2019年3月 Archives

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知的冒険をさせてもらったが、途中から著者の牽強付会について行けなくなった。

三島由紀夫 ふたつの謎 (集英社新書).jpg三島由紀夫と天皇 (平凡社新書).jpg  「三島由紀夫」とはなにものだったのか 2.jpg「三島由紀夫」とはなにものだったのか2.jpg  三島由紀夫 幻の遺作を読む.jpg
三島由紀夫 ふたつの謎 (集英社新書)』['18年]/菅孝行『三島由紀夫と天皇 (平凡社新書)』['18年]/橋本治『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』['02年/新潮社]『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』/井上隆史『三島由紀夫 幻の遺作を読む~もう一つの『豊饒の海』~ (光文社新書)』['10年]

IMG0豊饒の海2.jpgIMG_天人五衰.jpg 昨年['18年]11月に、本書と菅孝行著『三島由紀夫と天皇』(平凡社新書)という三島由紀夫をめぐる新書がほぼ同時に出て、これも「平成」を総括するムーブメントの一環なのでしょうか。とりあえず本書の方を読んでみました。本書の目的は、三島由紀夫をめぐる二つの謎を解くことであるとのことです。その二つの謎とは、一つは、三島由紀夫はなぜ、割腹自殺に至るクーデターのようなことを引き起こしたのかということであり、もう一つは、『豊饒の海』はどうして、あのような破壊的な結末に至ったのかということです。

 三島由紀夫が昭和45年12月25日に自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げたことについては、これまでも多くの人がその行動の解釈というか、本書の著者同様に謎解きを試みていますが、何か決定的な答えのようなものは出ておらず、個人的には、本書によってもそれが解き明かされたという実感はありませんでした(最初からあまり期待してなかった)。

春の雪 新潮文庫  .jpg 一方の、『豊饒の海』の結末の謎とは、『豊饒の海』第4部「天人五衰」の終盤で、転生の物語の四番目の主人公である安永が実は転生者ではなかったことに加え、何よりもラストで、本多繁邦が今は寺の門跡となった綾倉聡子を訪ねたところ「松枝清顕なる人は知らない」と彼女が言ったことを指すわけですが、確かに、『豊饒の海』第1部「春の雪」で松枝清顕と熱愛を交わしたはずの聡子にそう言われてしまうと、これまでのストーリーはすべて本多の見た幻に過ぎず、まったく無意味だったのかということになり、三島はなぜそうした破壊的な結末を物語の最後にもってきたのか、その不思議を指しています。

 この謎を解くために、著者は、『豊饒の海』だけでなく「仮面の告白」や「金閣寺」など三島の主要作品についても分析をしており、この辺りは興味深く読めました。特に、「仮面の告白」「金閣寺」の代表作2作について、『豊饒の海』の中のとりわけ「春の雪」と重なる部分、違っている部分が明確に意識され、それは自分が個人的に以前から抱いていた感触に近いものでもありましたが、久しぶりに三島作品の巡って知的冒険をさせてもらったたという感じです。

 しかし、著者は、昭和45年12月25日という日が三島由紀夫が自決した日であると同時に『豊饒の海』第4部「天人五衰」の脱稿日とされていることから、この二つの謎を結びつけないと気が済まないようで、途中からかなり牽強付会の気がある分析になっていったような気がします。最後、松枝清顕と天皇が同一視され、綾子が否定した松枝清顕(=天皇)の存在を肯定するために割腹自殺したような論理の流れになっていて、そこまでいく著者の論理過程は半ば理解不能だったというのが正直なところでした(この著者の他の著作を読んでいても同様の事態に陥ることがある。自分の読解力不足のせいもあると思うが)。

 著者が論じていることには論拠のあるものもあれば具体的な論拠のないものもあり、その辺りは著者自身も認識しており、これは論評というより、一つの作品のような本であると思いました。

 論拠が無いということで言えば、例えば、著者は、『豊饒の海』第4部「天人五衰」の結末を、三島がかなり最後の方で思いついたように解釈していますが、、三島がそんな無計画性のもとに作品を書くことはなく、「天人五衰」の結末の謎は、第1部「春の雪」の中にその答えが既に示されているとする文芸評論家もいたように思います。

 更に言えば、物語を繋いできたはずの輪廻転生が本当に無かったと言えるのか、もしかしたら安永だけが20歳での死に失敗しただけかもしれないし、聡子が松枝清顕のことを覚えていないというのも、覚えていないふりをしているともとれなくもないわけであって、こういうのを拾っていくと最初から"不可知論"を指向しているようで何も見い出せなくなってしまうのですが、著者があまりに牽強付会気味に理論展開しているように思え、ついついそうした疑問を抱くと言うか、逆の発想をしてみたくなるような本でした。

