2019年1月 Archives

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3326】 各務 晶久 『職場の紛争学
「●本・読書」の インデックッスへ 「●日経文庫」の インデックッスへ

述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

「●キャリア行動」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【177】 高橋 俊介 『キャリア論
○経営思想家トップ50 ランクイン(ハーミニア・イバーラ)

キャリア・チェンジ成功の鍵は、「計画して実行する」ではなく「試して学ぶ」。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術7.JPGハーバード流 キャリア・チェンジ術.jpg  working identity.png  ハーミニア・イバーラ.jpg
ハーバード流 キャリア・チェンジ術』 "Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career" ハーミニア・イバーラ (Herminia Ibarra)

 長い年月やってきた仕事に対し、職業人生半ばにしてふとこのままでいいのか、自分のやりたいことは別にあるのではないか、といった疑問を抱くことは誰にもあるのではないかと思われるが、その時からでもキャリアを変更することは可能なのか―本書(原題:Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career,2003)の著者は、ここで従来のように綿密に計画を立て、自己分析をし、信頼できる人に相談しながら行動しても、多くの場合は徒労に終わってしまうだろうとしています。本書では、様々な状況においてキャリアの転換を試み、成功した39人の例を取り上げ、自分に合った道を探すキャリア・チェンジ術を紹介しています。

 第1章「新しい可能性を見つける」では、キャリア・チェンジにうまく対処するには、つきたい仕事を把握し、その認識に基づいて行動することだと考えがちだが、実際の変化は、行動が最初で、認識はその次となるとしています。なぜならば、キャリア・チェンジとは自分の「キャリア・アイデンティティ」を修正することだからだと。キャリア・アイデンティティとは、キャリアを通じた「自己像」(セルフイメージ)のことであり、具体的には、
 ①職業人の役割を果たす自分をどう見るか、
 ②働く自分を人にどうに伝えるか、
 ③最終的には職業人生をどうに生きるか、
といったことを指すとしています。新しい「将来の自己像」を思い描いたら、新しい自己像のために、これまでのいくつかの自己像を手放さなければならず、また、「新旧のアイデンティティの間」でかなりの時間を過ごすことになるとしています。そして、こうした将来の自己像がさまざまに変わる過渡期に変化を生み出す方法について概説しています。新しいキャリア・アイデンティティを確立するポイントとして、
 ①さまざまなことを試みる、
 ②人間関係を変える、
 ③深く理解し納得する、
の3つを掲げ、以下の第1部からの各章において、キャリア・チェンジを図った人が、職業人生の次の段階にどう進むことによってそのことを成し得たかを、具体的に説明していきます。

 第1部の「キャリア・チェンジ入門編」では、新しいキャリア・アイデンティティを確立できるかどうかを試しながら、最終的には想像以上に大きな変化を遂げる過程を見ています。第2章「将来の自己像」では、一歩踏み出す際の考え方に焦点を当て、「本当はどういう人を目指したいのか」という問いから始めるのではなく、「いろいろな将来の自己像のうち、まずどれを探るべきか。どうすればそれを試せるか」を考えるべきであるとしています。第3章「新旧のアイデンティティの間」では、将来の自己像を試した時から始まる長く混乱した過渡期について取り上げています。第4章「大きな変化」では、このつらい過渡期が必要なものであることの理由を説明し、アイデンティティを修正するには、それを根底から見直すことが必要であるとしています。

 第2部「キャリア・チェンジ実践編」では、過渡期にどう行動すれば転職に成功するかを見ています。第5章「さまざまなことを試みる」では、漠然とした可能性を具体的な計画に変え評価できるようにし、それによって将来を検討する方法を述べています。第6章「人間関係を変える」では、新しい指導者、手本になる人、仕事仲間を見つけることで、新しい世界への不安が少なくなることを説明しています。第7章「深く理解し納得する」では、人生の「物語」を書き換える方法について詳しく述べています。

 最後の第3部「キャリア・チェンジの型破りな戦略」・第8章「自分自身になる」では、これまでに紹介した「型破りな(Unconventional)」キャリア・チェンジ術における以下の9つの戦略をまとめています。
 ・型破りな戦略1 行動してから考える。
 ・型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
 ・型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
 ・型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
 ・型破りな戦略5 まずは試してみる。
 ・型破りな戦略6 人間関係を変える。
 ・型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
 ・型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
 ・型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。

 各章とも、キャリアの転換を試み、成功した人の事例をベースに話を進めているため、分かり易く、また、説得力がありました。よく、転職で失敗する人は「自分探し」をする人だと言われますが、本書はその逆を行ってキャリア・チェンジに成功した人の事例集としても読め、体系的にもよく纏まっていて、すんなり腑に落ちるように思いました。従来のキャリア理論の基本的な考え方であった「計画して実行する」ではなく、まず「試して(自分の自己像が何かを)学ぶ」ことを提唱しているという意味では確かに「型破り」なのかもしれません。個人的には、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性(プランド・ハップンスタンス)理論」に通じるところもあるように思いました。「キャリア・チェンジ術」とありますが、テクニカルな話に止まらず、例えばキャリアとは何かといったことを改めて考える上でも奥が深かったです。

 因みに、著者はフランスとシンガポールに拠点を置くビジネス・スクールINSEADの教授ですが、タイトルに「ハーバード流」とあるのは、ISEADの前にハーバード・ビジネス・スクールで13年間教鞭をとっていることに由来しているようです(「ハーバード流」とあることの理由は他に見当たらなかった。原題は"Working Identity: Unconventional Strategies for Reinventing Your Career"(2003))。

《読書MEMO》
●型破りな戦略1 行動してから考える。
行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
まず一歩踏み出して違う道を試してみる。行動を起こした後、その結果を振り返り(フィードバック)、自分の本当の考え方や気持ちをはっきりさせる。新しいキャリアへの道を分析したり、計画を立てたりしない方がいい。
●型破りな戦略2 本当の自分を見つけようとするのはやめる。
「将来の自己像」を数多く考え出し、その中で試して学びたいものいくつかに焦点を合わせる。
じっくり考えることは大切だが、試さないためのいい訳として利用されがち。自分がどんな人間かを考えるより、欲しいと思っているものが本当に欲しいかどうかを検討する方が重要になる。行動すれば、自分の言動から自分を理解する機会が得られるし、学ぶたびに予想を修正できる。
●型破りな戦略3 「過渡期」を受け入れる。
執着したり手放したり、行動に一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいた方がいい
キャリア・チェンジを実践するまでの何年かは、苦痛や不安、混乱、疑念がどうしても伴う。かなりつらいことだが、目標をすぐには達成できないと分かってもあきらめないこと。急いで結論を出さないように気を付けた方がいい。特に、唐突に転職を打診された場合には注意する。新しいものへ移行するには時間がかかるものと考えておこう。
●型破りな戦略4 「小さな勝利」を積み重ねる。
「小さな勝利」を積み重ねることで、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなることもあるが、そうした誘惑には耐えよう。曲がりくねった道を受け入れよう。
小さな一歩が大きな変化を導く。最初から正しい「答え」を見つけようとして、時間や気力、お金を無駄にしない方がいい。押せば劇的な変化が得られる「レバー」はない。初めに試したことですぐに変化を遂げられる人はほとんどいない。直線的に進もうと考えないこと。
●型破りな戦略5 まずは試してみる。
新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。
最初からこれだと決め付けるのではなく、副業や一時的に試す方法を考えてみる。本気で追求するが、決断は後にする。必ずいくつかの選択肢を試して、経験を比較してから選ぶ対象を絞るようにする。
●型破りな戦略6 人間関係を変える。
仕事以外にも目を向ける。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけだす。
いま持っているネットワーク(人脈)の外にアンテナを突き出すようにする。
目指したいものを気付かせてくれる人、別の働き方やライフスタイルの実例を見せてくれる人など、手本になる人を見つける。
●型破りな戦略7 きっかけを待ってはいけない。
キャリア・チェンジのきっかけを待っていてはいけない。いま経験している変化の意味を見いだすようにする。
キャリアを大幅に方向転換するには、3年から5年かかる。大きな転機がある場合、後半に訪れることが多い。この過渡期の間、触発される決定的なきっかけを待つのではなく、すべてのものを何らかのきっかけととらえ、その意味を考える。自分の物語(自己像についての)をつくり、人に何度も話してみる。
●型破りな戦略8 距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
考えに行き詰まって、どうしたらいいか分からなくなったら、変化の動機や過程ばかりを思い詰めている状態から離れてみよう。
1日郊外に出掛けるといった短い休息でも、考え方の習慣がもたらす一面的な見方を外すことができる。ただし、離れている状態を長く続けない方がいい。自分の可能性を見つけるには、実際の社会に前向きに参加し、現実から影響を受けていくしかない。
●型破りな戦略9 チャンスの扉をつかむ。
変化は急激に始まるもの。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから好機を逃さない。
チャンスの扉は開いたり閉じたりする。例えば、何かの講座を修了した直後や新しい職務を引き受けたとき、節目となる誕生日などは、絶好の機会として一歩を踏み出すために利用する。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3346】 アダム・グラント 『GIVE & TAKE
どうすれば変われるのか。「免疫マップ」という変革アプローチを提案した啓発度の高い本。

なぜ人と組織は変われないのか9.JPGなぜ人と組織は変われないのか.jpg  Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey.jpg
Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey
なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか2.jpg Harvard Graduate School of Educationの発達心理学と教育学の専門家による本であり(原著:Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization,2009,Harvard Business Review)、二人の近著には『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(2017/08 英治出版)があります。本書によれば、変わる必要性を認識していても85%の人が行動すら起こさないとのことで、それは何故かというと"変革を阻む"免疫機能"が働くからであるとのことです。著者たちは、変革が進まないのは「意志」が弱いからではなく、「変化⇔防御」という拮抗状態を解消出来ないからだと説きます。そのうえで、30年にわたる研究と実践のなかで編み出された「免疫マップ」という変革アプローチを提案しています。これは、「変わりたくても変われない」という心理的なジレンマの深層を掘り起し、変化に対して自分を守ろうとしているメカニズムを解き明かす手法であり、自分のもっている「免疫マップ」、つまり「改善目標や阻害行動、裏の目標、強力な固定観念」を、事実と自分に向き合いながらみんなで見つけ出すことで、様々なレベルでの改革を効果的に展開できるとしています。

