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理系の性分、理系的センスとは何か、理系社員とどう向き合うかを説く。「トリセツ」と言うより「啓発書」。
『理系社員のトリセツ (ちくま新書)』['15年]
文系と理系の間にある深い溝―本書は、その壁をを解消して、両者が一緒に働いている職場をうまくまわすにはどうすればよいか、そのために理系の特徴を分析し、その活用法を解説した本です。著者によれば、企業が成功するには、文系と理系双方の人材がうまくかみ合う必要があるのに、実際には文系と理系はお互いを相容れないものとして捉えがちであるとのことです。その結果、文系は理系の仕事をなかなか理解することができず、「文系上司」が「理系部下」の扱いに困っているといったことなども少なからず起きているとのことです。
そこで「理系」である著者が、"理系の性分"とは何か、その思考傾向を多面的に探るとともに、"理系的センス"とはどういったものか、それはビジネスの様々な場面でどのような効果を発揮するかを説いていますが、読んでいて、そのセンスとは往々にして文系の人間にも求められるものであるように思いました。本書では、それらを踏まえたうえで、組織内で理系社員をどう活用すればよいかを解説しています。
著者によれば、理系的才能の本質は想像力であり、真の理系は想像力で問題を解くとともに、事実に目を配り、直感に飛びつかず慎重に考えるとのこと、また理系人材は「質量保存・エネルギー保存の法則」を前提に物事を捉えるので、ゼロサムの関係には敏感であり、全体バランスを壊すことになるカネやポストでは動機づけられにくい一方、外部からの期待感や専門分野での名誉には奮い立ち"本気度"を刺激される側面も併せ持つとしています。
上司が「理系部下」を活かす方法としては、文書化を徹底させるコーチングを行い、部下に自由に語らせるようにし、外部の干渉からは部下を守ること、また、先に述べたような理由から、技術成果に対し「顕彰」で報いることなどを挙げています。とにかく、複雑な評価制度などに惑わされず、コーチングを続けることが大切であるとしています。
最後に、理系マインドをビジネスにどう結びつけていくかを説くとともに、これからのビジネスは文理の協働が前提となり、文理別々で働いてもろくな事は起きないとし、また、理系女性の拡大は、人材増強策の切り札であるとしています。
個人的には、理系の人材育成の要点として、
・空間的に狭い範囲に人材を集めること
・仕事を小刻みに数多く絶え間なく与えること、
・仕事の成果は質よりも早さを求めること、
・互いに切磋琢磨し、競争の状況が誰の目にも明らかに分かる分かるようにすること
とし、その典型例として、石ノ森章太郎や藤子不二雄、赤塚不二夫らを輩出したトキワ荘を例に挙げているが興味深かったです。
このように、逐一分かりやすい例を挙げて解説しているためたいへん読みやすかったですが、著者はどちらかと言うと、理系人間の中でも「文系」的な方の人間ではないかとも思わせました。そのように考えていくと、だんだん理系と文系に分ける意味が無くなってくるようにも思えてくるのですが、ここはある種のタイポロジー(類型化)を前提とした"思考整理"であると割り切って、最後まで読んだ方がいいかもしれません。
タイトルには"トリセツ"とありますが、〈マニュアル〉というよりは、文系人間が理系人間と向き合う際の考え方を示した〈啓発書〉といえるでしょう。もちろん、理系人間が、理系である自分の能力の特質を見つめ直し、その活かし方を考えるうえでのヒントが得られる本であるともいえるかもしれません。