【2777】 ◎ フランシス・ヘッセルバイン (谷川 漣 :訳) 『リーダーの使命とは何か (2012/09 海と月社) ★★★★☆

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リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるもの。

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リーダーの使命とは何か』['12年]Frances Hesselbein at TEDあなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』['13年]

Hesselbein2.jpg 本書(原題:Hesselbein on Leadership)は、17歳で父が他界、大学進学を断念して就職、22歳で結婚、出産後にガールスカウトのボランティアを始めて頭角を現し、ついには全米ガールスカウト連盟初の現場出身CEOとなり、さらにドラッカー財団の初代プレジデント兼CEOとなり、大統領自由勲章を受勲し、『アメリカ陸軍リーダーシップ』('10年/生産性出版)の共著者でもあるというフランシス・ヘッセルバイン(1915年生まれ、2018年12月現在満103歳)が、リーダーシップについて述べたエッセイをまとめたものです。

 Ⅰ「『どうやるべきか』から『どうあるべきか』」では、リーダーシップとは「どうやるべきか」ではなく「どうあるべきか」の問題であるとしています。1章では、これからのリーダーは、「どうあるべきか」に専心する人であるとして、その行動特性を列挙し、2章では、今の若者はシニカルになりがちだが、実はこうしたリーダーは身近にいるものだとしています。3章では、自らはリーダーとして「イノベーション」「融合」「機会」「価値観」という四つのカゴを持つようにしてきたとし、4章では、リーダーには女性も男性もなく、もし仮に女性的と形容されるマネジメントの特長があるとすれば、それは男女関係なく、有能なリーダーの共通の資質であるとしています。5章では、よいマナーや礼儀正しさは、組織全体によい人間関係を確立するために不可欠であるとし、真摯に人と向き合い、尊敬の念を表すことのできるリーダーが求められるとしています。6章では、リーダーには自分でつくりだす壁と組織がつくりだす壁の2つの壁があるとして、それぞれの壁について解説し、壁を見極め、乗り越えなければならないとしています。7章では、リーダーが交代する際に、称賛される交代となるために必要な四つのステップを挙げています。

 Ⅱ「新時代のリーダーは、こうなる」では、これからのリーダーはどのようになっていくかを述べています。8章では、リーダーがピラミッドの上に立つ時代は終わり、リーダーは円の中心的存在として、ミッションの達成やイノベーション、ダイバーシティを目指すマネジメントを行うことになるとしています。9章では、これからのリーダーはミッションを常に意識し、絶えず学び、絶えず教え、才能よりも勤勉さを尊ぶとしています。10章では、ひとつの組織が理想の組織に変わるための八つのポイントを示しています。11章では、組織には「家をきれいに保っておく」ことが求められるとし、それはどういうことか、そのための三つの要件を挙げています。12章では、今日の組織は本気でリーダーを育成することが求められており、すぐれた組織の共通点として、リーダーシップ養成に力を入れていることが挙げられるとしています。13章では、組織が10年後も成長しているためのチェックリストを示しています。

 Ⅲ「外に飛び出し、社会を変えよう」では、あらゆる組織のリーダーたちは、自分の組織の壁を越えたリーダーシップも発揮しなければならないとしています。14章では、官・民・NPOのトライアングルの構築の実例を挙げています。15章では、組織を超えて「共通の言葉」で話し、協力し合う必要があるとしています。16章では、これからの企業人は非営利組織に注目すべきであるとしています。17章では、多様性の時代の組織づくりはどうあるべきかを考察し、生産性のある組織を実現する五つの条件を挙げています。18章では、リーダーとは、献身的なリーダーシップを発揮して初めて真のリーダーになるとし、とりわけ、こどもたちを救うということをリーダーの使命として挙げています。19章では、ドラッカーが『未来社会の変革』の冒頭で書いた「都市を文明化する」という仕事に関して、現実にどこから手をつければよいか、コミュニティとのパートナーシップの規範となる事例を紹介しています。

 200ページ足らずのソフトカバー本ですが、密度は濃いです。リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるものであり、ただし、リーダーを育てるには相当の時間を投入する必要があり、それによって、リーダーが育成される―ということを改めて思い知らされる、啓発度の高い本です。また、同著者の『あなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』('13年/海と月社)も280ページ程度と本書よりはやや厚いですが、本書同様に読みやすく説得力のある本です。

