【2706】 ○ 佐々木 圭吾 『みんなの経営学―使える実戦教養講座』 (2013/08 日本経済新聞出版社) ★★★★

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テキスト然としておらず、読みやすい。基本は網羅されていて、入門書としてはお薦め。

みんなの経営学  文庫.JPGみんなの経営学 使える実戦教養講座 文庫.jpg   みんなの経営学―使える実戦教養講座.jpg 単行本['13年]
みんなの経営学 使える実戦教養講座 (日経ビジネス人文庫)』['16年]

 本書の著者は社会人向け大学院で教鞭をとる経営学者であり、「みんなの」というタイトルには、すべての人が身につけるべき教養としての経営学という意味が込められているとのことです。

 第Ⅰ章では、経営学そのものに関する基礎的知識から考察し、経営学の最も基本的な考え方を、権限受容説という考え方をもとに解説しています。著者は、経営学は儲けるための学問ではなく、よりよく生きるための学問であるとしています。

 第Ⅱ章では、企業とは何かということについて考察し、米国や日本の企業の生成や発展の歴史を紐解きながら、その本質に対する基礎的な知識を解説しています。ここでは、ドラッカーによる企業の定義などを引きながら、企業を単に営利を追求するだけの装置としてではなく、人間の理想を実現するための装置として位置付けています。

 第Ⅲ章では、モチベーションについて考察しています。代表的なモチベーション理論を、歴史的な流れに沿って紹介するとともに、金銭的インセンティブの効果について、その"負の効果"も含めて考察し、内発的動機付けをもたらすマネジメントとはどのようなものかを考察しています。

 第Ⅳ章では、リーダーシップを取り上げています。リーダーシップ論の初期から今日に至る流れと追うとともに、なぜ優れたリーダーは少ないのかを探り、サーバント・リーダーシップという視点を通して、企業におけるこれからのリーダーのあり方を考察しています。

 第Ⅴ章では、経営組織について、組織概念の解説からスタートし、なぜ組織が必要なのかという基本的テーマを追っています。著者は、組織論はこれまで経営学の中心的な位置を占めてきたが、今日では、官僚制を代表格に大規模組織を無用の長物とする見解もあり、組織論は混迷の時代にあるとしています。

 第Ⅵ章では、経営戦略の本質的な特徴に迫っています。ここでは、経営戦略策定のための基本的な理論枠組みとツールを紹介し、企業の戦略やそれが具体化された中期計画が机上の空論にならないために、よい経営戦略とはどのようなものかを考察しています。

 最終章である第Ⅶ章では、あらためて、経営戦略の活かし方についての基礎的な話をしています。例えば、日本発の世界的な経営学パラダイムである知識創造の経営組織論(ナレッジ・マネジメント論)などを紹介し、今日の経営を取り巻く環境の変化から、経営学の進んでいる方向についての著者の見解を述べています。

 経営学はそもそも人々の役に立っているのかという疑問からスタートし、著者自身がビジネスパーソンや経営者との関わりの中で、経営学と現実のギャップを感じたことなども素直に問題提起され、また真摯に考察されています。そのため、テキスト然としておらず、全体を通して読みやすいものとなっています。

 一方で、第Ⅲ章から第Ⅵ章で、モチベーション、リーダーシップ、経営組織、経営戦略という経営管理(マネジメント)の根幹を成すテーマを扱っており、その中で、経営学の代表的な概念や学説の系譜は、ごく簡潔ながらも網羅的に押さえられています。例えば、第Ⅲ章のモチベーションのところで解説されているマズローの欲求段階説やハーズバーグの二要因理論などは、人事パーソンの必須常識と言えるでしょう。

 必ずしも全てのビジネスパーソンが、大学等で一般教養としての経営学を学んだわけでもなく、それは人事パーソンに限っても言えることでしょう。こうした教養を身につけるには、基本を先に押さえてしまった方が効率的であると思います。本書の場合、ビジネスの現場で応用するにはもう少し掘り下げる必要があると思いますが、入門書、おさらいの書としてはお薦めできるものです。

【2016年文庫化[(日経ビジネス人文庫]】

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