【2719】 ○ 中原 淳 『フィードバック入門―耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』 (2017/02 PHPビジネス新書) ★★★★

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目新しいことが書かれているわけではないが、再啓発される部分はあった。

フィードバック入門es.jpgフィードバック入門5.JPGフィードバック入門.jpgフィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)』['17年]

 本書では、上司から部下へのフィードバックについて、フィードバックは「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術であるとし、コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法であると捉えています。

 第1章「なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?」では、マネジャーが置かれている部下育成が困難な現況を分析し、フィードバックこそ最強の部下育成方法であり、フィードバックは、【情報通知】(ティーチング的)=たとえ耳の痛いことであっても、情報や結果を通知すること(現状を把握し、向き合うことを支援)と【立て直し】(コーチング的)=部下が自己の業績や行動を振り返り、行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)から成るとしています。

 第2章「部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編」では、部下育成の基礎理論として「経験軸」と「ピープル軸」を掲げ、「経験軸」の考え方は、部下に適切な業務経験を与え、ストレッチゾーン(挑戦空間)を促すことであり、「ピープル軸」の考え方は、「業務支援」「内省支援」「精神支援」による面の育成であるとしています。そして、フィードバックとの関係では、【情報通知】=経験軸+ピープル軸「業務支援」、【立て直し】=ピープル軸「内省支援」+「精神支援」となるとし、耳の痛いことを伝えて耐え直すフィードバックの技術を、フィードバックのプロセス順に解説しています。

 第3章「フィードバックの技術 実践編」では、「あなたは、相手としっかりと向き合っているか?」「あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?」などフィードバックの実践における5つのチェックポイントと、フィードバック前には必ず「脳内予行演習」すること、フィードバックの内容も記録することなど、フィードバックの8つのTips(コツ)を示しています。

 第4章「タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A」では、すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプや何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ、から目線で返される「逆フィードバック」タイプなど、部下のタイプ&フィードバックのシチュエーション別に、上司がそれらにどのように対処すべきかを、Q&A形式で解説しています。

 第5章「マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング」では、フィードバック力をつける2つのポイントとして、自分自身のフィードバックを客観的に観察することと、自分自身もフィードバックされる機会を持つことを挙げ、フィードバック力をつけるトレーニング方法や自分自身をフィードバックし続けるコツを紹介しています。

 前半部分はややコンセプチュアルですが(米国のビジネス書によく見られるタイプか)、後半になればなるほどマニュアル的になり、実践を意識した入門書になっています。全体としては、フィードバックの考え方やチェックポイントを、著者なりにその研究の成果に基づいてまとめたものであると言えます。ものすごく目新しいことが書かれているわけではないけれども、一つのコンセプトのもとに体系的に整理されていることによって、改めて啓発される箇所はそれなりにあったという印象です。中には分かっていてもそれを実践するのがなかなか難しいのだと言いたくなるような箇所もあるかもしれませんが、それが習得できればそれなりに役立ち、十分に効果的であると思われます。そうした意味では、自己啓発のつもりで読んでみるのもいいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●フィードバックのプロセス(第2章)
・事前......SBI情報の収集⇒「1to1」を中心に
・フィードバック
①信頼感の確保
②事実通知」鏡のように情報を通知する
③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
④振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる
・事後......フォローアップ
●フィードバックの実践 5つのチェックポイント(第3章)
1.あなたは、相手としっかりと向き合っているか?
2.あなたは、ロジカルに事実を通知できているか?
3.あなたは、部下の反応を見ることができているか?
4.あなたは、部下の立て直しをサポートできているか?
5.あなたは、再発予防策をたてているか?
●フィードバックにまつわる8つのTips(コツ)(第3章)
Tips①:フィードバック前には必ず「脳内予行演習」
Tips②:フィードバックの内容も記録する
Tips③:耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない
Tips④:フィードバックは「即時」と「移行期」にこそ行う
Tips⑤:フィードバックの沈黙時には時空間を変える
Tips⑥:フィードバックの強烈なストレスと向き合う方法
Tips⑦:「嫌われるもの仕方がない」という覚悟を持とう
Tips⑧:どうしてもフィードバックが難しいときもある
●タイプ&状況別フィードバックQ&A(第4章)
・すぐに激昂してしまう「逆ギレ」タイプ
 ⇒こちらから具体的に改善策を聞く
・何を言っても黙り込む「お地蔵さん」タイプ
 ⇒こちらも負けじと黙り込む
・上から目線で返される「逆フィードバック」タイプ
 ⇒「もし君が上司だったら~」と仮定法で意見を求める
・言い訳ばかりしてくる「とは言いますけれどね」タイプ
 ⇒どんどんしゃべらせて、矛盾を炙り出す
・「根拠なきポジティブ」タイプ/すぐに「大丈夫です!」タイプ
 ⇒なんとかなると思う理由を具体的に聞く
・別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ
 ⇒根気よく話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
・上司のお前が間違っている! 「思い込み」タイプ
 ⇒部下の日頃の行動を元に具合的に指摘する
・なんでも他人のせいにする「傍観者」タイプ
 ⇒「傍観者に見えるよ」とそのまま指摘する
・都合よく解釈する「まるめとっちゃう」タイプ
 ⇒「私の言いたいことはそうではない」とはっきり言う
・お膳立てしても挑戦しない「ノーリスク」タイプ
 ⇒「挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ」と伝える
・昔取った杵柄を振りかざす「元○○の神様」タイプ
 ⇒「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と前置きしてから、素直に述べる
・前評判と働きが違う「他では優秀」タイプ
 ⇒「郷に入れば郷に従え」とはっきり伝える
●フィードバック力をつけるトレーニング方法(第5章)
・模擬フィードバック......自分おフィードバックの観察
・アシミレーション......部下による上司へのフィードバック方法
・社外でのフィードバック......社内の人間関係では得られないスパイシーなフィードバックを受ける
●自分自身をフィードバックし続けるコツ(第5章)
・ピーターの法則......「人は無能になるまで出世する」
・「緊張屋」と「安心屋」
  「緊張屋」......厳しいフィードバックをしてくれる人
  「安心屋」......精神的支援をしてくれる人
   ⇒両者のバランスが大切

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