《読書MEMO》
目次
世界の重鎮たちはなぜ、ヘッセルバインに一目置くのか。―ジム・コリンズ
困難から逃げないあなたへ
Ⅰ「どうやるべきか」から「どうあるべきか」へ
  1章 「どうあるべきか」のリーダーとは?
  2章 ヒーローは身近にいる
  3章 四つのカゴを持ち歩く
  4章 リーダーに、女性も男性もない
  5章 礼儀正しさの効用
       よいマナーはリーダーの味方
       メンバーへの敬意の示し方
  6章 リーダーに立ちはだかる二つの壁
  7章 称賛されるリーダー交代の方法
       理事会とのやり取り
       交代までの四つのステップ
Ⅱ 新時代のリーダーは、こうなる
  8章 ピラミッドを円に変える
  9章 あなたは「善きサマリア人」か?
       お題目だけのミッションならいらない
       絶えず学び、絶えず教える
       才能より勤勉さを尊ぶ
  10章 理想の組織に変わるための八つのポイント
  11章 「家」をきれいに保つ
       三つの要件を満たす
       自分の「家」をじっくり見つめる
  12章 本気でリーダーを育成する
       すぐれた組織の共通点
       五つの質問に答える
  13章 一〇年後も成長しているためのチェックリスト
Ⅲ 外に飛び出し、社会を変えよう
  14章 官・民・NPOのトライアングル
  15章 「共通の言葉」で話せる人に
  16章 企業人は非営利組織に注目せよ
       NPOを評価すべき理由
       メンバーのやる気をかきたてる態度
  17章 多様性の時代の組織づくり
       口先だけでは通用しない
       生産性のある組織を実現する五つの条件
       新たな現実をチャンスに変える
  18章 子どもたちを救う、という使命
       企業も無縁ではない
       なぜ、献身が必要なのか
       子どもを気にかけない社会の不幸
  19章 実例なら、ここにある
理想の組織に変わるための八つのポイント(10章)
①周囲に目を配る
いろいろな本や記事、調査結果などから、自分達の組織に影響を及ぼしそうなトレンドを見極める。常にこうした姿勢でいれば、転換プランに欠くことのできない情報も得られるようになる。
②ミッションを再確認する
周囲の環境や顧客のニーズは変化するため、ミッションは見直し、必要に応じて改訂する必要がある。ミッションステートメントとは、自分達の存在意義、目的の説明である。リーダーは、マネジメントとは目的ではなく手段であることを理解し、自分勝手なマネジメントのためのマネジメントではなく、ミッシ ョンのためのマネジメントを行わなければならない。
③階層を禁じる
組織を転換するためには、メンバーを組織の箱から解放し、柔軟で流動的なマネジメント体制をつくりだす必要がある。スタッフの役割や地位を同心円状に、系統的に配置することで、職務をローテーション化することが可能となる。これによってメンバーは円を描くように移動し、新しいスキルを学び、経験の幅を広げていく。
④「天の声」に疑問をもつ
絶対神聖なタブーなどつくってはならない。どんな方針や慣行、前提に対しても、疑問の声をあげていくべきである。本気で組織を変えようとするなら、「計画的廃棄」も実行すること。
⑤言葉の力を駆使する
リーダーは明瞭で首尾一貫したメッセージを何度も送らなくてはならない。メンバーや顧客の心を明るく照らし出すような強力なメッセージを発しながら、自分の声で組織を導き、よりよいコミュニケーションをとっていくこと。
⑥リーダーシップを分散させる
いかなる組織も、一人のリーダーではなく、多くのリーダーを持たなくてはならない。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうこと。
⑦「後ろから押す」ではなく、「真正面から導く」
リーダーは何もせず、風見鶏のようにただ待っていたりはしない。組織に影響を及ぼしそうな問題に立場を明言し、企業やその価値観、原則を具現化した存在としてふるまう。
⑧業績を評価する
進歩のためには、自分自身を評価することが不可欠である。転換のプロセスにおける、ミッション、目標、目的は最初に明確にしておく。目標と評価の尺度を設定して初めて、転換への道のりを歩み出すことができる。

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