【2692】 ○ 渋谷 龍一 『女性活躍「不可能」社会ニッポン―原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』 (2016/04 旬報社) ★★★★

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関係者に改めて取材した「丸子警報器事件」の事例にシズル感があり、本書一番の読み所。

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女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』['16年]

 労働ジャーナリストによる著書で、著者は、雑誌「労旬」に「たたかう主婦パート」(2013年)、「たたかう主婦パートたち」(2015年)を連載するなどしており、「非正規問題」の"震源地"は主婦パートにあるとしてきた人。本書においても、冒頭、主婦パートを知らずして「非正規問題」は語れないとして、そのメカニズムや実態を分析並びに紹介しています(第1章~第3章)。そして、本書の大部分を占める第4章と第5章がそれぞれ「たたかう主婦パートのリアル」と題された著者自らが新たに取材した事例編になっています。

 第4章では、名古屋銀行パート団交で銀行側と闘い、女性ユニオン名古屋の執行委員長を経て'09年に衆議院銀議員選挙に立候補した坂喜代子氏の、名古屋銀行に入社して退職するまで、職業病の労災認定、パート労働法を活用した女性ユニオンを軸にした団体交渉、裁判準備と断念、選挙に立候補という波乱万丈の生きざまが、リアルに描かれています。

 第5章では、主婦パートの労働条件の改善を求めパートタイマー自らが会社側と裁判で争い、原告側が勝訴した裁判例として有名な丸子警報器事件の原告団について、当時の関係者に新たに取材し、なぜ、労働組合が主婦パートを組織化することが重要と考えたか、賃金差別裁判をどうやって戦い抜けたのか、その生の声を伝えています。

 結果的に、問題提起した後は、「事例」が大きな比重を占める作りとなっていますが、その事例に足で回って取材したシズル感があり、事例を通して現在に通じる非正規の問題(パート問題)の真相を浮かび上がらせるという著者の試みはある程度成功しているように思えます。とりわけ、これまで個人的には判例集などでしか知ることのなかった(本書サブタイトルにもある)丸子警報器事件について、当時の当事者が置かれていた実情などが著者の取材によって明らかになったり(既存の従業員労組と会社側との間で結ばれていた労働協約が「争議行為は行わない」「争議行為を行った者はに対して会社は懲戒解雇その他懲戒処分位に処することができる」といった会社側の要求が一方的に盛り込まれたものだったとか)、その当事者(当時に労働者)の口から語られるのには、得るものが多くあったように思います。

 新たに知ったことしては、1990年にパートタイマーを組織化した丸子警報器の労働組合ができ、1999年に高裁で、解雇裁判、賃金差別裁判とも労働者側が勝利したたわけですが、そのずっと前の70年代から会社との間で伏線となる労使の遣り取り(労働条件を巡る争い)はあったということと、女性パートが自発的に集まって組合を作った面もあるのはあるが、その契機となる1人の男性社員がいて、その人がリーダーとして皆を引っ張っていったということです。

 まるで、山崎豊子の『沈まぬ太陽』に出てくる「国民航空」の労働組合委員「恩地元」(モデルは小倉寛太郎)みたいな話でした。会社による組合潰しなどの話もよく似ていて、かなりドラマチックですが、本当にそうしたことがあったのだなあと改めて驚かされ、本書一番の読み所でした(丸子警報器事件の'実際'を知っておくというだけの目的で本書を読んでも、それなりに得るものはある)。

丸子警報器.jpg丸子警報器 map.jpg 丸子警報器事件という会社自体は長野県上田市に今もあり(真田家の支城・丸子城があった地)、裁判当時は従業員200名ほどでしたが今は(2014年取材時)は90名ほど。但し、裁判時に原告団だった28名のパートタイマーの中には今も勤めている人がいるそうです。正社員には定年があるが、パートタイマーには定年が無くなっているとのことで、これは裁判時に裁判官が実地検証したらしいですが、パートタイマーの不良製品を峻別する技能は、その経験値から正社員のそれを遥かに超えているとのこと、別に、裁判に勝ったからといって'逆差別'状態になっているわけではなく、スキルがエンプロイアビリティとして評価されているということなどだと思いました。



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和田泰明ブログ

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This page contains a single entry by wada published on 2018年10月 7日 12:07.

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【2693】 ○ 山田 久 『同一労働同一賃金の衝撃―「働き方改革」のカギを握る新ルール』 (2017/02 日本経済新聞出版社) ★★★★ is the next entry in this blog.

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