【2721】 ○ スーザン・ファウラー (遠藤康子:訳) 『会社でやる気を出してはいけない (2017/06 マルコ社) ★★★★

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「科学的モチベーション論」入門。モチベーションの有無よりその理由に注目。

会社でやる気を出してはいけない.jpg会社でやる気を出してはいけない』  Susan Fowler.jpg Susan Fowler

 世界30カ国以上の国々でリーダーシップ・コンサルタント、コーチとしての仕事に携わった実績を持つという著者による本です。タイトルは刺激的ですが(原題"Why Motivating People Doesn't Work...and What Does")、本書のベースにある考え方は、「人間はどんな時でもモチベーションを持っている」ということ、問題は「モチベーションに有無ではなく、モチベーションの理由」であって、「仕事へのモチベーションがあればあるほど望ましいという考え方」は、単純すぎるどころか馬鹿げている」というものです。モチベーションには科学的な裏付けがあり、「科学的にモチベーションをマネジメントする方法」を示したものが本書であるとのことです。

 第1章「モチベーション・ジレンマ」では、他人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかない理由を解明し、その代替案となる「モチベーション・スペクトラム」というものを提案しています。モチベーション・スペクトラムとは、横軸に「心理的欲求」、縦軸に「自己制御力」を取り(この「心理的欲求」と「自己制御力」については第2章、第3章で改めて解説している)、その高低によって「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6種類のモチベーションタイプを配したもので、前3タイプを「後ろ向きタイプ」、後3タイプを「前向きタイプ」のモチベーションとしています。

 第2章「モチベーションっていったい何?」では、人間に備わっているモチベーションの本質を知り、それを利用することで得られるメリット、それを省みないことによる代償を明らかにしています。ここでは、モチベーションの本質とは、「自律性」「関係性」「有能感」を満たしたいという人間の「心理的欲求」であるとしています。

 第3章「何かに駆り立てられる『ドライブ』の罠」では、結果を出そうとがむしゃらにならなくても、なぜかよりよい結果が出せる方法を紹介しています。そこで鍵になるのは「自己制御力」ですが、「マインドフルネス」「価値観」「目的」の3つが自己制御力を育む手段となるとしています。

 第4章「モチベーションはスキル」では、自らのモチベーションの質を変えていくために個人がなすべきことと、そのために役立つスキルとして、①現在のモチベーションタイプを見きわめる、②前向きタイプのモチベーションにシフトする、③自らを振り返る、という3つを挙げています。

 第5章「モチベーションをシフトする」では、部下のやる気をより質の高いものへと変えていくためのリーダーの会話術を披露し、第6章「前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念」では、リーダーとしての言動に悪影響を及ぼしている固定観念や価値観を見定め、部下が前向きなモチベーションを持てるよう促し支援する最善策を紹介しています。第7章「前向きなモチベーションが約束するもの」では、モチベーションに対する新たなアプローチに秘められた可能性を、「組織」「リーダー」「職場での成功を目指す人」の3つの観点から考察しています。

 前半部分が理論編で、後半にかけて実践編になっていくという感じでしょうか。全編を通じて事例を織り込んで解説しているため、読みやすいものとなっています。「マネジメントは科学である」というアメリカ的な考え方が、モチベーションも同様に科学的裏付けがあり、モチベーションを科学的にマネジメントすることで、自分や相手のモチベーションを前向きなものにすることが可能となる、という考え方に敷衍されている本と言えるのではないかと思います。

 これはこれで一つの考え方であると思いますが、「マズローの欲求五段階説」など古典的理論に拘泥されない新しいモチベーション理論であり、自分自身にも相手にも、またチームやプロジェクトにも当てはまる考え方でもあるように思いました。一方で、"理論書"というよりむしろ"啓蒙書"として読める面も多くあるかもしれません(個人的には多分にそう読んだ。リーダーに対する警句がいっぱい出てくる)。確かに、科学的なモチベーション論と精神論の境界は難しいように思いますが、本書において言語化された概念を、もう一度自らの頭の中で再整理してみるもの、その「科学的モチベーション」に一歩近づく手立てではないかと思います(帯に「『科学的モチベーション』のはじめ方」とある)。

 "啓蒙書"として読むと楽に読めるけれど、"理論書"として読むと結構コンセプチュアル・スキルを要する本であったかもしれません。

《読書MEMO》
●人はいかなる場合でもモチベーションを持っています。問題はやる気があるかどうかではなく、なぜやる気があるかなのです。
●リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。
●人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるよう他人に無理強いすることができないからです。
●従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御能力を持てる可能性がずっと大きいのです。
●皮肉にも、後ろ向きタイプのモチベーションが生み出すエネルギーは中毒性を持っており、それと同時に人を疲弊させます。(中略)マイナスのエネルギーを維持するには、原因を問わず、怒りを燃やし、失望し続けるしかありません。
●前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。
●価値観は高い自己制御力を支える柱です。それなのに、仕事に関して自分はどんな価値観を持っているかと疑問を抱き、深く考えたことのある人はほとんどいません。
●従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。
●人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りをかんじます。そのうえ、結果を出せと部下を追い立てる上司を利己的だとみなします。
●どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。感情を察知し、それを受け入れ、対処するのです。
自らの心の声に耳を傾けて、感情が重大な役割を果たしていることを認めて、自己制御力を鍛えてください。
●権力を手にしたのだから、けっしてそれを使ってはいけない。優れたリーダーになれるのは信頼と尊敬を集めるからであって、権力があるからではない
●リーダーとは部下が心理的欲求を満たしうる職場づくりを担う人間である。

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