【2760】 ◎ 広江 朋紀 『なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?―内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」』 (2018/06 同文舘出版) ★★★★☆

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ファシリテーター型リーダーシップを提唱、その発揮ノウハウを噛み砕いて解説。

なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?.jpgなぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?――内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」 (DOBOOKS)』(2018/06 同文舘出版)

 組織コンサルタントによる本書は、従来の「トップダウン型」のリーダーシップから、メンバーやチームの力を引き出す「ファシリテーター型」のリーダーシップへの転換を提唱しています。そして、ファシリテーター型リーダーシップの発揮には、人の部位になぞらえると、「耳:聴く、目:観る、口:問う/語る、手:手と手をつなぐ、足:踏み込む、頭:考える」の6つの機能の実践が伴うとして、この6機能の実践から成る新たなリーダーシップ・スタイルを、「ファシリーダーシップ」と名づけ、以下、6機能を章ごとに解説しています。

 1章では、耳:聴く(Listen)ということについて述べています。ここでは、リーダーは、メンバーに力を与え相互作用を生み出すために、話す前に「聴く」ことが必要であるとし、「聴く」力を高めるための7つの秘訣や、カウンセラーマインドなどリーダーが知っておくべき実践心理学の知識、「聴き合い、響き合う」ための場づくりの手法としての「1on1ミーティング」「リーダーズインテグレーション」「プラウド&ソーリー」などを紹介しています。

 2章では、目:観る(Insight)ということについて述べています。ここでは、リーダーとメンバーではもともと異なる視界を有しており、それを一致させるのがリーダーの役割であるとし、また、チェスター・バーナードの定義したグループとチームを分かつ組織成立の3要素(共通の目的・協同意志・コミュニケーション)を紹介しています。さらに、個人や組織の持つバイアス(偏見)にどのようなものがあるか、グループシンク(集団浅慮)を回避する「悪魔の代弁者」と呼ばれる手法や、ピーター・センゲが言うところメンタルモデルを見直す「5P」の観点、ジェームズ・C・コリンズ等が言うところの「企業衰退の5段階のシグナル」、エドワード・デノボの「6色の帽子思考法」などを解説し、著者自身の経験を基に、組織を見極めるための16の危険シグナルを紹介しています。

 3章では、口:問う(Inquire)/語る(Tell)ということについて述べています。ここでは、4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と4つの陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)、対話・議論・会話の違いと対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル、聞き手が奮い立つパワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」、職場で実践できる「問う、語る」ための対話の場づくりの手法としての「他己紹介インタビュー」や「ポジションチェンジ・ダイアログ」などの手法を紹介しています。

 4章では、手:つなぐ(Connect)ということについて述べています。ここでは、リーダーに必要なシステムを活かす力として、物事をつながりで捉える力(「因果」で捉える、「循環」で捉える、「クリティカルパス」で捉える)、「抵抗勢力」とつながる力(イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬)を紹介し、さらに、ジョン・ゴットマンが言うところの「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因(①避難、②侮辱、③自己弁護、④逃避)を解毒する方法や、ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論を紹介し、キース・ソーヤーが提唱した、チームで力がみなぎるフロー状態「グループ・フロー」が起こりやすい10の条件を紹介、さらには、職場で集合知を生み出すための手法として、「TEA TIME/BAR TIME」などを紹介しています。

 5章では、足:踏み込む(Step into)ということについて述べています。ここでは、部下のやる気に火を灯す「ダメ出しフィードバック」とその黄金則「薪+FIRE」、承認力を高める「ポジティブフィードバック・ピラミッドモデル」、「承認」「改善」「表彰」のための場づくりの手法として、興味と思いやりある承認風土を創る「おかくれさん」、健全なダメを出し、改善活動につなげる「きらいなことボード」などを紹介しています。

 6章では、考える(Think)ということについて述べています。ここでは、「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」を紹介し、マインドフルネス瞑想で物事の本質を捉えることを勧めています。また、直感やひらめきを起こすための5つのステップや、潜在意識にアクセスするビジュアリゼーションという手法、衆知を集め、創造的に考える会議の場をつくっていくコツなどを紹介しています。

 以上のように、「ファシリーダーシップ」という考えを軸に、網羅的にリーダーシップ発揮のノウハウを解説しており、その密度は濃いように思いました。リーダーにとっての教科書となる本ですが、実践にまで落とし込んでおり、ファシリテーションに関わる人には役立つ知識や手法がぎっしりという感じ。書かれていることを一度に全部実践できるわけではないとは思いますが、知っておけばいつか使える時があるかもしれません。テキスト的な内容でありながらも分かりやすく噛み砕いて解説されており、さらに、合間に20の「小咄」が挿入されていて、例えばワンパターンから抜け出す「あいづち」を九九で81個並べて紹介したりしており、肩肘張らず楽しみながら読めて役に立つ本と言えます。

《読書MEMO》
●内容紹介
はじめに
・耳:聴く(Listen)メンバーに力を与え、相互作用を生み出すために、話す前に聴く
・目:観る(Insight) さまざま次元、角度、距離感で観ることで、行き詰まりを突破する
・口:問う/語る(Inquire/Tell)問いかけ、ストーリーを語り理屈を超え感情を揺さぶる
・手:手と手をつなぐ(Connect)境界線を越えたつながりの土壌を耕し組織を進化させる
・足:踏み込む(Step into)踏み込んだフィードバックで、本音が行き交う組織を作る
・頭:考える(Think)過去の成功体験を健全に疑い、今ここに立ち止まり、考え抜く
1章 耳:聴く(Listen)
・ 「聴く」力を高める7つの秘訣
・ 承認が与えられないと無自覚に展開される「心理ゲーム」
・ 「リーダーズインテグレーション」でチームを統合しよう!
・ 「プラウド&ソーリー」で真実の声に耳を傾けよう!  ほか
2章 目:観る(Insight)
・ グループとチームを分かつ組織成立の3要件
・ グループシンクを回避する「悪魔の代弁者」
・ メンタルモデルを見直す「5P」の観点
・ 16の危険シグナルであなたの組織を見極めよう!  ほか
3章 口:問う(Inquire)/語る(Tell)
・ 4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)
・ 対話、議論、会話の違いと 対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル
・ 聞き手が奮い立つ、パワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」
・ 「ポジションチェンジ・ダイアログ」で立場を超えた納得解を作ろう!  ほか
4章 手:つなぐ(Connect)
・ 「抵抗勢力」とつながる力~イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬
・ 「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因を解毒する
・ チームで力がみなぎるフロー状態に入ろう!
・ 職場で集合知を生み出そう! TEA TIME/BAR TIME  ほか
5章 足:踏み込む(Step into)
・ ダメ出しフィードバックの黄金則「薪+FIRE」
・ 承認力を高めるポジティブフィードバック・ピラミッドモデル
・ 「おかくれさん」で興味と思いやりある承認風土を創ろう!
・ 「きらいなことボード」で健全なダメを出し、改善活動につなげよう!  ほか
6章 頭:考える(Think)
・ 「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」
・ マインドフルネス瞑想で本質を捉える
・ ひらめきの神、ミューズを降臨させる5つのステップ
・ 衆知を集め、創造的に考える会議の場を開こう!  ほか

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