他の多くの写真家と違って、この写真家はそうした記録をほとんど残していないようです。それも、ちょっと面白いと思いました(スペックではなく写真そのものがどう見られるかで勝負しているとうことではないか)。

 タイトルではないですが、何となく夢で見たのか、あるいは実際に昔に同じような光景を見たことがあったのか、と思わせる写真が多いです。そこで、いつどこで撮られたのか確認して、「やっぱり違った」となるよりは、曖昧な記憶は曖昧な記憶のままで、「ああ、これなんか見たことある」という感じでいいのではないかと思いました。

 タイトルのままの感想ですが(笑)、実はこの「既視の町」というタイトルには、写真評論家タカザワケンジ氏の解説によると深い意味があるようです(「既視感」と「既視」は違うと)。写真論としては面白い。でも、自分としては、「既視感」に満ちた写真集ということでもいいように思いました(40年近い時の流れのせいもある)。

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著名人との2ショットにおける都会人・横尾忠則と、郷里の西脇市における地方人・横尾忠則。

記憶の遠近術 ori.png 記憶の遠近術01.jpg記憶の遠近術00.jpg

横尾忠則記憶の遠近術』['92年](30.2 x 22.8 x 3 cm)/『記憶の遠近術〜篠山紀信、横尾忠則を撮る』['14年](30 x 22.8 x 2.4 cm)

記憶の遠近術 ori000.jpg 写真家・篠山紀信氏が横尾忠則氏を1968年から70年代半ばにかけて撮り続けた写真を主とした写真集です。横尾忠則の出身地・兵庫県西脇市にある「横尾忠則現代美術館」が、2012年11月の開館以来8つの目の企画展として2014年10月から2015年1月までこの一連の写真を特集し(横尾忠則はこの場合"被写体"であり、篠山紀信は初めて横尾忠則以外の作家として当館企画展の主役になったことになる)、その開催に合わせて、オリジナルの写真集から厳選するとともに、横尾忠則のその後に撮影された写真などを加えて再構成して2014年10月に芸術新聞社より再刊行されました。

記憶の遠近術02.jpg 当初は、横尾忠則と彼に影響を与えた人物、彼にとっての往年のアイドルや畏敬する人物との2ショットがメインで、谷内六郎、横山隆一、鶴田浩二、嵐寛寿郎、川上哲治、山川惣治、手塚治虫、石原裕次郎、田中一光、亀倉雄策など、今はもう亡くなってしまった人が多いなあと('14年に亡くなった高倉健もそのうちの一人。和田誠氏も今年['19年]10月に亡くなったなあ)。そんな中、美輪明宏や浅丘ルリ子などとのツーショットもあり、共に撮影されたのは'68年。永い付き合いなのでしょう。'76年に撮られた瀬戸内寂聴と一緒にいる写真もあります。そう言えば、今この二人、朝日系(週刊朝日、朝日新聞等)で往復書簡を公開していますが、瀬戸内寂聴さん97歳、横尾氏83歳かあ。道理で何となくあの世の話が多くなる?(横尾氏ももともスピリチュアル系)

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記憶の遠近術 ori01.jpg この写真集の特徴として、1970年に横尾氏が兵庫県西脇市に帰郷した際に、友人、知人、恩師、身内らとフレームに収まったことから作風が変化し、著名人たちが写った写真は時代の息吹きを生々しく留める一方、若い横井氏はどこか突っ張った感じもあるのに対し(それは70年代に入っても続く)、同じ70年代に西脇市で撮られた写真は、ほのぼのとした、帰省してくつろいでいる東京人(元は地方人)といった感じで、この合わせが、もしかしたら、この写真集の最大の妙ではないかという気がします。

記憶の遠近術〜篠山紀信、横尾忠則を撮る - 篠山紀信.jpg 因みに、本書によると、三島由紀夫は生前に横尾氏と篠山氏に、篠山氏のカメラで三島と横尾氏が様々な死に様を演じるという『男の死』という企画を持ちかけたことがあったそうです。この企画は、三島のパートは順調に撮影が進んだものの、横尾氏のパートの方が西脇への旅行後に横尾氏が病気入院することになって停滞し、同年11月の三島の自決によって完成を見ず、それまで撮影されていた部分も一部のカットを除いて封印されてしまったそうです。篠山紀信の撮った三島のパートをもっと見てみたい気もします(公開されているもので有名なものとしては、三島をモデルに彼をベラスケスを模した「聖セバスチャンの殉教」があり、横尾忠則も後にこれを絵画化している)。

《読書MEMO》
●横尾忠則『高倉健賛江』('69年/天声出版)「自己批判的とがき」
「私は(中略)私の幼少時代の最も嫌悪した地域社会を捨て、都会、つまりモダニズムを希求いたいばかりに当時最もモダニズムの洗礼を受けていたグラフィックデザイン界に足を投じたのである。
 ところが現在、私はモダニズムデザインの危機から逃れようとしている。あれほどまでそして今も尚権をしている土着の世界からの再出発を強制されているのだ。これは決して土着という前近代への回帰ではない・近代の超克を前近代に目を向けることで可能であると考えたのである。私はややもすると日本的なるものの郷愁の沈潜へのまちょくにひっかかることもよくわかっている。」


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挿画家・小松崎茂としては珍しい「まんが形式による絵物語」。

宇宙少年隊 (空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語)0.jpg
宇宙少年隊 小松崎_0108.JPG
宇宙少年隊 (空想科学冒険絵巻小松崎茂絵物語)』[復刻版]

宇宙少年隊 小松崎_0106.JPG 挿画家・小松崎茂の 「空想科学冒険絵巻」の復刻版(全5巻)の第1巻で、1957(昭和32)年に雑誌「少年」に連載された「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編(1月号~6月号連載・全6回)と「海魔ダイラ」編(7月号~12月号・全6回)を所収しています。因みに、第2巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「おもしろブック」に連載された「海底王国」(全14回)を、第3巻は、1955(昭和30)年に同誌に連載された「銀河Z団」(全9回)を、第4巻は、1955年から翌々年にかけて「少年」に連載された「大暗黒星雲」(全14話)を、第5巻は、1953(昭和28)年から翌年にかけて雑誌「少年クラブ」に連載された「二十一世紀人」(全14話)を収めていますが、第2巻から第5巻がその名の通り"絵物語"形式なのに対し、この第1巻の「宇宙少年隊」は、コマ割りされ、絵と吹き出しセリフが一体になった「まんが形式による絵物語」となっています(一部、コマ枠外のト書によってストーリーを進めている)。

宇宙少年隊 小松崎_0115.JPG 第1巻「宇宙少年隊」の「怪人スターマン」編は、宇宙少年隊の隊員の和夫と輝彦が、地球侵略を図る遊星ロン宇宙少年隊 小松崎_0111.JPGドゴンの宇宙人の攻撃によって窮地に追い込まれると、いきなり月に住んでいるという"怪人スターマン"が「正義の味方」(自分でそう名乗った)として現れて少年たちを助けてくれ、さらには、少年たちが川で獲ってきたエビガニが「前世紀の怪物」に化けるが、これもロンドゴン星人の仕業で、この放射能で育ったらしいガデスという怪物(前世紀だってこんな生物はいなかったと思うが)も、少年たちがスターマンを呼んで倒してもらうというもの。全部スターマンに負んぶに抱っこですが、スターマンが東海村の原子力研究所に行き、ニュートロンを貰って中性子弾で怪獣を倒すところが、一応、人間とスターマンが協力し合っていることになるのかも。

