【2704】 ○ 永田 稔 『非合理な職場―あなたのロジカルシンキングはなぜ役に立たないのか』 (2016/05 日本経済新聞出版社) ★★★☆

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論旨は腑に落ちるが、理論と現実とのギャップを埋めるという意味ではやや弱いか。

非合理な職場.jpg非合理な職場 ―あなたのロジカルシンキングはなぜ役に立たないのか』['16年]

不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか.jpg 以前ベストセラーになった『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』(2008/01 講談社現代新書)の共著者の一人による本書は、職場やそこで働く人の持つ「非合理な」面に焦点を当て、ロジカルシンキングの罠と、そこからどう脱出すべきかを説いています。

 第1章では、非合理な職場の実態を紹介し、ロジカルシンキングを学んだ人は問題解決者になったと思いがちだが、真の問題解決プロセスとは、単に論理的に問題を解くだけでなく、その実行のために組織や人を動かしていくプロセスであって、このプロセスを進行させるためには、人間の思考や心理にまで踏み込んだ働きかけが必要となり、ロジカルシンキングだけでは通用しない場面が現われるとしています。

 第2章では、人間や組織の持つそうした非合理性は、認知の歪みから生じるとしています。人間の認知は「経験・知識から成るスキーマからの悪影響」「推論のバイアス」「集団による意思決定への影響」により歪みが生じるため、真の問題解決者は、人間の感情や集団の圧力などの認知の動的なメカニズムを十分に理解しており、そのことを念頭に問題解決のアプローチを行うとしています。

 第3章では、具体的に認知の歪みにどう対応するかを考え、それにはその原因ごとに対応策を考える必要があり、スキーマが強い人には、スキーマを生じさせないようなスローシンキングや生の現実を見せ、感情で認知に影響を受けている人には、感情で対応するのではなく、感情を引き起こす影響を伝えることで気づかせることが有効だとしています。

 第4章では、自分自身に認知の歪みが起きる可能性もあるとし、蓄積した経験いスキーマが引きずられる可能性や、感情により認知が歪む可能性、組織への配慮やコミットメントが強すぎる可能性に加え、人には「人スキーマ」と呼ばれる、人をステレオタイプ化して見てしまう危険があることを示しています。

 第5章では、人間や職場が持つ「価値観」の問題を取り上げ、合理的な案に対してノリの悪い反応をする原因を掘り下げていますが、そこには価値観の問題が存在している可能性があるとしています。よって、問題解決者が行うべきことは、まず暗黙的な価値観を明示化し、価値観が障害になっていないかを確認したうえで、それを変えるべきかどうかを検討すべきだとしています。

 第6章では、多様化した職場において人を動かす「動機づけ」について考察し、動機づけ論では内発艇動機づけが注目を浴びたが、現在の日本企業の状態を考えると、内発的動機付けだけでは不十分であり、外発的動機づけとの組み合わせが必要になってくるとしています。

 著者は、マッキンゼーで論理思考の基礎を身につけた上で、人事・組織開発のコンサルに転じ、実績をあげてきた人であるとのことで、読んでみて、別にロジカルシンキングを否定しているわけではなく、マネジメントに心理学を応用し、「心理学」+「論理思考」で人と組織をより自在に動かしていくことを提唱しているように思いました。

 その意味では、切り口はまあまあユニークであるし、論旨はそれなりに腑に落ちるものでしたが、一方で、こうした理論展開自体が、広い意味でのロジカルシンキングではないかという気がしないでもないです。ロジックがまともに通じない人に悩まされるということは往々にしてあるかと思いますが、これが相手の価値観が障壁になっていることが原因だと判明しても、その価値観を変えるというのは現実にはなかなか難しいということは、ままあるのではないでしょうか(むしろ、本当に問題となるのはそうしたケースではないか)。

 理論と現実とのギャップを埋めるという意味ではやや弱い印象も受けるし、最後は比較的フツーの(Z理論的な)モチベーション論になっている印象も。但し、相手の認知の歪みだけでなく、自分自身に認知の歪みが起きる可能性もあることを指摘している点は、大いにリフレクション(自省)したいと思いました(個人的には"自己啓発書"として読んだことになるのかも)。

《読書MEMO》
●目次
第1章 ロジカルシンキングだけでは通用しない「非合理な職場」
第2章 なぜあなたの主張は理解してもらえないのか?
第3章 認知の歪みへの対応策
第4章 あなたのロジックも歪んでいる?
第5章 「ノリ」を左右する価値観
第6章 多様化した職場で人を動機づけるには

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