 全体で3部構成であり、第1部「"変われない"本当の理由」で「免疫マップ」による変革アプローチの概念を説明し、第2部「変革に成功した人たち」で実際の成功事例を紹介、第3部「変革を実践するプロセス」で自分もやってみようという読者にその実践方法を紹介しています。

 第1部「"変われない"本当の理由」では、大人の知性の発達に関してこの30年間で明らかになった新しい真実、そして、その発見が職業生活に対してもつ意味を簡単に解説しています。第1章では、本書で提案するアイデアと手法の理論的・実証的土台を整え、第2章では、「どうして人は本当に望んでいる変革を実現できないのか」という点について、これまで知られてこなかったメカニズム"変革をはばむ免疫機能"を紹介し、第3章では、本書の考え方を職場で実践し、成果をあげたビジネス界と政府機関の2人のリーダーの実例を取り上げています。

 第2部「変革に成功した人たち」では、"変革をはばむ免疫機能"に対処すれば、個人と組織がどのような変化を遂げられるかを詳しく説明しています。取り上げている事例は、当事者の業種や分野も、実現しようとする目標も様々です。第4章では、グループが集団レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケース、第5章と第6章では、2人の個人がそれぞれの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介し、第7章では、最も野心的な取り組みである、職場グループ全体の成果を高めるためにメンバーの一人ひとりが個人レベルの"変革をはばむ免疫機能"に対処したケースを紹介しています。

 第3部「変革を実践するプロセス」では、読者が個人レベルと集団レベルで"変革をはばむ免疫機能"に対処するための手引きを示しています。第8章では、このアプローチを実践するために必要な3つの要素を指摘し、第9章と第10章では、免疫機能を診断するためのプロセスを段階ごとに説明して、読者が個人レベルの免疫機能を乗り越えるよう導いています。第11章では、チームや組織のレベルで免疫機能を克服するプロセスと、そのために役立つ方法論を紹介しています。そして終章では、チームのメンバーとチーム全体が能力を高められる土壌を作るために、リーダーが備えるべき7つの資質を論じています。

 個人と組織が成功するために避けて通れない変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにし、「免疫マップ」を用いた変革のアプローチとその効果を多くの事例を通して明らかにし、更に本書を手にした読者に対し、自分とチームのメンバーが職場で能力を目覚ましく発揮できるようにするにはどうすればよいかまでを説いた啓発度の高い本です(個人的には、「免疫マップ」の手法は、心理療法における「認知療法」とも共通点があるように思った)。実際に行われたワークやエクササイズなどの事例ベースで解説が進むため、読み物を読むように読めてしまうのもいいところでしょうか。それでいて、ポイントはしっかり要約されています。組織を率いるリーダーにとっての組織と自分を変える処方箋となり得る要素があり、個人的にも折々に再読してみたい本でもあると思いました。

なぜ人と組織は変われないのか3.jpg《読書MEMO》
●免疫マップ:変革のプロセスに関する思考の地図というべきもの。
1)改善目標、
2)阻害行動(改善目標の達成を妨げる要因)、
3)裏の目標(不安も含む)、
4)強力な固定観念、
からなる
●変わるために必要な3つの要素(276p~295p)
要素1 心の底―変革を起こすためのやる気の源:目標を成し遂げたいという強力な本能レベルの欲求。ほかに、自己変革の原動力になりうる要素としては、たとえば目標の達成に自信があり、そのための方法がわかっていること。
要素2 頭脳とハート―思考と感情の両方にはたらきかける:"変革をはばむ免疫機能"は、特定の知性のレベルならではの思考と感情の両方を反映するものなので、適応を要する変化を本当に成し遂げようと思えばこの両方にはたらきかけなくてはならない。
要素3 手―思考と行動を同時に変える:既存の免疫機能と衝突する行動を意識的に取ってはじめて変革が可能になる。これを避けていては、既存の行動パターンの土台にある思考様式の妥当性を検証できないからだ。
●リーダーが備えるべき7つの資質(402p~418p)
①大人になっても成長できるという前提に立つ
②適切な学習方法を採用する
③誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ
④本当の変革には時間がかかることを覚悟する
⑤感情が重要な役割を担っていることを認識する
⑥考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する
⑦メンバーにとって安全な場を用意する

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「働きがい」を構成するの「信頼(信用・尊敬・公正)」「誇り」「連帯感」。

The Great Workplace.jpg最高の職場 ロビン.jpg最高の職場 ロビン2.jpg
最高の職場―いかに創り、いかに保つか、そして何が大切か
"The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters"
Great Place to Work HPより
「働きがいのある会社」モデル.jpg 本書(原題:The Great Workplace: How to Build It, How to Keep It, and Why It Matters,2011)は『フォーチュン』誌の「米国で最も働きがいのある会社ベスト100」を認定する、サンフランシスコに本部を置く《Great Place to Work (働きがいのある会社)Institute(GPTWI)》による「最高の職場」に関する調査報告書であり、いわゆるGPTWモデルというものを提唱したものです。

 第1章では、GPTWIが、長年にわたる研究から定義したGPTWモデルの「働きがい」の構成要素を5つ挙げています。その5つとは、①信用、②尊敬、③公正、④誇り、⑤連帯感であり、そのうち①~③までを一緒にした概念が「信頼」であり、「信頼」「誇り」「連帯感」の3つは、組織におけるプラットフォームで、それがない組織では、どんな制度や仕掛けを導入してもうまく機能しないとしています。以下、第2章から第7章にかけて、これら5つの要素について、それぞれのチェックポイントを解説しています。

 第2章は「信用」について述べられており、リーダーに対する信用を構築するのに欠かせないものとして、オープンで気さくな「双方向コミュニケーション」、人材とその他のリソースを調整する際の「有能さ」、一貫性をもってビジョンを遂行する「誠実さ」の3つを挙げています。第3章は「尊敬」について解説しており、リーダーの行動が従業員の尊敬の念に影響を与える3つの領域に、専門性の育成のための「支援(サポート)」、関係する意思決定における従業員との「協働(コラボレーション)」、従業員の家庭や生活への「配慮(ケアリング)」をがあるとしています。第4章は「公正」について述べられており、報酬が整合性のとれた方法で配分されているという「公平感」、採用や昇進でのえこひいきがない「偏りのなさ」、差別がなく、意見や不満をアピールすることができる「正義」の3つが公正な職場環境を構築するとしています。

 第5章は「誇り」について説いており、社員を育む誇りには、「自分の仕事」に対する誇り、「チーム」が行った仕事に対する誇り、「組織」が生み出す製品や地域社会での位置づけに対する誇りの3つがあるとしています。第6章では「連帯感」について述べられており、自分らしくいられる環境が整っている「親しみやすさ」、楽しみと歓迎する雰囲気がある「思いやり」、《家族》意識や《チーム》意識といった「仲間意識」の3つが、職場の連帯感を構築するとしています。

 第7章ではグローバルな視点に立ち、こうしたGPTWモデルが世界共通にビジネス上の恩恵をもたらしていることが、世界各国にあるGPTWIのオフィスで行われた調査結果から判明しているとしています。第8章では、では最高の職場を作るにはどうすればよいのかを説き、最高の職場におけるリーダーは、責任感と謙虚さ、熱意と忍耐力、人と成果のそれぞれについて、これかあれかの選択をするのではなく、それら二つの見方のバランスをとっているとしています。

 本書で挙げた「働きがい」の構成要素のそれぞれについて、その分野で秀でた会社の事例が数多く紹介されており、多様な学習機会や楽しいイベントを用意している会社が多くあります。例えばバーモント州のコーヒー豆販売会社は、社員をコーヒーの生産国に招待し、コーヒーの木がどのような険しさの中で成長するのかを教え、そして旅の思い出を共有するようにしています。ギリシャでスイミングプールの建設と保守をしている会社の場合は、大学院に行きたい者には学費を払い、フランチャイズ事業を立ち上げたい者には資金援助をしていて、またグローバルな法律事務所では、1000人を超える弁護士が1人当たり77時間の無料法律相談をしていたりします。

 本書で挙げられている「働きがい」の構成要素の中には、かつて日本的経営の強みと言われた要素も少なからず見られたように思いました。また、リーダーシップとはバランス感覚なのだという思いも抱かされました。「働きがいのある会社」とはどのような会社なのかということをデータに基づいて述べているわけであって、人事パーソンは一度は読んでおきたい本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 序論 最高の職場を創り上げることがもつ価値
 Case study SASインスティチュート-最高の資産に配慮する
第2章 信用 「私はリーダーを信じる」
 Case study プライスウォーターハウスクーパース-優秀な社員の鼓舞
 Case study グーグル-巨大な干し草の山からグーグラーを探し出す
第3章 尊敬 「私はこの組織の価値ある一員です」
 Case study ジェネラル・ミルズ-優秀な管理職の育成
 Case study SCジョンソン-ファミリー企業
第4章 公正 「皆が同じルールでプレーする」
 Case study スクリップス・ヘルス病院-全員は一人のために、一人は全員のために
 Case study CH2Mヒル 所有権をもつ生き方
第5章 誇り 「私は本当に意味あることに貢献します」
 Case study ウェグマンズ・フード・マーケッツ-地域社会への貢献を誇りとする
 Case study WLゴア&アソシエイツ-革新的な文化と革新のための文化
第6章 連帯感 「わが社の社員はすばらしい」
 Case study カムデン・プロパティ・トラスト-社員と同社製住宅の住民にとって楽しいコミュニティの構築
 Case study マイクロソフト-天才大歓迎
第7章 グローバルな視点 世界各国にある最高の職場
第8章 行動を起こす 最高の職場を創り上げる
●GPTWモデルの「働きがい」の5つの構成要素とチェックポイント
①信用
・コミュニケーション:オープンで気さくなコミュニケーション
・有能さ:人材とその他のリソースを調整する際の有能さ
・誠実さ:誠実さを重視し、一貫性をもってビジョンを遂行している
②尊敬
・支援:専門性の育成への支援と感謝の表明
・協働:関係する意思決定における従業員との協働
・配慮:従業員の家庭や生活への配慮
③公正
・公平感:全員に対する公平な報酬
・偏りのなさ:採用・昇進でえこひいきをしない
・正義:差別がなく、意見や不満をアピールする方法が整っている
④誇り
・自分の仕事:自分の仕事と個人的貢献に対する誇り
・チーム:自分のチームやワークグループが行った仕事に対する誇り
・組織:組織の製品や地域社会での位置づけに対する誇り
⑤連帯感
・親しみやすさ:白分らしくいられる環境が整っている
・思いやり:社交的で親しみやすく、歓迎する雰囲気がある
・仲間意識:《家族》意識や《チーム》意識