宇宙少年隊 小松崎_01142.JPG もう一つの「海魔ダイラ」編(原作:木村吉宏)は、少年たちが夏休み旅行で伊豆大島に船で行く途中、突如巨大な宇宙少年隊 小松崎_0113.JPGクラゲの怪物が現れて船を襲い、このダイラと名付けられた怪獣は鋼鉄を喰い荒らす魔物で、原水爆実験で生まれたことがわかり、博士(絶対この手の話に「博士」は出てくる)の助言により、最後はストロンチウム90を撃ち込んで倒すというもの(これもまた毒には毒をもって制すということか)。最後は、「世界は平和をとりもどしたが、原水爆実験がつづく限り不幸な事件はたえないだろう」という博士セリフで終わります(「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)よりずっと以前に「クラゲ怪獣」がいたということか)。

銀河少年 手塚.jpg手塚治虫3.jpg 挟み込みの解説によると、漫画家・手塚治虫が昭和28年から29年にかけて正調絵物語として「銀河少年」を連載しており、同じようなモチーフで、漫画家と挿絵画家の仕事が入れ替わったようにも見えて興味深いです。ただし、「銀河少年」の方は、途中から「絵ものがたり」の看板を外してコマ割り漫画に移行して前篇だけで連載終了、後篇は描かれませんでした(国書刊行会から復刻版が出されているほか、『手塚治虫漫画全集未収録作品集①-手塚治虫文庫全集』('12年/講談社)でも読むことができる。途中で打ち切られたため「手塚治虫漫画全集」には収録されなかった)。解説でも触れられていますが、小松崎茂は「手塚治虫の絵物語時代」が到来するのではないかと心配していたかもしれません。

手塚治虫「銀河少年」(昭和28-29年)

 因みに、第2巻の「海底王国」は、H・R・ハガードの小説『洞窟の女王』及びその映画化作品の影響を受けていて、手塚治虫の『ジャングル魔境』もこれに影響を受けています。一方、第3巻の「銀河Z団」は、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』の影響を受けていて、手塚治虫の『ナスビ女王』もこれに影響を受けています。また、「銀河Z団」は、手塚治虫の(後に『鉄腕アトム』となる)『アトム大使』の影響も受けているそうで、小松崎茂と手塚治虫が結構"近接"していた時期があったのだなあと。小松崎茂は、自分たちの「絵物語」はやがて衰退して「まんが」にとって代わられ、その「まんが」の旗手が手塚治虫だと考えていたようですが、その予測は当たったと言えます。

 本書を呼んでも、コマ割りながらも絵は迫力があるものの、ストーリーはちょとどうかな(やや破綻気味?)と思う面もありますが、エディトリアルデザイナーのほうとうひろし氏は、手塚治虫のアトムのロボット漫画で快進撃中だった「少年」編集部から(手塚作品とバッティングしないように?)過剰な介入があったのではないかと推察しています。そのためか、小松崎茂自身も当時落ち込みが激しく、そこへ「あなたの絵と絵コンテが欲しい」と自宅に直談判に来たのが特技監督の円谷英二で、この二人の思いが「地球防衛軍」('57年/東宝)として結実したとのこと。そう言えば「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)のドゴラも、『少年サンデー』の怪獣絵物語用に小松崎茂がデザインした怪物のイラストを立体化したものとのことです。

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史料の読み込みは丁寧。目新しさはイマイチ。最後「突発説」でやや肩透かし感。

明智光秀と本能寺の変 ちくま新書.jpg 明智光秀と本能寺の変 ちくま新書 - コピー.jpg  渡邊大門.jpg 渡邊 大門 氏
明智光秀と本能寺の変 (ちくま新書)

 来年['20年の]のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」が明智光秀(1528-1582)の生涯を描いたものであるとのことで、歴史研究家による本書もそれに合わせての刊行と思われます(この著者は「真田丸」の時も幸村の関係本を出しているが、ほかにもそういう人はいて、それはそれで中身が良ければいいのでは)。

 歴史研究家と言っても全くのアマチュアではなく、大学で専門の研究をし、今は「歴史と文化の研究所」というところの代表取締であるとのことで、本書においても史料の読み込みなどは丁寧だと思いました。ただ、その反面と言うかその分と言うか、目新しさのようなものは乏しかったでしょうか。

 明智光秀が本能寺の変を起こした理由として「足利義昭黒幕説」を唱える藤田達生氏が着眼した、義昭が京都復帰画策の拠点とした「鞆(とも)幕府」について、一章を割いて比較的詳しく書かれていました(第5章)。「幻の幕府」と言われながら(個人的にはそれぐらいのイメージしかこれまで無かった)、実はそこそこの陣容だったのだなあと。著者は、「鞆幕府」は見せかけだけの組織だったが、それなりの存在感があったとしています(ただし、過大評価すべきでもないと)。

 光秀の出自と前半生(第2章)、信長と光秀の周辺状況、両者の関係性の推移(第3章、第4章)、どういう過程を経て出世していったか(第6章)についても、史料を基に詳しく書かれていたように思います。そして終盤では、本能寺の変の「陰謀説」に根拠はあるかを検証していきます(第7章)。

 ただし、その前に、「家康饗応事件」の真偽の話もあり、さらに合間に「愛宕百韻」に関する諸説の紹介(著者は謀反の意を連歌会で堂々披露することは考えられないと)等々もあって、肝心の黒幕説への論駁はさらっと終わってしまった印象も。「朝廷黒幕説」は、そもそも信長と朝廷が対立しているという点から考えて成り立ちにくいとか、比較的オーソドックスな見解でした。

 因みに、谷口克広氏が唱えている信長の「四国政策転換」が謀反の原因となったとの説に対しては、「更迭についても、大きく影響したとは考えられない。また、ライバル秀吉が台頭したことにより、光秀が焦りを感じたというのも、説得力を持たない」としており、また、藤田氏が唱える「足利義昭黒幕説」も、谷口克広氏の反論を引いて、一次史料ではなく二次史料から導き出した論であり、成り立ち難いとしています(他人の論を組み合わせて、全部を否定しているような印象も無きにしも非ず)。

 反駁と査証が交互に出てくるのが、規則性が無くてちょっと読みにくかったかも。それで、著者の最終結論はどうかというと、謀反は突発的に起こったという、所謂「突発説」というものでした。「突発説」そのものは従来から有力説の一つとしてあり(NHK-BSプレミアムの"番宣"的な特番「本能寺の変サミット2020」でも取り上げられていた)、単独説の一種には違いないかもしれませんが、やや肩透かしを喰った印象も。本書でそれまで書かれてきたことの中から、そうした「突発的な行動に出た心情的な背景は十分読み取れる(読み取るべし)」というのが著者のスタンスなのかもしれません。

