【2772】 ◎ ジョセフ・L・バダラッコ (夏里尚子:訳) 『静かなリーダーシップ(Harvard Business School Press)』 (2002/09 翔泳社) ★★★★☆ (○ 日本経済新聞社 (編) 『企業変革の名著を読む (2016/12 日経文庫) ★★★☆)

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

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静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
倫理の死角2.jpg8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

      
       [Kindle版]



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