【2664】 ◎ 木谷 宏 『「人事管理論」再考―多様な人材が求める社会的報酬とは』 (2016/09 生産性出版) ★★★★★

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ポスト成果主義・人材多様性に対応する「第三の報酬」=社会的報酬(キャリア的&時間的報酬)。

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「人事管理論」再考――多様な人材が求める社会的報酬とは』(2016/09 生産性出版)

 本書は、これからのポスト成果主義と人材多様性に対応できる人事管理の姿とはどのようなものかを考察したものです。著者によれば、人事管理に関する研究は、組織論、もしくは組織行動論および人的資源管理論において活発であり、成果主義の破綻やダイバーシティ・マネジメントの内容を取り扱うものも少なくないが、ポスト成果主義のあるべき人事管理の姿とダイバーシティ・マネジメントによって引き起こされる人事管理の具体的な変容とを接合する研究は少ないとのことです。

 著者は、もはや人々は「賃金」と「やりがい」といった従来の二大報酬のみによって動機づけられる存在ではなくなっているとし、生活の充実を求める人々にとって不可欠な「時間的余裕」と短期的なやりがいや刹那的な充実感とは異なる「成長の実感」が第三の報酬として求められており、このことを可能にするワーク・ライフ・バランス施策、公正な評価・処遇制度、中長期的なキャリア支援策によって、これまでの報酬体系を再構築することが必要であるとしています。本書は、これらの報酬を新たな「社会的報酬」と名づけ、今後の本格的な研究の起点となることを意図して書かれたものであるとのことです。

 前半にあたる第1章から第4章は、主に欧米と日本の人事管理の系譜を辿りながら、今日の人的資源管理および成果主義の抱える課題を抽出して仮説を構築し、その検証と補強をしています。「第1章 人事管理が抱える限界」では、20世紀初頭の科学的管理法を契機とした欧米における人事管理の発生から人事労務管理の特徴を概観し、1980年以降に登場した人的資源管理(HRM)の概要を詳らかにし、更に現在の人事管理が抱える限界である、①人事管理における社会的視点おの欠落、②金銭面と心理面のみによる報酬制度の限界、②フルタイム労働者と男性正社員を基軸とした管理構造を指摘、ポスト成果主義と人材多様性に対応できる新たな報酬管理の必要性を提起しています。

 「第2章 社会的視点の欠落」では、第1章で指摘した「社会的視点の欠落」について検討しています。社会における企業の役割の変化を企業の社会的責任(CSR)の概念から吟味し、従業員の両面性を踏まえた人事管理を設計する意義を指摘しています。「第3章 金銭的報酬と心理的報酬の偏重」では、従来の報酬制度の限界につて検証しています。従来の年功制、職能資格制度、成果主義の特徴を報酬管理の視点から明らかにし、従来の報酬体系の分解・再編から帰結する社会的報酬の概念を提起しています。「第4章 男性正社員に基軸を置いた管理構造」では、「従業員の同質性を前提とした人事管理」について検証しています。ダイバーシティ・マネジメントの概念を概観した上で、個人の内なる多様性としてのワーク・ライフ・バランスの重要性と多様な人材への対応が企業業績の面からも急務であることを指摘しています。

 ここまでの検証により、ポスト成果主義と人材多様性に必要とされる新たな報酬がキャリア的報酬と時間的報酬からなる社会的報酬であることが明らかになり、「第5章 ケーススタディ―A社における人事改革」では、著者が実際に企業内で実務責任者として携わった人事改革事例を取り上げ、社会的報酬に基づく人事管理の方向を導いています。『第6章 第1の報酬:「キャリア的報酬」』においては、従来の日本企業が行ってきた人事管理を"長期的な将来価値に基づく見なし型人事管理"とし、プロフェッショナルに対応する人材価値型人事管理によってキャリア的報酬を提供すべきことを指摘しています。さらに『第7章 第2の報酬:「時間的報酬」』では、働き方の変化を企業や政府のワーク・ライフ・バランス(WLB)施策の動向から吟味し、働くすべての人々が何らかの制約を抱えていることを明らかにし、多様な制約社員に対応するWLBマネジメントによって時間的報酬を提供すべきことを指摘しています。

 以上の検証とモデル化を踏まえた本書の結論として、「終章 社会的報酬に基づく人事管理の展開」では、①企業の社会的合理性と従業員の両面性を重視する新たな報酬体系、②プロフェショナルを公正に評価・処遇。育成する人材価値管理に基づくキャリア的報酬、③多様な働き方を許容するWLBマネジメントによる時間的報酬の必要性を主張しています。

 これからの人事管理の在り方を大きなスケールで新たなパラダイムで捉えており、それでいて、明確な方向性を示している本だと思いました。ポスト成果主義と人材多様性に必要とされる新たな報酬が、キャリア的報酬と時間的報酬からなる社会的報酬であるとの指摘は、本書で示された数々の検証によって理解されやすいものとなって、また、示唆に富むものでもあるように思いました。著者が述べているように、こうしたコンセプトが学界で今後の研究の起点となることは歓迎されることだと思われますし、また、実務家の間でも強く意識し、更には、次に何をすべきかを考える起点としていくべきだとの印象を抱きました。



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和田泰明

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