《読書MEMO》
NHK-BSプレミアム特番「本能寺の変サミット2020」2020年1月1日(水) 午後7:00~午後9:00(120分)
【司会】爆笑問題,【解説】本郷和人,【コメンテーター】細川護煕,【パネリスト】天野忠幸,石川美咲,稲葉継陽,柴裕之,高木叙子,福島克彦,藤田達生
本能寺の変サミット2020 突発説.jpg

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入門書の入門書。「本能寺の変」の謎を除く4つの問題を取り上げている『図説 明智光秀』。

図説 明智光秀.jpg 柴裕之.jpg 柴 裕之 氏  明智光秀 php.jpg
図説 明智光秀』['18年]    小和田 哲男『明智光秀―つくられた「謀反人」 (PHP新書)』['98年]

 来年['20年の]のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」(沢尻エリカの合成麻薬事件とかあって1月19日スタートとなった)が、あの「本能寺の変」で知られる明智光秀(1528-1582)の生涯を描いたものであるとのことで(脚本は、映画「復讐するは我にあり」、ドラマ「夏目漱石の妻」の池端俊策ら)、新聞の読書欄に明智光秀の入門書が紹介されていました。その中には、ドラマの時代考証担当の小和田哲男氏の本もありましたが、選者は、大御所の風格ながらも新規性は無いと。そこで、入門書の入門書として手に取り易そうな(選評では、この本から読んでほかの"光秀本"に読み進むのもいいとあった)本書を読むことにしました。

 概ね明智光秀の生涯に沿って書かれているので分かりやすく、「図説」というだけあって図や写真も豊富で楽しめました。内容的には、①織田信長と比較した人物像、②光秀が生涯をかけた丹波攻め、③信長による残虐な仕打ちとして知られる比叡山焼き討ち、④光秀が躍進するきっかけとなった室町幕府第十五第代将軍・足利義昭との関係という4つの問題を中心に取り上げています。

 でも、明智光秀って、もともと高貴の出ではなく、(後に作られた略系図はあるものの)出自も謎だらけで、前半生は分からないことが多いようです。憶測ながら、彼が頑張って信長家臣のなかでも重鎮と言われるまで出世したのは、自身が高貴の出ではなかったということも関係しているのではないでしょうか。

 興味深く思えたのは、丹波攻めは信長の命でその責任者となった光秀のライフワークとも言えるものでしたが、光秀は丹波攻撃で信長から離反した松永久秀を筒井順慶らと共に討ち(1577年)、また同じく丹波攻撃で信長から寝返った波多野秀治をで打ち破り(1579年)、さらには信長に謀反した荒木村重を丹波山に討伐し(1580年。村重本人は落ち延びで毛利氏に亡命し、大阪で茶人になって1586年に堺で死去)―といった具合に、信長を裏切った人間を討伐していって功績を挙げていったということでした(そして最後は光秀自身が...)。

 光秀の最大の謎は、なぜ彼が本能寺の変(1582)で信長を討ったのかということとされていますが、"光秀本"の多くがそこに焦点が当てられ、中には何通りもの説が紹介されていたりするのとは対照的に、本書は予断を避け、そのことについて見解を挟むことはしていません(実際、わからない訳だし。因みに、荒木村重が信長を裏切った理由も、主だったものだけで6、7説あって、結局は歴史も人間心理までその域が及ぶとなると、分からないものは分からないものなのかも)。

 それどころか本書では、信長暗殺の動機を、本書で取り扱う4大テーマの1つにも入れておらず、(その点がやや物足りなくも感じるが)、 "時代の「革命児」信長についていけなかった「常識人」光秀"という一般的なフィルターをいったん外して、あくまで光秀の「実像」を事実から探ることを主眼とした本だったのだなあと(また、光秀の人物像を信長と対比的に述べてており、光秀を通じて信長の「実像」をも探ろうとした本とも言える)。

 そして、そこから導かれる光秀の人間性は、「才知・責任感に富み、外聞を重視するとともに、冷酷さも兼ね備えたものだったといえる」と。宣教師フロイスが伝える光秀像と信長像は非常に近しく、著者は、「信長のもとで躍進し、信長を殺めた直後に自らも死を迎えた光秀。その人間性は、実は最も信長に近しいものだったのかもしれない」としています。

小和田哲男.jpg 因みに、(個人的にはやはり論じて欲しかった)「光秀謀反」の原因について、先に挙げた小和田哲男氏は『明智光秀―つくられた「謀反人」』('98年/PHP新書)の中で、高柳光寿、桑田忠親の二大泰斗の名を挙げるとともに、後藤敦氏の著書で紹介されている50説(!)を再整理し、その中から有力視されている説として、①野望説(高柳光寿『明智光秀』。それまで有力だった怨恨説を否定し、「光秀も天下が欲しかった」とする説)、②突発説(「信長がせいぜい100人ほどで本能寺に泊まっている」という情報を得て発作的に討ってしまったとする説)、③怨恨説(桑田忠親『明智光秀』。従来、作家が好んで用いてきた説)、④朝廷黒幕説(光秀が朝廷内の人物と連絡をとりつつ、朝廷にとって不都合な存在である信長を討ったとする説)の4説を挙げた上で、自身は新たに、「信長非道阻止」説(光秀が信長の悪政・横暴を阻止しようとしたという説)を提唱しています。 

 小和田哲男氏の'98年刊行の本書で提唱された「信長非道阻止」説って今どれくらい指示されているのでしょうか。また、NHKの大河ドラマはこの説でいくのでしょうか(おそらくいくのだろう)。

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「本能寺の変」の「Why」に関する諸説を検証。「関与・黒幕説」を悉く論破。

検証 本能寺の変.jpg検証 本能寺の変1.jpg検証 本能寺の変 (歴史文化ライブラリー)』['07年]

 謎が多いとされている「本能寺の変」を、「織田信長」研究の専門家が検証した本で、著者によればその「謎」とは5W1Hのうちの「Why」であると。つまり、検証の最終目的は、なぜ明智光秀が信長を討ったのかを探ることになると思いますが、著者は、信頼できる史料を曲解せず素直に読むことを念頭に置くとし、本能寺の変を一から検証し直しています。

 まず、多くの史料をもとに本能寺の変を再現し、変直前の信長がどうであったか、本能寺の変を伝える史料にどのようなものがあるか(本能寺の変の史料は意外と数多くある)、変前日の織田諸将の配置はどうであったか、変が勃発してからはどうであった、変後の様子はどうであったかを丁寧に検証していますが、日記・文書といった一次史料、編纂物の中にも、良質なもの、信頼できないもの様々あるのだなあと思わされました。

 次に、本能寺の変研究の流れを、江戸時代における信長評から(江戸時代は結構ボロクソ扱いだったようだ)、明治期以降、今日まで追っています(高柳光寿がそれまで有力だった怨恨説を否定し、野望説を打ち出したのが(『明智光秀―人物叢書』('58年/吉川弘文館)、ひとつ転機だったか)。

 そして次に、いよいよ明智光秀はなぜ織田信長を討ったのか、現在提唱されている諸説と論争の状況を整理しています。それらを纏めると、①朝廷関与(黒幕)説―立花京子(中心はイエズス会)、②足利義昭関与(黒幕)説―藤田達生、③本願寺教如首謀者説―小泉義博、④イエズス会を中心とする南欧勢力関与説―立花京子、⑤光秀単独説―桐野作人・堀新・藤本正行・鈴木眞哉・円堂晃・小島道弘裕、⑥その他―小林正信、となるとしています。

