【2828】 ◎ 山本 多津也 『読書会入門―人が本で交わる場所』 (2019/09 幻冬舎新書) ★★★★☆

「●本・読書」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●語学」【2884】 岩田 一男 『英語に強くなる本
「●幻冬舎新書」の インデックッスへ

「ビジネス系と文学系に分けて、自分で課題本を決める」でいいのだと。自信になった。

読書会入門.JPG読書会入門 人が本で交わる場所.jpg  猫町倶楽部   .jpg 猫町倶楽部
読書会入門 人が本で交わる場所 (幻冬舎新書)

 読書会は「今、密やかに大ブーム」(本書帯より)になっているそうですが、本書は、名古屋、東京、大阪などで年200回以上開催し、のべ約9000人が参加しているという日本最大規模の読書会「猫町倶楽部」の主宰者が、読書会の魅力を語るとともに、参加の仕方、会の開き方からトラブル対処法までを伝授したものです。自分も個人的に小さな読書会を主宰していますが、ほんとに小規模であり、読書会を続けていくのはたいへんだなあと時折思います。その点で、本書は読書会の意義を再認識させてくれるとともに、運営のコツなどの面でたいへん参考になりました。

 著者がごく近い知人らと身内で読書会を最初スタートしたのは2006年で、2008年には地元の中日新聞に取り上げられ、2009年には本拠地である名古屋を飛び出して東京で開催するようになり、2013年には1回の読書会で300人を超える人が集まったとか。ビジネス書を扱う「アウトプット勉強会」と別に、「文学サロン月曜会」という分科会を立ち上げ、東京進出時に全体の呼称として「猫町倶楽部」に統合し、その後、映画を扱う「シネマテーブル」や芸術全般を扱う「藝術部」、性愛をテーマにした「猫町アンダーグランド(猫町UG)」などの分化会を立ち上げたということで、今はちょっと組織が大きく複雑になり過ぎた感じがしなくもないですが...。

 読書会の魅力について、自分の好みや思想に合ったものだけと向き合って、そうでない情報を知らず知らずのうちに遮断していると偏狭的になりがちなところ、読書会で知らない人が勝手に決めた課題本を読んで、その会に参加しなければ出会わなかった人と言葉を交わすことで、ノイズを取り入れることができ、それによって日頃包まれているフィルターバブルの一歩外に出ることができるというのは、読書会のメリットを旨く言い表しているように思いました(そう言えば、ビジネスの世界でも最近、コミュニティの重要性が言われている)。

猫町倶楽部.jpg 課題図書に合わせた"ドレスコード"(浴衣で参加とか)のある読書会をやったりとか、或いは課題図書の作者を招聘してダンス形式でやったりとか、結構いろんな形のイベント形式での読書会をやっていて、この著者はもともと学生時代、"チーム"(今の暴力沙汰の多い"チーマー"の前の穏やかだった頃のグループ)に属してたとのことで、イベントを企画し実施するのが好きだっただろうなあ。それにしても、本業の仕事の時間4割、残り6割は読書会の運営に割き、しかも読書会から得る報酬は一切無しでやっているというのはスゴイことです。こう書くと何だか単に奇特な人とかお目出たい人のようにも思えますが、多数のサポーターの使い方などにおいても、組織が硬直化しないようにそれなりに考えてやっていることが窺えます。

 いいなあと思ったのが、ビジネス系の「アウトプット勉強会」と文学系の「文学サロン月曜会」を「猫町倶楽部」に呼称統合した後も、分科会としての「アウトプット勉強会」と「文学サロン月曜会」は分けて実施していて、両方のバランスをとっているということです。最近になってビジネスの世界でもリベラル・アーツの重要性が注目されていますが、ココは最初からそれをやっているなあと。実は、自分が主宰する読書会でも最初から同じように分けていて、「ああ、これでいいのだ」という自信になりました。

 巻末に「猫町倶楽部」のこれまでの課題本について、「名古屋アウトプット勉強会」150回分と「名古屋文学サロン月曜会」140回が紹介されていて、意外とオーソドックスでした(ビジネス、文学とも自分がやっている読書会と少なからず重なるものがあった)。ただし、著者は、課題本を選ぶときは合議性にせず、"私がやりたいことをやる""私がやりたくないことはやらない"と決めているそうで、これを貫くことでモチベーションを下げないようにしているとのことです。この点はなるほどなあと思いました(おかしな"自己実現本"や読んでも読まなくてもいい"通俗本"などが課題本に入ってこないようにする狙いもあると思う)。自分の場合、ビジネス系は著者同様に自分がワンマンで決めているし、文学系は一応合議制はとるものの、その中でも自分がやりたいものをやるようにしています。この点も「ああ、これでいいのだ」という自信になりました。

 ということで、天と地ほどの規模の差はありますが、読書会を主宰する者として、ビジネス系と文学系に分けて、自分主体で課題本を決めるやり方について、「ああ、これでいいのだ」という自信をつけてくれた本でした。

【読書MEMO】
●目次
目次
第1章 読書会が人生を変えた
第2章 読書会とは何か?
第3章 読書会の効果
第4章 読書は遊べる
第5章 読書会は居場所になる
最終章 「みんなで語る」ことの可能性

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2019年10月22日 03:35.

【2827】 ○ 北村 匡平 『美と破壊の女優 京マチ子』 (2019/02 筑摩選書) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【2829】 ○ 坂崎 重盛 『「絵のある」岩波文庫への招待』 (2011/02 芸術新聞社) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1