【2795】 △ 鈴木 貴博 『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』 (2018/06 PHPビジネス新書) ★★★

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AIを巡って今起きていることを知るにはいい。将来の予測は難しい?

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「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること (PHPビジネス新書)』['18年]
「月刊 人事マネジメント」2018年5月号
月刊 人事マネジメント  2018年5号.JPG 人事マネジメント系の雑誌でも、「AI人材の育て方」といった特集が組まれたりする昨今ですが、本書は、「AIが引き起こす労働環境の大変化はすでに始まっている。特にホワイトカラーは今後5年で残酷な変化に襲われることになる」と言います。前半部分で、現在の労働市場にAI(人工知能)が起こしている諸問題の構造を解明し、後半部分では、この後、どのようなことが我々の社会に起きるのかを論じています。後半部分は、著者の前著『仕事消滅―AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』('17年/講談社+α新書)で現在から2045年の未来までカバーしたテーマの改訂版で、今回は20年先ではなく、5年から10年先の未来に絞って予測したものであるとのことです。

 AIの普及による「仕事の消滅」の問題についても最近ビジネス誌などでもよく特集されるようになってきましたが、こちらの方はいずれも数ページばかりで、内容も"八卦見"みたいな印象で今一つのものが多かったのが、こうしてまとめて1冊の本として読むと、おおまかなトレンドが掴めて(掴めた気分になって?)、その点では良かったです。

 今、AIを巡って起きていることを知るにはいい本だと思います。ただし、将来何が起きるかはいろいろ予測できるにしても、それらがどのような順番でどの程度起きるのかということを厳密に予測するのは難しいようで、結局、ビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象になってしまったのも否めません。

 本書によれば、日本が開発したスーパーコンピュータ「京」は、開発時は世界最速で、また、世界初の「人間の脳の情報処理速度を超える」コンピュータでしたが、今は世界で10番目までランクが落ちているそうです。ただし、逆に言えば、「人間の脳を超える」コンピュータはまだ世界に10台しかないわけで、何にそれが使われているかと言うと、弁護士や行政書士の仕事を代替するにはマーケットが小さすぎて意味がなく、投資効率の大きい市場にそれは投入されていて、その市場とは、セルフドライビングカー(自動運転車)市場とフィンテックだそうです(次に進行しているのが医療のようだ)。

 それでも、いつか今のスーパーコンピュータと同性能のものが10万円程度で買えるようになれば、多くの分野でAIは活用され、遅かれ早かれ、人類の仕事の量は半分以下になるとのことです。ただし、本書の後半の方に出てきますが、人間の「手」の機能をAI化するのはかなり難しいということと、人間の脳を完全にシュミレートするようなニューロコンピュータの開発が5年後には見込まれるものの、実際それが、人間と同等の仕事を100%こなす汎用コンピュータとなるのは2035年以降だと言われているそうです。

 急速にコンピュータによる自動化が進んでいる様々な産業分野を紹介しつつ、一方で、このようにまだまだの部分もあって、読む側としては安心したり焦ったり、また安心したりですが、やはり今の若い人は、そうしたAI社会を見据えて自分のキャリアを構築した方がいいようです。その点についても著者は助言をしていて、ジャンル的には、①AIを使った事業開発、 ②コミュニケーション力を生かした仕事 、③メカトロ系の頭と身体を同時に使う仕事の3つが有望であるとのことです。

 著者は、仕事が消滅してもAI失業を起こさない策として、仕事が減ってGDPが減少すると予想される170兆円分と同じ額を、国がベーシックインカムとして国民に提供することを提案していて、そのためにAIと人間を「同一労働、同一賃金」にすること、つまり、AIが労働者の賃金を奪った分だけ、国は企業から徴収し、それを国民に提供するベーシックインカムの財源に充てるとよいとしています。本書で最も"提案的"な部分ですが、どれくらい実現可能性があるのか、個人的にはやや疑問でした。

 全体としてはやはり、トレンドウォッチング的な本だったでしょう。AIを巡って今起きていることを概観するにはいいですが、将来の予測となると(ざっくり言って大規模な"ワーク・シフト"が起きるのは間違いないが)時期や分野など細かい点はかなり不確定要素が多いように思いました。まあ、未来を知るには今何が起きているかを知らなければならないわけですが、それでも未来予測って難しい。むしろ、何が起きても大丈夫なように備えよ、という啓発書的な本であったように思います。

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