【2825】 ○ 芹澤 健介 『コンビニ外国人 (2018/05 新潮新書) ★★★★

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コンビニ外国人へのインタビュー等を通じて日本の外国人労働者の実態を浮き彫りに。

コンビニ外国人.jpg コンビニ外国人2.jpg 芹澤 健介.jpg 芹澤 健介 氏
コンビニ外国人 (新潮新書)』['18年]    右下図:「東洋経済オンライン」(2018-11-19)より

特定技能2.jpg コンビニで外国人が働いている光景は今や全く珍しいものではなく、都市部などではコンビニのスタッフに占める外国人の方が日本人よりも多い店もあります。本書はそうしたコンビニで働く外国人を取材したものですが、コンビニ店員に止まらず、技能実習生、その他の奨学生、さらには在留外国人全般にわたる幅広い視野で、日本の外国人労働者の今の実態を浮き彫りにしています。

 第1章では、彼らがコンビニで働く理由を探っています。外国人のほとんどは、日本語学校や大学で学びながら原則「週28時間」の範囲で労働する私費留学生であり、中国・韓国・ベトナム・ネパール・スリランカ・ウズベキスタンなど、様々な国からやってきた人々で、とりわけベトナム人、ネパール人が急増中とのこと。ベトナムは今や日本語ブームだそうです。

 第2章では、留学生と移民と難民の違いを今一度整理し、さらに、政府の外国人受け入れ制度にどのようなものがあるかを纏め、それらを諸外国と比較しています。「移民」の定義は外国と日本で異なり、日本における「移民」の定義というのは非常に限定的なものになっていることが分ります(安倍晋三首相も「いわゆる移民政策は取らない」と今も言い続けているが、2019(平成31)年度から在留資格「特定技能1号・2号」が新設されたことにより、これまでの政府の「移民政策は取らない」という方針は名目(言葉の定義)上のものとなり、実質的には方針転換されたことになる)。

 第3章では、コンビニ外国人を取材したもので、東大院生から日本語学校生までさまざまな人たちがいます。著者が直接インタビュー取材しているため、非常にシズル感があります。

 第4章では、技能実習生の実態を報道記事などから追っています。因みに、日本はコンビニにおける外国人労働者の雇用において、「技能実習生」は対象外で、コンビニ店員の外国人労働者は「留学生のアルバイト」で賄われている状況ですが、本書にもあるように、「日本フランチャイズチェーン協会」が、外国人技能実習制度の対象として「コンビニの運営業務」を加えるよう、国に申し入れています。しかしながら、本書刊行後の'18年11月の段階で既に技能実習対象の「職種」からコンビニ業務は漏れています(新たに設けられた「特定技能」の対象として「建設業」「外食業」「介護」など14の「業種」があるが、こちらにも入っていない)。

 第5章では、「日本語学校の闇」と題して、乱立急増している留学生を対象とした日本語学校に多く見受けられるブラックな実態を追っています。結局、コンビニなどで働くには「留学生」という資格が必要で(「留学生」という東京福祉大学 外国人.jpg資格を得た上で「資格外活動」としてコンビニで働く)、その「留学生」という資格を得るがために日本語学校に入学するという方法を採るため、そこに現地のブローカー的な組織も含めた連鎖的なビジネスが発生しているのだなあと。本書には書かれていませんが、この「鎖」の一環に日本語学校どころか大学まで実態として噛んでいたと考えられることが、今年['19年]3月にあった東京福祉大学の、「1年間で700人近い留学生が除籍や退学、所在不明となった」という報道などから明らかになっています。

TBS「JNN NEWS」(2019-03-15)

 第6章では、コンビニなどで働きながら、ジャパニーズ・ドリームを思い描いて起業に向けて頑張っている外国人の若者たちを紹介、第7章では、自治体の外国人活用に向けた取り組みや、地方で地場の産業や地域活性化を支えている外国人と住民たちの共生の工夫等を紹介しています。

 書かれていることは報道などからも少なからず知っていたものもありましたが、こうして現場のインタビューを切り口に全体を俯瞰するような纏め方をした本に触れたのは、それなりに良かった思います。

 第4章の技能実習の制度も、劣悪な労働条件や(かつては3年間最低賃金の適用はなかった)、行方不明者・不法就労などこれまで多くの問題を生み出してきたし、今回の新たに「特定技能」を設けた法改正も、違法な実態があるものの元には戻せないため、法律の方をどんどん適用拡大せざるを得なくなっているというのが実情ではないでしょうか。

 さらに、本書でも「日本語学校の闇」と題された問題は、先述の通り、専門学校だけでなく大学までがこの言わば"入学金ビジネス"に参入していて、これはこれで新たな大問題だと思います。

改正入管法 外国人労働者 image1.jpg ただし、本書を読んでも感じることですが、日本における外国人労働者は増え続けるのだろなあと。今回「特定技能」の対象となった農業・漁業、建設業、外食業などをはじめ、外国人労働力無しには既に成り立たなくなっている業界があるわけだし。中国人と日本人の所得格差が小さくなり中国から人が来なくなれば、今度はべトナムからやって来るし、ベトナム人が最初は労働者として扱ってくれない日本よりも最初から労働者として扱ってもらえる台湾に流れ始めると、今度はネパールやスリランカから来るといった感じでしょうか。この流れは当面続くと個人的には思います(まだ「アフリカ」というのが残っているし)。

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This page contains a single entry by wada published on 2019年8月25日 00:41.

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