【2755】 ○ 福島 創太 『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?―キャリア思考と自己責任の罠』 (2017/08 ちくま新書) ★★★★

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〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉。現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上で参考に。

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ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?: キャリア思考と自己責任の罠 (ちくま新書)』['17年]

ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?  .png 大卒3年以内の離職率が3割であることを表す「3年3割」という言葉がありますが、厚労省の調査結果を見ると、実ははじめの3年間で最も離職率が高いのは1年目であるとのことです。本書は、ゆとり世代と呼ばれる若者たちが歩むキャリアの実態を明らかにし、若者の転職が多くなった社会的背景を考察した本であり、著者は元リクルート社員で、大学院に籍を置く教育社会学者です。本書は、著者が、すでに転職をした20代へのインタビューなどを通して修士論文として書き上げ、担当教官である本田由紀・東京大学教授に提出したものに加筆修正したものです。

 第1章では、若者の転職が増えているという事実と社会的背景を確認したうえで、「伝統的キャリア」から「自律的キャリア」への労働者のキャリア観の変貌を踏まえ、インタビューした転職者を〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉〈伝統的キャリア系〉の3つに分類したうえで、本書では、自律的キャリア化する若者を追いかけるうえで、〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉に焦点を当てるとしています。

 第2章では、〈意識高い系〉には、自律的キャリア化した時期によって〈在学時意識高い系〉〈初戦入社後意識高い系〉〈転職後意識高い系〉の3パターンがあるとして、それぞれの転職活動の在り様を探るとともに、何れも「高い意識」のみに基づいて転職する傾向があるとして懸念を示しています。

 第3章では、〈ここではないどこか系〉は、環境適応としての転職をし、仕事に対する意義づけとともに職も変えるが、〈意識高い系〉が自分のキャリアに対して真摯なのに対し、自分の感情に対して真摯であり、よりよく働きたいという気持ちの強さは立派なことだが、いつまでもどこか探しが続くことが懸念されるとしています。

 第4章では、第2章、第3章を踏まえ、〈意識高い系〉には希望が実現できない、やり直しがきかないというリスクがあり、〈ここではないどこか系〉には、スキルや経験が蓄積されない、劣悪な労働環境を許容しいてしまうというリスクがあるとし、それらは「自分らしさ」にこだわることからくるもので、その背景には、社会によって煽られた「自律的キャリア意識」があるとしています。

 第5章では、自律的キャリア化のベースにある自己責任論は、社会の責任を見えづらくしている面もあるとし、そうした問題が凝縮されるのが「就活」であり、「就職できない若者がいる」という個人に問題にとどまるのではなく、その背景には社会構造の変化があるわけであり、社会の役割として支援の可能性を探っていかねばならないとしています。

 第6章では、社会が若者の転職者をどう支援できるかということの一つの手がかりとして、キャリアアドバイザーによるキャリア面談を取り上げ、実際に行われた面談記録の分析から、その可能性と課題を考察しています。

 そして、最終第7章では、第6章におけるキャリア面談の二面性考えるうえで「やりがいの搾取構造」「ブラック企業」という二つの問題を取り上げ、社会が若者のキャリア支援においてできることとして、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくことを主張しています。

 〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉というのは、個人的には、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論にも対応しているように思いましたが、そうした理論を持ち出すまでもなく、社員の退職や採用と向き合っている人事パーソンにはしっくりくるのではないでしょうか。そこからさらに踏み込んで分析されているため、現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上では参考になります。「自律的キャリア」を煽る社会や自己責任論に批判的な点は、やはり本田由紀氏の系譜でしょうか。サブタイトルも「キャリア思考と自己責任の罠」となっていますが、タイトルも含め、テーマは別のところにあったような気がしました。

 企業もまた社会の一部であり、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくということは、企業の役割でもあるのかもしれません。では、どうすればよいかというところまでは(企業の人事担当者も読者として想定しながら)本書では具体的に踏み込んでいませんが、これは(著者が分析に巧みで社会提案に弱い元リクルート系であるからと言うより)ベースが修士論文であることの限界でしょうか。それでも、そうしたことを考える糸口となるような啓発的内容であったとは思います。

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