 本書の後半部分は、これらの説を順番に再検証していく内容になっています。まず「関与・黒幕説」について、朝廷関与(黒幕)説(この説は史料の曲解から生じたとしている)、足利義昭関与(黒幕)説(毛利氏に担がれて上洛を望んでいる義昭が、その毛利氏を蚊帳の外に置いて光秀を動かすとは信じ難いと)、その他の関与・黒幕説として、豊臣秀吉関与(黒幕)説(中国大返しを不可能と見て彼を疑うのは筋違い)、本願寺教如首謀者説(後世の編纂物にある記事を無批判に信じる姿勢から生じた説)、南欧勢力黒幕説(日本国内での仲間も限られているイエズス会が、卓上で駒を動かすように日本の政治の中枢を操るなどできるはずがない)―と、順次論破していきます。

 そして、改めて、本能寺の変の原因についての諸説を整理し、待遇上の不満・怨恨説、政策上の対立説、精神的理由説、野望説を再検証していますが、その中から消去法で消去しきれなかった要素(主君信長に対する信頼感の欠如、しばしば行われた侮辱による怨恨、信長家臣としての将来に対する不安、性格不一致)が繋がるものとして、長の「四国対策」の変更を挙げています。

 随分と絞り込んだなあという気がしましたが、信長が長宗我部元親との交流を断ち切り、四国担当だった光秀を外して秀吉に四国に兵を送るよう命じたことが光秀に打撃を与え、光秀が信長に抗議しても足蹴にされたということが、光秀謀反の原因となったというのは、分からなくもない気がしました。

 ただ、この説で行くならば、もう少し拡げて信長との「政策不一致説」という言い方もできるかもしれないし(「性格不一致説」にも繋がるが)、老齢の光秀が(著者によれば、光秀の年齢は本能寺の変の時に、一般には55歳ということになっているが(『明智軍記』)、実は67歳だったと比較的信頼できる資料(『当代記』)あるとのこと)、信長と長宗我部元親の板挟みになって、本書にもあるように鬱々した日々を送っていたということで、「ノイローゼ」説も成り立つかも。さらには、秀吉が四国政策で自分にとって代わったことが原因ならば、これも拡げて「秀吉ライバル視」説という言い方もできるかも。

 いずれにせよ、積極的・消極的の違いはありますが、黒幕説ではなく光秀単独説ということになるかと思います。「四国対策」の変検証 本能寺の変 (歴史文化ライブラリー)obi.jpg更は、「原因」というより「誘因」のような気もしますが(光秀単独説の桐野作人氏も、四国政策の転換が謀反の背景にあったとしている(「歴史読本」編『ここまで分かった!本能寺の変』)('12年/新人物文庫))、日本人が好きな(?)「関与・黒幕説」を悉く論破している点では明快と言える本かもしれません(帯に「信長を殺したのは誰か?」と思わせぶりにあるが、著者によれば明智光秀以外の何者でもないということになる)。

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「忠臣蔵」を「経済的側面」から分析したのはユニークな視点。

「忠臣蔵」の決算書 新書3.JPG「忠臣蔵」の決算書  .jpg  決算!忠臣蔵1.jpg 決算!忠臣蔵2.jpg
「忠臣蔵」の決算書 ((新潮新書))』['12年] 映画「決算!忠臣蔵」['19年]

 従来は「武士の倫理観」という視点で分析されがちだった「忠臣蔵」を、その倫理観の陰に隠れて見過ごされがちな「経済的側面」から分析した本。主君の刃傷事件によって藩がお取り潰しになった際、旧藩士はどの程度の退職金を得たのか、浪人生活の苦しさとは具体的にどのようなものだったのか、生活費に窮した時はどうしたかなどについて書かれています。

決算!忠臣蔵640.jpg 新潮ドキュメント賞を受賞した歴史学者・磯田道史氏の『武士の家計簿-「加賀藩御算用者」の幕末維新』('03年/新潮新書)が、森田芳光監督、堺雅人主演で「武士の家計簿」('10年/松竹)として7年超しで映画化され、同じように小説ではない本書もこの度、「殿、利息でござる!」('16年/松竹)(これも原作は磯田道史氏)の中村義洋監督、堤真一主演で「決算!忠臣蔵」('19年/松竹)として7年超しで映画化されました(中村義洋監督自身による小説化作品がある)。

 本書で何よりつぶさに書かれているのが、最終的に四十七士が吉良邸討入りというプロジェクトを遂行するにあたって、相談や指示伝達のための江戸―上方間の旅費、江戸でのアジトの維持費、その間の生活費、さらに討ち入りを実行するための武器の購入費など、その諸費用をどう賄い、また支出していったかです。

 本書の記述のベースとなっている大石内蔵助が遺した『預置候金銀受払書』をはじめ、お取り潰し後の赤穂藩の財政に関連する資料は結構あるのだなあと。『武士の家計簿』は、磯田道史氏が2001年に神田神保町の古書店で見つけた古文書がベースになっているのに対し、これら赤穂藩の資料は従来より一級資料であって新発見資料ではなく、ただ、今までそうした「経済的側面」から「忠臣蔵」を分析することは殆どされてこなかったようです。その意味では、本書はユニークな視点を突いたと言えます。

 まず、御家再興を図るか討入りをするかを決める前に、籠城か開城かという決断があり、開城をすることで、今度は藩士に割賦金(退職金)を払うことに。割賦金の額(米を含む)は、すでに支給されていたその年分の米を加えると19,619両で、現在の価値にして23億5,000万円、約300名の藩士に一人平均780万円ほどが支払われたというから、それだけもう結構な大金が動いたのだなあと。

 そうすると、御家再興や討入りのために用意できた残りの金額(軍資金)は691両、8,292万円になり(全資産からみれば殆ど残らなかったということか)、そのほとんどは藩の「余り金」と浅野内匠頭の正室・瑤泉院の「化粧料」(嫁入り持参金)だったようです。この「軍資金」が討入りの計画・準備・実行にどのように使われたかが『預置候金銀受払書』に沿って諸々解説されているのが本書の中核となっています。そして、最終的な使用内訳は、次の通りとなっています。

 仏事費  127両3分  18.4%
 御家再建工作費 65両 9.4%
 江戸屋敷購入費 70両 10.1%
 旅費・江戸逗留費 248両 35.6%
 会議通信費  11両 1.6%
 生活補助費 132両1分  19.0%
 討入り装備費 12両 1.9%
 その他   31両1分2朱  4.2%

決算!忠臣蔵ロード.jpg 映画化作品は、堤真一演じる大石内蔵助に加えて、岡村隆史演じる(本書にもその名がある)勘定人・矢頭(やとう)長助をダブル主人公にし、諸経費を現在の金額に置き換えて、その時々でいくらかかったかをユーモラスに分かりやすく解説していました。内蔵助が武器輸送に際して危機に陥る「大石東下り」の段もなければ、瑤泉院が内蔵助と別れた後でその真意を知る「南部坂雪の別れ」の段もない「忠臣蔵」ですが、そうした後世の作り話はこの際入れなくて正解でした(石原さとみが瑤泉院を演じていて、討ち入り直前に内蔵助の勘定報告は目にするが、袱紗に包んだ紙包みを開けるとそこには「討入同志連名血判状」の題字が...といった「忠臣蔵」お決まりのシーンはない)。

