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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジェフリー・フェファー)
「リーダー神話」は百害あって一利なし!リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りに。
『悪いヤツほど出世する』 『悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)』
2017年の「経営思想家トップ50(Thinkers50)」において"殿堂入り"したジェフリー・フェファーの、既刊『「権力」を握る人の法則』('14年/日経ビジネス文庫)の続編に位置付けられる本であるとのことで、リーダーシップに関する従来の知識やリーダーシップ研修の類が実際の職場で役に立たないのはなぜかを探り、リーダーシップについて読者の再考を促しています。
第1章では、「リーダー神話」は百害あって一利なしとして、リーダーシップに関する本やブログが数十年にわたって精力的に書かれ、講演や研修が盛んに行われているにもかかわらず、職場の実態もリーダーの質も上がっていないことを指摘し、科学的なデータや調査よりも感動体験を求めることにその一因があるとしています。
そのうえで、続く五つの章で、リーダーシップにとって欠かせないとされている五つの要素―謙虚さ、自分らしさ、誠実、信頼、思いやり―を取り上げ、これらの資質が組織や集団にとって望ましい資質であるには違いないが、第一に、これらの資質を多くリーダーが備えているという証拠はあるのか、第二に、リーダーシップ教育産業が推奨することと反対の行動をとるほうがむしろ賢明に見えるのはなぜかを考察しています。
第2章では、「謙虚さ」について、そもそも控えめなリーダーはいるのかという疑問を呈し、むしろ自信過剰な方が成功しやすく、過剰な自信は時に大事であり、ナルシスト型の行動は出世に有利であるとしています。
第3章では、「自分らしさ」について、そもそも「真の自分」は存在するのかという疑問を呈し、「自分らしさ」は臨機応変に捨てるべきであり、つねに自分らしさを前面に押し出すリーダーシップは有効ではないとしています。
第4章では、「誠実」について、もちろん真実を語るリーダーはいるが、たいていのリーダーは嘘をつくものであり、嘘をついて損をすることは滅多になく、むしろ、嘘がよい結果をもたらすこともあるとしています。
第5章では、「信頼」について、現代のリーダーが信頼を得ているとは言いがたく、ただし、信頼を踏みにじってもリーダーは罰せられないことが多く、むしろ人を信頼しすぎると損をすることがあるとしています。
第6章では、「思いやり」について、リーダーの多くは「社員第一」ではなく「我が身第一」であり、リーダーを部下思いにすることを期待するならば、エージェンシー理論に基づき適正な測定とインセンティブを導入すれば、少しは改善されるだろうとしています。
第7章では、自分の身は自分で守らねばならないということを強調し、第8章では、リーダー神話を捨てて、真実に耐えるべきであるとしています。そして、現実と向き合うためのヒントとして、「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(現実)を混同しない、他人の言葉ではなく行動を見る、ときには悪いこともしなければならないと知る、普遍的なアドバイスを求めない、「白か黒か」で考えない、許せども忘れず、の6つを挙げています。また、リーダーシップを巡る問題点は、リーダーの発言と行動の不一致や行動と結果の不一致、リーダーシップ教育と現実の不一致など不一致の問題であり、不一致を一致に変えるためには、現実に根ざした努力が必要であるとしています。
著者は「スタンフォード大学の人気教授」と帯にありますが、日本でも、90年代に刊行されたその著書『人材を生かす企業―経営者はなぜ社員を大事にしないのか?』が2000年代に入って再び翻訳され(『人材を活かす企業―「人材」と「利益」の方程式』』)読まれるなど、単なる人気教授と言うより「カリスマ教授」に近いのではないでしょうか。誰もが薄々思っていることを、データや実例をもとに解き明かし、リーダーは部下思いで、謙虚・誠実であるべきだといった「神話」を妄信として打ち砕いていく様は爽快でもあり、読み易い啓発書ですが、一方で、リーダーシップ教育と現実のギャップを浮き彫りにもしており、考えさせられる本でした。
処世術的な読み方と組織行動論的な読み方ができる本ですが、これでいくと、リーダーに依存しすぎるのはよいことではなく、今後は権力分散型の組織が望ましいということになるのでしょうか。
邦訳タイトルといい装丁といい若干「売らんかな」系(?)に見えなくもないですが、原題は「Leadership BS: Fixing Workplaces and Careers One Truth at a Time」。「BS」はBull Shit(=デタラメ)の略語で、直訳に近い訳だと「リーダーシップの嘘:職場とキャリアを1つずつ改善するために」となるようですが、Bull Shitの語感からは「嘘っぱち」と訳した方が近いのかも。「悪いヤツほど出世する」は更なる意訳ですが、これも内容的にはみ出した訳とは必ずしも言えないようです。善意に解釈すれば、よりアイロニカルな意味合いが込めたのでしょう。
【2018年文庫化[日経ビジネス人文庫]】