【2829】 ○ 坂崎 重盛 『「絵のある」岩波文庫への招待 (2011/02 芸術新聞社) ★★★★

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「絵のある」岩波文庫という切り口がユニーク。古典文学へのアプローチの一助となるかも。
「絵のある」岩波文庫への招待.jpg 絵のある 岩波文庫への招待 :.jpg  モーパッサンの『脂肪の塊』.jpg
「絵のある」岩波文庫への招待』(表紙版画:山本容子) モーパッサン『脂肪の塊』(水野 亮:訳)挿画
モーパッサン『脂肪のかたまり』(高山 鉄男:訳)挿画
モーパッサン『脂肪の塊』挿画.JPG 「絵のある」、つまり文中に挿し絵や図版を挿入されている岩波文庫―というユニークな切り口で、岩波文庫を約120タイトル、冊数にして約190冊ほど紹介したもの。まえがきによれば、「絵のある」岩波文庫の8、9割には達したのではないかとのことで、岩波文庫は実は「傑作挿し絵」の「ワンダーランド」であると―。

 かつて岩波文庫の古典文学は字が小さくて、同じ作品を読むなら新潮文庫で読んで、後で岩波文庫の方には挿絵があったことを知ったりしたこともあったりしました。絵があるのなら、最初から岩波文庫で読めば良かったと、買い直したりしていました。

 本書は2段組み350ページ強と大部ですが、文学評論というより「本の紹介」であり、文章はエッセイ風で柔らか目です(岩波文庫の堅いイメージを解きほぐそうとしたのか?)。切り口はまちまちで、時々話が脱線したりもしますが、一方で随所に、挿絵を介してみた作品に対する著者の鋭い分析がありました。これだけの作品を先に手元に集めて一気に読むとなると、結構たいへんな作業かも。労作と言っていいのかもしれません。

小出 龍太郎『小出楢重と谷崎潤一郎 小説「蓼喰ふ虫」の真相』['06年/春風社]
小出楢重と谷崎潤一郎_.jpg蓼喰う虫2.jpg 思い出深いところでは、谷崎潤一郎の『蓼食う虫』の小出楢重の挿画などは良かったなあ。人形浄瑠璃を桝席で鑑賞する図(36p)なんて、挿絵が無いと現代人は想像がつかないでしょう。本書にもありますが、小出楢重の挿画は、小さい頃からの楢重の地元である関西を舞台にしたこの作品において、関東大震災後に関西に移り住んでまだ5年しか経っていなかった谷崎の文章とちょっと張り合っている印象があります。小出龍太郎『小出楢重と谷崎潤一郎―小説「蓼喰ふ虫」の真相』['06年/春風社]によれば、小出楢重と谷崎潤一郎は双方に刺激し合って(むしろ谷崎が楢重に励まされる感じで)この作品を作り上げていったようです(谷崎作品では『』の棟方志功の版画もいいが、これは「中公文庫」。本書では時々中公文庫をはじめ岩波文庫以外の挿画入り文庫も出てくる)。

「絵のある」岩波文庫への招待200_.jpg モーパッサンの『脂肪の塊』の挿画も分かりよかったです。「ブール・ド・シュイフ」(脂肪の塊)と呼ばれた主人公がどんな風だったのかイメージ出来ます(122p)。本書の表紙にも中央やや右下に描かれていますが、文庫の挿絵と比べ反転しています(カバー挿画は、赤または白の表紙の本がそれぞれピンポイントになっているように、原版のコピーでは山本容子.jpgなく、山本容子氏のオリジナル版画だそうだ。表紙を見ているだけでも、どの作品の挿画かとイメージが掻き立てられるなどして楽しい)。因みに、モーパッサンは『メゾン テリエ』も挿画入りです。

濹東綺譚(ぼくとうきだん) 永井荷風.jpg また日本に戻って、永井荷風の『濹東綺譚』の木村荘八の挿絵。主人公とお雪が雨宿りしたところで出会う場面(162p)などは、もうこの作品のイメージを完全に形作ってしまったという印象で、タイトルに「現代挿画史に残る不朽の名作」とあるのも納得です。

 読んだことのない作品の方が圧倒的に多いものの、この作品にこんな挿画が使われているのかということを新たに知ることが出来て良かったです。実際、読めるかどうかは分かりませんが、まだ読んだことがない本への関心が高まったのは事実であり、古典文学へのアプローチの一助、その方法の一種となるかもしれないと思いました。

「絵のある」岩波文庫をご紹介.png六本木「アカデミーヒルズ」エントランス・ショーケース展示「絵のない本なんてつまらない!~「絵のある」岩波文庫」(2018年9月)

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This page contains a single entry by wada published on 2019年11月10日 00:36.

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