「三島由紀夫」とはなにものだったのか.jpg 個人的には、今年['19年]1月に亡くなった橋本治氏の第1回「小林秀雄賞」受賞作『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』('02年/新潮社、'05年/新潮文庫)の方が自分との"相性"が良かったという感じですが、橋本治氏のものは三島の「文学」に対する評論であり、彼の思想やそれに基づく行動については触れていないため、本書とは比較ができないかもしれません(三島自身が生前、自らの文学と思想を別物であるとしていたことを思うと、これはこれでいいのではないかと思うが)。

三島由紀夫 幻の遺作を読む.jpg 比べるとすれば、井上隆史著『三島由紀夫 幻の遺作を読む―もう一つの「豊饒の海」』('10年/光文社新書)あたりになるのかもしれません。そちらは、三島の「創作ノート」と『豊饒の海』の重要テーマである仏教の唯識思想に基づいて、三島が当初検討していた幻の第四巻の作品世界を仮構し(つまりあるべき姿の『豊饒の海』というものがあって、それを三島が自ら破壊したのはなぜか、という切り口になっている)、そこから三島の死の意味を探ったものです(本書も『豊饒の海』だけでなく、『仮面の告白』『金閣寺』『鏡子の家』などにも注目している。ただ、これも、仏教思想に寄り過ぎていて、個人的にはピンとこなかったのだが)。

 それにしても、三島由紀夫を論じるとき、その論者たちは皆ものすごく「自分寄り」になる傾向があるように思いました(アニメやオタク文化について論じる人にも似た傾向があるけれど)。そう考えると、橋本治氏の、その方法論は独自というかクセがありますが、三島は読者の思念への「転生」を図ったという論自体は納得性が高かったように思います(比較ができないかもしれないとしながら、結局は比較してしまったが)。

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裁判官の仕事やその舞台裏を分かり易く綴りながら、重いテーマにも触れている好エッセイ。

裁判の非情と人情_1.png裁判の非情と人情.jpg 授賞式での原田國男氏.jpg
裁判の非情と人情 (岩波新書)』['17年]第65回「日本エッセイスト・クラブ賞」贈呈式での原田國男氏(2017.6.26)[岩波新書編集部の公式witterより]

 2017(平成29)年・第65回「日本エッセイスト・クラブ賞」受賞作。

 元東京高裁判事が、裁判員制度、冤罪、死刑などをめぐり、裁判官の知られざる仕事と胸のうちを綴ったもので、岩波書店の月刊誌「世界」の2013年10月号から2017年の1月号まで連載された「裁判官の余白録」をまとめたものです。裁判官の仕事や裁判の舞台裏を、分かり易く時にユーモアも交えて綴っている好エッセイで、文章も名文ですが、中身も硬軟ほどよく採り入れて(仕事では固い文章ばかり書いてきたはずだが)、楽しく読めるとともに、考えさせられるものでした。

 そして何よりも著者の人間性が伝わってきます。今は退官して弁護士になっているとは言え、裁判官って(特に高等審の刑事裁判官って)、そうした個性のようなものをあまり表に出さないイメージがあったため、意外でした。それにしても、著者は、藤沢周平の全集を何度も読み返しているとのことで、読書家だなあと(やはり読書家であることは名文家であることの必要条件か)。裁判官が書いた本などの紹介もありました(裁判官の中にもスゴイ"趣味人"がいたりするのだなあ)。

フライド・グリーン・トマト vhs 2.jpg 映画の話も結構出てきました。「フライド・グリーン・トマト」('91年/米)で白人の差別主義者が殺害された時に現場にいた牧師が、公判で真犯人を庇って偽証する前、証言台に立って宣誓した時、手元に置いてあったのは聖書ではなく、『白鯨』だったのかあ。個人的にはそんな細部のことは忘れてしまったけれど、やはりプロにとっては印象に残ったのだろうなあ。

 中盤以降になればなるほど次第に重いテーマが多くなり、死刑執行起案の経験談もあって、自分が関わった死刑囚の死刑が執行されたことを報道で知った時の気持ちなども書かれています(著者は、死刑は、心情的には殺人(殺害行為)である思うと述べている)。

 また、一般の人と裁判官の考え方の違いについても指摘しています。例えば、裁判官は白か黒かの判断を求められている思われがちであるが、「灰色か黒か」の判断が求められているというのが正しいようです。無罪になった人からすれば、裁判官が完全無罪(無実)を認定してくれないことに不満を持つかもしれないが、それは裁判官の仕事ではないとのことです。

 その流れで、裁判員制度における裁判員の考え方の傾向と現実との開きについても指摘しています。刑事裁判一筋でやってきた著者は、有罪率99%といわれる日本の刑事裁判で、20件以上の無罪判決を言い渡した稀有な裁判官ですが、もし裁判員が、真っ白でなければ有罪だと思っているのなら、無罪はほとんど無くなってしまうと言っています。裁判官自身、無罪判決のすべてを100%無罪だと思って判決を出しているわけではなく、「灰色」は無罪になるということなのでしょう。