決算!忠臣蔵ges.jpg ずっとコメディタッチできていたので、個人的には、途中で矢頭長助を大石内蔵助の代わりに死なせることをしなくてもよかったのではないかと思います(絶叫型の演技が多い中で、岡村隆史のぽつりぽつりと喋る演技は効いていた。矢頭長助をヒーローにしないと気が済まなかったのか?)。史実では矢頭長助は病に伏して1702(元禄15)年9月に45歳で亡くなっており、その年の討入りには息子の矢頭教兼(のりかね)が加わっています(教兼が切腹した時の年齢が18歳で、四十七士の中では大石主悦の16歳に次いで若かった。美少年とされ、討入り後い世間に「義士の中に男装の女がいた」という噂話が流れたとも伝わる)。

決算!忠臣蔵s.jpg 映画では"討入りプロジェクト"は終盤、討入り装備費の試算の段階で、あの武器も必要、この防具も必要と喧々諤々やっているうちに赤字見通しになり(つまり資金不足になったということ)、それが、吉良上野介が確実に在宅している日が事前情報として分かったことで、討入りが当初予定より3カ月早まり、それだけ家賃等生計維持費が浮くことになって、何とか「予算内で」討入りができるようになったという流れになっていますが、先の軍資金の資質配分を映画と突き合わせてみると、討入り装備費は全体の2%弱で、その前の旅費・江戸逗留費などの支出の方がずっと大きかったことがわかります。この支出配分を念頭に置いて映画を見てみるのも、なかなか面白いのではないかと思います。

決算!忠臣蔵ド.jpg決算!忠臣蔵ード.jpg「決算!忠臣蔵」●制作年:2019年●監督・脚本:中村義洋●製作:池田史嗣/古賀俊輔中居雄太/木本直樹●撮影:相馬大輔●音楽:髙見優●時間:125分●出演:堤真一/岡村隆史/濱田岳/横山裕/荒川良々/妻夫木聡/大地康雄/西村まさ彦/木村祐一/小松利昌/決算!忠臣蔵images.jpg沖田新宿ピカデリー1.jpg裕樹/橋本良亮/寺脇康文/千葉雄大/桂文珍/村上ショージ/板尾創路/滝藤賢一/笹野高史/竹内結子/西川きよし/石原さとみ/阿部サダヲ●公開:2019/11●配給:松竹●最初に観た場所:新宿ピカデリー(19-12-16)(評価:★★★☆) 石原さとみ(瑤泉院)

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絶望シネマの「映画の定石」の破り方の多様性を感じた。ビジュアルもいい。

観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88201.jpg IMG_7877.JPG
観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』カバー写真「炎628」('85年/ソ連)

 鉄人社「観ずに死ねるか !」シリーズの「韓国映画 この容赦なき人生」('11年)、「観ずに死ねるか ! 傑作ドキュメンタリー88」('13年)、「観ずに死ねるか ! 傑作青春シネマ邦画編」('14年)、に続くシリーズの第4弾で、畳み掛ける不幸や理不尽な狂気、負の連鎖や死にまっしぐらの生き様など、救われない中身と結末の、いわば"絶望"を描いた映画を、文筆家ら70人がそれぞれの個人的視点で語り尽くした1冊です(カバーには、第二次世界大戦下でのナチスの掃討部隊アインザッツグルッペンによるウクライナでの大量虐殺行為を描いた「炎628」('85年/ソ連)がきている)。

「地下水道」 dvd.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpgジョニーは戦場に行った  pos.jpg 第1章「悲劇」では、「禁じられた遊び」(立川志らく)、「誰も知らない」(川本三郎)、「地下水道」(荒井晴彦)、「ジョニーは戦場に行った」(森達也)など13本が取り上げられています。アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーーランド)は『下水道映画を探検する』('16年/星海社新書)でも取り上げられていて「下水道映画」(下水道が出てくる映画)では個人的にはナンバー1ですが、絶望度で言うと「ジョニーは戦場にdalton trumbo 2.jpg行った」('71年/米)も相当なもの。カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ受賞作でありながら、殆どホラー映画に近い戦慄を覚えましたが、選者の森達也氏が、映画を通して主人公の苦痛を一度は体験すべきだと述べているのには賛同します。監督は「ローマの休日」('53年/米)の脚本家ドルトン・トランボで(原作もドルトン・トランボで発表は1938年)、第二次世界大戦後に「赤狩り」の標的とされ投獄された経験もあり(そう言えば「パピヨン」('73年/米)の脚本家でもある)、朝鮮戦争とベトナム戦争も経験しています(選者は、目も鼻もない兵士は大量に生産されているとも言っている)。

未来世紀ブラジ_7878.JPG 第2章「戦慄」では、「未来世紀ブラジル」(高橋ヨシキ)、「ミスト」(松﨑健夫)、最後の晩餐/2.jpg復讐するは我にあり」(二階堂ふみ)、「めまい(ヒッチコック)」(松崎まこと)、「炎628」(橋口亮輔、スチールが表紙に使われている)、「最後の晩餐復讐するは我にあり_7880.JPG」(伊藤彰彦)など20本が取り上げられています。テリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」('85年/英)は、「1984」のような"ディストピアSF"に見えますが(ロバート・デ・ニーロが謎の電気修理人役でいきなり登場したのは可笑しかったが)、特権階級の不気味な非人間性を描いていると選者の高橋ヨシキ氏は述べていて、ナルホドと。今村昌平監督の「復讐するは我にあり」('79年/松竹)のラストの三國連太郎と倍賞美津子の散骨シーンを、選者の女優・二階堂ふみが、「緒形さんが、まるで、俺はまだ生きていると叫んでいるような」骨のストップシーンと表現しているのにも共感しました、

 第3章「破壊」では、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(みうらじゅん)、「黒い画集 第二話 寒流」(西IMG_7881.JPG村賢さらば愛しき大地 poster.jpg太)、「ポーラX」(安藤尋)、「気狂いピエロ」(末井昭)、「さらば愛しき大地」(佐々木俊尚)など16本が取り上げられています。松本清張原作の「黒い画集」シリーズから2本入っているのが興味深いですが、「黒い画集 第二話 寒流」の選者の芥川賞作家・西村賢太氏が、「清張の原作に付け加えられたカタルシスなき結末」に着眼しており、原作と読み比べてみるのもいいと思います(原作はスッキリさせられる逆転劇、映画は...)。

 第4章「哀切」では、「ミリオンダラー・ベイビー」(渚ようこ)、「真夜中のカーボーイ」(大槻ケンヂ)、「ミッドナイトクロス」(松崎まIMG_7884.JPGこと)、「東京暮色」(真魚八重子)など16本が取り上げられていて、第5章「狂気」では、「少女ムシェット」(坪内祐三)、「ゴーン・ガール」(大根仁)、「時計しかけのオレンジ」(水道橋博士)、「追悼のざわめき」(森下くるみ)など11本が取り上げられています。スタンリー・キューブリック監督の「時計しかけのオレンジ」は、最後に主人公が洗脳IMG_7885.JPG手術されてしまう「未来世紀ブラジル」と少し似ている部分もあったように思います。