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第1部41冊の紹介・解説が丁寧。MBAテキストの"定番"を知るのに良い。
トップMBAの必読文献.jpgトップMBAの必読文献5.JPG トップMBAの必読文献8.JPG
トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊

 本書は3部構成になっていて、第1部「トップMBAの必読文献」では、「世界の経営バイブル」呼べるものを、アカウンティング、統計と分析、経済学、ファイナンス、マーケティング、オペレーションズ、 組織行動、戦略、ゼネラル・マネジメントの9ジャンルから41冊選んで解説しいます。

 第2部「各ビジネス分野における主要なテキスト」では、主要MBAのカリキュラムで使用されるテキストを、第1部と同じようなジャンル区分に沿って75冊、どこの大学で使用しているかも含め紹介するとともに、内容を簡単に解説しています。

 第3部「トップMBAで使用されている500のテキスト」では、さらにMBAで称されているテキスト500冊を、第1部、第2部と同様のジャンル区分に沿って紹介しています(タイトルの紹介のみ)。第2部、第3部については、翻訳されていないものも多く含まれています、

 ページ数で全体の半分強を占める第1部の文献紹介が充実していて、本ごとに「バイブル特性マップ」として「難易度(高・低)」と「領域の幅(基本・専門)」を2軸で表し、テキスト使用大学、著者の略歴を紹介、さらに、その本の読みどころ、その本がどのようなメッセージを伝えようとしているのか、その本の概要―といった具合に、かなり突っ込んだ解説になっています。

 第1部で紹介されている41冊(すべて翻訳されている)の「バイブル書」の定義は、世界のトップMBAでテキストとして使用されているということだけでなく、一時の流行ではなく「世界34カ国で翻訳」「各国で100万部突破」「第12版」など定番として売れ続けている原典で、「体系的」かつ「深堀り」された名著であるとのことで、その定義に応えるラインアップとなっているように思います。

『ハーバード流交渉術』.jpgEQリーダーシップ2.jpg 第1部ではマーケティング分野が比較的充実していたでしょうか。ただし、第2部、第3部にもマネジメントやリーダーシップ関連の良書はあって、第1MBAの人材戦略.jpg巨象も踊る.jpg部と重複していないもので、第2部では、ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリーらの『ハーバード流交渉術』、ダニエル・ゴールマンらの『EQリーダーシップ』、第3部では、デイビッド・ウルリッチの『MBAの人材戦』、ルイス・V・ガースナーの『巨象も踊る』といったアメリカCEOのベストビジネス書100.jpg本もありました。『巨象も踊る』は、本書と同年同月に翻訳が刊行された『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)でも取り上げられていましたが、こういう特定企業の成功事例本でもMBAのテキストなるのだなあと改めて思いました。

あらすじで読む世界のビジネス名著.jpg 第1部の41冊の選本については、同じグローバルタスクフォースによる『あらすじで読む 世界のビジネス名著』('04年/総合法令)とややダブる傾向にあったかも(因みに、同じグローバルタスクフォースの『世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊』('15年)ともダブりが多い)。本書も2009年刊行と刊行やや年数が経っているため、MBAテキストの最新動向とまではいかないと思いますが、どのような本がMBAテキストの"定番"とされているのかを知るのには良い本だと思います。

《読書MEMO》
●第1部で紹介されている41冊
第1章アカウンティング
01『企業分析入門』K・G. パレプ 、V・L・ バーナード、P・M・ヒーリー
02『ABCマネジメント革命』ロビン クーパー ほか
第2章 統計と分析
03『ビジネス統計学』アミール・アクゼル、ジャヤベル・ソウンデルパンディアン
第3章 経済学
04『ゲーム理論で勝つ経営』B・J・ネイルパフ、 A・M・ブランデンバーガー
05『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー
第4章 ファイナンス
06『EVA創造の経営』G・ベネツト・スチュワートⅢ
07『企業価値評価』マッキンゼー・アンド・カンパニーほか
08『決定版 リアル・オプション』トム コープランド、ウラジミール アンティカロフ
09『コーポレート ファイナンス』リチャード・ブリーリー、スチュワート・マイヤーズ
第5章 マーケティング
10『価格戦略論』ヘルマン・サイモン、ロバート・J. ドーラン
11『サービス・マーケティング原理』クリストファー・ラブロック、ローレン ライト
12『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン ケラー
13『ブランド・エクイティ戦略』デービッド・A・ アーカー
14『戦略販売』R・ B・ミラー、S・ E・ハイマン
15『マーケティング・リサーチの理論と実践』ナレシュ・K. マルホトラ
16『刺さる広告』レックス・ブリッグス、グレッグ・スチュアート
17『アイデアのちから』チップ・ハース、ダン・ハース
18『顧客ロイヤルティのマネジメント』フレデリック・F・ライクヘルド
第6章 オペレーションズ
19『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
20『イノベーションへの解』クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー
21『知識創造企業』野中 郁次郎、竹内 弘高
22『サプライチェーン・デザイン』チャールズ・H・ファイン
23『企業のレジリエンシー』ヨッシー・シェフィー
第7章 組織行動
コンピテンシーマネジメントの展開.gif24『コンピテンシー・マネジメントの展開』ライル・M・スペンサー、シグネ・M・ スペンサー
ハーバードで教える人材戦略2.jpg25『ハーバードで教える人材戦略』M・ビアー、P・R・ローレンス、R・E・ウォルトン、B・スペクター、D・Q・ミルズ
【新版】組織行動のマネジメント.jpg26『組織行動のマネジメント』ステファン・P・ロビンス
最強組織の法則 - 原著1990.jpg27『最強組織の法則』ピーター・M・センゲ
第8章 戦略
28『競争の戦略』M・E・ポーター
29『競争優位の戦略』M・E・ポーター
30『企業戦略論』ジェイ・B・バーニー
第9章 ゼネラル・マネジメント
31『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』M・グラッドウェル
32『ベンチャー創造の理論と戦略』ジェフリー・A ティモンズ
ドラッカー名著集2.jpgドラッカー名著集3.jpg33『現代の経営』P・F・ドラッカー
34『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント
35『無理せずに勝てる交渉術』G・リチャード・シェル
36『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
37『バイアスを排除する経営意思決定』マックス・ベイザーマン
38『実行力不全』ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン
第10章 リーダーシップ
39『企業変革力』ジョン・P・コッター
ミッション・リーダーシップ .JPG40『ミッション・リーダーシップ』ビル・ジョージ
ビジョナリー・カンパニー1.jpg41『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1177】 高橋 克徳/河合 太介/永田 稔/渡部 幹 『不機嫌な職場
「中央集権」から「分権」へ。「ハイブリッド型」もあり。組織論の新たな視点。

Iヒトデはクモよりなぜ強い .JPGヒトデはクモよりなぜ強い.jpg  Ori Brafman.jpg  Rod Beckstrom.jpg
ヒトデはクモよりなぜ強い』['07年] Ori Brafman / Rod Beckstrom

 本書(原題:The Starfish and the Spider: The Unstoppable Power of Leaderless Organizations,2006)では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています。(2021年に新訳が刊行された、旧訳の方が読み易い。)

 第1章「MGMの失敗とアパッチ族の謎」では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる」(分権の第1の法則)としています。

 第2章「クモとヒトデとインターネットの最高責任者」では、インターネットの概念はまさにヒトデ型であるが、インターネットが登場した際に、クモ型組織に馴れ親しんだ人が初めてそれに接して、インターネットの最高責任者は誰かと訊ねたように、「ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい」(分権の第2の法則)ものであり、「開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている」(分権の第3の法則)としています。また、分権型組織の構造の特徴として、「開かれた組織は簡単に変化させることができる」(分権の第4の法則)、「ヒトデたちは、誰も気づかないうちにそっと背後から忍び寄る性質がある」(分権の第5の法則)とし、「業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する」(分権の第6の法則)としています。また、ヒトデとクモを見分ける方法として、誰かひとり、トップに責任者がいるか?など、10のポイントを挙げています。

 第3章「ヒトデでいっぱいの海」では、ウィキペディアなどを例に、「開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる」(分権の第7の法則)としています。

 第4章「5本足で立つ」では、分権型組織は五本足で立つ動物のようなものだとし、その5つの足とは、①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)、②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)、③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)、④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)、⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)であるとしています。

 第5章「触媒のもつ不思議な力」では、第4章で挙げた分権型組織における5つの要素のうち、「触媒」に必要なものとして、他人に対する純粋な興味や緩やかなつながりの許容など、12の「道具」を挙げています。

 第6章「分権型組織と戦う」では、「攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある」(分権の第8の法則)が、これはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略として、①イデオロギーを変える、②権限を中央に集めさせる、③自らも分権型に変わって対抗する、の3つを挙げています。

 第7章「ハイブリッドな組織」では、純粋なヒトデ型組織でも、クモ型組織でもない、ハイブリッド型組織というものもあるとし、そのハイブリッド型組織には、①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)、②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)の2種類があるとしています。

 第8章「スイートスポットを探して」では、トヨタ方式の例(生産性の低かったGMの工場をいわゆるトヨタ生産方式の分権的な現場作業で劇的に改善させたケース)を挙げ、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきであるとしています。

 第9章「新しい世界へ」では、これまで述べてきたことのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果、無秩序の力など10のルールを挙げています。

