【2671】 ○ 坂本 光司&坂本光司研究室 『日本でいちばん社員のやる気が上がる会社―家族も喜ぶ福利厚生100』 (2016/03 ちくま新書) ★★★★

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社員とその家族の幸福・利益・生活を優先させた結果、企業が成長するという流れがミソ。

日本でいちばん社員のやる気が上がる会社.jpg日本でいちばん社員のやる気が上がる会社: 家族も喜ぶ福利厚生100 (ちくま新書)』['16年]

日本でいちばん社員のやる気が上がる会社2.jpg 中小企業のユニークな福利厚生制度の数々を紹介した本です。まず、全3章構成の第1章「中小企業の福利厚生制度の現状」で、本書執筆のために実施したウェブ調査をもとに、中小企業の福利厚生制度の現状と課題を分析しています。

 そして、本書の中核となる第2章「社員と家族が飛び上がって喜ぶ福利厚生制度100」では、社員とその家族を幸せにしている100の事例を選び、子育て、メモリアル、就業条件、職場環境、親睦、教育、生活、健康、食事、その他の10のジャンルにわたって紹介しています。取り上げた事例の中には、「これが福利厚生か?」と思あれるものもあるかもしれませんが、本書では、福利厚生を、「賃金など労働の対価以外の、社員とその家族の幸福・利益・生活などの向上に資する制度」と、敢えて拡大解釈したとのことです。

 例えば子育て面の事例では、「300万円の出産祝い金を支給」といったスケールの大きなものから、「オフィスに授乳室を設置」「いつでもいつでも子連れ出勤可能」といった現実対応的なものまであり、メモリアル面では、「配偶者の誕生日に特別休暇」「誕生日に10万円をプレゼント」といったものから、「子供に誕生日に図書カードと社長からのメッセージ」が贈られるという、細やかな配慮が感じられる事例なども紹介されています。

 就業条件面では、「4年に一度のオリンピック休暇」「最長1ヵ月の長期リフレッシュ休暇」といった休暇に関するものから、「週1回、出勤を1時間遅くできる"ニコニコ出勤制"」「ほぼ全員が定時前に退社」といった労働時間に関するもの(「残業削減分を賞与で還元」するという事例もある)、さらには、「生涯現役・定年なし」といった雇用契約そのものに関わる大胆な施策も見られます。

 職場環境面では、「社員のために景色の良い職場へ移転」したといったユニークなものもあり、また、親睦面でも、「全社員がドレスアップしてパーティーを楽しむ」といった、これまたユニークな例も。「会社でいちばん快適な場所が、社員食堂兼休憩室」になっているという事例もあります。

 教育面で、「読みたい本はすべて企業が購入」するという事例もあれば、生活面では、「最長6年間の介護休暇」というのもあります。健康面で、「朝ヨガ教室で心と体の健康をサポート」している企業もあれば、食事面では、「会社の負担でおやつ食べ放題」などといったものもあって、こうして見ていくとなかなか興味深いです。

 第3章「今後の福利厚生制度導入・運営の五つの視点」では、社員とその家族の幸せを念じた福利厚生制度の存在は、彼らの愛社心を高め、結果として業績を高めることは明白ではあるが、企業経営の考え方や進め方を大して変えず、安直にその導入や充実強化を図るのは早計であり、逆効果のこともあるとしています。確かに、こうした事例の中には、経済的事情や業態その他の違いにより簡単には導入できないものもある一方、中小企業などで比較的導入しやすいのではないかと思われる施策例もあります。しかし、簡単に導入できるから導入してみるというのではなく、その制度の根底にしっかりした経営の考え方がなければ、単なる企業内慣習に過ぎなくなってしまうのでしょう。

 この章では、真に社員とその家族のためになる福利厚生制度の導入と運営についての効果的視点を次の5つに絞り込んでいます。
 ①業績向上の手段ではなく社員とその家族の幸せのため、
 ②制度の導入よりも企業風土が大切、
 ③全体対応より個別対応、
 ④社員だけでなくその家族も
 ⑤金銭より心安らぐ福利厚生制度を

 福利厚生を真の意味で充実させることで社員の定着率が改善し、社員のモチベーションも高まって、仕事の質も向上するので売り上げも伸びる―そうした因果関係を、多くの事例を集めることで帰納的に検証しようとした試みとも言える本であるように思いました(但し、いわば衛生要因であるところの福利厚生が直接売上げ向上に繋がるのかは議論の分かれるところ)。どの施策も企業業績の向上を直接の目的とするのではなく、社員とその家族の幸福・利益・生活を優先させた結果、企業が成長するという流れが成立しているという点がミソなのでしょう。取り上げられている事例が(冒頭で本書における福利厚生の定義があったように)従来の"福利厚生"の概念に止まっていない点に留意すべきなのかもしれません。

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