 また、量刑相場がどのように形成されるか、裁判員制度の導入で、それまで外部から見てブラックボックスだった量刑問題について、裁判員に対する説明責任が生じていること、実際、裁判員が下した判断が控訴審で量刑相場の観点から変更される事案が起きていることから、その問題の難しさを指摘しています。

 この他にも、冤罪はどう予防すれば良いのか、日米で裁判官と社会の距離はどう違うか、裁判官の良心とは何か、裁判所に対する世の中の批判が喧しい中、裁判所に希望はあるか、といった深いテーマに触れています。

 ラストにいくほどテーマが重くなりますが、あとがきの最後に、「個人的には『寅さんを何度でも観返している裁判官がいる限り、この国の法曹界を信じたい』と思っている」と書いていて、ちょっとほっとさせられました。

《読書MEMO》
●毎日新聞読書欄の「この3冊」で著者が"裁き"と文学をテーマに挙げた藤沢周平の3冊...『海鳴り』『玄鳥』『蝉しぐれ』(17p)
●黒木亮『法服の王国』(岩波現代文庫)⇒かなりのフィクションも含まれるが、最高裁判所を中心とした戦後の司法の大きな流れ(それも暗部)はほぼ正確に摑んでいる。(46p)
●小坂井敏晶『人が人を裁くということ』(岩波新書)―事実認定の難しさ(103p)
●裁判官が書いた本―最近では、大竹たかし『裁判官の書架』(白水社)がいい
毎日新聞読書欄「この3冊」
・鬼塚賢太郎『偽囚記』(1979年/矯正協会)
・岡村治信『青春の柩―生と死の航跡』(1979年/光人社)
・ゆたか はじめ『汽車ポッポ判事の鉄道と戦争』(2015年/弦書房)

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「過去130年間の論壇を振り返る」には紙数足らずで、読書案内としてはやや中途半端か。

読む力 - 0_.jpg読む力.jpg
読む力 - 現代の羅針盤となる150冊 (中公新書ラクレ)』['18年]
二十一世紀精神―聖自然への道 (1975年)』['75年]
松岡 正剛 二十一世紀精神.jpg 編集工学研究所の松岡正剛氏と、月300冊は本を読むという元外交官で作家の佐藤優氏が、雑誌「中央公論」創刊130年記念で、過去130年間の論壇を振り返って語った誌上対談シリーズを新書化したものです。個人的な注目は松岡正剛氏で、かなり以前に津島秀彦氏との対談集『二十一世紀精神―聖自然への道』('75年/工作舎)を読んでスゴイ思考力の人がいるものだなあと思ったものですが、当時はそれほど知られていなかったのが、今や「松岡正剛 千夜一夜」で、読書子の間ではすっかり有名になりました(個人的には今でもスゴイ人だなあと思っている)。

 第1章では、二人が子供のころに読んだ本を語り合っていて、両者の対談は"初"だそうですが、「実は、高校は文芸部でした」という佐藤氏の打ち明け話にはじまり、意外とオーソドックスだと思いました。それが、第2章から「20世紀の論壇」がテーマになっていて、ああ、そう言えば、「過去130年間の論壇を振り返る」のが企画の趣旨だったなあと。以下、第3章から第5章まで、章末に、対談の中で出てきた主要な本のリストがあり、一部書影もあって見やすく親切であると思いました。

禅と日本文化1.bmp阿部一族 岩波文庫.jpg 第3章では、日本国内の130年間の思想を(この「130年」というのは要するに「文藝春秋」の創刊からの年数であるのだが)、ナショナリズム、アナーキズム、神道、仏教...と振り返り、章末に「国内を見渡す48冊」として、それまでの対談の中で取り上げた、鈴木大拙の『禅と日本文化』や森鷗外の『阿部一族』などが挙げられています。

ブリキの太鼓 ポスター.jpg存在の耐えられない軽さ.jpg 第4章では、主に欧米の思想について、民族と国家、資本主義などに関して検証的に振り返り、章末に「海外を見渡す52冊」として、ニーチェの『道徳の系譜』やテンニエスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』、サルトルの『存在と無』やヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』やミラン・クンデラの『存在の堪えられない軽さ』などが挙げられています。

ロウソクの科学改訂版.jpgバカの壁1.jpg 第5章では、ちょっと切り口を変えて「通俗本」を取り上げています。ここで言う「通俗本」とは、難解な学問や他者の業績を「通俗化」しようとする試みのもと書かれた本のことで、それは学問や思想を普及させ、人々の理解を促すものであるとして、二人とも礼賛しています。章末に「通俗本50冊」として、マイケル・ファラデーの『ロウソクの科学』や養老孟司氏の『バカの壁』などが挙げられています。