 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 MGMの失敗とアパッチ族の謎
第2章 クモとヒトデとインターネットの最高責任者
第3章 ヒトデでいっぱいの海
第4章 5本足で立つ
第5章 触媒のもつ不思議な力
第6章 分権型組織と戦う
第7章 ハイブリッドな組織
第8章 スイートスポットを探して
第9章 新しい世界へ
注釈・謝辞・訳者あとがき・索引
●分権についての重要な8つの法則(第1章~第3章)
①分権型の組織が攻撃を受けると、それまで以上に開かれた状態になり、権限をそれまで以上に分散させる(第1章)
②ヒトデを見てもクモだと勘違いしやすい(第2章)
③開かれた組織では情報が一カ所に集中せず、組織内のあらゆる場所に散らばっている(第2章)
④開かれた組織は簡単に変化させることができる(第2章)
⑤ヒトデたちには、誰も気づかないうちに、そっと背後から忍び寄る性質がある(第2章)
⑥業界内で権力が分散すると、全体の利益が減少する(第2章)
⑦開かれた組織に招かれた人たちは、自動的に、その組織の役に立つことをしたがる(第3章)
⑧攻撃されると、集権型組織は権限をさらに集中させる傾向がある(第6章)
●ヒトデとクモを見分ける10のポイント(第2章)
①誰かひとり、トップに責任者がいるか?
②本部があるか?
③頭を殴ったら死ぬか?
 ④明確な役割分担があるか?
 ⑤組織の一部を破壊したら、その組織が傷つくか?
 ⑥知識と権限が集中しているか?、分散しているか?
 ⑦組織には柔軟性があるか、それとも硬直しているか?
 ⑧従業員や参加者の数がわかるか?
⑨各グループは組織から資金を得ているか、それとも自分たちで調達しているか?
⑩グループは直接連絡をとるか、それとも仲介者を通すか?
●信頼感とコミュニティ(第3章)
 クレイグズリストを使ってタダで箱を手に入れるということは、クレイグズリストというコミュニティにちょっとした借りができるようなものだ。
開かれた組織では、最も重要なのはCEOではなく、組織のリーダーが、組織を構成するメンバーをどれだけ信頼し、その自主性に任せるかなのだ。
●分権型組織における5つの根本的要素(第4章)
①サークル(ヒエラルキーのないグループ。自主性にゆだねられる)
②触媒(サークルを創設し、そのあとは身を引いて、表舞台から消えてしまう人物)
③イデオロギー(分権型の組織をまとめる接着剤の役割を果たす)
④既存のネットワーク(インターネットが、新しいヒトデの繁殖地)
⑤推進者(新しい概念を執拗なまでに推し進める)
●触媒に必要なもの(第5章)
①他人に対する純粋な興味
 ②緩やかなつながりの許容
 ③(知り合いのネットワークの)地図づくり
 ④役に立ちたいという欲求
 ⑤情報
 ⑥説得せず、肯定するスタンス
 ⑦感情的知性
 ⑧信頼
 ⑨他人にインスピレーションを与えること
 ⑩曖昧さへの寛容さ
 ⑪干渉しないこと
 ⑫立ち去ること
●ヒトデ型組織に対抗する戦略(第6章)
①イデオロギーを変える
 ②権限を中央に集めさせる(牛型アプローチ)
 ③自らも分権型に変わって対抗する(奴らに勝てないなら奴らの仲間になれ)
●ハイブリッド型組織(第7章)
①顧客経験価値を分散させた中央集権型企業(イーベイ、アマゾン、グーグル)
②中央集権型企業でありながら、ビジネスの一部に分権を取り入れている企業(GE、DFJ、トヨタ)
●肯定的な問いかけ(AI=アプリシエイティブ・インクワイアリー)(第7章)
 人々がお互いに意義のある質問をしあう、組織の権限を分散させるための手法。
組織について自分がもつ夢を、どんなに実現不可能なものでも良いから話し合う。
●新しい世界のゲームのルール(第9章)
①規模の不経済
②ネットワーク効果
③無秩序の力
④組織の端の知識
⑤誰もが貢献したがる
⑥ヒュドラの反撃に気をつけろ
⑦触媒が触発する
⑧価値こそが組織
⑨測定して、観察して、仕切る
⑩フラットにせよ―でないと負ける

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ロザベス・モス・カンター)

鋭い人間行動観察を通してアファーマティブ(ポジティブ)・アクションクションを擁護。

企業のなかの男と女.jpgMen and Women of the Corporation.jpg Rosabeth Moss Kanter  .jpg Rosabeth Moss Kanter.jpg Rosabeth Moss Kanter
"Men and Women of the Corporation: New Edition"(2nd ed.1993)
企業のなかの男と女―女性が増えれば職場が変わる』['95年]

ロザベス・モス・カンター    .jpg 本書は、社会学者である著者が、1970年代に約5年間外部コンサルタントとして働いたある大企業での男性・女性社職員について描いたエスノグラフィ(行動観察記)であり、1977年の原著(Men and women of the corporation)出版から16年を経た1993年に社会的変化を追記し改訂新版が刊行されています(以下の章はこの改訂新版の邦訳版(1995年/生産性出版)に準拠する)。

 本書での議論を貫いているコンセプトは「職務が人を作る」というものであり、「人が置かれた状況の特徴が行動を作る」のであって、よって「人は同じ状況に置かれれば男性も女性も同じ行動や態度を示す」としており、その状況を規定するものとして「機会」「権力」「数」の3つを挙げています。

 第1章「企業のなかの男と女‥そこに住む人々」では、企業の発展と経営精神や経営学の発展を、経営精神の男性化という視点から捉えています。第2章「インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)」では、本書の舞台となった「インダスコ社」(仮称)のオフィスや文化、階級システムなどを紹介しています。第3章「管理者たち」では、その中で働く人々、特に管理監督職につく男女の問題を扱っています。

 第4章から第6章にかけては、著者の理論を説明する3つの要因である「機会」「権力」「数」について述べています。そして、第7章「理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)」では、経営学の2つの流れと、マルクス主義からの視点、また女性論として本理論と対立する理論を紹介し、検討を加えています。第8章「実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)」では、政策への応用が論じられ、企業組織の改革や女性の数を増やすための施策が提起されています。

1977-08-Rosabeth-Moss-Kanter.jpg 本書が出版された1977年は、米国がアファーマティブ・アクション(欧州ではポジティブ・アクションと呼ばれている)を制定して10年目にあたっており、当初は人種間の不平等を是正するためのこの政策が女性にも適用が拡大され、それまで男性の職場と考えられていた管理職や多くの専門職、ブルーカラー的職種に女性も積極的に雇用することが義務付けられたり奨励されたりしたわけですが、その結果、広い分野に女性が現われ始めていたものの、その数はまだ少なく、「初の女性」という冠がつきまとう珍しいものであったようです(特に、高給を伴う職務では、なかなか女性の進出が進まない現状があったようだ)。

1977 08 Rosabeth Moss Kanter

 そうした中で、著者の主張は、第一に、女性の問題とされる企業における機会や地位の問題を男性の問題でもあるとし、職場において男性に特有とされる態度や行動が、実は機会や権力の有無や数の不均衡から生じているとしている点に大きな意味があります。そして、第二に、トークニズムという概念を発展させ、男女の人数の比率の不均衡は、多くのプレッシャーを少数派であるトークンに与え(トークンとは、本来は、目につきやすいもの、象徴という意味)、男性でも女性でも少数派に属する方に不利を与えるので、外部からの介入によって人数の平等を積極的に図らねばならないとしています。

 つまり、著者は、企業の中の大多数派(男性)とトークン(女性)の組織行動の中に見られるこの現象を本書において理論化し、トークンはトークニズムのプレッシャーのため、いつまでも力を発揮できず、発揮しても例外としか評価されないため、社会の固定観念を変化させる力とはならず、これが「最初の女性○○」が現われてもその後になかなか人数が増えないことの1つの理由であり、トークンを増やすには、外部からの圧力を使っう必要があるとしてアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)を擁護しているわけです。

 こうしたトークニズムの概念に踏み込んでいくのは本書の中盤以降にかけてですが、本書で描かれている「インダスコ社」の職員の企業生活が、1980年代の米国にとっての不況の時代以前のものであり、長期雇用を前提とした従来の日本型雇用の下での企業生活と似ているため、意外と身近な印象を抱きつつ読み進むことができるのではないかと思います。また加えて、著者の組織の中での人間の行動に対する鋭い観察の成果が組織行動論として冒頭から冒頭から随所に散りばめられており、人事パーソンであれば啓発される面も多いかと思います(個人的には第3章「管理者たち」における管理職の分析などは優れていると思った)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 企業のなかの男と女‥そこに住む人々
第2章 インダストリアル・サプライ・コーポレイション‥舞台装置(要約)
第3章 管理者たち
第4章 機会
第5章 権力
第6章 数‥少数派と多数派
第7章 理論への貢献‥組織行動を決定する構造的な要因(要約)
第8章 実践への貢献‥組織的変革、アファーマティブ・アクション、職業生活の質(要約)

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロブ・ゴーフィー/ガレス・ジョーンズ)

「自分自身に忠実であれ」という困難なチャレンジにどう向き合うかをガイドしている。

なぜ、あなたがリーダーなのか?.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧版2.jpgなぜ、あなたがリーダーなのか 旧3.JPGRob Goffee & Gareth Jones.jpg Rob Goffee & Gareth Jones
なぜ、あなたがリーダーなのか[新版]――本物は「自分らしさ」を武器にする』['17年]/
なぜ、あなたがリーダーなのか? (ADL経営イノベーションシリーズ)』['07年]
"Why Should Anyone Be Led by You? With a New Preface by the Authors: What It Takes to Be an Authentic Leader"(2019)
Why Should Anyone Be Led by You?:What It Takes To Be An Authentic Leader.jpg ロンドン・ビジネススクール教授らが自らのリーダーシップ研究について纏めたもので(原題"Why Should Anyone Be Led by You?: What It Takes To Be An Authentic Leader" 2006)、日本でも2007年に一度邦訳が刊行されています(実は個人的にはそちらを読んだ)。内容的には、優れたリーダーに共通する資質を探るのではなく(所謂"特性論"を否定している)、各自が自分の持ち味を生かしてリーダーシップを発揮するためにはどうすればよいかを考えています。

 第1章「自分自身に忠実であれ」では、「みんながジャック・ウェルチになれるわけではない」として、いつ何時でもあてはまるようなリーダーシップ特性というものの存在を否定し、リーダーシップは状況に左右されるとしています。そして、「リーダーであるためには、自分自身に忠実でなければならない」ということをテーマに掲げ、優れたリーダーは、役割を果たす上で役立ちうる「自分ならではの持ち味」を認識し、活用しているとしています。また、「リーダーシップに関わる三つの原理原則」として、以下を挙げています。
 ①リーダーシップは状況に左右される
 ②リーダーシップは肩書きを問わない
 ③リーダーシップは関係性に根ざす

