【2826】 ◎ 川崎 二三彦 『虐待死―なぜ起きるのか、どう防ぐか』 (2019/07 岩波新書) ★★★★☆

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嬰児殺や心中も虐待死として捉え、虐待死の全容を分析し予防策を提案している。

虐待死x3j.jpg虐待死1.jpg    児童虐待 現場からの提言.gif
虐待死 なぜ起きるのか,どう防ぐか (岩波新書)』['19年]『児童虐待―現場からの提言』['06年/岩波新書]

 2000年に児童虐待防止法が施行され、行政の虐待対応が本格化したものの、それ以降も、虐待で子どもの命が奪われる事件は後を絶たない状況が続いています。長年、児童相談所で虐待問題に取り組んできた著者が、多くの実例を検証し、様々な態様、発生の要因を考察、変容する家族や社会のあり様に着目し、問題の克服へ向けて具体的に提言したものが本書であるとのことで、『児童虐待―現場からの提言』('06年/岩波新書)の"その後"編とも言える本でした。

 執筆のスタンスの特徴としては、一つは、未来ある子どもの死が私たちの心を激しく揺さぶるからこそ、努めて冷静な筆致を保つようにしたこと、一つは、多くの人に読んでもらえるよう平易な表現に努めたこと、そしてもう一つは、各事例について具体的で詳細な内容を知ることは不可欠だが、個人を特定する必要ないとしたこととのことです。このあたりは、新聞・週刊誌系の出版社から刊行される同じテーマを扱った本とはやや異なるかも(岩波新書らしい?)・ただし、最後の「個人を特定しない」ことについては、「社会的に広く認知された事例とそうでもない事例があることから」地名や発生年の記述の具体性にはむらが出たとのことです。

 第1章で、虐待死の実態を検証しつつ、「虐待死の区分仮説」を示していますが、その特徴としては、まず「心中」を虐待死に含めていることにあり、虐待死を「心中以外」と「心中」に分け、さらに「心中以外」の中に、従来の「身体的虐待」と「ネグレクト」のほかに「嬰児殺」という分類項目を設けていることにあります。そして、以下章ごとに、「暴行死」「ネグレクト死」「嬰児殺」「親子心中」の順で解説し、最終章で、虐待死を防ぐためにどうすればよいかを提言してます。

代理ミュンヒハウゼン症候群.jpg 第2章は「暴行死」を扱い、ここでは、「体罰」とい目黒区5歳女児虐待死事件.jpg野田市小4女児虐待事件.jpgうものが、かつては「しつけ」と「虐待」の中間に位置するグレーなものであったのが、2019年の改正児童虐待防止法により、「しつけ」のための「体罰」が禁止されたため、「虐待」とイコールになったことを解説しています。冒頭に事例として、2010年に江戸川区で起きた、小学1年生の男児が継父の暴行を受けて死亡した事件を取り上げていますが、2018年の「目黒区5歳女児虐待死事件」、2019年の「野田市小4女児虐待事件」も取り上げられています。また、ステップファミリーの問題のほか、産後うつや、代理代理ミュンヒハウゼン症候群についても((南部さおり『代理ミュンヒハウゼン症候群』('10年/アスキー新書)などを引いて)解説されています。

「目黒区5歳女児虐待死事件」(2018年)
「野田市小4女児虐待事件」(2019年)

大阪二児置き去り死事件1.jpgルポ 虐待2.jpg 第3章では「ネグレクト」を扱い、ここでは冒頭に2010年発生の「大阪市二児餓死事件」を取り上げ(杉山春『ルポ 虐待―大阪二児置き去り死事件』('13年/ちくま新書)などを引いて)、児童相談所のが「立入調査」に加えて「隣県・捜索」ができるよう制度改正されても、まだまだ残る壁があることを示しています。その一つが、居所不明児童の問題であり、また、ネグレクトの背景には、貧困や居住空間の分離などさまざまな要因があることを事例やデータから示しています。

「大阪市二児餓死事件」(2013年)

慈恵病院こうのとりのゆりかご.jpg 第4章では「嬰児殺」を扱っており、もともと日本には戦国時代から江戸時代、さらには明治時代にかけて風習として"間引き"があったとして嬰児殺の歴史的ルーツを探るとともに、赤ちゃんポストとして知られる慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」が参考にしたドイツの内密出産法を紹介するなどしています。

慈恵病院「こうのとりのゆりかご」

 第5章では「親子心中」を扱っており、「心中」を虐待死に含めていることが本書の特徴の1つであるわけですが、0歳児が多い「心中以外」の虐待死に比べ「心中」による虐待死は被害児の年齢別割合にバラつきがあるなど、その特徴を分析するとともに、かつて親子心中が美化されていた時代があったことを指摘しています。また、「実母」が単独加害者であることが全体の4分の3近くを占めるとともに、「実母」が単独加害者の場合は「母子」心中が98%だが、「実父」が単独加害者の場合は、「父子心中」が52%、「父母子心中」が43%になるとことをデータ化から示しています(要するに、父親が加害者の場合は、 "一家心中"にばることが多いということになる)。

 最終章の第6章で、これら虐待死を防ぐにはどうすればよいkを総括していますが、著者は、これまで紹介してきた法整備や児相におけるマニュアル作りは今後も進めていかなければならないが、それだけでは虐待死は未然に防げるものではなく、学校や児童相談所の関係者自身が、子どもたちが「どこか変」と感じ取る感性を磨くことが大切であるとし、また、具体的な手段としては、ジェノグラム(相互の関係性まで示した簡易な家系図)の活用を提案しています。また、ソーシャルワーカーという仕事の重要性も説いています。

 立場的には児童相談所の側から書かれていますが、虐待死の問題の難しさを見つめながらも、これまでの経験をどう活かすかという前向きな姿勢が見られます。前著『児童虐待―現場からの提言』と併せて読まれることをお勧めします。

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This page contains a single entry by wada published on 2019年9月15日 14:50.

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