【2660】 ◎ ラズロ・ボック (鬼澤 忍/矢羽野薫:訳) 『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』 (2015/07 東洋経済新報社) ★★★★☆

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どこの企業でも考える人事施策を1つ1つ積み上げてきた。結局、やるかやらないかの違いだろう。

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ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』['15年]

グーグル logo.jpg 本書は、1972年、共産主義政権下のルーマニアに生まれ、マッキンゼーやGE勤務を経て2006年にグーグルに入社、9年間に従業員が6千人から6万人に増えていく過程で、グーグルの人事システムを設計し進化させてきた、同社の人事担当上級副社長によるものです。グーグルにおける採用・業績評価・人材育成・福利厚生の仕組みや考え方を通して、人材を活かし、組織を有効に機能させるうえで効果的であると考えられるワーク・ルールの数々を示しています。

 第1章・第2章では、グーグルの創業エピソードなどを紹介しながら、社員が創業者のように行動すること、自分の仕事は重要なミッションを持つ天職だと考えること等をルールとして掲げています。第3章から第5章にかけては、採用について書かれており、時間をかけて最高の人材だけを雇うこと、何らかの点で自分より優れた人材だけ雇うこと、マネジャーに自チームのメンバーの採用を任せないこととし、卓越した採用候補者を見つけるにはどうしたらよいか、最高の採用テクニックを発揮するにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、マネジャーから権力を取り上げ、社員を信頼して運営を任せるにはどうすればよいかを説き、第7章では、評価や報酬でなく、個人の成長に焦点を合わせることで業績を改善せよとして、そのための業績評価のポイントを示しています。第8章では、最大のチャンスは最低(ボトムテール)の社員と最高(トップテール)の社員にあるとし、この2本のテールを管理することの重要さを説いています。第9章では、最良の教師は社内にいるとして、学習する組織を築くにはどうすればよいかを説いています。

 第10章・第11章では、報酬には大きな差があってよく、一方、社員がいちばん必要としている時には社員に寄り添う必要であるとしています(グーグルの社員が亡くなった場合、遺族に社員の死後10年間、給与の50%が支給されるという制度が紹介されている)。第12章・第13章では、社員を健康と富と幸福に導くにはどのような選択肢を設ければよいか、失敗に直面したときはどうすればよいかを説いています。第14章では、これまで述べてきたことを総括し、チームと職場を変えるための10のステップとしてまとめています。

 本書を読む前は、グーグルという極めてイノベーティブな文化を持つ企業のワーク・ルールが、普通の企業にとっては果たして参考になるのかという思いがありましたが、読んでみたら、確かにグーグルならではの話もなかった訳ではないですが、むしろ大部分は、どこの企業でも考えるであろう人事施策であり、それらを試行錯誤や失敗を繰り返しながら1つ1つの積み上げていた先に、官僚主義に陥らず、ベンチャースピリットを保ち続ける、今日のグーグルがあることが理解できました(著者も「グーグルのプログラムの大半は誰でも真似できる」としている。結局、やるかやらないかの違いだろう)。

 個人的には、第3章から第5章にかけて「採用」について3章を割き。なぜ採用は組織における唯一にして最重要の人事活動なのか、いかにして最高の人材を採用するか、その難しさについて説いているのが印象的でした(グーグルは、世界で入社するのが最も困難な会社の1つであり、本書でも、「まずは100万人から300万人の求職者からの応募を受け付け(中略)約0.25%しか雇わない」、「ハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した(中略)(ハーバードはグーグルの)25倍も簡単なのである」としている)。

 550ページを超す大著ですが、これからの企業の人事マネジメント(本書では「ピープル・オペレーションズ」という言葉を使っている)やそこで働く人々の働き方の在り方について考えるうえで様々な刺激と示唆を与えてくれる本であり、人事パーソンにお薦めしたい1冊です。

《読書MEMO》
●社員への権限委譲のために(第6章/241p)
□ステータスシンボルを廃止する
□マネジャーの意見ではなく、データにもとづいて意思決定を行う。
□社員が自分の仕事や会社の指針を定める方法を見つける。
□期待は大きく。
●業務評価のために(第7章/286p)
□目標を正しく設定する。
□同僚のフィードバックを進める。
□キャリブレーションを活用して評価を完了させる。
□報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。
●プロジェクト・オキシジェンの8つの属性(第8章/312p)
1 良いコーチであること。
2 チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントしないこと。
3 チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4 生産性/成果思考であること
5 コミュニケーションは円滑に。話を聞き、情報は共有すること
6 チームのメンバーのキャリア開発を支援すること
7 チームに対して明確な構想/戦略を持つこと。
8 チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
●2本のテールを管理するために(第8章/324p)
□困っている人に手を差し伸べる
□最高の社員をじっくり観察する
□調査やチェックリストを使って真実をあぶり出し、改善するように社員をせっつく
□自分のフィードバックを公表し、至らなかった点について改善するよう努力して範を垂れる。
●チームや職場を変える10のステップ(第14章/521p)
①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない
⑤「2本のテール」に注目する
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジーきっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして、①に戻って繰り返し)

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