 第2章「自分らしく振る舞え」では、良いリーダーは自らの持ち味にいかにして気づき、活かすようになっていくのかを考察しています。そして、優れたリーダーは、周りの環境が著しく変化していく中にあっても、自分にとって無理なく心地よい「らしさ」を見失わないとしています。そして、その「らしさ」を周囲は評価するとして、自分らしくあるための実践的な取り組みのコツを、
 ①新たな状況、新たな経験に身をさらす
 ②フィードバックを正しく得る
 ③歩んできた道をみつめなおす
 ④生い立ちを振りかえる
 ⑤(仕事、家庭に次ぐ)第三の場所を見つける

 第3章「リスクに身をゆだねよ」では、リーダーとしての自分らしさの打ち出しが必然的に伴う、個人的なリスクテイクを論じています。リーダーとしての自分をさらけ出せば必然的に、その強みと共に弱みも見せることになるが、それはリーダーとしての魅力を損なわせるものではないとしています。そして、リーダーは、「自らのおかれた状況を前提とした上で」自分らしくあらねばならないとしています。

 第4章「おかれた状況を感知せよ」では、状況感知を考察しています。リーダーは、ものごとを察する力と見極める力を駆使して、今何がおこっているかを示すシグナルを捉え続けなくてはならず、状況を感知する力は、次の三つの相関しあう要素に分け得るとしています。
 ①観察すること、認識すること
 ②行動すること、適応すること
 ③状況を変えていくこと

 第5章「相応に妥協せよ」では、「状況にほどよく同調する」ことを論じています、リーダーとして自分らしさを押し出していくことは大切だが、しかし同時に、いつ、どこで、どれほど現状と折り合いをつければよいかも正しく判断できなければならず、良いリーダーは、状況への同調を通じて周囲に馴染もうとするとしています。また、ここでは、組織文化の基本的な形として、次の四つを挙げ、それぞれにプラス面。マイナス面があるとしています。
 ①ネットワーク型(社交性が高く連帯性が低い文化)
 ②傭兵型(社交性が低く連帯性が高い文化)
 ③断片型(社交性・連帯性ともに低い化)
 ④共同体型(社交性・連帯性ともに高い化)

 第6章「距離感を操れ」では、距離感のコントロールを論じています。思いやりや愛情を持って歩み寄るべきとき。ぬるま湯的な雰囲気に喝を入れるために距離をおくべきとき。優れたリーダーがこれをどう判断し、行動しているのかを明らかにしています。そして、距離感に関して留意すべきリスクとして、以下を挙げています。
 ①歩み寄り過ぎて同化してしまう
 ②親しさが未熟ことに気づかない
 ③本来の目的を見失う
 ④歩み寄るべきときに遠くにいる
 ⑤素晴らしくやり過ごしてしまう

 第7章「組織にリズムを刻め」では、コミュニケーションを考察しています。社会的距離の意図的なコントロールを破綻なくやりとげるには、熟達した意思疎通能力が必要となり、良いリーダーは、自分自身を皆がどう見ているか・感じているかに細心の注意を払うとしています。そして、良いリーダーのコミュニケーションのガイドラインを以下のように示しています。
 ①変化を必要十分に強いる
 ②心をつかみビジョンを届ける
 ③もてる「ヒト」資産を量る
 ④ゆっくりと急ぐ
 ⑤しかるべく報いる

 第8章「部下は何を望むか」では、フォロワーシップについて検討しています。リーダーシップは関係性に根ざすため、フォロワーについて知ることは大切であり、部下がリーダーに何を求めるかは、次の四つに括られるとしています。
 ①「本物」であること
 ②認めてくれること
 ③胸の高まりを呼びさましてくれること
 ④つつみこんでくれること

 第9章「リーダーシップ―その代償と褒賞」では、本書のまとめとして、物事がうまくいかないようなときに何がおこりうるかに触れ、また、リーダーに求められる倫理性についても述べています。

 リーダーシップ特性論に対する否定的な見解は決して新しいものではありません。但し、本書は、「自分自身に忠実であれ―そしてその自分らしさを磨けよ」ということがリーダーにとっていかに困難なチャレンジを伴うものであるか、そしてそれにどう向かうべきかを丹念に描き出したものであると言えます。そうした意味で自己啓発度の高い本ですが、心理学的アプローチだけでなく社会学的アプローチも駆使し、調査による裏付けもあるなどアカデミックな側面もあります。

 今回約10年ぶりに「新版」が"復刻"刊行されていることなどは、読者にとっても一定の普遍性と説得力を持って受け止められる内容であるということの証しではないでしょうか。個人的には、「他人に影響を与えうる」自分らしい「何か」を認識し活用することが一つポイントになるように思われました。

《読書MEMO》
●目次
序章 なぜ、あなたがリーダーなのか?
第1章 自分自身に忠実であれ
第2章 自分らしく振る舞え
第3章 リスクに身をゆだねよ
第4章 おかれた状況を感知せよ
第5章 相応に妥協せよ
第6章 距離感を操れ
第7章 組織にリズムを刻め
第8章 部下は何を望むか
第9章 リーダーシップ――その代償と褒賞
付録A――自らのポテンシャルを考えてみる
付録B――自分の立ち位置を考えてみる

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リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドと積極的に学び続ける姿勢。

ハーバードのリーダーシップ講義.jpgハーバードのリーダーシップ講義2.JPG 『ハーバードのリーダーシップ講義』.jpg
ハーバードのリーダーシップ講義 「自分の殻」を打ち破る』['16年]/「本to美女」2017.02.16 「悩める人のリーダーシップ」より

 本書(原題:What You Really Need to Lead: The Power of Thinking and Acting Like an Owner,2015)は、ハーバード大学のMBAプログラムでさまざまなリーダーシップ講座を担当し、管理職向けのプログラムでも教えていた著者によるもので、リーダーシップ能力は伸ばすことも習得することもできるというハーバードの自分を知る技術.jpgハーバードの正しい疑問を持つ技術.jpgことを前提とし、リーダーシップを定義することよりも、リーダーシップのベストプラクティスに重きを置いて、リーダーであり続けるための極意を説いた本です(『ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』('14年/CCCメディアハウス、『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術―成果を上げるリーダーの習慣』('15年/CCCメディアハウス)に続く同著者のハーバード・シリーズ第3弾)。
ハーバードの自分を知る技術 悩めるエリートたちの人生戦略ロードマップ』['14年]/『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』['15年]

 第1章「経営者マインドをもつ―経営者になったつもりで考え、行動する」では、リーダーシップに不可欠なものは経営者マインドであり、経営者マインドとは、意思決定者の立場でものを考え、自分の信念に従って行動し、自分の行動の結果に責任をもつことであるとしています。リーダーシップとは、人々にメリットをもたらすような価値を提供することであり、意思決定者としての自分の信念を見極め、勇気を出して行動し、人々に価値を提供することに注力するのがリーダーシップの柱であり、リーダーシップを発揮するのに地位も肩書も必要ではなく、リーダーシップの本質は心構えであり、それは地位でなく行動で決まるとしています。

 第2章「自分の殻を破る―意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける」では、リーダーであり続けることは並大抵ではなく、リーダーシップには努力が必要であり、常に学ぼうとする姿勢が必要であるとしています。学ぶ意欲を持続するには、わからないことを質問し、人の話を聴くことが大切であり、説得力のある主張を聴いたとき、それに耳を傾けて自分の意見を考え直す、そうした「自分の殻」を打ち破る柔軟な姿勢が、リーダーが陥りやすい孤立というリスクを回避し、ものごとの転換点を察知することにつながるとしています。

 第3章「リーダーとしてのスキルを伸ばす―二つのプロセスをマスターする」では、リーダーシップ能力を向上させ、リーダーが犯しやすい過ちを回避するには2つのプロセスがあるとしています。1つは、「明確なビジョンを描く」「優先事項を3~5項目選び出す」「方向性から外れていないか分析する」ことであり、これらのプロセスを行うと、リーダーとしての手腕を格段に向上させることができるとしています。2番目のプロセスは、「自分を知ること」であり、自分の強みと弱みは何か、自分は何が好きか、何に情熱を抱くかを知ることは、リーダーになるのに欠かせない土台のようなものであるとしています。

 第4章「真の人間関係を築く―自分をさらけ出し、グループの力を活用する」では、リーダーが孤立を避けるには、人々の協力が必要であり、真の人間関係を築くには、「相互理解」「互いへの信頼」「互いに対する尊敬の念」の3つの要素が必要であるとしています。また、人間関係を深めるには、「自分をさらけ出す」「相手に質問する」「アドバイスを求める」の3つを行う必要があるとしています。さらに、1人の人間が決定を下すよりも、グループのほうがより優れた分析結果や解決策を導き出すことができ、この「グループの力」を利用するには、多様な人材を集めて、問題を1つ提起して彼らに議論してもらうのがよいとしています。

 第5章「終わりなき旅をする―もう一段階上のリーダーをめざして」では、もう一段階上のリーダーをめざすための心構え(マインドセット)として、自分の人生に責任をもつこと、「正しい行為は報われる」と信じること、価値創造に目を向けることを挙げています。また、学習意欲を妨げる壁を乗り越え、窮地を脱するにはどうすればよいか、より良いリーダーになるためのツールを幾つか提案し、「世の中はあなたを必要としている」という激励の言葉で本書を締め括っています。 