 70人の選者が1人1作思いを込めて作品を論じていて、いろいろ気付きを与えてくれます。70人の中には、作家、映画監督や映画評論家などに混じって男優、女優、歌手なども何人かいて、例えば女優では、先に取り上げた二階堂ふみや、成海璃子、武田梨奈など結構若手もおり、彼女らなりに映画をしっかり捉えているのが興味深かったです。

 ハッピーエンドと正反対の(バッドエンドの)映画、本書で言う「絶望シネマ」というのはまだ沢山あると思いますが、いずれも言わば「映画の定石」なるものをを破っているわけであって、その破り方が極めて多様であることが窺え(こうしてみると、ハッピーエンドの映画はどれも同じように見えてきてしまう)、本書を通して改めて「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」ことが浮き彫りになったように思います。ビジュアル面でも、映画の見どころシーンが多く織り込まれていて、まだ観たことのない作品も観てみたくなるほどに楽しめる1冊です。

ジョニーは戦場へ行った [DVD]
ジョニーは戦場へ行った [DVD].jpgジョニーは戦場に行ったード.jpg「ジョニーは戦場に行った」●原題:JOHNNY GOT HIS GUN●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ダルトン・トランボ●製作ブルース・キャンベル●脚本:ダルトン・トランボ●撮影: ジュールス・ブレンナー●音楽:ジェリー・フィールデジョニーは戦場に行った サザーランド2.jpgィング●原作:ダルトン・トランボ●時間:112分●出演:ティモシー・ボトムズ/キャシー・フィールズ/ドナルド・サザーランド/ジェイソン・ロバーズ/マーシャ・ハント/ チャールズ・マッグロー/ダイアン・ヴァーシ/エドワード・フランツ/ ケリー・マクレーン●日本公開:1973/04●配給:ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-02-24)(評価:★★★★)

未来世紀ブラジル [DVD]
未来世紀ブラジル [DVD].jpg未来世紀ブラジル 111.jpg「未来世紀ブラジル」●原題:BRAZIL●制作年:1985年●制作国:イギリス●監督:テリー・ギリアム●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:テリー・ギリアム/チャールズ・マッケオン/トム・ストッパード●撮影:ロジャー・プラット●音楽:マイケル・ケイメン●時間:142分●出演:ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キ未来世紀ブラジル ロバートデニーロ.jpgム・グライスト/マイケル・ペイリン/キャサリン・ヘルモンド/ボブ・ホスキンス/デリック・オコナー/イアン・ホルム/イアン・リチャードソン/ピーター・ヴォーン/ジム・ブロードベント●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘(87-07-19)(評価:★★★★)●併映:「ザ・フライ」(デビッド・クローネンバーグ)

復讐するは我にあり_7889.JPG「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ復讐するは我にあり 骨.jpg蝶々/倍賞美津子/小川真由美/清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

IMG_7883.JPG「最後の晩餐」●原題:LA GRANDE BOUFFE●制作年:1973年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:マルコ・フェレーリ●製作:ヴァンサン・マル/ジャ「最後の晩餐」2.jpgン=ピエール・ラッサム●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:フィリップ・サルド●時間:130分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ウーゴ・トニャッツィ/フィリップ・ノワレ/ミシェル・ピッコリ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1974/11●最初に観た場所:大塚名画座 (78-11-07) (評価★★★★)●併映:「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)/「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル)

さらば愛しき大地 7892.JPG「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウエアとうきゅう(82-07-10)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★★)●併映(2回目):「(ゴッド・スピード・ユー! ブラック・エンペラー」(柳町光男)

時計じかけのオレンジ [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]
IMG_7882.JPG時計じかけのオレンジ dvd.jpg「時計じかけのオレンジ」●原題:A CLOCKWORK ORANGE●制作年:1971年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ウォルター・カーロス●原作:アンソニー・バージェス●時間:137分●出演:マルコム・マクダウェル/ウォーレン・クラーク/ジェームズ・マーカス/ポール・ファレル/リチャード・コンノート/パトリック・マギー/エイドリアン・コリ/ミリアム・カーリン/オーブリー・モリス/スティーヴン・バーコフ/イケル・ベイツ/ゴッドフリー・クイグリー/マッジ・ライアン/フィリップ・ストーン/アンソニー・シャープ/ポーリーン・テイラー●日本公開:1972/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-02-09)●2回目:吉祥寺セントラル(83-12-04)(評価:★★★★)●併映(1回目):「非情の罠」(スタンリー・キューブリック)

《読書MEMO》
●「観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88」 (鉄人社)出版記念上映会 @テアトル新宿(2015年)
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時々手にして、人類存在の神秘、いのちの不思議さに思いを馳せるのもいい。

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40億年、いのちの旅 (岩波ジュニア新書)』['18年]『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書)』 ['09年]

 40億年に及ぶとされる、地球における生命の歴史を、いのちとは何か? いのちはどのようにして生まれたのか? どのように考えられてきたのか? というところからその歴史をひもときながら、人類の来た道と、これから行く道を探っった本。

 第1章で「いのち」とは何かをを考え、第2章で、「いのち」の特徴である多様性と普遍性がどのようなものか、それらがゲノム・DNAを通じてどのように発揮されてきたかを考えています。

 第3章では「いのち」の始まりとその後の進化について考え、「いのち」の旅の方向づけに大きな影響を与えた事項・イベントとして、光合成と酸素呼吸の出現や真核細胞の登場、性の出現、陸上への進出など7項目に焦点を当てています。

 後半の第4章、第5章、第6章では、ヒトの過去・現在・未来についてそれぞれ考えています。まず、化石とDNAからヒトの進化の旅を振り返り、次に、地球上で生き物の頂点に君臨する現況を改めて考え、最後に、これからヒトはどのような旅をするのかを考えています。

 こうした学際的な内容のヒトの歴史に関する本では、同じ岩波ジュニア新書に眞淳平著『人類が生まれるための12の偶然』('09年)がありましたが、あちらは宇宙や地球の誕生から説き起こしているのに対し、こちらは40億年前の生命の誕生から説き起こしていることになります。

 また、著者の専門が細胞生化学であることもあってか、細胞内小器官の話など細胞学に関する説明はやや高度な内容を含んでいたように思いますが(と言っても高校の教科書の生物基礎程度の知識があれば何とかついていけるか)、減数分裂における遺伝子の組み換えの説明などは分かりやすい方だったと思います。

 最新の研究成果も織り込まれています。個人的に興味深かったのは、ネアンデルタール人と現生人(ホモ・サピエンス)の関係で、共に約90万年前にアフリカかヨーロッパのどこかで誕生したホモ・ハイデルベルゲンシスを先祖とし、ネアンデルタール人はヨーロッパにいたホモ・ハイデルベルゲンシスから進化したと考えられ、現生人は、20万年前アフリカにいたホモ・ハイデルベルゲンシスから進化したと考えられとのこと。先祖が同じでも、先祖のいた場所が違うのかと。

 陸上に生息する動物の個体数の総重量が一番重いのはウシで、2番目がヒトだが、以下、スイギュウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ウマと続くという話も興味深かったです。要するに、これら(ヒト以外)は全部"家畜"であって、ヒトは自分たちが生きるために、膨大な量の生物を飼育しているのだなあと。

 巻末に長谷川真理子著『進化とはなんだろうか』['99年/岩波ジュニア新書]など関連の参考図書が紹介されています。時々この種の本を手にして、人類が存在することの神秘、自分が生まれてきたことの不思議さに思いを馳せるのもいいのではないでしょうか。

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地域のコミュニティに生きる外国人の、ポジティブに頑張っている面にスポットを当てている。

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日本の異国: 在日外国人の知られざる日常』 竹ノ塚のリトル・マニラ「カリン」(本書ではモノクロ)AERA dot.

