【2654】 ○ ロッシェル・カップ 『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか? (2015/01 クロスメディア・パブリッシング) ★★★★

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日本的雇用慣行や人事管理が急速にガラパゴス化しつつあるという危機とその解決策を示している。
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日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』(2015/01 クロスメディア・パブリッシング)/ロッシェル・カップ氏(2015年6月29日付日本経済新聞)

 本書の著者ロッシェル・カップは、職場における異文化コミュニケーションと人事管理が専門の経営コンサルタントですが(さらに言うと、「アメリカ式上司を期待しているアメリカ人社員」を管理する日本人マネジャーが彼女の仕事の対象であるとのこと、『反省しないアメリカ人をあつかう方法』('98年/アルク新書)という著書もある)、序章でいきなり、日本のこれまでの人事管理は持続が不可能であり、完全に考え直す必要があるとしています。

日本企業の社員は、なぜこんなにも605.JPG 第1章「日本人の働き方」では、エンゲージメントを社員のモチベーションを測定する鍵であるとして、日本企業で働く社員のエンゲージメントや労働生産性の低さを諸外国との比較データで示し、その根源にある雇用スタイル、人事管理の慣行、人材育成の方法、企業文化の問題を指摘しています。

 第2章「社員のモチベーションとパフォーマンスをいかに高めるか」では、モチベーションやエンゲージメント向上の要因は何かを解説し、社員を一人前として扱い、信頼を置くことを重視した企業の事例、公平・自由・柔軟性のあるチームづくりをすることで社員のモチベーションやエンゲージメントを高めた企業の事例を紹介しています(以下、各章末で、それぞれのテーマに関連した先進海外企業のケーススタディが紹介されている)。

 第3章「雇用関係の構造」では、日本企業が非正規社員への依存度が高いことの問題を指摘するとともに、正社員も非効率な人事異動によりキャリアが追求しにくいとして、異動・昇進に関する外国企業の優れた取り組みを紹介しています(日本企業の人事異動の慣行は、江戸時代の参勤交代がそのまま引き継がれたのではないかと思われるとしている)。

 第4章「仕事中毒の日本人」では、日本企業の長時間勤務は当たり前とされている環境やサービス残業の横行を問題視し、また日本人のライフスタイルが長時間労働を助長しており、さらに仕事慣行が非効率で、仕事の時間帯と場所に関する自由がないとしています(威圧的状況と長時間労働の文化が排除されないままでのホワイトカラーエグゼンプションの導入に反対しているのが興味深い)。

 第5章「日本におけるマネージメントスキルとリーダーシップの現状」では、日本人マネジャーは個人のエンパワーメントに欠けるとし、日本で励行されているホウレンソウは、アメリカではマイクロマネジメントと呼ぶものに近く、マイクロマネジメントはエンパワーメントの対極にあるものとして忌避されるとしています。また、日本では、マネジャーはヒエラルキーによって部下に接する一方、フィードバックは欠如しており(日本のマネジャーはダグラス・マグレガー言うところのⅩ理論のマネジャーであると)、企業の上層にいるマネジャーがリーダーシップを発揮していないことも、社員のモチベーションが低い要因であるとしています。

 第6章「人事管理システムのあり方」では、職務内容記述書、求人活動、報酬、業務管理、段階的懲罰制度、キャリアパスなどについて、具体的に言及し、さらに、社員の意識を測定して、潜在的な問題を把握し、是正措置をとることの大切さを説いています。とりわけ職務内容記述書については、序章においても、仕事の定義を明確にすることの重要性を説いています。

 第7章「多様な社員の有効活用のあり方」では、切迫した労働者不足とグローバル化に対応するために、女性、高齢労働者、非日本人労働者、多様な背景を持つその他の労働力の4種類の人材をどう活用していくべきか、そのポイントを述べています。

 第8章「自ら進路を選択し、やる気を出す」では、世界の変化は続き、日本も変化の波は避けられないのであって、個人はキャリアの目標を自分で立て、自己の能力を開発し、ネットワークを広げていかなければならないとしています。

 日本の企業文化や労働慣行に対する批判が続き、日本企業は、人事管理の仕方に関して「典型的」な欧米の企業を模倣するより、最先端を行く例から学んだ要素を取り入れることは一考に値するとして、第2章位以下各章末で、それぞれのテーマに関連した先進海外企業のケーススタディが紹介されています。それが「新しい働き方」の事例として何れも新鮮に感じられました。

 著者自身、人材の長期的な育成など、日本的人事管理の良い点は残せとは言っていますが、これだけ日本的人事管理に対する批判が続くと(書かれていることの1つ1つは以前にもどこかで聞いたことがあるようなものであったとしても、これだけまとめて言われると)、しかも、そうした企業文化や労働慣行のギャップを埋めることをサポートする仕事をしている知日派の外国人からそれが語られると(本書は翻訳書ではないということになっている)、やはり日本も変わっていかなければならないのだろうなあと思わざるを得ません。

 本書で述べられていることは、日米の違いと言って済まされるものではなく、日本の雇用慣行や人事管理が世界に対して急速にガラパゴス化しつつあるという危機を如実に示しているとも言え(ケータイだけの話じゃないね)、そうした危機感が喚起させられたという意味で、個人的には、啓発度の高い本でした。また、問題をあげつらうだけでなく、それに対して解決策も提示しているという点でも(こちらの方は、個人的には一部、そうは言ってもその前に...というのが幾つかあった―外部市場の問題や労働法の問題など―が)一定の評価はできるかと思います。

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