【2765】 ◎ 本間 浩輔 『残業の9割はいらない―ヤフーが実践する幸せな働き方』 (2018/07 光文社新書) ★★★★☆

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「働き方改革」は組織風土改革。自社における「意識・制度」両輪での働きかけを紹介。

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残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方 (光文社新書)』['18年]

 ヤフー上級執行役員として数々の人事施策を提唱してきた実務家であり、立教大学経営学部の中原淳教授との共著『会社の中はジレンマだらけ』('16年/光文社新書)などの著書もある著者が、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の働き方改革論を述べた本です。

 第1章では、ヤフーが導入した「週休3日制(選べる勤務制度)」を例に、働き方改革の本質や目的について述べています。著者は、この「週休3日制」という制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあり、「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進めようとしている働き方改革にほかならないとしています。つまり、働き方改革と成果主義は表裏一体であるということです。また、ヤフーは、「企業が成長しなくてはならないのは、企業の幸せと社員の幸せのため」とし、働く社員が幸せになれない企業が長期的に成長するのは難しいとしています。

 第2章では、週休3日制のほかに、テレワーク、1on1ミーティング、新幹線通勤、サバティカル制度など、ヤフーが採り入れている制度と、そのバックにある考え方を紹介しています。また、こうした制度の成否のカギを握るのは、職場の上司など、現場の人事力であるとしています。

 第3章では、働き型改革を進めていくうえでの諸課題に目を向け、働き方改革がうまくいかないとしたら、その原因の一つは成果主義の不徹底にあるのではないかとしています。部下を成果ではなく貢献で評価していないか、そもそも部下の「成果」とは何かを理解しているか、「あいつは頑張っている」は評価に値するか、未読メールがなくなると達成感をおぼえるか、チームワークは大切か、といったさまざまな問いかけをしつつ、頑張れば報われるという日本の文化や過剰なおもてなしの精神、同質的チームワークが重視され、その中で
キャリア自律できていないビジネスパーソン、といった日本の企業社会に特徴的な現象と、その背後にあるものを読み解いています。

 第4章では、働き方改革を成功に導くための条件は現場の人事力を磨くことであるとし、企業経営者はもっと人事に関心を持つことが大事であるとしています。人事担当者に向けては、人事制度の抜本的な改革が必要であり、そのために必要なものはデータとファクトであり、ヤフーでは、「データによる経営判断」の反対語が「権威主義」であると。また、人事こそ働き方改革をすべきだとし、更に、マネジャー層に向けては、自らのミッションを知り、「プレイングマネジャー化」することで逃げてはならないとしています。

 終章では、30年後の未来を予測し、そのころ日本の社会や企業はどのように変化し、人々はどのように働いているかを予測して、人生100年時代の生き方を展望しています。

 以上、第1章、第2章で、ヤフーの週休3日制を例に、その背後にある考え方を紹介し、働き方改革のあるべき方向を示しつつ、ヤフーが採り入れているそのほかの制度についても紹介しながら、同様に解説しています。さらに、第3章で、働き方改革を進めていくうえで、現在の日本の企業や社会が抱える課題を文化論的な視点も交えながら読み解き、第4章では、日本のビジネスパーソンのこれからの働き方、生き方までも考察するというように、単に自社の制度の紹介に止まらず、大局的見地に立った啓発書になっています。

 文中で紹介されている人事関連の書籍なども、人事における"定番"から近年の"トレンド"を代表するものまで押さえていて、人事の現在とこれからを考えるうえで参考になります。「働き方改革」関連の本が少なからず刊行されている昨今ですが、人事制度改革の重要性、人事の重要性をここまで明確に説いた本は少ないのではないでしょうか。働き方改革を進めるうえで、人事パーソンにマインドセットを促す本、励ましを与え、覚悟を促す本であると思います。

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