 最近では街を歩けば外国人の姿がフツーに目に入るようになりましたが、本書は、そうした外国人が集まって暮らしている街々を取材して、なぜそこにその国の人たちが集まって暮らすようになったのかという歴史や、彼らは今どのような問題を抱えているかいったことも含め、彼らの暮らしぶりを紹介したルポルタージュです。

 取り上げあっれているのは、竹ノ塚のリトル・マニラ、八潮市のヤシオスタン(パキスタン人)、代々木上原の東京ジャーミー(トルコ人)、西葛西のリトル・インディア、池袋のバングラデシュ独立のシンボル、練馬のモンゴル春祭り、大和市のいちょう団地(ベトナム・カンボジア・ラオス人)、茗荷谷シーク寺院(インド人)、成田市のタイ寺院、御殿場の中国人コミュニティ、蕨市のクルド人難民、川口市の「多文化共生」の最前線(東南アジア・韓国・中国人)、そして最後に新大久保。新大久保も、コリアン・タウンというより、今は多国籍化しているのだなあと(今度行ったらよく注意して見ておこう)。

 本書に、「日本に住む外国人は'17年末で250万人を超えたという」とありますが、出入国在留管理庁は10月、今年['19年]6月末時点の在留外国人数が282万9416人だったと発表しており、これは日本の総人口の2.24%を占めるることになります。'17年末から'18年末の増加率は7%で、12年末以降は7年連続で増加し、日本社会の外国人の存在感が高まりつつあるのは数字にもはっきり表れています('18年末の在留資格別、国籍・地域別のそ内訳は下図の通り)。

在留外国人.jpg

 あるシンクタンクによれば、日本だけではなく、海外でも外国人は大都市に集まる傾向があるそうで、その主な理由は、賃金が地方に比べて高いことと、生活を支える外国人コミュニティが発達していることのようです。日本政府は「移民」政策は取らないとしていますが、来年['20年]4月から「特定技能」の新設をに外国人労働者受入れ拡大を目指す改正入管法が施行され、実質的には移民受け入れに舵を切ったようなもの。この人不足で今後も外国人労働者はどんどん入ってき続けるだろうし、そうした際の日本で働く外国人の拠り所となるのが、本書に紹介されているような外国人コミュニティなのだろなあと思って本書を読みました。

 外国人タウンの探訪というと何となくディープな世界に足を踏み入れる印象がありますが、著者はアジアをテーマに文章を書いてきたライターで、自身もタイで外国人として暮らした経験を持つとのことで、取材相手と適度な距離感を保ちつつ、地域のコミュニティに生きる外国人の、ポジティブに頑張っている面にスポットを当てています(ちょうどヘイトスピーチなどをやるグループと真逆の立ち位置)。

 取材先が1都3県(+御殿場)に限らているので、今度は地方の状況ももっと知りたいものだと思いました。

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実質的な1位は自分が"隠れ"ファンを自認していた作品だった(笑)。

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週刊文春「シネマチャート」全記録 (文春新書)』「イノセント」「ミリオンダラー・ベイビー」ヒラリー・スワンク

 「週刊文春」の映画評「シネマチャート」が、1977(昭和42)年6月に連載を開始してから丸40年を迎えたのを記念して企画された本。40年間で4千本を超える映画に29名の評者が☆をつけてきたそうですが、その☆を今回初めて集計し、洋画ベスト200、邦画ベスト50選出しています。

地獄の黙示録01ヘリ .jpg 洋画のベスト1(評者の中で評価した人が全員満点をつけたもの)は10本あって(ただし、2003年までの満点が☆☆☆であるのに対し、2004年以降は☆☆☆☆☆で満点)、その中で評価(星取り)をしなかった(パスした)評者がおらず、全員が満点をつけたものが1977年から2003年までの間で5本、2004年以降が2本となっています。さらに、2003年までは評者の人数にもばらつきがあり、最も多くの評者が満点をつけたのがルキノ・ヴィスコンティ監督の「イノセント」('76年/伊・仏)(☆☆☆8人)、次がフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)(☆☆☆7人、無1人)となっています。

 選ばれた作品を見て、あれが選ばれていない、これが入っていないという思いは誰しもあるかと思いますが、巻頭に選定の総括として、中野翠、芝山幹朗両氏、司会・植草信和・元「キネマ旬報」編集長の座談会があり(中野翠、芝山幹朗両氏は現役の評者)、彼ら自身が選定に偏りがあるといった感想を述べていて、特定の作品が高く評価されたりそれほど評価されなかったりした理由を、その時の時代の雰囲気などとの関連で論じているのが興味深かったです。

 それにしても、全般に芸術映画の評価は高く、娯楽映画の評価はそうでもない傾向があるようですが、洋画ベスト200の実質的なトップにルキノ・ヴィスコンティ監督の「イノセント」がきたのは、この作品の"隠れ"ファンを自認していた自分としては意外でした(全然"隠れ"じゃないね)。しかも、この時の評者が、池波正太郎、田中小実昌、小森和子、品田雄吉、白井佳夫、渡辺淳など錚々たるメンバーだからスゴイ。彼らが「イノセント」を高く評価したというのも時代風潮かもしれませんが、「家族の肖像」('74年)、「ルードウィヒ/神々の黄昏」('80年)が共に62位なので、その辺りの兼ね合いが不思議です(単なる偶然か)。

 ☆☆☆☆☆で満点となった2004年以降で満点を獲得したのは、ゲイリー・ロス監督の「シービスケット」('03年/米)と クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)ですが、クリント・イーストウッド監督は洋画ベスト200に9作品がランクインしており、2位のルキノ・ヴィスコンティ監督の6作品を引き離してダントツ1位。この辺りにも、この「シネマチャート」における評価の1つの傾向が見て取れるかもしれません。クリント・イーストウッド監督の9作品のうち、個人的に一番良かったのは「ミリオンダラー・ベイビー」なので、自分の好みってまあフツーなのかもしれません。

ミリオンダラー・ベイビー01.jpg 「ミリオンダラー・ベイビー」は重い映画でした。女性主人公マギーを演じたヒラリー・スワンクは、イーストウッドに伍する演技でアカデミー主演女優賞受賞。作品自体も、アカデミー作品賞、全米映画批評家協会賞作品賞を受賞しましたが、公開時に、マギーが四肢麻痺患者となった後で死にたいと漏らしフミリオンダラー・ベイビー04.jpgランキーがその願いを実現させたことに対して、障がい者の生きる機会を軽視したとの批判があったようです。批判の起きる一因として、主人公=イーストウッドとして観てしまうというのもあるのではないでしょうか。「J・エドガー」('11年)などもそうですが、イーストウッドのこの種の映画は問題提起が主眼で、後は観た人に考えさせる作りになっているのではないかと思います。