 意外とオーソドックスな中、第5章の「通俗本」という考え方が、個人的には目新しかったでしょうか。ただ、「通俗本50冊」のラインアップの中に、手塚治虫の『火の鳥』や白土三平の『カムイ外伝』と並んで弘兼憲史氏の『社長島耕作』などが入っていたりするのが意外でした。『社長島耕作』は、佐藤優氏が"一生懸命読んでいる"ところだとのことで、それに対して松岡正剛氏は「えっ、島耕作を? 何のために読んでいるのですか?」と聞き返しています。それに対して佐藤氏は、「つまるところ、世の中たった一人しか幸せじゅない」という世界を、主人公の早稲田大学入学から会長になるまでトレースしているとし、松岡氏は「ふうん、そういうことか」と。但し、あまり納得していない様子でした。ともに「通俗本50冊」の価値を認めながらも、どのような本がそれに該当するかは意見が違ってくる部分もあるのは当然かと思います。

 そもそも、この紙数で「過去130年間の論壇を振り返る」のにやや無理があったかもしれません(だから「読む力」というタイトルになった?)。対談内容が、(自分の読んでいる本が少なすぎて)自分の理解が及ばないというのもあることにはありますが、全体に少しもやっとした印象のものになってしまったように思いました。

 読書案内としても、二人ともスゴイ読書家であることは読む前から分かっているわけですが、やや中途半端な印象でしょうか。松岡正剛氏のまえがきによれば、編集部から事前に「150冊選んでください」と言われたそうですが、この二人、他にもいっぱい"読書案内"的な本を出しているので、本書はそれぞれのそうした"読書案内"本の<体系>の一部にすぎず、そちらの方も併せて読みましょうということなのかもしれません。

《読書MEMO》
●佐藤 優 2020年「菊池寛賞」受賞(作品ではなく人に与えられる賞)
受賞理由:『国家の罠』で2005年にデビュー以来、神学に裏打ちされた深い知性をもって、専門の外交問題のみならず、政治・文学・歴史・神学の幅広い分野で執筆活動を展開。教養とインテリジェンスの重要性を定着させる

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「カッパ・ブックス」の出版界の席捲ぶりがスゴかった60年代。岩田一男、多湖輝、佐賀潜...。

カッパ・ブックスの時代.jpgカッパ・ブックスの時代2.jpg
カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)』['13年]

カッパ・ブックスの時代』6.JPG 「カッパ・ブックス」の1954年の創刊から2005年の終刊までの軌跡を、光文社の歴史をひも解きながら明らかにした本です。著者は、元光文社の社員であり「カッパ・ブックス」の編集にも携わった人で、現在はフリーライターです。読んでみて、まさに「カッパ・ブックスの時代」と呼べるものがあったのだなあと改めて思いました。特に、1950年代後半から1960年代後半にかけてのカッパ・ブックスの出版界の席捲ぶりがスゴイです。
    
英語に強くなる本.jpg砂の器 カッパ2.jpg '61(昭和36)年には、日本の刊行物の売り上げベスト10の中で、第1位の岩田一男の『英語に強くなる本』(売上部数147万部、以下同)をはじめ5冊が「カッパ・ブックス」としてランクインし、ベスト10の内8冊を光文社の刊行物が占めています。光文社刊の残り3冊は、'59年創刊の「カッパ・ノベルズ」のラインアップである、松本清張の『砂の器』(144万部)、同じく松本清張の『影の地帯』、水上勉の『虚名の鎖』ですが、この松本清張という作家も、その力量に着眼した編集者が光文社にいたとのことで、カッパ・ノベルズと一緒に育った作家だったのだなあと改めて感じ入った次第です(松本清張は'58年の『点と線』(104万部)、'59年の『ゼロの焦点』(107万部)もミリオンセラー。『点と線』刊行時はカッパ・ブックスが創刊前だったので、先に単行本刊行された『点と線』が『ゼロの焦点』の後からカッパ・ブックスに収められた)。

頭の体操第1集.jpg頭の体操4.bmp あと、やっぱり改めてスゴかったと思ったのが、多湖輝の『頭の体操』シリーズで、'67(昭和42)年の売り上げベスト10の中で、第1集(265万部)が第1位、第2集(176万部)が第3位、第3集(123万部)が第6位、翌'68(昭和43)年には第4集(105万部)が第5位と、第4集までミリオンセラーとなっています。その後、第5集の刊行の間に約10年もの間隔がありますが、本書によれば、第4集の段階で著者にドクターストップがかかったとのことです。まあ、第4集までで十分に売り尽くしたという印象はありますが、ドクターストップがかからなければ、すぐに第5集が出てもっと売れていた? この年は、岩田一夫の『英単語記憶術』と野末陳平の『姓名判断』もランクインしており、この年もカッパ・ブックスだけで5冊がベスト10入りでした。

