【2703】 ○ 本間 浩輔/中原 淳 『会社の中はジレンマだらけ―現場マネジャー「決断」のトレーニング』 (2016/04 光文社新書) ★★★☆

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現場マネジャーが直面するジレンマに話題を絞った前半部分が良かった。

会社の中はジレンマだらけ.jpg会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング (光文社新書)』['16年]

 本書によれば、ジレンマとは「どちらを選んでもメリットもデメリットもあるような二つの選択肢を前にして、それでもどちらにするかを決めなければならない状況」とのことで、企業・組織においてマネジャーが直面する幾つかのジレンマのパターンを取り上げ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏と東京大学の中原淳准教授が対談形式で議論しています。

 第1章が「絶対に結果を出さなくてはならないハードな案件。自分自身でこなす?それとも思い切って部下に任せる?」、第2章が「チーム内にくすぶり始めた時短社員への不満。ほかのメンバーを説得する?それとも時短社員に働き方を変えてもらう?」、第3章が「仕事をしない"年上の部下"がいます。言いたいことを伝える?それともやり過ごす?」といったように、マネジャーに"現場仕事"が増えがちな問題、産休社員に人員補充が無い場合に起きがちな問題、なぜ「働かないおじさん」の給料は高いのかといった問題を扱っていて、全部で5章ありますが、最初の3章が比較的トーク内容が充実していたように思います(後半2章は正直それほどでも...)。

 第1章では、ヤフーで行われている「ななめ会議」というのが興味深かったです。ある意味、マネジャーに気づきを促すフィードバック方法の1つなのですが、人事部が職場のマネジャーについて部下たちに発言させ、次に人事部がその発言をマネジャーに伝え、最後は三者で話をするというものですが、こうした方法論もさることながら、こうした方法を取ることが可能な企業文化というのもあるだろうなあと。本間氏が「成長には修羅場だ」といった「修羅場幻想」からそろそろ離れた方がいいと言っているのにも納得。IT企業でありながら、「会って話すことがポイント」と言っているのも興味深かったです。

 第2章では、ワーク・ライフ・バランスに関して、「資生堂ショック」を話題にしており、本間氏の発言などからも窺えるように、何時間働くかではなく、パフォーマンスを見て評価するという傾向は今後強まるのだろうなあと(コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長なども以前からこの路線だったように思う)。但し、マネジャーは短期的評価を気にしていてはダメで、その意味で、マネジャーには覚悟が必要というのも分かります。

 第3章では、「働かないおじさん」とは「おじさん」が「学習した結果」生じているのであり、本間氏が、その"経験学習"も相当な水準に達しているかもしれないと言っているの、ヤフーのような執行役員でもそうしたことを感じるのかと興味深かったです。もちろんこうなってしまうのはマネジャーにも問題があるわけで、1つの大きな原因が評価の在り方にあって、本間氏が、「その人」を評価するのではなく「今期の働き」を評価せよ、つまり「人」ではなく「事」を評価せよ、と言っているのがしっくりきました。会社の「利益」と部下の「やりたい事」のベクトルを摺り合わせるのが上司の仕事だと言っているのも分かり易かったです。

第4章では、なぜ新規事業のハシゴはすぐに外されるのかと言う問題を扱っていて、新規事業に異動したいと言う部下にどう対処すべきかを論じており、この中では、企業のビジョンに絡めた話で、IT企業の間で社史編纂が密かなブームになっているという本間氏の話が興味深かったです。

 第5章では、なぜ転職すると給料が下がるのかというテーマで、転職の話が突然舞い込んできたとき、年収が減っても新天地へ行くべきかということを論じており、今話題の「副業」の問題なども話し合われています。

 前半3章が、マネジャーの直面するジレンマに的が絞られていて良かったですが、後半になって若手など働く側の方へ視点がずれていて、やや散漫になっていった印象。ただ、ヤフー執行役員の本間浩輔氏の話はなかなか興味深く、中原淳氏が主に聞き手に回っているのもいいです(中原氏は、今後もこうした対談形式の本を光文社新書から出していくのか。金井壽宏氏のパターン?)。

《読書MEMO》
●目次
第一章 なぜマネジャーに"現場仕事"が増えるのか
第二章 なぜ産休社員への人員補充がないのか
第三章 なぜ「働かないおじさん」の給料が高いのか
第四章 なぜ新規事業のハシゴはすぐ外されるのか
第五章 なぜ転職すると給料が下がるのか目次

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