 本書の目的は、読者にリーダーになるための習慣を身につけ、リーダーシップスキルを伸ばし続けてもらうものであり、そのためにとりわけ重要なのは、経営者マインドを身につけることと、積極的に学び続ける姿勢であるとしています。よりよきリーダーシップの発揮をめざす人にとって、マインセットを促す啓発度の高い内容であるとともに、ヒントとなるスキルが紹介されている実践の書でもあるかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに ――誰でもリーダーになれる 
リーダーシップは素質の問題? 
リーダーシップは習得できる? 
あなたにとってリーダーシップとは? 
リーダーシップの定義 
リーダーシップの共通認識を求めて 
問題点 
リーダーシップの基本は経営者マインド
さあ、始めよう
第1章 経営者マインドをもつ――経営者になったつもりで考え、行動する
経営者マインドとは 
意思決定者になったつもりで考える 
確信を実行に移すには 
価値創造に注力する 
リーダーに幻滅するとき 
地位も肩書きも関係ない 
リーダーがいない? 
リーダーシップになくてはならない要素 
第2章 自分の殻を破る――意欲的に学び、〝正しい疑問〞をもち、アドバイスを求め、孤立を避ける 
成長の分岐点 
質問しますか? 助言を求めますか? 
積極的に学び続ける姿勢 
孤立というリスク 
自分をさらけ出すのが怖い 
孤立に気づくとき 
練習あるのみ
第3章 リーダーとしてのスキルを伸ばす――二つのプロセスをマスターする
二つのプロセス 
ビジョン、優先事項、方向性の確認 
二番目のプロセス――自分を知ること 
嘘をついてもいいですか? 
二つのプロセスを行う意味 
第4章 真の人間関係を築く――自分をさらけ出し、グループの力を活用する
孤立のリスク 
人間関係で重要な三つのこと 
頼れる人がいない 
人間関係の築き方 
知っているようで実は知らない 
フィードバックを求める 
孤立する起業家 
昇進のジレンマ 
グループの力 
多様な人材をそろえる 
ブレインストーミングの力 
白紙の状態から構想を練る演習 第二弾 
人と協力して働くことを学ぶ 
第5章 終わりなき旅をする――もう一段階上のリーダーをめざして
自分の人生に責任をもつ 
「正しい行為は報われる」と信じる 
価値創造に目を向ける 
学習意欲を妨げる壁 
窮地を脱するには 
より良いリーダーになるためのツール 
世の中はあなたを必要としている

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従業員を大人として扱い、「自由と責任の文化を築く」ことこそが重要と説く。

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NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く
Patty Mccord
Patty Mccord.jpg 本書(原題:Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility,2018)は、世界最大級の動画ストリーミング配信事業会社ネットフリックスにおける先進的な人事戦略について、同社で長年CHO(最高人事責任者)を務めた著者がまとめた一冊で、シリコンバレーで話題になったスライド資料で、著者自身も作成に関わった「ネットフリックスカルチャーデッキ」を書籍化したものとも言える本です。

 本書で紹介されているネットフリックスが開発した新しい人材管理手法が前提としているのは、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが人材管理であるという一般的な考え方のものではなく、ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることであり、そのために、まず従業員に一貫してとってほしい行動をはっきり打ち出し、それを実行するための規律を定着させる「自由と責任の文化を築く」ことこそが経営陣のやるべきことであるとの考えです。

 第1章では、チームが最高の成果を挙げられるのは、メンバー全員が最終目標を理解し、その目標に達するために思うまま創造性を発揮して問題解決に取り組めるようにしなければならず、チームのやる気を最大に高めるのは、ともに切磋琢磨できる優れたチームメンバーが揃っていることであるとしてしています。

 第2章では、従業員一人ひとりが、自分とチームの任務だけでなく、事業全体の仕組みや会社が抱える課題を大局的に理解することが大切で、そのためには、経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションが常に必要であるとしています。

 第3章では、従業員は事業や自分の業績について、ありのままの真実を聞く必要があり、またそれを願っていて、正直に、適切なタイミングで、面と向かって気になる点を伝えることに勝る問題解決はないとしています。

 第4章では、意見を育み、事実に基づいて議論を行うことの重要性を説き、経営判断をめぐる白熱したオープンな議論に参加するのは、チームにとってスリリングな体験であり、チームは分析力を最大限に発揮してこれに応えるだろうとしています。

 第5章では、徹底して未来に目を向け、未来の理想の会社を今からつくり始めるべきであって、俊敏さを保ち、変化に素早く対応するために、将来必要となる人材を今から雇うべきであるとしています。

 第6章では、採用担当者の最も重要な仕事は、ハイパフォーマーを採用することであり、人材定着率はチームづくりの成功を測る指標にはならず、最もよい指標は、すべての職務に優れた人材を配置できているかどうかであるとしています。

 第7章では、その人材が会社にもたらす価値をもとに報酬を決めるべきであって、会社の成長のカギを握る職務に携わる人材には、その分野のトップレベルの給与を支払うことを検討すべきであるとしています。

 第8章では、「積極的に解雇する」というのはネットフリックス文化の中でもマネジャーにとって慣れるのが難しい部分ではあるが、必要な人材変更は迅速に行うことは重要であり、「過去に多大な貢献」をした人でも、「もっているスキルが会社に必要なくなれば」解雇せねばならず、また、円満な解雇のためには、その会社で働いていたことを誇れるような組織にすることが大事であるとしています。

 高給を用意するが、自分のキャリは自分でコントロールすることを求め、会社として従業員のキャリア開発をすることはせず(むしろ定期的に他社の面接を受けることを奨励している)、人事考課も経費規定もなく、休暇も自由裁量―ネットフリックスのこうした進歩的な人事管理手法は、米国企業の間でも自社では導入できないといった声が少なからずあったとのことですが、「従業員を大人として扱う」という考え方は、これまでの日本的経営における会社と従業員の関係の在り方が「働き方改革」等の流れの中で見直しを迫られている中で、我々に何らかの啓発的なヒントを与えてくれるようにも思いました。

《読書MEMO》
●章立て
序章  新しい働き方―自由と責任の文化を育む
第1章 成功に貢献することが最大のモチベーション
第2章 従業員一人ひとりが事業を理解する
第3章 人はうそやごまかしを嫌う
第4章 議論を活発にする
第5章 未来の理想の会社を今からつくり始める
第6章 どの仕事にも優秀な人材を配置する
第7章 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める
第8章 円満な解雇の方法
結論

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○経営思想家トップ50 ランクイン(シドニー・フィンケルシュタイン)

人材を次々と発掘して育てる"スーパーボス"の戦略の秘密を解き明かしている。

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SUPER BOSS (スーパーボス)―突出した人を見つけて育てる最強指導者の戦略』 Sydney Finkelstein
名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)
名経営者が、なぜ失敗するのか?.jpg リーダーシップ論の大家で、著書『名経営者が、なぜ失敗するのか?』('04年/日経BP社)でも知られる著者によれば、どの業界においても、一流と呼ばれる50人のうち半数近くは、1人かせいぜい2、3人の同じ才能養成者のもとで教えを受けていことが調査によって明らかになったとのことです。本書では、そうした、部下や弟子を次々と育てて、成功させる偉大なコーチ、才能の発掘者をスーパーボスと呼び、オラクルのラリー・エリソン、インテル創業者のロバート・ノイス、デザイナーのラルフローレン、映画監督のジョージ・ルーカスなど、ビジネス、スポーツ、ファッション、料理などの分野における18人のスーパーボスについての調査から、その戦略の秘密を解き明かしています。

 第1章では、スーパーボスは、①因習打派主義者(目的はあくまでも自分の仕事と情熱だが、関わっているうちに情熱が伝わって直感的に教育できるタイプ。芸術家肌のスーパーボスで、創造的天才と見なされやすい)、②栄誉あるろくでなし(勝利こそが至上命題であり、部下をこき使い、失敗も容赦なくとがめるタイプ。ただ、勝利のためには最高のチームが必要であることを理解しているため、人材はきっちりと育てあげる)、③養育者(部下の成功を心の底から気にかけ、自分の育成能力を誇りに思っているタイプ。善意にあふれ、活動家肌のボスである)の3つの種類があるとし、すべてのスーパーボスに共通する要素として、「恐れ知らずなほどの自信」「旺盛な競争力」「たくましい創造力」の3つがあるとしています。そして、以下、第2から8章で、並みのリーダーは使っていないテクニック、マインドセット、哲学、秘訣といったスーパーボスの戦略を示しています。

 第2章では、特別な何かを「持っている人を見つけ出す」のがスーパーボスであるとしています。スーパーボスが求める「特別な何か」とは、ずば抜けた知性、創造力、高い柔軟性を指し、スーパーボスはそうした資質を持っている人を見抜いて雇うとしています。

 第3章では、スーパーボスは「優秀な人材に限界を超えさせる」としています。スーパーボスは部下をオリンピック選手のように扱い、限界のその先を目指すようその背中を押すとしています。

 第4章では、「がんこなのに柔軟」であるのがスーパーボスの特長であるとしています。彼らが部下から新しいアイデアを絶えず引き出すことでビジネスを成功に近づけられるのは、ぶれないビジョンと変化への柔軟性を両立できるからだとしています。組織の目的は守りつつも、手段はあらゆる面で絶えず改良するというのが、彼らの心構えであるとのことです。

 第5章では、スーパーボスは「師匠と弟子のようにそばで教える」としています。スーパーボスは普通のボスよりも部下の成長に対して個人的な責任を大きく取り、部下やチームメンバーとの距離を縮めることに腐心するとしています。

 第6章では、スーパーボスは「細部を見ながら部下に任せる」としています。スーパーボスは口出しせずに監督・統制する巧みなスキルを持っていて、最初に絶対的なビジョンを示してゴールを明確にしたら、あとは一歩下がってなりゆきを見守るとしています。ここでは、部下を信じないせいで権限委譲に及び腰になるマネジャーではなく、かと言って仕事を丸投げするフリーライダーでもない、第三の道としての「関与型権限委譲」という概念が示されています。

 第7章では、「部下同士を競わせる、助け合わせる」といったことも、スーパーボスが取る戦略であるとしています。スーパーボスは、チームに強い競争心を植えつけつつも、部下の間に団結の精神が根づくようなメッセージを発し、その際に率先して成長の手助けをすることで、部下同士が助け合うための「コホート効果」を生み出すとしています。

 第8章では、スーパーボスは「優秀な元部下のネットワークをつくる」としています。スーパーボスの元部下は、スーパーボスから巣立っても完全には離れず、そうしたネットワークは、元部下が数年、数十年たってもスーパーボスに抱く深い感情のつながりの上に成り立っているのだとしています。

 第9章では、これまでの総括としての「スーパーボスになる方法」として、キャリア、監督業務、組織にスーパーボスのアプローチを最大限取り入れるにはどうすればいいか、"スーパーボス指数"の測り方や、"スーパーボスの戦略集"を実践に移すためのアイデアや取り組みを紹介し、さらに、経営者がスーパーボスを見つけるための質問項目や、従業員がスーパーボスのもとで成功するための基本原則を示しています。