民法入門.jpg佐賀潜.jpg 翌'68(昭和43)年の売り上げベスト10には、『頭の体操 第4集』も含め、カッパ・ブックスまたもや5冊がランクインしていて(第10位のカッパ・ノベルズの松本清張『Dの複合』を含めると6冊)、その内4冊が検察官出身の推理作家・佐賀潜の『民法入門』(119万部)をはじめとする法律シリーズであり、一人の著者で売り上げベスト10の4つを占めたというのもスゴイことです。

 売り上げ部数だけで言うと、これらの後も'70(昭和45)年の塩月弥栄子の『冠婚葬祭』(308万部)や'73年の小松左京の『日本沈没』(上204万部、下180万部)などまだまだスゴイのがありますが、「カッパ・ブックスの時代」と言うとイメージ的には60年代であり、個人的はやはり岩田一男、多湖輝、佐賀潜あたりが印象深いでしょうか(松本清張はやはり"カッパ・ノベルズ"というイメージ)。

 こうしたベストセラーを次々と世に送り出した背景に、神吉晴夫、長瀬博昭といった時代を読むに長けた名物編集者ら(本書の言葉を借りれば編集者と言うよりプロデューサー、プロデューサーと言うよりイノベーター)の才覚とリーダーシップがあり、多くの編集部員の創意工夫と試行錯誤、奮闘努力と不屈の精神があったことが本書からよく窺えましたが、そうした"プロジェクトX" 的な成功譚ばかりでなく、70年代に入ってから激化した(世間的にも注目を浴びた)労働争議で、会社そのものが分裂状態になってしまった経緯なども書かれています。

 この労働争議で多くの社員が辞め、その中には優秀な人材も多く含まれていて、それが祥伝社やごま書房(現在のごま書房新社)、KKベストセラーズといった新たな出版社の旗揚げに繋がっていったとのことです(KKベストセラーズは「ワニ・ブックス」の出版社。どこもカッパ・ブックスと同じように「新書」を出しているなあ)。一方、争議が収まった頃には新書ブームも沈静化し、会社は新たな局面を迎えることになり、カッパ・ブックスは新創刊された光文社新書と入れ替わる形で、51年の歴史に幕を下ろす―といった具合に、一レーベルの歴史を描くとともに、一企業の栄枯盛衰を描いたビジネス・ドキュメントとしても読める本になっています。

岩田 一男 『英単語記憶術5.JPG 力作だと思われ、こうした記録を残しておくことは、出版文化の将来に向けても大事なことなのではないかと思います。とは言え、個人的にはやはり、前半の"成功譚"的な部分が面白かったでしょうか。改めて、当時のカッパ・ブックスの出版界における席捲ぶりのスゴさが甦ってきました。

【読書MEMO】
●1961年(昭和36年)ベストセラー
1.英語に強くなる本』岩田一男(●光文社カッパ・ブックス)
2.記憶術』南 博(●光文社カッパ・ブックス)
3.『性生活の知恵』謝 国権(池田書店)
4.頭のよくなる本』林 髞(●光文社カッパ・ブックス)
5.『砂の器』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)
6.『影の地帯』松本清張(●光文社カッパ・ノベルズ)
7.『何でも見てやろう』小田 実(河出書房新社)
8.日本経済入門』長洲一二(●光文社カッパ・ブックス)
9.日本の会社』坂本藤良(●光文社カッパ・ブックス)
10.『虚名の鎖』水上 勉(■光文社カッパ・ノベルズ)

●1967年(昭和42年)ベストセラー
1.頭の体操(1)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
2.『人間革命(3)』池田大作(聖教新聞社)
3.頭の体操(2)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
4.『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮社)
5.英単語記憶術』岩田一夫(●光文社カッパ・ブックス)
6.頭の体操(3)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
7.姓名判断』野末陳平(●光文社カッパ・ブックス)
8.『捨てて勝つ』御木徳近(大泉書店)
9.『徳川の夫人たち』吉屋信子(朝日新聞社)
10.『道をひらく』松下幸之助(実業之日本社)

●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
3.刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.頭の体操(4)』多湖 輝(●光文社カッパ・ブックス)
6.『どくとるマンボウ青春記』北 杜夫(中央公論社)
7.商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9.道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(●光文社カッパ・ブックス)
10.『Dの複合』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)