 因みに、邦画ベスト50では1位の「愛のコリーダ2000」('00年)だけが評者全員(5人)が満点(☆☆☆)でした。この作品は、「愛のコリーダ」('76年)における修正を減らしたノーカット版により近いものであり、実質的なリバイバル上映だったと言えます(これ、現時点['19年]でDVD化されていない)。

ミリオンダラー・ベイビー [DVD]」 モーガン・フリーマン(アカデミー助演男優賞)
ミリオンダラー・ベイビー.jpgミリオンダラー・ベイビー02.jpg「ミリオンダラー・ベイビー」●原題:MILLION DOLLAR BABY●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:ポール・ハギス/トム・ローゼンバーグ/アルバート・S・ラディ●脚本:ポール・ハギス●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●原案:F・X・トゥール●時間:133分●出演:クリント・イーストウッド/ヒラリー・スワンク/モーガン・フリーマン/ジェイ・バルチェル/マイク・コルター/ルシア・ライカ/ブライアン・オバーン/アンンソニー・マッキー/マーゴ・マーティンデイル/リキ・リンドホーム/ベニート・マルティネス/ブルース・マックヴィッテ●日本公開:2005/05●配給:ムービーアイ=松竹●評価:★★★★

《読書MEMO》
●『観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88
』 (2015/06 鉄人社)
ミリオンダラー・ベイビー_7893.JPG
<・ふぉんt>

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本当に脳科学? ジェンダー差別の再強化の一翼を担ってしまっているともとれる。

キレる女懲りない男.jpgキレる女懲りない男2.jpg  夫のトリセツ.jpg 妻のトリセツ.jpg
キレる女懲りない男―男と女の脳科学 (ちくま新書)』['12年]『夫のトリセツ (講談社+α新書)』['19年]『妻のトリセツ (講談社+α新書)』['18年]


 最近『夫のトリセツ』('19年/講談社+α新書)という本が売れているらしい(ウチでは家人がどういうわけか『妻のトリセツ』('18年/講談社+α新書)を買っていた)、その著者の最初の新書本。1953年生まれの著者は、42歳で男女脳のエッセイを初出版し、53歳で本書を出したそうですが、この本の中でも、「女性脳の取扱説明書(トリセツ)」と「男性脳の取扱説明書(トリセツ)」というのが大部分を占め、以降、同じパターンで繰り返してきた結果、最近になってブレイクしたという感じでしょうか。

男が学ぶ「女脳」の医学.jpg ただ、この内容で、単にエッセイとして読むにはいいけれど、「脳科学」を標榜するのはどうなのか。以前に、斎藤美奈子氏が、「ちくま新書」は"ア本"(アキレタ本)の宝庫であり、特にそれは男女問題を扱ったものに多く見られるとして、岩月謙司氏の『女は男のどこを見ているか』('02年/ちくま新書)や米山公啓氏の 『男が学ぶ「女脳」の医学』('03年/ちくま新書)を批判していたように思いますが、これもその「ちくま新書」です(10年置きぐらいで「男女脳」企画をやっている?)。

 読んでみて、解釈の課題適用(over generalization)が多いように思いました。例えば、ある寺の住職の「妻に先立たれた男性は三回忌を待たずに逝くことが多い。逆は長生きしますね」と言葉を引いて、「女性スタッフに愛される店は衰退しない。女性部下に愛される上司は出世する」とありますが、ありそうなことを2つくっつけて、いかにも同じ法則の基にそうなっているかに見せかけているだけではないででしょうか。こうした手法は、手を変え品を変え、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』においても、基本は変わって変わっていないようです。

 本書にしても『妻のトリセツ』にしても、「女性脳は、右脳と左脳をつなぐ神経線維の束である脳梁が男性と比べて約20%太い」など、男性と女性の脳の機能差を示すような具体的なデータを出して、「いきなりキレる」「突然10年前のことを蒸し返す」など夫が理解できない妻の行動の原因を脳の性差と結びつけ「夫はこういう対処をすべし」と指南してます

 しかし、朝日デジタルによると、脳科学や心理学が専門の四本(よつもと)裕子・東京大准教授は、「データの科学的根拠が極めて薄いうえ、最新の研究成果を反映していない」と言い、例えば「脳梁」で取り上げられたデータは、14人の調査に基づいた40年近く前の論文で、かつ多くの研究からすでに否定されているという。本に登場するそのほかのデータも「聞いたことがない」とのこと。朝日の記者が著者に主張の根拠を尋ねると、「『脳梁の20%』は、校正ミスで数値は入れない予定だった」とし、そのほかは「『なるほど、そう見えるのか』と思うのみで、特に述べることがありません」と回答があったそうです(ヒドイね)。

 斎藤美奈子氏は、例えば、女性は共感を、男性は問題解決を求めるというのはよく聞く話だが、でもそれは「脳」のせいなのか、仮にそうした傾向があったとしても、十分「環境要因決定説」で説明できるとしています(日々外で働く男性は、大事から小事まで、年中「問題解決」を迫られている。グズグズ迷っている暇はなく、トラブルは次々襲ってくるので、思考はおのずと「早急な解決方法」に向かう)。したがって、これは「脳の性差」ではなく、環境と立場の差であるとしています。

 これを聞いて想起されるのが、男女均等待遇がなかなか進まない原因としてよく問題になる「統計的差別」で、女性の採用や能力開発に積極的でない企業は、その理由を「統計的にみて女子はすぐ辞めるから」と言うものの、実はそうした考え方がますます差別を強化するということになっているというものです。それと同じパターンが本書にも当て嵌るかもしれません(ましてや本書の場合、「男性と同じ立場で働く女性」などの統計モデルのサンプルは少ないとされているのに、である)。

 同じく朝日デジタルによると、『なぜ疑似科学を信じるのか』('12年/DOJIN選書)の著書がある信州大の菊池聡(さとる)教授(認知心理学)は『トリセツ』について、「夫婦間の問題に脳科学を応用する発想は、科学的知見の普及という意味では前向きに評価できる。だが、わずかな知見を元に、身近な『あるある』を取り上げて一足飛びに結論づけるのは、拡大解釈が過ぎる。ライトな疑似科学に特有な論法だ」と話しているそうで、コレ、自分が本書を読んで最初に浮かんだ疑念と全く同じです。

 読み物として「そうそう」「あるある」と言って楽しんでいる分にはともかく、「脳科学」の名の元に妄信するのはどうかと(「脳科学」というより「心理学」か「心理学的エッセイ」、更に言えば「女性論・男性論」(的エッセイ)になるか)。大袈裟な言い方かもしれませんが、ジェンダー差別を再強化することの一翼を担うようになってしまうのではないでしょうか。別に読んで楽しんでもいいけれど(脳内物質で全部説明している米山公啓氏の本などよりは内容が練れている)、そうした批判眼もどこかで持っておきたいものです。

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