 読んでいて、"スーパーボス"ってかなり超人的というかモーレツだなあという印象もありました。ただ、日本の企業はどうしても、組織に害を与えない人を優先して管理職にしがちな面もあると思われ、それでも一方で、本書で言う"スーパーボス"への期待も厳然とあるのではないかと思います。あとは、漫然とそうした期待を抱き続けているだけか、組織戦略として、そうした人材を発掘して育て、リーダーとしてのローモデルを確立し、スーパーボスを起点として人材育成の連鎖を築いていけるかの違いでしょう。その意味で、スーパーボスの戦略集とも言える本書は、突出した人を見つけて育てることができるスーパーボス像というものを把握する上でも、また、そうしたスーパーボスをどうやって見出すかということにおいても参考になるだけでなく、読者自身がスーパーボスの手腕に学び、どのように部下を育てていくかを考えるうえでも示唆に富むように思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リズ・ワイズマン)

リーダーにおける「消耗型」と「増幅型」の2類型を示す。啓発的で、分かり易く説得力がある。

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メンバーの才能を開花させる技法』['15年]/"Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart"/リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)
Liz Wiseman Recognized By Thinkers50 As Top Leadership Thinker
リズ・ワイズマン 2.jpgオラクル.png 本書(原題:Multipliers, Revised and Updated: How the Best Leaders Make Everyone Smart)の著者リズ・ワイズマン(Liz Wiseman)は、元オラクル社の重役であり、17年に渡ってオラクル・ユニバーシティのバイス・プレジデントとして、グローバル・リーダーの養成に携わった人で(現在は、シリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教える)、「Thinkers50」(最も影響力のある経営思想家トップ50)にも'13年、'15年、'17年と3期続けて選出されるなど、今、リーダーシップ分野で世界的に注目される女性の1人でもあり(共著者のグレッグ・マキューンはその著書『エッセンシャル思考』('14年/かんき出版)で日本でも知られる)、本書には、『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー、『本物のリーダーとは何か』のウォレン・ベニスなど、錚々たる顔ぶれが推薦の言葉を寄せています。

 第1章「なぜ、今『増幅型リーダー』なのか」では、リーダーの2つの類型として「消耗型リーダー」「増幅型リーダー」があるとし、消耗型リーダーは自分の知性に溺れ、メンバーを低く見て、組織にとって大切な知性と能力を損ない、一方、増幅型リーダーは天才をつくり、メンバーの知識を引き出すことで、組織の中に伝染力のある集合知を築くとしています。そして、増幅型リーダーの習慣として、①才能のマグネット:人を惹きつけ、その才能を最大限に発揮させる、②解放者:最高のアイデアを求める、③挑戦者:難しい課題に挑戦させる、④議論の推進者:議論を通して決定する、⑤投資家:責任を明確にする、の5つを掲げ、メンバーの能力を最大限に引き出すことで、増幅型リーダーは消耗型リーダーの二倍の能力を手に入れるとしています。

 第2章「『才能のマグネット』としての技法」では、消耗型リーダーは「帝国の構築者」として優秀な人材を獲得しながら、彼らを囲い込んで自分の利益のためにしか使わず、せっかくの才能を浪費するのに対し、増幅型リーダーは「才能のマグネット」として最高の人材を手に入れ、チームメンバーは十二分に活用され、次の舞台に飛躍できるとわかり、多くの人材がここに集ってくるとしています。そして、才能のマグネットとして、①どこにでも人材を探す、②天賦の才を発掘する、③才能を最大限に活用する、④障害を取り除く、の4つの実践を掲げ、才能のマグネットになるためには、①才能の発掘者になるとともに、②"雑草を抜く"ことも必要であるとしています。

 第3章「『解放者』としての技法」では、消耗型リーダーは「独裁者」として人々のアイデアや能力を抑え込むような、威圧的な環境を作りだし、その結果メンバーは自分を抑え、リーダーが賛成するような安全なアイデアばかり出し、委縮しながら働くようになるのに対し、増幅型リーダーは「解放者」として人々のアイデアと仕事を引き出すような、緊張感のある環境を作り出し、その結果、メンバーは最も大胆で素晴らしいアイデアを提案し、最善の努力を注ぐようになるとしています。そして、解放者として、①居場所を作る、②最高の仕事を求める、③素早い学びのサイクルを生み出す、の3つの実践を掲げ、解放者になるためには、①チップを上手に使う、②意見を区別して伝える、③自分の失敗を語る、の3つを挙げています。

 第4章「『挑戦者』としての技法」では、消耗型リーダーは「全能の神」として自分の知識の豊富さをひけらかすような指示を与え、その結果、組織はリーダーがやり方をわかっていることしか成し遂げられなくなり、上司の考えを憶測することに組織のエネルギーが消耗されるのに対し、増幅型リーダーは「挑戦者」として自分の知識を超えて行動できるチャンスを人々に提示し、その結果、組織全体が挑戦を理解し、それを受け入れる集中力とエネルギーを持つようになるとしています。そして、挑戦者として、①チャンスの種を撒く、②挑戦を掲げる、③自身を植えつける、の3つの実践を挙げています。

 第5章「『議論の推進者』としての技法」では、消耗型リーダーは「意思決定者」として少人数の内輪の人間で効率よく結論を出すが、組織の大部分を置き去りにするため、決定の健全性が疑われ、実行にいたらないのに対し、増幅型リーダーは「議論の推進者」として人々を議論に引き入れ、それがよりよい決定につながり、理解と実行が進むとしています。そして、議論の推進者として、①問題の枠組みを示す、②議論を盛り上げる、③「開かれた決定」を徹底する、の3つの実践を掲げ、議論の推進者になるためには、①厳しい問いを投げかける、②根拠を示させる、③全員を参加させる、の3つを挙げています。

 第6章「『投資家』としての技法」では、消耗型リーダーは「マイクロマネジャー」として重箱の隅をつつくようにメンバーを管理し、リーダーへの依存を生み出し、リーダーなしでは成果の出ない組織を作るのに対し、増幅型リーダーは「投資家」として人に投資して責任を与え、リーダーがいなくても自分自身の力で結果が出せるようにするとしています。そして、投資家として、①責任の所在を明らかにする、②人的資源に投資する、③最後まで責任を預ける、の3つの実践を掲げ、投資家になるためには、①誰がボスかをはっきり知らせる、②流れを見守る、③解決はメンバーの力で、④ペンを返す、の4つを挙げています。

 第7章「『増幅型リーダー』を目指すあなたに」では、正しい原則とツールを使って、適度な努力で最大の結果を得るにはどうすればよいかを説いており、「加速ツール」として、①両極を改善する:リーダーとしての自分の習慣を振り返り、両極を改善することに力を注ぐ、②あえて思い込みから始める:増幅型リーダーの思い込みを取り入れ、それに従って行動する、③ひとつの課題を30日間続けてみる:5つの習慣から1つを選び、更にその中から1つの実践項目を選択し、それを30日間続ける、の3つを掲げ、また、勢いを持続するため、①1つ1つ層を重ねる、②1年間問い続ける、③コミュニティを作る、の3つを挙げています。

 消耗型リーダーの性質を持つ人物が、増幅型リーダーに変身できるものなのか。これについて著者は、変身するには、次の段階を経なければならないとし、①増幅型リーダーに共感する、②自分の中の消耗型リーダーに気づく、③増幅型リーダーになることを決意する―の3段階を挙げています。また、増幅型リーダーになるために1つだけ何かするとしたらそれは何かという質問に対し、1つだけ挙げるとすれば「質問」であり、メンバーに考えを促すような、洞察に満ちた教務深い質問を心掛けることから始めることを促しています。

 消耗型リーダーvs.増幅型リーダーという対比を、帝国の構築者vs. 才能のマグネット、独裁者vs. 解放者、全能の神vs. 挑戦者、意思決定者vs. 議論の推進者、マイクロマネジャーvs. 投資家という対比に落とし込んでいるのが分かり易く、非常に啓発的な内容で、かつ、実在するリーダーを調査して書かれているため説得力があり、また、実例が多く記載されているため理解し易く、更には、増幅型リーダーと消耗型リーダーの考え方や行動が具体的に纏められている点で実践し易いという、なかなかスグレモノの1冊です(リズ・ワイズマンの近著『ルーキー・スマート』('17年/海と月社)も、ルーキー"というものを従来とは異なる視点で捉えており、お薦め)。

《読書MEMO》
序文──スティーブン・R・コヴィー
第1章 なぜ、今「増幅型リーダー」なのか
 メンバーを活かすリーダーは、たしかにいる
 ふたりのリーダーの物語
 「増幅型リーダー効果」とはなにか?
 増幅型リーダーの考え方
 増幅型リーダーの五つの習慣
 三つの発見
 実践法に入る前に
 より効果を上げる読み方
 *増幅型リーダーの方程式
第2章 「才能のマグネット」としての技法
 あなたは「帝国の構築者」か「才能のマグネット」か
 「才能のマグネット」とは?
 才能のマグネットの四つの実践
 消耗型リーダーはメンバーをどう扱っているか
 メンバーはやりがいを求めている
 才能のマグネットになるために
 *増幅型リーダーの方程式
第3章 「解放者」としての技法
 あなたは「独裁者」か「解放者」か
 「解放者」とは?
 解放者の三つの実践
 消耗型リーダーは環境作りができない
 「自発性」がカギになる
 解放者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第4章 「挑戦者」としての技法
 あなたは「全能の神」か「挑戦者」か
 ある挑戦者の失敗と喜び
 挑戦者の三つの実践
 消耗型リーダーはチャンスをつぶす
 「全能の神」と「挑戦者」を比較すると──
 挑戦者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第5章 「議論の推進者」としての技法
 あなたは「意思決定者」か「議論の推進者」か
 「議論の推進者」とは?
 議論の推進者の三つの実践
 消耗型リーダーは議論を避ける
 議論を盛り上げることの真意
 議論の推進者になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第6章 「投資家」としての技法
 あなたは「マイクロマネジャー」か「投資家」か
 「投資家」とは?
 投資家の三つの実践
 消耗型リーダーは依存体質を好む
 投資家には多くのリターンが待っている
 投資家になるために
 *増幅型リーダーの方程式
第7章 「増幅型リーダー」を目指すあなた
 「共感」で終わらず、「決意」しよう
 「手抜き」を成功させる三つのポイント
 勢いを維持するには?
 もう一度、効果を確認する
 かならず、変われる
 *増幅型リーダーになるために
資料──頭を整理し、実践に勢いをつけるために
資料A:調査プロセスについて
資料B:よくある質問
資料C:増幅型リーダーの顔ぶれ
資料D:議論の手引き
*自己評価したいなら......