頭の体操 〈第1―4集〉.JPG  民法・商法入門・56.JPG

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ビジュアルがキレイ。図形問題中心の正統派パズル書。

パズル 線の迷宮 .jpgパズル 四角の迷宮 .jpg パズル 丸の迷宮.jpg  1000 Play Thinks.jpg
線の迷宮 ―スーパーヴィジュアルパズル (カッパ・ブックス)』『四角の迷宮 ―スーパーヴィジュアルパズル (カッパ・ブックス)』『丸の迷宮 ―スーパーヴィジュアルパズル (カッパ・ブックス)』"1000 Play Thinks"(2001)
Ivan Moscovich
Ivan Moscovich.jpg線の迷宮_3436.JPG 全ページカラーのパズル集で、巨匠パズル作家イワン・モスコビッチ(この人、旧ユーゴスラビア生まれでもともとは機械技師だった)の「1000Play Thinks」(Ivan Moscovich、2001)から図形問題を厳選して再構成したものであるとのこと。但し、一部、論理パズルや代数問題も含まれていたでしょうか。

 「スーパーヴィジュアルパズル」と銘打つように、ビジュアルがキレイで、これが問題を解いてみたくなる動機づけにもなっているような印象です。しかしながら、各問題のレベルは結構高かったのではないでしょうか。「正統派パズル書」と言える内容です。

葉山 考太郎 .jpg 編訳者はパズル作家の葉山考太郎氏で、ワインライターとしても知られており、ワイン専門誌をはじめ、一般情報誌のワイン特集などでも執筆を担当、『30分で一生使えるワイン術』('09年/ポプラ社)、『これだけは知っておきたい 必要最小限のワイン入門』('18年/スマート新書)などのワイン入門書も書いている人です。

 この葉山考太郎氏は同時にパズル作家でもあるわけで、世界各国のパズル・クイズ文献の収集家でもあります。また、本名でソフトウェア開発に関する翻訳本も手掛けているソフトウエア・エンジニアでもあるとのことで、なんだか色んな才能に恵まれている人だなあと。パズルの方は、1996年より『頭の体操』などにクイズ問題を出すなどしているそうです。

葉山考太郎氏

 この「スーパーヴィジュアルパズル」は、他に『四角の迷宮』、『丸の迷宮』(ともに2003年/カッパ・ブックス)というのも本書に先立って同じ年に刊行されていて(こちらも編者は葉山考太郎氏。氏はもともと図形、水平思考系のパズルを好むそうだ)、そちらの方も楽しそうです。

 夜寝る前に、寝つけに1問解いてみるのもいいと思います。却って寝られなくなるという心配は、自分については無いと思います(そこまで集中力が持たない?)。

Ivan  Moscovich.jpgイワン・モスコビッチ(右) ユーゴスラビア王国出身の機械技師、玩具・パズルデザイナー、ホロコースト生存者。2023年4月21日死去、96歳。
 

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単なる鉄オタの趣味の域を超え、日本の文化・風俗への愛着の想いが伝わってくる。

秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本.jpg秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京 日本64.jpg   ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ2.jpg   続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本.jpg
秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)』['18年] J.Wally.Higgins氏 続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)』['19年]
2019.2.21朝日新聞(夕刊)
秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本3図1.jpg 昭和30年代にアメリカ軍の軍属として来日し、更に国鉄の顧問に就任して、趣味の鉄道写真を撮り続けたジェイ・ウォーリー・ヒギンズ氏(1927年生まれ、本書刊行時点で91歳)による、当時の写真を集めた写真集。プロの写真家ではないのに、これだけ東京および全国各地の鉄道写真を撮りためていたというのはスゴイなあと思いました。

 タイトル通り、大きく分けて東京編とローカル編といった感じの分け方になっていて、東京・ローカルとも、とりわけ路面電車に重点が置かれていますが、それら路面電車は今日、車両はもちろん、路線そのものが殆どすべて無くなっているので、大変貴重な写真の数々と言えます。

秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京 日本621.jpg 東京で路面電車となると、やはり都電がメインになります。今は都電荒川線しかないけれど(「東京さくらトラム」という愛称のようだ)、昭和30年代には都内のあちこちに都電が見られたことが分かります。ローカル編では、個人的には昭和39年に福井市に居たため、その頃街中を走っていた路面電車の写真が懐かしかったです。

福井駅前(1964年)

 また、路面電車というのは街中を走るため、車両だけではなく、当時の町や人々の様子、文化や風俗まで一緒に映し込んでいて、その点でも非常に興味深く味わえる写真が多かったです。電車を撮らずに、都会や地方の人々の暮らしぶりだけを撮った写真も多くあり、自らを「乗り鉄で撮り鉄」と"鉄オタ"風に称しているものの、単なる趣味の域を超えて、日本の文化・風俗への愛着と(因みに奥さんは日本人)、これを海外に伝えたいというその想いが伝わってきます。

