【2753】 ◎ マーシャル・ゴールドスミス (斎藤聖美:訳) 『コーチングの神様が教える後継者の育て方 (2009/09 日本経済新聞出版社) ★★★★☆

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○経営思想家トップ50 ランクイン(マーシャル・ゴールドスミス)

第一人者エグゼクティブ・コーチによる、CEO後継者選びとそのコーチングの在り方指南。

コーチングの神様が教える後継者の育て方2.jpg コーチングの神様が教える後継者の育て方.jpg   コーチングの神様が教える「できる人」の法則 2.jpg コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方 ,200_.jpg
コーチングの神様が教える後継者の育て方』『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方
マーシャル・ゴールドスミス.jpg 本書の著者マーシャル・ゴールドスミス(Marshall Goldsmith)は、エグゼクティブ・コーチングの第一人者であり、GEのジャック・ウェルチをはじめ、世界的大企業の経営者80人以上をコーチしたことで知られる人で、日本にも2008年、2011年、2013年、2014年と来日して講演やセミナーを行っています。著書の「コーチングの神様が教える」と冠したシリーズでは、本書『後継者の育て方』(原題:Succession: Are You Ready?)の前後に『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(原題:What Got You Here Won't Get You There)('07年/日本経済新聞出版社)と『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』(原題:Mojo: How to Get it, How to Keep it, How to Get it Back If You Lose it)('11年/日本経済新聞出版社)が訳出されています(共に共著)。

コーチングの神様が教える「できる人」の法則.jpgコーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方.jpg 最初の『「出来る人」の法則』では、経営トップになる目前の段階のエグゼクティブに見られる数々の"悪い癖"を指摘し、この癖を直さなければビジネスでも人生でも成功しないとして、そのためにはどうすべきかを説いています。後の『「前向き思考」の見つけ方』では、目標を達成するリーダーに必要なモジョ(アイデンティティ、成果、評判、受容)を手に入れるにはどうすればよいかを説いています。そして、(この真ん中にあたる)本書『後継者の育て方』では、後継者を選び、育て、地位をバトンタッチするという経営者としての最大の仕事を失敗しないようにするにはどうすればよいかを、後進に道を譲ることに備える、後継者を選ぶ、後継者をコーチングする、バトンを渡す、の4つの局面について説いています。

 パートⅠ「自分自身の準備をはじめる」では、第1章「ペースを落とす」で、後継者にリーダーシップのバトンを渡すには、まず、自分の「次の人生」を楽しく過ごす何かを計画しはじめ、自らの仕事のペースは落として次の人生に備えることが重要であるとしています。そして、第2章「手放して、前に進む」では、仕事から離れることは容易ではないが、特権、権力、ステータス、人間関係といったさまざまなものを手放して、自らが去る準備をするかたわら、別の形で人の役に立つ方法をみつけ、「次の人生」をすばらしいものにすべきであるとしています。交代のプロセスを始めたら、経営から手を引き、後継者を育成することに力を注ぎ、交代の時期が近づいたら、後継者の育成をやめ、新たな人生を築くことに力を注ぐようにとのことです。

 パートⅡ「後継者を選ぶ」では、まず、第3章「誰を後継者に選ぶか」で、外部から招聘したCEOが失敗したときのコストの大きさから、可能な限り社内で後継者を育成すべきであるとしています。そして、第4章「社内でコーチングする候補者を評価する」では、次期CEOのコーチングに際して、自分がその人物が次期CEOになることを心から望んでいるか、自分に正直に問うてみるとともに、その候補者は、重要な関わりを持つ人たちから公平な機会が与えられるか(重要な関わりを持つ人たちがその候補者に対して変えがたい否定的見解を抱いていないか)、候補者自身は心底変わろうと努力するか(昇進することしか考えていないといったことはないか)、といった評価のポイントを述べています。

 パートⅢ「後継者をコーチングする」では、第5章「コーチングにとりかかる」で、エグゼクティブ・コーチのあり方を説き、後継者は、CEOになる前にCEOとしてどのように行動するかを学んでおく必要があり、なった後では遅すぎるため、後継者の長所と課題を特定しなければならないとしています。そして、第6章「CEOのコーチ・ファシリテーターになる」では、後継者の過去の360度フィードバックなどを見直すことで、CEOの立場で成功するためのヒントを集め、育成の目標を設定しなければならないとしています。また、コーチングのプロセスに重要な関わりを持つ人を巻き込み、後継者が彼らから学ぶよう手伝う、言わばファシリテーターの役割を(現CEOが)担う必要があるとしています。

 パートⅣ「バトンを渡す」第7章「すばらしい門出」では、後継者に、彼が「選ばれた人」であることをどのように知らせるか、また、自分自身はどのようにして会社を去るべきかが書かれています。

 基本的には、トップがいかに後進に道を譲ればいいか、その際何を後継者に教え伝えるか、その心構えを含めて丁寧に書かれた啓蒙書です。エグゼクティブ・コーチングというのは、まだ日本ではそれほど行われていないかもしれません。CEOが一人の後継者を育成するケースに絞っているという意味では特殊であるかのように見えますが、著者自身が述べているように、人生の転換期にあるリーダーであれば誰でも使えるものとなっています。また、著者は、起業家タイプのリーダーの方が、大企業のCEOよりも、本書からヒント得られるところが大きいのではないかとも書いています。人事マニュアル本のように、リーダー交代を計画する際に考慮しなければならないことをすべて書き出したりはしていません。交代時の人間的な側面、行動に関わる側面に焦点を絞って書かれており、そのことが逆に、人事パーソンにとっては新鮮に感じられるかもしれません。コーチの視点を人事の視点というふうに置き換えて読めば、更に興味深く読めるかと思います

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