【2780】 ◎ 野村 正實 『「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?―「ブラック・アンド・ホワイト企業」としての日本企業(シリーズ・現代経済学13)』 (2018/08 ミネルヴァ書房) ★★★★☆

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タイトルの疑問に答えるブラック・アンド・ホワイト企業論。「日本企業論」として説得力はあった。

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「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?:「ブラック・アンド・ホワイト企業」としての日本企業 (シリーズ・現代経済学)』(2018/08 ミネルヴァ書房)「電通事件」産経ニュース

 ブラック企業に関する多くの本が出版されていますが、ブラック企業とは、ブラック企業被害対策弁護団の定義によれば、「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」であるとのこと。しかし、従業員を過労死・過労自殺まで追い込む企業はこうした企業だけではなく、例えば、世間に大きな衝撃を与えた女性新入社員の過労自殺事件があった大手広告代理店(電通)は、権威ある人気企業であって狭義のブラック企業に当たらず、それ以外にも、過労死・過労自殺が発生する現場は多くの一流企業であるとのこと。こうした状況を捉え、本書では「ブラック・アンド・ホワイト企業」という概念を提起しています。

 著者によれば、世間体が良くて高給だけれども労働条件が劣悪であるという、ブラックな部分とホワイトな部分の両面を持つ企業がブラック・アンド・ホワイト企業の範疇に入り、実は日本の多くの企業は白か黒かという二分法で分類できるものではなく、大手企業の大半はこのブラック・アンド・ホワイト企業に当てはまるとのことです。そこで本書は、なぜ世間で一流とされている企業の多くも、こうしたブラック企業的特性を持たざるを得なくなったのかを考察しています。

 第1章では、日本企業独特の定期採用について、第2章では入社式と新入社員研修について文献等から考察し、それらが諸外国との比較において極めて特異な性質を帯びたものであることを指摘しています。そして、第3章において、日本企業は共同体(ゲマインシャフト)的上部構造と利益組織(ゲゼルシャフト)的土台から成り、ブラック・アンド・ホワイト企業は共同体的上部構造を利用しながら利益組織という本質を実現しようとしているとしています。

 さらに第4章では、日本企業の労働組合の多くは、戦後に始動したときは実は労働組合ではなく、会社の一部としての「従業員組合」あり、それは今も変わらず、組織率と活力が長期低落するのは必然だったと、この従業員組合について歴史的に俯瞰し、経営と相対的に未分化な従業員組合が、共同体的上部構造が支配的なものとなる要因となったとしています。続く第5章では、その結果として、会社が従業員の全時間を掌握することになり、その行きつく先がブラック・アンド・ホワイト企業であると指摘しています。

 つまり、ブラック・アンド・ホワイト企業が求めるものは「24時間の企業人」であり、その入り口が定期採用であり、会社への従属感は入社式・新入社員研修で決定的となるとのこと。「24時間の企業人」になれば、その人の主体的行動が自ずから会社の利益組織的土台と共同体的上部構造に寄与することになり、社風を内面化した従業員にとっては会社はいい会社(ホワイト企業)であるが、「24時間の企業人」になってしまえば、不払い残業も含めた労働時間は無限になり、限界の手前で止まれず、過労死・過労自殺が起きる―これが、大半の従業員によってホワイト企業と思われていた会社で過労死・過労自殺が起きる、ブラック・アンド・ホワイト企業の論理であるとことです。

 なぜ会社への従属感が形作られ、社風は内面化されてしまうのか。「24時間の企業人」が、会社を責めるのではなく、自らの至らなさを遺書に書いて自殺するような異常な事態の背景には、日本の社会と会社の相互関係から生み出されたブラック・アンド・ホワイト企業が、日本社会の旧来の価値観と慣行を再生産しているということがあり、さらに、会社人間を「企業戦士」と呼ぶような、日本における異常なまでの精神主義にも問題があるとしています。

 著者は、過労死の防止では罰則規定の整備などの法改正を進めるべきだとしつつ、一方で、法改正が進んでも現実の改善はゆっくりとしか進まないだろうとしています。それは、本書で詳しく述べられている、日本の会社や社会が有する歴史的体質のためであり、やや悲観的な見方でもありますが、まず、そうした歴史的見地から日本企業の在り方を見直してみるのも必要なことではないかと思いました。「日本企業論」としては説得力はありました。

《読書MEMO》
●目次
序 章 ブラック企業論への疑問
第1章 特異な日本の採用・就職
 「定期採用」と「中途採用」
 ウソがまかり通る定期採用の世界
 採用スケジュール
 「初任給」
 学歴フィルター
 採用差別
 過剰な自己PRの強要
 1990年代以降のいっそうの苛酷化
 身元保証という江戸時代からの悪習
 定期採用の本質
第2章 入社式と新入社員研修
 入社式
 戦前の新入社員
 ドーアによる新入社員研修の観察
 ローレンによる新入社員研修の観察
 「ウエダ銀行」の新入行員研修
 伊藤忠商事の新入社員研修
 ローレンによる日米比較
 新入社員研修の日本的特色
 会社の修養主義
第3章 会社の共同体的上部構造
 ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
 共同体的上部構造と利益組織的土台
 共同体的上部構造としての「社風」
 松下電器産業と本田技研工業の交流研修会
 尾高邦雄の日本的経営=共同体論
 「経営家族主義」の「実証的」根拠
 戦前における「終身雇用制」?
 経営家族主義イデオロギーの不存在
 高度成長期における「終身雇用制」の成立
 戦前の会社身分制
 俸給と賃金
 身分制下の目に見える差別
第4章 従業員組合----「非常に非常識」な「労働組合」
 敗戦後における従業員の急速な組織化
 戦後に結成された組合を何と呼ぶべきか
 従業員組合の特徴
 従業員組合の成立根拠にかんする二村説
 従業員組合の原形
 末弘厳太郎による観察
 藤林敬三による観察
 従業員組合の自然な感情
 労働組合として「非常に非常識」な行動様式
 争議中の賃金の後払い
 改正労組法と従業員組合への利益供与・便宜供与
 従業員組合の本質
 従業員組合による共同体的上部構造の形成
 従業員組合の興隆と衰退
 「労働組合」の重層的定義
 会社による共同体的上部構造の維持・展開
 トヨタにおける「労使宣言」
第5章 会社による従業員の全時間掌握
 利益組織的土台に奉仕する共同体的上部構造
 労働時間とは何か
 戦前における工場労働者の労働時間
 ILO条約と8時間労働制
 トマス・スミスの指摘
 官吏の執務時間
 社員の執務時間
 労働時間をめぐる戦前の負の遺産
 社員の執務時間と労働者の労働時間の「統一」
 軟式労働時間制
 執務時間と労働時間の融合
 長時間の不払労働
 「自主的な」QCサークル
 低い有給休暇の取得率
 トヨタ過労死事件
 名古屋地裁の判決
 会社による共同体的上部構造把握の行きつく先
 過労死・過労自殺とジェンダー
終 章 自己変革できないブラック・アンド・ホワイト企業
 ブラック企業の指標
 ブラック・アンド・ホワイト企業への道

     




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