【2697】 ○ 大和田 敢太 『職場のハラスメント―なぜ起こり、どう対処すべきか』 (2018/02 中公新書) ★★★☆

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「パワハラ」という和製英語では、職場に起きるハラスメント全体には対応できないと主張。

I職場のハラスメント.JPG職場のハラスメント 中公新書.jpg 『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか (中公新書)』['18年]

 職場のいじめを、企業の構造的な問題として捉え、「ハラスメント」という包括的な概念に基づき問い直すことを喚起し、実効的な規則と救済の制度を確立することを提唱してきた著者による本です。

 第1章では、職場におけるハラスメントがかつて「いじめ」や「嫌がらせ」と表現されていた中で、ハラスメントという主張が登場した経過を振り返るとともに、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなどのさまざまなハラスメント概念が氾濫している現状を分析しています。

 また、実効的なハラスメント対策を実施するうえでの問題点の1つとして、パワー・ハラスメントという概念が日本独自のものであることを挙げています。パワー・ハラスメントという言葉は、2001年に人事コンサルタントによって提唱された概念で和製英語であり、その言葉が世間に普及したため、厚生労働省も2012年にパワハラ概念による規制政策を提言したとのことです。

 しかしながら、厚生労働省が定義するパワハラ概念は、その認定において「職場内の優位性を背景に」と「業務の適正な範囲を超えて」の2つの要件を課しているため(しかも、セクシャル・ハラスメントはパワハラとは異なる定義がされているため)、パワハラという用語がさまざまなハラスメント行為の一部を表しても、職場に起きるハラスメント全体には対応できず、職場のハラスメントの解決にとってこのパワハラという用語は不適切であるとしています。

 著者によれば、そもそも「ハラスメントにならない指導や叱り方」という発想は、使用者と労働者との関係について、労働契約関係は合意に基づく対等・平等であるという原則を無視しているとのことです。また、パワハラの考え方が、部下に対する上司の「権力」を前提としていることも、使用者と従業員との間の自由な意思に基づく契約関係、すなわち対等・平等な関係を無視することであるとしています。

 第2章では、職場のハラスメントの実態をさまざまな調査結果から探り、ハラスメントが起きる構造を探るとともに、メンタルヘルス不調や長時間労働などに起因する隠れたハラスメント問題も取り上げています。

 第3章では、通常の業務を通じて行われる業務型ハラスメントをはじめ、労務管理型、個人攻撃型などのハラスメントの類型と、またその中にどういったタイプのハラスメントがあるのかを、170件以上もの裁判例を通じて紹介しています。

 第4章では、ハラスメント規制の先進国のEU諸国がどのように規制を行っているかを紹介し、被害者を救済するにはどうすればよいか、使用者や管理者の責務、労働者の責務、外部組織の役割、規制立法の役割を述べています。

 また、巻末には、被害者と企業のための「ハラスメント対策の10か条」集が付されていて、この中には、「企業におけるハラスメント防止のための事前措置10か条」「企業内でのハラスメント事後対応の10か条(使用者と人事管理部門の役割)」「企業内の相談担当者のための10か条」「ハラスメント調査のための10か条」など、企業内の担当者がチェックリストとして参照できるものが含まれています。

 本書の最大の特徴はやはり、「パワハラ」という言葉の問題点を指摘し、「ハラスメント」という包括的な概念を用いることを提案している点にあるでしょう。それ以外は、啓発書としてはオーソドックスであり、またハラスメントの事例も豊富で、類型整理などもよくまとまっていますが、「ハラスメント対策の10か条」も含め"マニュアル的"というよりは"啓発書"的であり、全体としても"教養系"の色合いがやや濃いように思いました(「中公新書」らしいと言えばそうなるが)。

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This page contains a single entry by wada published on 2018年10月 7日 17:06.

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