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「模範的リーダーシップの5つの実践」を示す。豊富なケーススタディにより啓発される。

リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版] .jpgリーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]2.jpg  The Leadership Challenge.jpg  リーダーシップ・チャレンジ0_.jpg
リーダーシップ・チャレンジ[原書第五版]』['14年]/The Leadership Challenge: How to Make Extraordinary Things Happen in Organizations (J-B Leadership Challenge: Kouzes/Posner)(第6版,2017)/『リーダーシップ・チャレンジ』['10年]
James M. Kouzes, Barry Z. Posner
James M. Kouzes,  Barry Z. Posner.jpg 本書は、1987年に初版が刊行され全世界で200万部を超えて読み継がれている本であり、著者らは1980年代のはじめから、数千もの「自己最高のリーダーシップ体験」を聞き集め分析したといいます。今回の第5版も100を超すケーススタディを盛り込み、今日のリーダーが直面する課題にも応えるものになっているとのことです(原著は何年かごとに改版されていて既に2017年に第6版が出されている)。

 1章では、リーダーシップの基本原則を示しています。非凡なことを成し遂げるリーダーは例外なく「模範的リーダーシップの5つの実践」を行っており、それは、●模範となる、●共通のビジョンを呼び起こす、●プロセスに挑戦する、●人々を行動にかりたてる、●心から励ます、の5つであるとしています。また、一握りの偉大なリーダーが人々を高みに導くという考えは、明らかに間違っているし、リーダーが組織の規模や種類や経済環境によって生まれると考えるのも間違いであって、実のところ、リーダーシップとは誰にでも実践できるスキルと能力の組み合わせであるとしています。そして、ついていきたいリーダーに共通する4つの特質として、●正直である、●先見の明がある、●仕事ができる、●やる気にさせる、が挙げられるが、これらは、先に挙げた「模範的リーダーシップの5つの実践」と表裏一体であるとしています。そのうえで、以下の章で「リーダーシップの5つの実践と10の原則」をそれぞれ解説しています。

 2章と3章では、「模範となる」ための原則と行動を示しており、それは「価値観を明らかにする」ことと「手本を示す」こと、つまり「①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする」ことと、「②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す」ことであるとしています。

 4章と5章では、「共通のビジョンを呼び起こす」ための原則と行動を示しており、それは「未来を描く」ことと「人々を引き入れる」こと、つまり「③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く」ことと、「④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる」ことであるとしています。

 6章と7章では、「プロセスに挑戦する」ための原則と行動を示しており、それは「チャンスを模索する」ことと「実験しながらリスクをとる」こと、つまり「⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する」ことと、「⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる」ことであるとしています。

 8章と9章では、「人々を行動にかりたてる」ための原則と行動を示しており、それは「協働を育む」ことと「力を与える」こと、つまり「⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む」ことと、「⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める」ことであるとしています。

 10章と11章では、「心から励ます」ための原則と行動を示しており、それは「貢献を認める」ことと「価値と勝利を讃える」こと、つまり「⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める」ことと、「⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える」ことであるとしています。

 終章の12章では、誰もがすばらしいリーダーになれるとし、そのためには自分の重要性を知ること、そして何よりもリーダーシップを実践することが大切であるとしています。また、リーダーは常に謙虚で人間らしくあるべきであり、リーダーシップとは頭で考えるものではなく、心で感じるものであるとしています。

 「世界で最も読まれているリーダーシップのテキスト」とも言われ、構成上非常にかっちり纏まっているようにも見えますが、体系的な理論書と言うよりは、リーダーのための啓発書であるとともに、実践的ガイドブックであると言ってよいかと思います。そのことは、著者ら自身がイントロで、まず1章を読んだならば、その先はどの順番で読んでも構わないと述べていることにも表れているかと思います。但し、調査研究から生まれた本であると著者らが自負する通り、豊富なケーススタディはいずれもシズル感に溢れ、啓発度が高いものであり、「模範的リーダーシップの5つの実践」を説得力のあるものとしているように思いました。前向きのリーダーにお薦めしたい本です。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
◇模範的リーダーシップの5つの実践と10の実践
●模範となる
 ①自分の言葉で語り、共通の理想を確認することで、価値観を明らかにする
 ②共通の価値観に従って行動することで、手本を示す
●共通のビジョンを呼び起こす
 ③心踊るような崇高な可能性を想像し、未来を描く
 ④共通の夢に訴えて、人々を引き入れる
●プロセスに挑戦する
 ⑤自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する
 ⑥小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実験しながらリスクをとる
●人々を行動にかりたてる
 ⑦信頼を築き、絆を強めることで協働を育む
 ⑧意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める
●心から励ます
 ⑨卓越した成果を褒め、貢献を認める
 ⑩共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える

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チームを機能させるためには何が必要なのか、学習力・実行力を高める実践アプローチを説く。

チームが機能するとはどういうことか2.jpg チームが機能するとはどういうことか.jpg Teaming.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014/05 英治出版)/"Teaming: How Organizations Learn, Innovate, And Compete In The Knowledge Economy"(2012)

 病院、工場、役員室、災害現場など20年以上にわたって多様な人と組織を見つめてきた著者が、「チーミング」という概念をもとに、学習する力と実行する力を兼ね備えた新時代のチームづくりを描いた本です(Amy C. Edmondson,Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy,2012)。

 本書の原題は「チーミング」ですが、チーミングとは、組織が相互に絡み合った仕事をするために協働する「活動」を表す造語であり、それはチームといった静的なものとは異なり、動的な活動プロセスをさすものであるとのことです。本書では、組織がチーミングを通して成功するのに役立つ基本的な活動と条件について述べていて、以下のように全3部8章構成になっています。
(第1部)チーミング
  第1章 新しい働き方
  第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
(第2部)学習するための組織づくり
  第3章 フレーミングの力
  第4章 心理的に安全な場をつくる
  第5章 上手に失敗して、早く成功する
  第6章 境界を超えたチーミング
(第3部)学習しながら実行する
  第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
  第8章 成功をもたらすリーダーシップ

 第1部ではチーミングに焦点を当て、チーミングをしっかり行うための中心的活動について述べるとともに、チーミングとはどのように機能するものなのか、チーミングの仕方を学ぶにはどれくらい時間がかかるのか、チーミングをしているとき人々はどのような行動をとるのか、チーミングは一体どのようにして組織学習を生み出すのかといった疑問に答えています。第1章ではまずチーミングとは何かを明らかにし、今日の複雑な組織においてなぜそれが不可欠なのかを探り、次いで学習と知識を理解するための新たな枠組みを示しています。第2章では、チーミングの段階的プロセスをさらに詳しく述べ、成功しているチーミングは、次の4つの特別な行動を伴っているとし、さらに、チーミングと学習を可能にする、以下の4つのリーダーシップ行動を明らかにしています。
(成功しているチーミングにおける4つの特別な行動)
 ・率直に意見を言う
 ・協働する
 ・試みる
 ・省察する
 (チーミングと学習を可能にする4つのリーダーシップ行動)
 ・行動1 学習するための骨組みをつくる
 ・行動2 心理的に安全な場をつくる
 ・行動3 失敗から学ぶ
 ・行動4 職業的、文化的な境界をつなぐ

 第2部では、その4つのリーダーシップ行動について、さらに詳しく述べています。ここではチーミングの人間的な側面に焦点を当て、様々な組織的背景の中で人々がどのように協力するのかを詳細に見ています。具体的には、第3章でフレーミングの力を探り、効果的な協働と学習を促すためにリーダーはフレーミングによってどのようなことが出来るのかを説き、第4章では、心理的安全によって、チーミングの成功に必要な考え方やスキルや行動がどのように促進されるのかを見ています。第5章では、なぜ失敗が組織学習の根幹であるかを示し、失敗によって生まれるチャレンジを乗り越えるための具体的な行動を紹介しています。第6章では、様々な分野や部署、企業、さらには国の間にある境界をつなぐ重要性と課題を検証しています。そして、実際につなぐとどんなことが可能になるかを、2010年にチリのサン・ホセ鉱山で起きた、地下600メートルの岩の中に閉じ込められた33人の作業員の「不可能な」救出劇を糸口に検証しています。

 第3部では、個人や個人間の行動から組織としての実践に焦点を移しています。第7章では、それまでの章で述べた「実行」の新たなモデルとなる教訓や戦略をまとめ、たゆまぬ学習と改善を確実にする反復プロセスを診断、デザイン、実践するための具体的な手順を紹介し、第8章では、3つのケーススタディを通して、プロセス改善、問題解決、イノベーションなど得られるだろう様々な学習の結果を考察しています。1つ目のケースでは、他社にリードを許してしまった企業において業績を改善させるリーダーシップに注目し、2つ目のケースでは、組織中の人を協働させ、複雑な業務における難しい問題を解決するリーダーシップについて述べ、3つ目のケースでは、イノベーションを支援して、先駆的な製品やプロセスを生み出すようなチーミングを成功させるリーダーシップに焦点を当てています。

 以上が本書の"あらすじ"ですが、要するに、チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことであり、また、組織間の境界を超えてつながり合うこと、つまり境界をつなぐことでもあるということになります。

 成功しているチーミングの特別行動を、「率直に意見を言う、協働する、試みる、省察する」の4つに定義し、学習するための組織づくりには「学習するための骨組みをつくる、心理的に安全な場をつくる、失敗から学ぶ、職業的、文化的な境界をつなぐ」という4つの行動が不可欠であるというのが著者の主張であり、また、そうした主張が、以下に展開される様々なケーススタディを通して説得力を持つものとなっており、また、各章の章末に「リーダーシップのまとめ」と「Lessons & Actions」というコーナーが設けられているという点でも分かり良いものとなっています。協働を推し進め、パフォーマンスを向上させたいと考えるリーダー、協働を後押ししたり、チームづくりの訓練をしたり、組織学習を実践したりする人事パーソンに是非お薦めしたい本です。

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