【2680】 ○ 株式会社アドバンテッジ リスク マネジメント 『メンタルタフネスな会社のつくり方―メンタルリスクを回避し、企業の生産性向上を実現する』 (2016/03 ダイヤモンド社) ★★★★

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「ストレスチェック制度」をこなすだけでなく、メンタル対策を企業価値問題として捉え直す。

メンタルタフネスな会社のつくり方.jpgメンタルタフネスな会社のつくり方―――メンタルリスクを回避し、企業の生産性向上を実現する』(2016/03 ダイヤモンド社)

 2015年12月より、従業員数50名以上の事業所に対するストレスチェックの義務化がスタートしています。本書は、企業向けメンタルヘルスケアのサポート・サービスにおいて首位の実績を有する人事ソリューション企業「アドバンテッジ リスク マネジメント」によるものです。メンタル問題は経営を圧迫する大きなリスクであるとし、「ストレスチェック制度」について解説するだけでなく、各企業がメンタル対策を企業価値向上の問題として捉え直すことを訴えています。

 第1章「だから、国が動き出した」では、ストレスチェック義務化の法施行までの背景を解説し、併せて、精神疾患者の休職コストは半年で約422万円になり(その上さらに穴埋めのための採用コストが約180万円かかる)、メンタル不調による休職者の退職率は42.3%にもなるといった公的機関の調査データを示しています。こうした数字は、メンタルヘルスケア問題に直接関わっている担当者には既知のことと思われますが、一方で、休んでいる分コストは少なくて済んでいると考える人事パーソンや職場マネジャーがまだいるとすれば、その考えを今すぐに改める必要があるということになるでしょう。

 第2章「ストレスチェック制度とは何か?」では、2015年12月より実施されている、いわゆる「ストレスチェック制度」について、ストレスチェックで何を調べるのか、調査すべきでないことは何かを解説しています。その上で、「ストレスチェック」を形だけこなす、という考えでは、成長を志向する企業としては不十分であり、メンタルヘルス不調者を出さない職場づくりのための体制を整えておくことが肝要であるとしています。

 第3章「ストレスチェックだけでは、メンタル不調はなくならない」では、ストレスチェックを実りあるものにするために、(1)なるべく多くの従業員がチェックを受ける、(2)高ストレスと判定された従業員をなるべく専門家に繋げる、(3) 高ストレスと判定された従業員以外にも意義のあるチェック内容にする、という3点を意識することが重要であるとし、高ストレス者が医師面接を申し込むことへのハードルをどう乗り越えさせるか、匿名相談窓口の設置や電話・メールなどで相談できる仕組みづくり、外部のカウンセリングサービスの利用などを通して、高ストレス者の面接指導に繋がるサポートをすることを説いています。

 第4章「メンタルタフネスな組織をつくる」では、高いストレスを抱える傾向にあるのは「30代」「女性」「IT業界」であるが、仕事の量・質イコール高ストレスということにはならず、重要なのは「ビジョンの共有・充実感」「仕事の裁量」「人間関係」であるとしています。また、認知行動療法という心理療法の理論に基づいて、ストレスへの対処は「学習やトレーニングによってある程度改善できる」として、その認知行動療法の技法や入門書を紹介するのと併せて、怒りの発生をコントロールする「マインドフルネス」というセラピーの考え方を紹介しています。また、部下のストレスの原因にならない上司であるためにはどうすればよいか、上司のストレスの原因にならない部下であるためにはどうすればよいか、を指南するとともに、ストレスの高低だけでなく、従業員がポジティブな感情をもって自発的に仕事に取り組む「エンゲージメント」の状態であるかどうかを、ストレス反応の高低と併せて二元的にみる必要があるとしています(エンゲージメントが高く、ストレス反応も高い組織は"活き活き状態"にあると言える)。

 第5章「ストレスチェックから職場改善へ。先進企業の事例紹介」では、ストレスチェックを契機に、或いはそれ以前から職場改善に取り組んでいる先進企業4社(ニチバン、水戸証券、大京、ソラシドエア)の事例を紹介しています。何れも「アドバンテッジ リスク マネジメント」のサポートを受けている企業ですが、外部に丸投げするのではなく、自社でさまざまな工夫を凝らしているのが窺えて興味深く、また、担当者が顔写真入りで紹介されていて自らの言葉で語っているシズル感が感じられました。

 全体を通して「入門書」レベルであり、すでにメンタルヘルスケア問題に直接関わっている担当者にはややもの足りない部分もあるかもしれませんが、先進企業の担当者の言葉などは、職場に啓発の輪を広げていく上で参考になるかと思います。一方、ストレスチェックへの対応について、遅ればせながら勉強中という読者にとっては、読み易い「入門書」と言えると思います。その何れにとっても、「ストレスチェック制度」のテクニカルな対応に目が行きがちなところ、「ストレスチェック」を形だけこなすのではダメであり、メンタルヘルス不調者を出さない職場づくりが肝要であることを訴えている点で、啓発される要素は含まれていると思います(企業が自社で出来ることを優先して説き、そのためにソリューション企業としての自社のノウハウをある程度オープンにしている点は好感が持てた)。

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