【2707】 ○ グロービス経営大学院 (監修・執筆: 田久保善彦) 『これからのマネジャーの教科書―自己変革し続けるための3つの力』 (2016/06 東洋経済新報社) ★★★★

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2708】 太田 肇 『最強のモチベーション術

ミドルマネジャーに必要な自己変革し続けるための3つの力を説く。事例にシズル感あり。

これからのマネジャーの教科書 .jpgこれからのマネジャーの教科書』(2016/06 東洋経済新報社)

 本書は、「常にイキイキと仕事に取組み、周囲からの期待を超える活躍をしているミドルマネジャーと、そうでないミドルマネジャーの違いはどこから生まれるのか?」という疑問への答えを探るために、期待を超える成果を上げている40名以上のマネジャーにインタビューを行い、その結果をまとめたものであるとのことです。

 第1章では、ミドルマネジメントの置かれた状況を概観しています。そのうえで、ビジネス環境が激変する現代において、「ミドルマネジャー自身が変わり続けなければならない」こと、「ミドルマネジャーとしてイキイキと働くこと自体」に価値を見出していくことが大切だということを強調しています。

 第2章では、会社からも周囲からも一目置かれ、期待を超える成果を上げているミドルマネジャーへのインタビュー結果から明らかになった、彼らが備えている、自己変革し続けるためのベースとなる3つの力について解説しています。その3つの力とは次の通りです。
 「マネジャーとしてのビジネススキル=組織として成果を出す力(スキル)」
 「強い想いやこだわりを持っている=仕事に対する想いの力(ウェイ)」
 「周囲との考えの違いを乗り越える力(ギャップ)」

 そして第3章では、3つの力をどのようにして身につければいいのか、自己変革と自分を変えていくための3つのステップを示しています。その3つのステップとは次の通りです。
 ステップ1:「自己認識」を深める
 ステップ2:自分にとって「都合のよい解釈」をし、次にやることを決める
 ステップ3:自分のとった行動や置かれた状況に基づき「持論形成」する

 第4章では、多忙な日常の中でどうすれば「期待を超えるミドルマネジャー」であり続けることができるのか(「維持」または「強化」ができるのか)、それが不可能な場合は、どうやって「期待を超えるミドルマネジャー」に再びなれるにか(「回復」できるのか)について考察しています。

 第5章では、取材した41人の中から7人の「期待を超えるミドルマネジャー」について、具体的にどのように3つの力を獲得し、その維持、回復、強化に取り組んできたのかについて記しています。

 体系的に纏まっていますが、テキストと言うより啓発書的な内容であり、但し、別段突飛なことを言っているわけでもなく、内容的にはオーソドックスなものと言えます。そうした中で、「スキル」「ウェイ」「ギャップ」の3つの力をつけるステップの1つとして、「自分にとって"都合のよい解釈"をする」といったことが書かれているのが、個人的には関心を引きましたが、これとて、どんな場面でも、過去に行った行為を後ろ向きにはとらえず「これに意味がある」「これでいいのだ」と自己肯定感をもたせることがこれからのマネジャーに必要であるということを指しているという意味では、オーソドックスと言えるのかもしれません。

 むしろ、本書の後半分を占める、第5章の「7人の事例に学ぶミドルマネジャーの自己変革力」が、なかなかシズル感を出していて良かったです。現在さまざまな業種の企業で活躍中のミドルマネジャーら自身が、社会人になってから今日までの自らのキャリアを10年弱前後の刻みで振り返り、その各段階で「スキル」「ウェイ」「ギャップ」がどのように醸成され、「得られた持論」はいかなるものであり、3つの力の維持・回復・強化に今どのように努めているかが書かれています。前半部分の分析結果から得られた「スキル・ウェイ・ギャップ」などいった概念を逆検証している向きもありますが、入社時から振り返ることにより、マネジャーになる前の段階から「スキル・ウェイ・ギャップ」の3つの能力が大切なことがよく分かり、本書全体の納得感を高めることに繋がっています。

 実在のマネジャーの事例を基にした研究は、海外では、ジョン・P・コッターの『ザ・ゼネラル・マネジャー』(ダイヤモンド社)や、本書でも取り上げられているヘンリー・ミンツバーグの『マネジャーの実像』(日経BP社)など、それほど珍しくありませんが、日本では、金井壽宏 著『仕事で「一皮むける」』 ('02年/光文社新書)などがあるもののそう数は多くはないように思われます。

 ミドルマネジャーには自己変革が求められることを説き、自己変革し続けるための力をいかに養うかということを説いているという意味では自己啓発的な内容ですが、ミドルマネジャーがどのように育ち、育れてられていくかを考えるうえで、人事パーソンとしての立場から一読してみるのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 ミドルマネジャーとは何か
・マネジメントという仕事
・ミドルマネジャーとは誰を指すのか
・自己変革力を求められるミドルマネジャー
第2章 期待を超えるミドルマネジャーを生むメカニズムと3つの力
・期待を超えるミドルマネジャーとは何か
・スキル(組織で成果を出す力)
・ウェイ(仕事に対する想いの力)
・ギャップ(周囲との考えの違いを乗り越える力)
第3章 期待を超えるミドルマネジャーの自己変革力
・期待を超えるミドルマネジャーになる
・期待を超えるミドルマネジャーはどのように自己変革するのか
・自己解釈レンズ ワークシート
第4章 期待を超えるミドルマネジャーであり続けるために
・期待を超えるミドルマネジャーにも紆余曲折がある
・紆余曲折をいかに潜り抜けるか―3つのパターン
・維持、回復、強化のための具体的な行動・思考
第5章 7人の事例に学ぶ ミドルマネジャーの自己変革力
事例1:「やりきる」ことで次のチャンスが巡ってくる――キリンビールマーケティング 早坂めぐみ
事例2:繰り返し取り組んで自らの軸を太くしていく――国内大手機械部品メーカー 牧 浩一(仮名) 
事例3:「読者に喜んでもらいたい」という想いを形にする――女性誌編集長 鈴木裕子(仮名) 
事例4:ロジカルスキルとコミュニケーションスキルを強みに、自分の提供価値を最大化――スリーエム ジャパン 井手伸一郎 
事例5:「これだけはあいつに聞け」と言われる強みをつくる――外資系医療関連会社 山本健一(仮名)
事例6:「人のためになることをしたい」という想いを軸として生きる――日本財団 青柳光昌 
事例7:想い(ウェイ)の強さで社内外を巻き込んで大企業を活性化―パナソニック 有志の会 OnePanasonic発起人・代表 濱松 誠 
おわりに

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1