 さらに、昭和30年代に一般の日本人が撮る写真といえば殆どモノクロであったわけで、それがカラーで残っているというのも貴重です。しかも、米軍に属していた関係で、当時としては日本のフィルムメーカーのものより色が劣化しにくかったコダックのカラーフィルムを使えたというのも大きいし(結局、60年の年月を経ても混色することが無かった)、スライド形式で、NPO法人名古屋レール・アーカイブスによって大量6000枚保管されていたというのも驚きです。

昭和30年代乗物のある風景 西日本編.jpg発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 路面電車編.jpg 本書の写真はその中から400枚近くを抜粋したものですが、もっと見たければ、JTBパブリッシングから「発掘カラー写真」シリーズとして『昭和30年代鉄道原風景(路面電車編・東日本私鉄編・西日本私鉄編・国鉄編)』、『昭和30年代乗物のある風景(東日本編・西日本編)』、『昭和40年代鉄道風景(東日本編・西日本編)』などの大判写真集が刊行されています。
発掘カラー写真 昭和30年代鉄道原風景 路面電車編 (単行本)

 個人の地道な継続と、いくつかの幸運の積み重ねで、こうした写真集が出来上がったと思われ、鉄道ファンの間では神様のような人だというのがわかる気がするし、鉄道ファンだけでなく広く人々の目に触れるよう新書化した企画意図も、編集にあたったスタッフの努力も評価したい一冊です。
発掘カラー写真 昭和30年代乗物のある風景 西日本編

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幸村関連の20の「謎」を解き明かす。読みやすい。内容は意外とオーソドックスか。

真田幸村「英雄伝説のウソと真実」 .jpg真田幸村「英雄伝説のウソと真実」L.jpg 真田丸 犬伏の別れ.jpg
真田幸村「英雄伝説のウソと真実」 (双葉新書)』2016年NHK大河ドラマ「真田丸」第35回「犬伏」大泉洋(真田信幸)/堺雅人(真田信繁)/草刈正雄(真田昌幸)

 これも、先に取り上げた『真田四代と信繁』('05年/平凡社新書)同様、2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」による真田幸村ブームに合わせて刊行された本です。著者(歴史家、フリーの著述業)によれば、真田幸村は日本人に最も愛されている戦国武将であるとともに、通説と実像のギャップが大きいもの特徴であるとのことで、そうした幸村の不正確さについて、「彼について記した一級史料が絶対的に不足している」ことを理由にあげています。

 本書は、幸村や幸村に関連する内容―例えば、その父・真田昌幸、更に真田家そのものの事績―を含めて、まず20の謎を抽出し、それぞれの項目の謎を解き明かしつつ、新しい解釈を示すよう努めたものであるとのことです。従って、それぞれの項目(謎其の一~謎其の二十)は個々に完結したストーリーになっているためどこからでも読めますが、本書全体で真田幸村の一代記となるよう、それを時系列で並べ、時間的な流れで追えるようにもなっているとのことです。

 類書は真田家3代乃至4代にわたって解説されているものが結構多いようですが、本書も真田幸村に関する項目以外に、純粋に父・真田昌幸に関する項目が7項目ばかりあり、大河ドラマも9月頃まで信繁(幸村)よりむしろ昌幸中心にやっていましたから、やはり父・昌幸の存在は大きいなあという気がします。

上田城.jpg 「第1次上田合戦」や「第2次上田合戦」、「犬伏の別れ」、「大阪夏の陣」「大阪冬の陣」など重点項目を集中的に解説しているのが本書のメリットで(事前に全体の流れの方は大まかなところ知っておいた方がよいということにもなるが)、ただ、20の謎と言っても、それほど新鮮と言うか、突飛なものは無かったようにも思います。

徳川軍を2度にわたって撃退した上田城

 「犬伏の別れ」などについても詳しくは書かれていますが、他書にもある記述が大半を占めます。研究され尽くしているのでしょうか。大河ドラマなどは、原作無しの三谷幸喜氏の脚本(実質、三谷幸喜氏が原作者)ということもあってか、むしろ結構大胆な解釈を採り入れていたような...(三谷氏は新聞の連載コラムで、時代考証者と相談して、'可能性のあるもの'を採用しているといった趣旨のことを書いていたように思うが、'可能性のある'という言葉が微妙)。

 ただ、本書は読み物としても読み易く、新書で250ページ超ですが、楽しく最後まで読めました。「謎」の深さはともかく、「謎」を解き明かすというスタイルで、一応読者を引っ張っていき、無理やり奇抜なところに落とし込むのではなく、オーソドックスに纏めているという感じでしょうか。「幸村」中・上級者には全く物足りないと思いますが、自分のような初心者には有難い本です。

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真田氏に関して最初に読む本としてお薦めの新書。

真田四代と信繁.jpg  図説 真田一族.jpg  真田丸s.jpg 真田丸 00.jpg
真田四代と信繁 (平凡社新書)』 『図説 真田一族』 2016年NHK大河ドラマ「真田丸」 草刈正雄(真田昌幸)

