【2693】 ○ 山田 久 『同一労働同一賃金の衝撃―「働き方改革」のカギを握る新ルール』 (2017/02 日本経済新聞出版社) ★★★★

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同一労働同一賃金の意義は、それが新しい働き方ポートフォリオの実現に不可欠な公正な報酬決定基準につながること。

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同一労働同一賃金の衝撃 「働き方改革」のカギを握る新ルール』(2017/02 日本経済新聞出版社)

 政府が「働き方改革」における目玉政策として掲げ、わが国の職場に導入しようとしているのが「同一労働同一賃金」というルールですが、本書は、そもそも政府が同一労働同一賃金を導入する狙いはどこにあるのか、そして、わが国でそれが根づいてこなかったのはなぜか、といった様々な疑問を明らかにすべく、歴史的経緯や欧州諸国の実態を踏まえ、同一労働同一賃金について多角的観点から解説しています。

 第1章「ハードルは何か」では、わが国で同一労働同一賃金を導入するにあたっての様々なハードルについて考察し、わが国で同一賃金同一労働が成立してこなかったのは、人基準の雇用システムと、その結果としてのメンバーとしての正社員と有期契約の非正規労働者という、システムの二元性に原因があると分析しています。

 第2章「欧州の実態」では、同一労働同一賃金の本家家元である欧州諸国の実態を概観し、その根底には人権保障にかかわる均等待遇原則があるが、それは必ずしも所得格差を是正するのに十分な効果を持つものではなく、実際に欧州での所得格差は拡大傾向にあり、同一労働同一賃金の所得格差の是正に対する効果を過大評価すべきではないとしています。

 第3章「公平さを実現するには」では、わが国の処遇格差の実態をデータで確認し、必ずしも所得格差が拡大しているわけではないとしたうえで、客観的な格差と不公平感を区別することの必要性を指摘し、働く人のキャリア形成という視点から、人材形成や手続きの公正性といった、多角的な公平性への取り組みが必要になるとしています。

 第4章「企業は活性化するか」では、同一労働同一賃金が、経済活性化と両立できるものか考察し、正社員の硬直性こそが、正規・非正規間の格差問題の背景にあり、その意味で、正社員の在り方の見直しこそ、同一労働同一賃金などの格差是正政策と経済活性化との両立の鍵となるとしています。

 第5章「『日本型』実現の可能性」では、こらめでの考察を踏まえ、日本の特性を生かした「日本型・同一労働同一賃金」を実現するためには、企業や政府がどのような認識を持ったうえで、具体的にどのような取り組みをしていく必要があるかを考察しています。

 この第5章と、エピローグ「社会改革の方向性」が具体的な提言部分になっており、とりわけ第5章では、同一労働同一賃金の実現のためのポイントを整理したうえで、30歳代までの時期は、全ての労働者にメンバーシップ型雇用で働く経験を与え、40歳代以降については様々な選択肢を用意する「ハイブリッド型人事制度」というもの提唱し、そこから、ライフステージに応じた、多様性のある新しい働き方ポートフォリオのイメージを描いています。

 同一労働同一賃金の意義は、それがこうしたポートフォリオを実現するにあたって不可欠な公正な報酬決定基準につながるとし、本来の同一労働同一賃金の意義を実現するためには、トータルな働き方改革に同時に取り組まなければならないというのが本書のスタンスです。

 実務家にとってのやはり読みどころは第5章でしょうか。同一労働同一賃金の実現に必要な職務評価制度の整備や、予想される弊害への対応、個別企業が検討すべきポイントなどの諸課題が整理されれているとともに、先進企業例も紹介されています。もう少し第5章を膨らませて欲しかった気もしますが、同一労働同一賃金を実現することと働き方改革を推進することの関係が理解できるという意味では(同一労働同一賃金の実現には、働き方改革に同時に取り組む必要があるというこ必要があるというのは政府(諮問会議)も言っていることだが、それが"腑に落ちる"説明になっているという意味で)、啓発的な本であると思いました。

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