【2783】 ◎ リズ・ワイズマン/グレッグ・マキューン (関 美和:訳) 『メンバーの才能を開花させる技法 (2015/04 海と月社) ★★★★☆

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

リーダーにおける「消耗型」と「増幅型」の2類型を示す。啓発的で、分かり易く説得力がある。

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メンバーの才能を開花させる技法』['15年]/"Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart"/リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 本書(原題:Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart)の著者リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)は、元オラクル社の重役であり、17年に渡ってオラクル・ユニバーシティのバイス・プレジデントとして、グローバル・リーダーの養成に携わった人で(現在は、シリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教える)、「Thinkers50」(最も影響力のある経営思想家トップ50)にも'13年、'15年、'17年と3期続けて選出されるなど、今、リーダーシップ分野で世界的に注目される女性の1人でもあり(共著者のグレッグ・マキューンはその著書『エッセンシャル思考』('14年/かんき出版)で日本でも知られる)、本書には、『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー、『本物のリーダーとは何か』のウォレン・ベニスなど、錚々たる顔ぶれが推薦の言葉を寄せています。

 第1章「なぜ、今『増幅型リーダー』なのか」では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」「増幅型リーダー」があるとし、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーは天才をつくり、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしています。そして、増幅型リーダーの習慣として、①才能のマグネット:人を惹きつけ、その才能を最大限に発揮させる、②解放者:最高のアイデアを求める、③挑戦者:難しい課題に挑戦させる、④議論の推進者:議論を通して決定する、⑤投資家:責任を明確にする、の5つを掲げ、メンバーの能力を最大限に引き出すことで、増幅型リーダーは消耗型リーダーの二倍の能力を手に入れるとしています。

 第2章「『才能のマグネット』としての技法」では、消耗型リーダーは「帝国の構築者」として優秀な人材を獲得しながら、彼らを囲い込んで自分の利益のためにしか使わず、せっかくの才能を浪費するのに対し、増幅型リーダーは「才能のマグネット」として最高の人材を手に入れ、チームメンバーは十二分に活用され、次の舞台に飛躍できるとわかり、多くの人材がここに集ってくるとしています。そして、才能のマグネットとして、①どこにでも人材を探す、②天賦の才を発掘する、③才能を最大限に活用する、④障害を取り除く、の4つの実践を掲げ、才能のマグネットになるためには、①才能の発掘者になるとともに、②"雑草を抜く"ことも必要であるとしています。

 第3章「『解放者』としての技法」では、消耗型リーダーは「独裁者」として人々のアイデアや能力を抑え込むような、威圧的な環境を作りだし、その結果メンバーは自分を抑え、リーダーが賛成するような安全なアイデアばかり出し、委縮しながら働くようになるのに対し、増幅型リーダーは「解放者」として人々のアイデアと仕事を引き出すような、緊張感のある環境を作り出し、その結果、メンバーは最も大胆で素晴らしいアイデアを提案し、最善の努力を注ぐようになるとしています。そして、解放者として、①居場所を作る、②最高の仕事を求める、③素早い学びのサイクルを生み出す、の3つの実践を掲げ、解放者になるためには、①チップを上手に使う、②意見を区別して伝える、③自分の失敗を語る、の3つを挙げています。

 第4章「『挑戦者』としての技法」では、消耗型リーダーは「全能の神」として自分の知識の豊富さをひけらかすような指示を与え、その結果、組織はリーダーがやり方をわかっていることしか成し遂げられなくなり、上司の考えを憶測することに組織のエネルギーが消耗されるのに対し、増幅型リーダーは「挑戦者」として自分の知識を超えて行動できるチャンスを人々に提示し、その結果、組織全体が挑戦を理解し、それを受け入れる集中力とエネルギーを持つようになるとしています。そして、挑戦者として、①チャンスの種を撒く、②挑戦を掲げる、③自身を植えつける、の3つの実践を挙げています。

 第5章「『議論の推進者』としての技法」では、消耗型リーダーは「意思決定者」として少人数の内輪の人間で効率よく結論を出すが、組織の大部分を置き去りにするため、決定の健全性が疑われ、実行にいたらないのに対し、増幅型リーダーは「議論の推進者」として人々を議論に引き入れ、それがよりよい決定につながり、理解と実行が進むとしています。そして、議論の推進者として、①問題の枠組みを示す、②議論を盛り上げる、③「開かれた決定」を徹底する、の3つの実践を掲げ、議論の推進者になるためには、①厳しい問いを投げかける、②根拠を示させる、③全員を参加させる、の3つを挙げています。

