【2770】 ○ 岡田 康子/稲尾 和泉 『パワーハラスメント 〈第2版〉 (2018/08 日経文庫) ★★★★

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パワハラについて分かりやすくまとまっている。職場の上司には読み(読ませ)やすい本。

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パワーハラスメント〈第2版〉 (日経文庫)

 本書は、コンサルティング会社の代表で、「パワーハラスメント」という言葉を生み出し、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の委員も務めた著者によるもので、2011年に刊行された第1版を、厚生労働省の報告書や最近の裁判例など、直近の状況を踏まえて全体的に見直し改定した第2版です。

 第1章では、近年パワハラ相談は急増し、労災認定されて会社の責任が認められるケースも多くなっていることをデータで示しています。背景には、パワハラという言葉が普及したことで、何でもパワハラにする部下もでてきたりしたこともあり、一方で裁判例を見ると、加害者だけでなく企業にも責任が問われるケースも増えており、パワハラは今や社会問題化しているとしています。

 第2章では。パワハラとはそもそも何か、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の討議などを経て定められた定義を改めて詳しく説明するとともに、実際に職場でのどのような言動がパワハラとされているのか、自社の調査結果をもとに分析しています。著者は、パワハラは、特別の人が起こす特別な問題ではなく、仕事熱心な上司が結果的にパワハラをしてしまうことが多いとして、指導がパワハラへとエスカレートするステップを示すとともに、パワハラが起きる心理的メカニズムから、そうした行動を変えるヒントを探っています。また、パワハラが起きやすい職場として、閉鎖的な職場、忙しすぎる(暇すぎる)職場、マネジメントが徹底されていない職場を挙げています。

 第3章では、セクシュアルハラスメント、モラルハラスメント、マタニティハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、職場で起きるさまざまなハラスメントを整理しています。そして、これらのうち、モラルハラスメントはパワハラと同じ意味であるとしています。また、これらの職場で起きるハラスメントに見られる共通点として、①NOと言えない力関係がある、②侮辱された感覚をともなう、③だれもが被害者にも加害者にもなる、④エスカレートする、⑤言語と非言語で行われる、といった特徴があるとしています。

 第4章では、パワハラと指導の違いはどこにあるのかを、判例をもとに創作したケースや新聞報道などから、11のケースについて考察しています。著者は、各ケースに共通する部分を見ていくと、裁判においてパワハラかどうかを判断する決め手としては、「加害者の行動が、客観的に見て指導の範囲を逸脱しているかどうか」が最も重視されているとしています。

 第5章では、パワハラ問題への対象法を考察しています。まず、必ず対処すべきレベルのパワハラ問題(レベル1:犯罪行為にあたる、レベル2:労働法にからむ問題がある、レベル3:社員がメンタル不全になる)と、会社や部門によって対応が異なるレベル(レベル4:排除―嫌悪や怒りを部下にぶつけてしまう、レベル5:過大要求、レベル6:誘発―部下側の問題から誘発されるパワハラ)に分け、それぞれについての対処法を示すとともに、常識のない部下をどう指導するかを説いています。

 最終章である第6章では、パワハラにならないコミュニケーション術について考察しています。ここでは、効果的なコミュニケーション法について書かれていて、メールやLINEなどで叱責を伴う指導をしないこと、部下への指示が「業務上必要なのか」を常に問うことを説き、どのような言葉で伝えたらいいのかを解説しています。さらに、言葉以外のメッセージも重要であることなどを説いています。

 「やってはいけない行為を列挙するようなパワハラ防止対策」には限界があるとし、また、上司と部下の関係もが変わってきており、「叱る」ということが有効かどうかも検討してみる必要があるとしているのが、個人的には印象に残りました。

職場のハラスメント 中公新書.jpg 以前に『職場のハラスメント』(2018/02 中公新書)を読みましたが、そこでは「パワハラ」という言葉の問題点(コンサルタンタントの造語が普及し、厚生労働省がそれに便乗するような形で意味づけしたため、世界基準である「ハラスメント」とは別の日本独自の概念になってしまっているということ)を指摘し、「ハラスメント」という包括的な概念を用いることを提案していました。その「パワハラ」という言葉を生み出したのが本書の著者である岡田康子氏です。

 ただし、本書においては、第3章の「モラルハラスメント」の説明の所で、著者らは、モラルハラスメントという概念を提唱したフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌと2004年に会談し、パワハラとモラハラは、職場に限定して考えると、ほとんど同じことを言っていると合意したとのこと。この辺りは、学者と実務者の違いもあるかもしれません。

 『職場のハラスメント』も本書も啓発書としてはオーソドックスであり、またハラスメントの事例も豊富で、類型整理などもよくまとまっている点では同じですが、『職場のハラスメント』の方が"教養系"の色合いがやや濃いように思われたのに対し、こちらはより実践的で、かつ分かり易く書かれていて、職場の上司である人が手に取って読み易いものとなっています。もちろん人事パーソンも一読しておいて損はないかと思います。

      



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