【2754】 ◎ チェスター・I・バーナード (山本安次郎:訳) 『新訳 経営者の役割―経営名著シリーズ2』 (1968/08 ダイヤモンド社) 《(田杉 競:監訳) 『経営者の役割―その職能と組織』 (1956/09 ダイヤモンド社)》 ★★★★

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公式組織は非公式組織から。組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的。
新訳 経営者の役割7.JPG新訳 経営者の役割_.jpg  チェスター・I・バーナード.jpg Chester I. Barnard
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

 本書は、経営学(経営組織論・経営管理論)の古典であるチェスター・I・バーナード(Chester I. Barnard)の著書です(原題:The Functions of the Executive、1938)。内容は、大きな流れとして、まず組織論を展開し、それに基づいて管理論を展開するという構成になっていて、また、組織論においては、人間論→協働論(協働システム論)→組織論(公式組織論)という構成がとられています。

 第1部「協働体系に関する予備的考察」では、第1章「緒論」で、本書が公式組織を論じるものであること、公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働であり、組織の存続は、環境が不断に変動するなかで、複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっており、このためには組織の内的な諸過程の再調整が必要であるとしています。第2章「個人と組織」では、人間の特性として、活動、心理的要因、選択力、目的の4つを挙げ、この本では特定の協働体系の参加者としての人間を、純粋に機能的側面において、協働の局面とみなすとしています(協働を二人以上の人々の活動の機能的システムと考える考え方)。一方、なんらかの特定の組織の外にあるものとしての人間は、物的、生物的、社会的要因の独特に個人化したものであり、限られた程度の選択力をもつものとみなされるとしています(人間を協働的な機能もしくは過程の対象と考える考え方)。そして、組織はこれらの範疇のうちの1つを統制したり、影響を与えることによって、個人の行為を修正する結果を生じるとしています。第3章「協働体系における物的および生物的制約」では、協働が有効である時とその理由、協働の目的や性格について述べ、さらに、協働が環境や目的の変化に適応するために、管理者あるいは管理組織が必要になるとしています。第4章「協働体系における心理的および社会的要因」では、3章までの協働論では除外してきた心理的要因、社会的要因に関して述べられています。第5章「協働行為の諸原則」では、物理的、生物的、人格的、および社会的な諸要素や諸要因が、ひとつでも欠けているような協働体系は存在しないとし、協働体系はつねに動的なものであり、物的、生物的、社会的な環境全体に対する継続的な再調整のプロセスであるとしています。

 第2部「公式組織の理論と構造」では、第6章「公式組織の定義」で、協働体系とは、少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、特殊の体系的な関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体であるとしています。第7章「公式組織の理論」では、組織は、(1)相互に意思を伝達できる人々がおり、(2)それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、(3)共通目的の達成をめざすときに成立し、従って、組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的であるとしています。第8章「複合公式組織の構造」では、構造的な見地から複合組織に関する一般的な記述を行い、第9章「非公式組織およびその公式組織との関係」では、非公式組織とは何か、その諸結果は何か、公式組織による非公式組織の創造や公式組織における非公式組織の機能について述べています。ここでは、公式組織における非公式組織の機能として、コミュニケーション機能、貢献意欲と客観的権威の安定とを調整することによって公式組織の凝集性を維持する機能、自律的人格保持の感覚、自尊心および自主的選択力を維持することなどを挙げています。

 第3部「公式組織の諸要素」から管理論に入っていき、第10章「専門化の基礎と種類」では、専門化(分業)と組織におけるその意義について述べ、第11章「誘因の経済」では、組織を構成する「貢献」は、組織が個人に与える誘因との交換の形で発生するものであり、つまり、組織と個人とは、誘因と貢献の交換関係になるとしています。第12章「権威の理論」では、権威の源泉は何か、権威が受容される条件とは何か、などについて述べています。ここでは、権威が受容される条件として、(a)コミュニケーションを理解でき、また実際に理解すること、(b)意思決定に当り、コミュニケーションが組織目的と矛盾しないと信ずること、(c)意思決定に当り、コミュニケーションが自己の個人的利害と両立しうると信ずること、(d)その人は精神的にも肉体的もコミュニケーションに従いうること、の4つを挙げています。第13章「意思決定の環境」では、バーナードの考える意思決定とは何かが論じられ、第14章「機会主義の理論」では、意思決定のプロセスの原則が論じられています。ここでは、意思決定は、最終的には、環境を変えるか、目的を変えるか、どちらかの行為に行き着くとしています。

 第4部「協働システムにおける組織の機能」ではさらに管理論を展開し、第15章「管理機能」では、管理者の果たすべき機能が論じられ、それは、組織伝達(コミュニケーション)の維持、必要な活動の確保、目的と目標の定式化の3つであるとしています。第16章「管理過程」では、管理過程において、全体という観点から考慮されなければならない二つの要因は、行為の有効性と能率であるとしています。第17章「管理責任の性質」では、協働の道徳的側面についての論考が展開されています。

 組織が成功するためにはコミュニケーションが不可欠であり、なぜならコミュニケーションが全員を諸目的に結びつけるからであるということが強調されています。本書に従えば、マネジメントの不可欠な機能とは、第1にコミュニケーション機能の提供、第2に目的達成のための不可欠な努力の促進、第3に目的を定義し定式化すること、ということになります。また、人的ネットワークである非公式組織に着目し、非公式組織に共通の意図や目的が与えられることによって公式組織に転化する一方で、公式組織はそれ自体が非公式組織を生み出し、それは、非公式組織が伝達、凝集、個人の保全の手段として公式組織の運営に必要であるからであることを初めて指摘した本でもあります。経営者は短期的な業績ばかりを重視する独裁者であってはならず、経営者には、組織や価値観や目標を育てる責任があり、さらに、マネジメントには道徳性に関わる面があるとしており、そうした意味でも、今読んでも啓発される面は多い名著であると思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●目次

日本語版への序文

第1部 協働システムに関する予備的考察
第1章 緒論
第2章 個人と組織
第3章 協働システムにおける物的および生物的制約
第4章 協働のシステムにおける心理的および社会的要因
第5章 協働行為の諸原則
第2部 公式組織の理論と構造
第6章 公式組織の定義
第7章 公式組織の理論
第8章 複合公式組織の構造
第9章 非公式組織およびその公式組織との関係
第3部 公式組織の諸要素
第10章 専門家の基礎と種類
第11章 誘因の経済
第12章 権威の理論
第13章 意思決定の環境
第14章 機会主義の理論
第4部 協働システムにおける組織の機能
第15章 管理機能
第16章 管理過程
第17章 管理責任の性質
第18章 結論

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