【2729】 ○ ジョン・P・コッター (村井章子:訳) 『ジョン・P・コッター 実行する組織―大企業がベンチャーのスピードで動く(Harvard Business Review Press)』 (2015/07 ダイヤモンド社) ★★★★

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

階層組織とネットワーク組織を共存させた新しい組織への進化を提唱。

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ジョン・P・コッタ― 実行する組織―――大企業がベンチャーのスピードで動く (Harvard Business Review Press)』(2015/07 ダイヤモンド社)

Dual Operating System - image from the book.jpg リーダーシップ論の大家として知られるジョン・コッターによる本書("Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World"、2014)は、大組織が、変化のスピードが速く不確実性の高い事業環境で競争に先んじるための解決策として、「デュアル・システム」というものを提唱しています。これは、既存の「ピラミッド型組織」を維持しながらも、起業当時に慣れ親しんでいたはずの「ネットワーク型組織」を有機的に再導入する仕組みであり、このスタートアップのような俊敏な動きが取れる第二のシステムが加わることで、組織全体が機敏性とスピードを実現できるようになるとしています。

 このネットワーク型組織はきわめて動的でやすやすと変化し、「官僚的な階層もなければ、上下関係のタブーもなく」「個人主義、創造性、イノベーションがおおっぴらに許される」「ネットワーク組織を形成するのは、年齢や地位の上下を問わず社内のあちこちから集まってきた人間であり、階層やサイロごとに滞留していた情報が自由に行き交い、何物にも遮られず隅々まで勢いよく流れる」としています。そして、「従来はタスクフォースや戦略部門でしのいできた仕事の大半を、ネットワーク組織に移管することだ。これで階層組織の負担は減り、本来の仕事をよりよくこなせるようになる」としています。

 そして、デュアル・システムの成功のカギとして、①社内のさまざまな部門からたくさんのチェンジ・エージェントを動員する、②「命じられてやる」のではなく「やりたい」気持ちを引き出す、③理性だけでなく感情にも訴える、④リーダーを増やす、⑤階層組織とネットワーク組織の連携を深める、という「5つの原則」を挙げています。

 更に、ネットワーク組織が戦略的に重要なイニシアチブを加速させるために、①危機感を高める、②コア・グループを作る、③ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める、④志願者を増やす、⑤障害物を取り除く、⑥早めに成果を上げて祝う、⑦加速を維持する、⑧変革を体質化する、という「8つのアクセラレータ」を挙げています(ジョン・コッターがその著書『リーダーシップ論』や『企業変革力』などで提唱している「変革の8つのステップ」と比較してみるのもよい)。

デュアル・システム2.jpg 本書で興味深いのは、大規模な組織運営として開発され実績を上げてきた階層型組織を捨てる必要はないとしている点であり、但し、ネットワーク組織は、階層組織内でその管理の下に活動するタスクフォースやタイガーチームなどとは全く異なるとしています。それでは、ネットワーク組織とは全く未知のものであるかというとそうではなく、どんな大企業も最初はネットワーク型組織で運営される果敢なベンチャー企業であったのであって、俊敏な動きで事業誕生の礎を築いたからこそ、生き残って今の大企業になっているのであり、つまり、企業が大規模化するプロセスで置いてきてしまった、ネットワーク型システムを、大企業は取り戻せ、というのがコッターの主張です。

 読んでいて、組織概念としての理屈は分かるものの、考えることは出来るが実践はそう容易ではないのではないか、実際にデュアル・システムを取り入れて成功している企業はあるのかという疑問が当然の如く頭をもたげますが、それに応えるかのようにコッターは、まだ数は少ないが成功事例はあるとして、その成功事例(匿名企業)において「5つの原則」「8つのアクセラレータ」がどのように機能し、回って行ったかを詳細に紹介しています。

 コッターは、組織というものは本来的に自己満足に陥るものであり、先ず、真の危機感を醸成することが大切であるとし、そのためには、心を開き、外の世界に気づかせることが大事であるとしています。また、トップこそがロールモデルになる必要があるとし、更に、成果はそれを祝うことによって前向きのエネルギーを生むとしています。

 デュアル・システムを成功させ組織を加速させるには、ビジョンや戦略目標よりは先ず、自分達には大きな機会、大きな可能性があることを示すことが重要であるとしています。その大きな機会を伝わり易く示すには、短い、論理的である、感情に訴える、前向きである、本音である、明快である、整合性がある、ということに気を配ることが大切であるとしています。

 既に、昨年['14年]、「階層組織とネットワーク組織を共存させる―これから始まる新しい組織への進化」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文)という論文がKindle版でリリースされていましたが、コッタ―が書いているとは気づきませんでした。書籍化された本書は「マッキンゼー賞金賞受賞」ということで、それがどれくらい凄いのかよくは分かりませんが、コッタ―は間違いなく経営思想に大きな影響力を持つ人なので(しかもハーバード学派のど真ん中にいる人)、このデュアル・システムという概念が、今後より浸透し、具現化していく可能性はあるかもしれません。それがいつ頃なのか予測するのは難しいかもしれませんが、ただ、「デュアル・システム」という考えは、何れにせよ、大企業病に陥った企業や組織が、これから機敏性のある組織への変革を目指すうえでは、大いに示唆的であるように思いました。

《読書MEMO》
●ジョン・コッターの「変革の8つのステップ」
 1.危機感を生み出す
 2.変革プロセスを主導できるだけの強力チームをつくる
 3.ビジョンを掲げ戦略を立てる
 4.ビジョンと戦略を全員に徹底する
 5.社員がビジョン実現に向けて行動するように、現場に任せる
 6.信頼を勝ち取り、批判を鎮めるために、早い時期に成果を出す
 7.手を緩めず、変革を成し遂げる上でのより困難な課題に挑む
 8.新しい行動様式を組織文化の一部として根付かせる


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