 第6章「『投資家』としての技法」では、消耗型リーダーは「マイクロマネジャー」として重箱の隅をつつくようにメンバーを管理し、リーダーへの依存を生み出し、リーダーなしでは成果の出ない組織を作るのに対し、増幅型リーダーは「投資家」として人に投資して責任を与え、リーダーがいなくても自分自身の力で結果が出せるようにするとしています。そして、投資家として、①責任の所在を明らかにする、②人的資源に投資する、③最後まで責任を預ける、の3つの実践を掲げ、投資家になるためには、①誰がボスかをはっきり知らせる、②流れを見守る、③解決はメンバーの力で、④ペンを返す、の4つを挙げています。

 第7章「『増幅型リーダー』を目指すあなたに」では、正しい原則とツールを使って、適度な努力で最大の結果を得るにはどうすればよいかを説いており、「加速ツール」として、①両極を改善する:リーダーとしての自分の習慣を振り返り、両極を改善することに力を注ぐ、②あえて思い込みから始める:増幅型リーダーの思い込みを取り入れ、それに従って行動する、③ひとつの課題を30日間続けてみる:5つの習慣から1つを選び、更にその中から1つの実践項目を選択し、それを30日間続ける、の3つを掲げ、また、勢いを持続するため、①1つ1つ層を重ねる、②1年間問い続ける、③コミュニティを作る、の3つを挙げています。

 消耗型リーダーの性質を持つ人物が、増幅型リーダーに変身できるものなのか。これについて著者は、変身するには、次の段階を経なければならないとし、①増幅型リーダーに共感する、②自分の中の消耗型リーダーに気づく、③増幅型リーダーになることを決意する―の3段階を挙げています。また、増幅型リーダーになるために1つだけ何かするとしたらそれは何かという質問に対し、1つだけ挙げるとすれば「質問」であり、メンバーに考えを促すような、洞察に満ちた教務深い質問を心掛けることから始めることを促しています。

 消耗型リーダーvs.増幅型リーダーという対比を、帝国の構築者vs. 才能のマグネット、独裁者vs. 解放者、全能の神vs. 挑戦者、意思決定者vs. 議論の推進者、マイクロマネジャーvs. 投資家という対比に落とし込んでいるのが分かり易く、非常に啓発的な内容で、かつ、実在するリーダーを調査して書かれているため説得力があり、また、実例が多く記載されているため理解し易く、更には、増幅型リーダーと消耗型リーダーの考え方や行動が具体的に纏められている点で実践し易いという、なかなかスグレモノの1冊です(リズ・ワイズマンの近著『ルーキー・スマート』('17年/海と月社)も、ルーキー"というものを従来とは異なる視点で捉えており、お薦め)。

《読書MEMO》
序文──スティーブン・R・コヴィー
第1章 なぜ、今「増幅型リーダー」なのか
 メンバーを活かすリーダーは、たしかにいる
 ふたりのリーダーの物語
 「増幅型リーダー効果」とはなにか?
 増幅型リーダーの考え方
 増幅型リーダーの五つの習慣
 三つの発見
 実践法に入る前に
 より効果を上げる読み方
 *増幅型リーダーの方程式
第2章 「才能のマグネット」としての技法
 あなたは「帝国の構築者」か「才能のマグネット」か
 「才能のマグネット」とは?
 才能のマグネットの四つの実践
 消耗型リーダーはメンバーをどう扱っているか
 メンバーはやりがいを求めている
 才能のマグネットになるために
 *増幅型リーダーの方程式
第3章 「解放者」としての技法
 あなたは「独裁者」か「解放者」か
 「解放者」とは?
 解放者の三つの実践
 消耗型リーダーは環境作りができない
 「自発性」がカギになる
 解放者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第4章 「挑戦者」としての技法
 あなたは「全能の神」か「挑戦者」か
 ある挑戦者の失敗と喜び
 挑戦者の三つの実践
 消耗型リーダーはチャンスをつぶす
 「全能の神」と「挑戦者」を比較すると──
 挑戦者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第5章 「議論の推進者」としての技法
 あなたは「意思決定者」か「議論の推進者」か
 「議論の推進者」とは?
 議論の推進者の三つの実践
 消耗型リーダーは議論を避ける
 議論を盛り上げることの真意
 議論の推進者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第6章 「投資家」としての技法
 あなたは「マイクロマネジャー」か「投資家」か
 「投資家」とは?
 投資家の三つの実践
 消耗型リーダーは依存体質を好む
 投資家には多くのリターンが待っている
 投資家になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第7章 「増幅型リーダー」を目指すあなた
 「共感」で終わらず、「決意」しよう
 「手抜き」を成功させる三つのポイント
 勢いを維持するには?
 もう一度、効果を確認する
 かならず、変われる
 *増幅型リーダーになるために
資料──頭を整理し、実践に勢いをつけるために
資料A:調査プロセスについて
資料B:よくある質問
資料C:増幅型リーダーの顔ぶれ
資料D:議論の手引き
*自己評価したいなら......

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