 2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」の時代考証者による著書で、信濃国小県郡真田郷を本拠とし、武田、上杉、北条、織田、徳川など並みいる大大名らに囲まれつつも、幾多の難局を乗り切り、ついには近世大名として家を守りとおした真田氏の歩みを、新説を交えながら系譜や図を織り交ぜて分かりやすく説明しています。

 著者の前著『図説 真田一族』('15年/戎光祥出版)も幸綱・信綱・昌幸・信繁・信之と続く真田四代を追って、分かり易く解説されていて、その際の章立ては次の通りでしたが―
  第一章 「中興の祖」  真田幸綱(幸隆)
  第二章 「不顧死傷馳馬」真田信綱
  第三章 「表裏比興者」 真田昌幸
  第四章 「日本一の兵」 真田信繁(幸村)
  第五章 「天下の飾り」 真田信之
今回は、
  一章  真田幸綱 真田家を再興させた智将
  二章  真田信綱 長篠の戦いに散った悲劇の将
  三章  真田昌幸 柔軟な発想と決断力で生きのびた「表裏比興者」
  四章  真田信繁 戦国史上最高の伝説となった「日本一の兵」
  五章  真田信之 松代一〇万石の礎を固めた藩祖
と、ほぼ同じ構成です。但し、前著はビジュアル主体で、その分、イメージはしやすいけれど、解説の方が限定的(トピックス的)であったのに対し、今回は、新書で300ページ超あり、様々な出来事を時系列的・網羅的にカバーしていて、繋がりの中で読み進めるのがいいです(因みに本書では、幸村の呼称を、俗称であるある「幸村」でがなく、本名の「信繁」で通している)。

真田丸 昌幸.jpg 章のウェイトとしては、一章の幸綱に46ページ、二章の信綱に16ぺージ、三勝の昌幸に122ぺージ、四章の信繁(幸村)に60ページ、五章の信之に22ページという配分になっていて、昌幸に信繁の倍以上の紙数を割いていることになりますが、2016年のNHK大河ドラマの方でも、1月から始まって9月25日の放送回で昌幸が没するまで、殆ど、かつてNHKの新大型時代劇「真田太平記」('85.04~'86.03)で真田幸村(信繁)を演じた草刈正雄が演じるところの昌幸が中心に描かれていたことと呼応し合っていうようにも思われます(当時、9月25日の放送回終了直後は「昌幸ロス」とまで言われた)。

 大河ドラマの時代考証者なので、大河ドラマの方も本書で書かれているのと全く同じ解釈で進行したかのように思われますが、そうした部分もあればそうでない部分もあり、また幾つかの説があった中から(ドラマであるため)そのどれかに特定しているケースなどもあって、大河ドラマを観た人は、それを思い出しながら読んで見るのもいいかと思います。別に大河ドラマを観た、観ないに関わらず、真田氏に関して最初に読む本としてお薦めです。

真田丸大河ドラマ館6.jpg 2016年に信州・上田市に旅行に行き真田の郷なども巡ってきましたが、「信州上田・真田丸大河ドラマ館」が一番混んでいました。上田城跡公園内の上田市民会館を模様替えして1年間の期間限定で「大河ドラマ館」にしてしまったようだけれど。以前からある「真田氏歴史館」にも大河ドラマで使われた衣装などがあったりし真田氏本城跡s.jpgて、しっかりNHKとタイアップしていました。むしろ、真田氏本城跡(城跡も何も残ってないが真田の郷が一望できる)や真田氏館跡・御屋敷公園などの方が、落ち着いた雰囲気で、戦国武将になった気分、乃至は「強者どもが夢のあと」的な感慨を味わえたような気もします。


真田丸 title.jpg真田丸  dvd.jpg「真田丸」●演出:木村隆文/吉川邦夫/田中正/小林大児/土井祥平/渡辺哲也●制作:屋敷陽太郎/吉川邦夫●脚本:三谷幸喜●音楽:服部隆之●出演:堺雅人/大泉洋/草刈正雄/長澤まさみ/木村佳乃/平岳大/中原丈雄/藤井隆/迫田孝也/高木渉/高嶋政伸/遠藤憲一/榎木孝明/温水洋一/吉田鋼太郎/草笛光子/高畑淳子/内野聖陽/黒木華/藤本隆宏/斉藤由貴/寺島進/西村雅彦/段田安則/藤岡弘、/近藤正臣/小日向文世/鈴木京香/竹内結子/哀川翔●放映:2016/01~12(全50回)●放送局:NHK

竹内結子(1980-2020) 茶々(後の淀君) 役
竹内結子 真田丸.jpg

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