【2827】 ○ 北村 匡平 『美と破壊の女優 京マチ子 (2019/02 筑摩選書) ★★★★

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品遍歴としても個々の作品解説としても読める。最初は"ついでに面接した娘"だった。

美と破壊の女優 京マチ子.jpg京マチ子 雨月物語.jpg 鍵 1959 京.jpg
雨月物語」('53年/大映)/「」('59年/大映)
美と破壊の女優 京マチ子 (筑摩選書)

京マチ子 死去 朝日新聞.jpg 今年['19年]5月に亡くなった京マチ子(1924-2019)に関する女優論。映画デビュー後、瞬く間にスターの座に上り詰め、日本映画の黄金期を駆け抜けた彼女は、強烈な肉体美で旧弊な道徳を破壊したかと思えば、古典的で淑やかな日本女性を演じてみせ、バンプから醜女、喜劇からシリアスな役まで、多彩な役を変幻自在に演じた女優でもあります。本書は、100本以上にのぼる彼女の出演作から代表的なものを選び、作品ごとに彼女がどのように変遷を遂げてきたかを、その魅力とともに語っています。

 こうして見ると、実際に彼女は作品ごとに大きな変化を遂げてきたことが分かり、著者が京マチ子のことを「美と破壊性をあわせ持つ無二の女優」としているのよく分かりました。作品遍歴としても個々の作品解説としても読めるとともに、彼女の主演作が海外の名だたる映画祭で高く評価されたのはなぜか? 戦後、多くの日本人に熱烈に支持されたのはなぜか? といったことにも考察が及び、更には、京マチ子の出演した映画やその反響等を通じて、戦前から戦後の日本社会を分析する本にもなっています(この辺りは著者が大学教授であることも関係していると思われるが、やや拡げ過ぎか)。

羅生門」('50年/大映)
京マチ子 羅生門.jpg やはり前半の、初期作品の解説が、知ら牝犬 [DVD].jpgないことも多くて興味深かったです。そもそも個人的に観ていない作品が多くありますが、その内の1つで、「羅生門」('50年/大映)の翌年に公開された「牝犬」('51年/大映)を著者は高く評価していて(本書の表紙には「牝犬」のスチール写真が使われている)、観てみたい気になりました。DVD化されていますが、意外と「羅生門」や「雨月物語」('53年/大映)は観ていても、こうした話題の狭間にある作品は、観る機会がなかったり、見落としていたりするものです。「牝犬 [DVD]

痴人の愛」('49年/大映)with 宇野重吉
痴人の愛 京マチ子.jpg痴人の愛 京マチ子 宇野重吉 .jpg エピソードとして最も興味深かったのは、第1章の「痴人の愛」('49年/大映)(共演の宇野重吉が彼女を絶賛している。今鍵 修復版 [Blu-ray].jpg月['19年9月]、「」('59年/大映)などと併せて修復版[Blu-ray]がリリースされた)のところにある、京マチ子の本格デビューに至る経緯でした。大映の企画本部長だった松山英夫が'49年に、新人をスカウトしようと大阪松竹歌劇団の目当ての踊子を観に行ったところ、同じ舞台にすらりとして豊満な踊子がいて、本命の踊子とセットで面接することに。ところが会ってみると、ニキビが噴き出た顔と大阪弁丸出しの"ついでに面接した娘"(京マチ子)に幻滅した。それが、カメラテストのフィルムを後で回してみると、瑞々しい肢体と何とも言えぬ色気に「これはいける!」ということになったそうです。「鍵 修復版 [Blu-ray]

花くらべ狸御殿0.jpg これにより京マチ子は、「最後に笑う男」('49年/大映)で本格デビューし、以降、「痴人の愛」を含め「花くらべ狸御殿」('49年/大映)から「蛇姫道中」('49年/大映)までこの年だけで5作品に、翌年には「羅生門」など7作品に、さらにその次の年にも「偽れる盛装」('51年/大映)、「源氏物語」('51年/大映)など7作品にいづれも主役乃至は重要な役どころで出演していますから、運命と言うのは分からないものです(大阪松竹歌劇団の舞台で、そのスカウトが本命視していた踊子と一緒に出ていなかったらどうなった?)。

花くらべ狸御殿」('49年/大映)with 水の江滝子

 作品の年代順に解説されているので分かりやすく、巻末に、京マチ子のフィルモグラフィーとして、100作を越える出演映画のリストがあるのも丁寧です。こうした本が出るころに、本人が亡くなってしまうというのが、95歳とほぼ長寿を全うしたと言えるにしても、ちょっと寂しい気がします。

 本書にも、京マチ子が海外のスタート並んで写っている写真のある新聞記事が紹介されていますが、(本書にはないものの)個人的には、1955年のヴェネチア国際映画祭で、当時売り出し中のソフィア・ローレンと並んで写っている写真が印象に残っています(当時の実績では、出演作の「羅生門」「雨月物語」が同映画祭のそれぞれグランプリと銀獅子賞を獲得している京マチ子の方が上)。

 著者は、「京マチ子に関しては、驚くほど忘却されたままである」としていますが、亡くなったときに結構「まだ生きていたの」的な声が聞かれたように思います。ただし、さすがに亡くなった直後に、雑誌「キネマ旬報」と「ユリイカ」で「京マチ子」特集が組まれています。

京マチ子とソフィア・ローレン(1955年・ヴェネチア)
京マチ子とソフィア・ローレンD.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン.jpg

《読書MEMO》
●目次
序章 京マチ子の誕生前夜
第1章 肉体派ヴァンプ女優の躍進
第2章 国際派グランプリ女優へ
第3章 真実の京マチ子―銀幕を離れて
第4章 躍動するパフォーマンス―文芸映画の京マチ子
第5章 "政治化"する国民女優―国境を越える恋愛メロドラマ
第6章 "変身"する演技派女優―顔の七変化
第7章 闘う女―看板女優の共演/競演
終章 千変万化する映画女優

      
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和田泰明ブログ

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This page contains a single entry by wada published on 2019年9月21日 16:20.

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