【2710】 ○ 小田 理一郎 『「学習する組織」入門―自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』 (2017/06 英治出版) ★★★★

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「学習する組織」の手法体系に絞った入門書だが、手法部分も含め啓発書としても読める。

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「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』(2017/06 英治出版)

 「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」のことであり、ピーター・センゲやクリス・アージリスらが生み出し、普及させた概念であり、理論・手法体系です。学習する組織を作るための原則、プロセス、ツールの数々は、自己との向き合い方、大局をつかむ思考法、広く柔軟な視座、対話し共感する力、理念や価値観の共有など5つのディシプリン(規律・訓練)として体系化されていますが、本書では、組織開発メソッドとしての「学習する組織」の要諦を、ストーリーと演習を交えて解説しています。

 第1章では、学習する組織がどのようなものであるかを紹介し、第2章では、学習する組織の全体的な構造と、チーム(組織)の中核的な学習する能力を形成する、志を育成する力、複雑性を理解する力、共創的に対話する力という3つの力を紹介、さらに、志を育成する力は「自己マスタリー」「共有ビジョン」というディシプリンによって、複雑性を理解する力は「システム思考」というディシプリンによって、共創的に対話する力は「メンタル・モデル」「チーム学習」というディシプリンによって、それぞれ構成されるとしています。

 そして第3章から第7章の各章で「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の5つのディシプリンについてそれぞれ詳しく解説し、第8章では、学習する組織の始め方の例と、その過程で突き当たる典型的な課題について紹介、最終章の第9章では、学習する組織を目指した先にある未来の組織の在り方と、それを導くリーダーシップの在り方について述べています。

 ピーター・センゲの著書『学習する組織』(2011年/英治出版)は約600ぺージの大著であり、その中で学習する組織や5つのディシプリンについて奥深く解説されていますが、本書はピーター・センゲらがまとめた手法体系に絞った入門書であり、読者が今ある組織に備わっている能力や意識について探究し、それらをその組織の文脈に合わせてどう活用し、組織を進化させていくことができるかを、具体的・実践的に解説しています。

 そのため、5つのディシプリンについて解説した第3章から第7章の各章は、事例(ストーリーと振り返りの問い)、理論(各ディシプリンの原則とプロセスの紹介)、演習(ツールによる演習、その振り返りと解説)という基本構成になっており、概念や理論の解説と実践の方法が一体となっているのが本書の特長です。入門書でありながら、実践テキストとしての形態も兼ね備えているため、400ページ近いページ数になっていて、ベースとなっているピーター・センゲの『学習する組織』とはまた異なった専門解説をも含むものとなっていますが、個人的には、そうした実践方法の解説を含め、全体を通して啓発書として読めるように思いました(タイトルが「学習する組織」となっており、『学習する組織』となっていないことからも、ピーター・センゲの『学習する組織』のダイレクトな入門書ではないことが窺える)。

 著者によれば、学習する組織は、組織のメンバーらが自ら学び、創造・再創造を繰り返して進化し続ける組織であり、完成形というものは想定されていないとのことです。ディシプリンは「規律」「訓練」などと訳されますが、合気道や茶道といった言葉で使われる「道」に近いと考えられるとしています。その「道」の部分をより深く感じとり、充分に理解するためには、ピーター・センゲの『学習する組織』を読んでみるのもよいかと思います

 因みに、ピーター・センゲの『学習する組織』においては、5つのディシプリンは「システム思考」「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」の順で解説されていて、「システム思考」に最も多くのページが割かれていますが、これは、5つのディシプリンの中で「システム思考」が最も基盤となる概念であるからではないでしょうか。個人的には、センゲの『学習する組織』の並び順の方がしっくりきたし、ウェイトの掛け方も、「システム思考」が一番理解が難しい概念であるという点で『学習する組織』の方が良かったですが、実践を絡めて解説すると、本書の「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」の順になったということでしょう学習する組織 3つの「柱」.pngか(ほぼ同時期に刊行の同著者の『マンガでやさしくわかる学習する組織』(2017年/日本能率協会マネジメントセンター)ででは、「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「自己マスタリー」「共有ビジョン」の順で解説されていて、これはこれで、複雑性を理解する力、共創的に対話する力、志を育成する力、の順であることが窺える)。

学習する組織 3つの「柱」from Change Agent

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