【2819】 ○ 小谷野 敦 『文豪の女遍歴 (2017/09 幻冬舎新書) ★★★☆

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そこそこ面白く読め、作品を読む際の"参考情報"となる話もあった。

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 幕末生まれの夏目漱石、森鷗外、坪内逍遥から1930年代生まれの江藤淳、生島治郎、池田満寿夫4まで、総勢62名の作家、文学者の異性関係を検証したものです。もちろん、著者の私見・偏見も入っているとは思いますが...。

 著者は、「覗き見趣味だと言われようと、文学者の異性関係を知るのは楽しい。彼らが当時の姦通罪に怯え、世間の猛バッシングに耐えながらも不義を重ねたり、人間の痴愚や欲望丸出しで恋愛し、破滅と蘇生を繰り返し、それを作品にまで昇華させるタフさに畏怖すら覚える。小説はモデルなど詮索せず、文章だけを虚心坦懐に読めと言う人もいるけれど、そんなつまらない味わい方はしたくない」という立場のようです。

 これに対して、Amazon.comのレビューなどを見るとやっぱり予想通り、「週刊誌的な下ネタ風の覗き見趣味の本」「正しく調べられているとは信じがたい」などの批判もあって、それでいて他方で、「下世話な欲望、葛藤があってこその、人間、人生、作家だ」「下司でヨロシイ(笑)」などというのもあって、評価が二分していて、真ん中の星3つをつけているレビュアーがいませんでした。

 個人的には、今まで読んだ著者の本の中では面白い方でした。折口信夫や菊池寛が同性愛者だったとか、倉田百三が17歳少女に「聖所」の毛をひとつまみ送れと手紙に書いたとか、野間宏が担当女性編集者と強引に性交に及ぼうとして果たせなかったとか、近いところでは、安部公房が教えていた短大の学生が山口果林だったとか(「砂の女」という作品は結婚のメタファーらしい)、池田満寿夫と佐藤陽子のそれぞれの一緒になる前の夫婦関係とか、まあ、文壇ゴシップと言えばその通りですが、自分が基本的にゴシップ好きなのかも。

 芥川龍之介、永井荷風、太宰治、吉行淳之介など、作品に馴染みのある作家は、その異性経験と作品の関連が解って面白く読めましたが、その面白かった筆頭が谷崎純一郎と川端康成でした。

谷崎潤一郎.jpg 谷崎は妻の妹で14歳の少女と性交渉してしまい、これが『痴人の愛』のナオミのモデルであるとのこと。同様に『蓼喰う虫』も『細雪』も後年の『瘋癲老人日記』もどれも実体験ベースみたいです。『瘋癲老人日記』に書かれた、女の足で自分の頭を踏んでもらうという痴戯は、谷崎が60歳を過ぎて可愛がっていた女性に実際してもらっていたとのことですが、別のところで、それを見たという編集者か誰かの証言として読んだことがあります。

川端康成2.jpg 川端康成も(彼も中学時代は同性愛者だったとのこと)、『伊豆の踊子』が一高時代に伊豆へ旅した際に旅芸人一座に同行した体験がベースになっていることはよく知られていますが、『山の音』や『雪国』なども女性モデルがいたようです。本書に、浅草のカジノ・フォーリーから踊子を引き抜いたとありますが、本書には書かれいていないものの、これなどは『浅草紅団』の弓子のモデルでしょう。

 著者が言うように、小説は作者の実体験でありモデルがいると思って読むと面白く読めるという面があるように思います。それにしても、出てくる人、出てくる人の多くが不倫や二股恋愛をしていて、作家って女遍歴が派手と言うか、乱脈とも言える人が多いなあと思いました(何も無かったのは最初の夏目漱石ぐらいか)。本書がそうした作家ばかり取り上げているというのもあるかと思いますが、実体験が作品に反映されているケースも多く、当然のことながら実体験が先でしょうが、小説の素材づくりのために経験を積んでいるのかとさえ思えてしまうほどです(でも、単なる"浮気"とかではなくて"本気"になってしまったものが結構多い)。

 著者があとがきで書いていますが、今は親がいつまでも生きていて、介護が必要になったりすると、頼みの綱は妻であり、昔は姉や妹がいたが今は子供が少なく、浮気は若いころか、親きょうだいが元気でいてこその話になったと―。このあとがきにもAmazon.comのレビューで批判がありましたが(確かにジェンダー差別と捉えられかねない)、昔の方が道徳的制約は強かったと思われる反面、意外と昔の方が、例えば金持ちが妾を囲うようなことも普通にあっただろうし、簡単に浮気できたという面もあったのかもしれないと思ったりもしました。

 大勢取り上げている分、一人一人の掘り下げが浅い感じもするし、事実がそのまま作品になったとしたのでは作品が徒に陳腐化することになるし、いろいろ突っ込みどころは多いかと思います。ただ、作品を読む際の"参考情報"としては知っておいてもいい話もあったかなと。それ以前に、読み物としてそこそこ面白く読めてしまいましたが(ゴシップ好きなので)。



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和田泰明

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