【2736】 ◎ 加藤 雅則 『組織は変われるか―経営トップから始まる「組織開発」』 (2017/12 英治出版) ★★★★☆

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2737】 フレデリック・ラルー 『ティール組織

ストーリー仕立てで組織開発のプロジェクトを追体験でき、啓発的であると同時に実践的。

組織は変われるか0.JPG組織は変われるか.JPG
組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」』(2017/12 英治出版)

 組織開発のコンサルティングをしている著者が、組織開発を実践しようとしている人(本書では「事務局」と呼んでいる)に向けて、その手順や方法を示した本です。事務局を主人公とした組織開発のストーリーが用意されていて、約1年におよぶ組織開発のプロジェクトを追体験できるようになっています。

 第1章では、コンサルタントが事務局と対話する形式で、事務局はまず何をすべきか、組織開発のタイミングをどう見極めるか、組織が変われない要因はどこにあるのか、問題をどう捉えなおすかを説いています。さらに、組織開発を進めるうえでの3原則として、「経営トップから始める」「各層のコンセンサス」「当事者主体」を掲げ、それらを解説しています。

 第2章では、経営トップである社長とのコミットメントを得るために、社長との対話のプロセスにおいて、①現状の認識をすりあわせる、②リスクシナリオを提示する、③組織課題の本質を見極める、④組織開発のプロジェクトを提案する、⑤トップの想いを引き出す、という5つのステップを意識するように説いています。そのうえで、トップの想いを社内に発信することを説き、初期の発信フェーズの仕上げとなるのが、役員合宿であるとしています。

 第3章では、その役員合宿の前に、役員一人ひとりの考えをインタビューで探る方法や、役員合宿の目的をどう明確化するか、合宿をどうプランニングするかについて解説しています。さらに、実際の2日にわたる役員合宿の事例を交えながら、合宿中に役員の本音の対話をどう引き出すか、それらの中に見られる変革と抵抗のシグナルにどう対応するかを述べ、それを、役員合宿の次のステップとしての、部長支援のワークショップに生かすことを説いています。

 第4章では、部長が置かれている現実と葛藤を理解したうえで、気づきと自覚を促すための部長支援のワークショップをどう設計するか、1日版の進行案を示しています。また、部長と課長数名で行う「智慧の車座」という対話の方法などを、これもまた事例で紹介しています。そして、ワークショップが終わった後、部長の意識改革を、部下にどう結びつけ、いかに変革の種をまくかが、事務局による現場支援の鍵のひとつであるとしています。

 第5章では、組織開発が自走し続けるにはどうすればよいか、それには組織を刺激しつづけることが大事であるとしています。また、組織開発においては、感情をマネジメントすることも重要であり、組織開発とはまさに「感情のマネジメント」であるとしています。最後に、組織開発部を立ち上げるならば、どのような人材が、ビジネス・パートナーたる組織開発部のメンバーに向いているのかを示しています。

 本書では、組織開発とは、経営トップから現場の管理職にいたる各層と対話を重ね、彼らのコミットメントを生み出すことであるとし、その第1段階が社長との対話にとなるとしています。そして、さらに、役員との対話、部長との対話と続き、最後は自分との対話、という流れになっています。

 堅くなりがちなテーマですが、ストーリー仕立てで読みやすく、また、合宿やワークショップの中身が具体的に書かれていて、理解しやすいものとなっています。組織開発で重視されるのは、組織で働く個々人の感情であるため、「対話」というものが非常に重要になってくるというのが、具体的な解説で読んでいて腑に落ちるものとなっています。組織開発の本質を突いて、啓発的であると同時に実践的であり、組織開発に携わる人にはお薦めしたい本であると思います。

 組織開発を小説仕立てで描いた名著とされる、三枝匡 著『Ⅴ字回復の経営―2年で会社を変えられますか』('01年/日本経済新聞社)を想起しましたが、『Ⅴ字回復の経営』の方が改革への抵抗勢力が手強くて、それに対する対応などが重点的に描かれているのに比べると、こちらは、抵抗勢力の役員はあっさり更迭されてしまって、ちょっと物足りなかった? でも、『Ⅴ字回復の経営』にもこんなに上手くいくかなという部分はあったし、まあ、互角というところでしょうか。

《読書MEMO》
●組織開発の三原則(第1章/37p)
「経営トップから始める」
「各層のコンセンサス」
「当事者主体」 
●社長のコミットメントを得るための対話のプロセス(第2章/59p)
・ステップ1 :現状の認識をすりあわせる
・ステップ2 :リスクシナリオを提示する
・ステップ3 :組織課題の本質を見極める
・ステップ4 :組織開発のプロジェクトを提案する
・ステップ5 :トップの想いを引き出す
●役員への「自己免疫システム」に関する質問(第3章/137p)
① 私は自組織をどう変えたいのか?
② そのために、私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(思い込み)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)
●変革ストーリーとQPCA(第4章/177p)
1 現状認識 ⇒ Question (このままでいいのか?)
2 WHY ⇒ Purpose (どうありたいのか?)
3 HOW ⇒ Change  (どこを変えたいのか?)
4 WHAT ⇒ Action (何からやるか?)
●部長への「自己免疫システム」に関する質問(第4章/179p)
① 自組織を変えるために、私は何をしたいのか?
② 私自身は何をするのか?(行動目標)
③ 行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④ ③の目的は何か?(裏目的)
⑤ 裏目的を支えている固定観念は何か?(固定観念)
⑥ だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
(ロバート・キーガン/リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1