【2657】 ○ 中原 淳 『人事よ、ススメ!―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講』 (2015/03 碩学舎ビジネス双書) ★★★☆

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「メタ研修」本として読んだ。人材開発に関する知的な刺激が得られるか。

0人事よ、ススメ!11.png人事よ、ススメ!.jpg人事よ、ススメ! ―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講 (碩学舎ビジネス双書)』['15年]

 本書は、「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶことを目的にした社会人向け講座「ラーニングイノベーション論」での講義の様子を紙上に再現したものです。本書の編者の中原淳氏が主任講師を務めるこの講座は、慶應丸の内シティキャンパスで行われており、企業の人事・人材開発担当者が半年のセッションを通して「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かして、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行う、アクションラーニング型の授業を特徴としており、毎回それぞれの領域で活躍する研究者、実務家を招き、最先端の講義や実習をしているとのことです。

 編者を含む各領域で活躍する研究者、実務家がリレー講義をしています。各講の冒頭に編者によるイントロダクションがあり、講義後は、編著者がファシリテーションをつとめるディスカッションやワークショップが用意されているというスタイルです。

 セッション1で北海道大学の松尾睦教授が、「経験学習とOJT研究の現在~育て上手のマネジャーの指導法」とのテーマのもと、「人が仕事の現場で学ぶこと」即ち「経験学習」について講義し、経験と挑戦は学びを促進するとしています。セッション2では玉川大学の難波克己准教授が、「非日常のアドベンチャーを通し、できる自分に出会う」というテーマのもと、非日常的なグループワーク(体験)を通して、チームワークや信頼を学び、自分の本質を知っていくアドベンチャーアプローチという手法を紹介しています。

 セッション3では一橋大学の守島基博教授が、「日本型戦略人的資源論とはなにか」というテーマのもと、企業の経営戦略と人材マネジメントの関係について講義し、戦略達成支援、組織強化、人材サポートの3つの人材マネジメントが相俟ってこそ、企業における経営に資する人材マネジメントは作られるとしています。セッション4ではスターバックス コーヒー ジャパンの久保田美紀・人材開発部部長が、受講者を自社のサポートセンター(本社)に招き、「やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場」というテーマで講義しています。

 セッション5以降は、主に人事・人材開発における体系的な知識に関する講義となっています。セッション5ではSAPジャパンのアキレス美知子・人事本部長が、現場と経営を結ぶ「ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方」について講義し、人事が職場を元気にするとしています。セッション6では神戸大学の金井壽宏教授が、「提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える」というテーマで、誰かに何かを届け、役に立つことが、「提供価値(デリバラブル)」であると説いています。
 
 セッション7は編者による「職場の学を科学する」という講義で、ここでは職場の人材育成に関する様々なエピソードが紹介され、セッション8では東京工業大学大学の妹尾大准教授が、「知識創造理論の現在~知識創造をめざす「場」のデザインとは」というテーマで講義しています。

 セッション9は東京学芸大学芸術の高尾隆氏による「創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開」という講義であり、ここでは身体を通して創造を考えています。セッション10は再び編者による講義で、「教える」とは何かについての原理原則の確認であり、一番大切なことは学習者中心主義であり、学習者が変化すること、考えさせることが欠かせないとしています。

 セッション11で再び現場に戻り、サイバーエージェントの曽山哲人・人事本部長が、サイバーエージェントの人事制度をケーススタディとして紹介し、人事が組織を元気にするエンジンになるべきだとしています。そして最後に、セッション12で法政大学の長岡健教授と編者が対談し、「ラーニングの現在」について、企業に「実験室」はあるのかというテーマで語り合っています。

 400ページを超える本ですが、講義録のような感じなのですらすら読めます。それでいて、人材開発に関する知的な刺激も一応は得られます。敢えて言えば、1つ1つの講義の内容の全てを収録はし切れなかったと思われ、それぞれがややあっさりし過ぎになっているようにも感じられました。実務と理論のバランスはよく取れていると思います。

 個人的には、本書自体を研修の新たな在り方を示した「メタ研修」本として読んだきらいもあります。でも、だったら実際にこの「ラーニングイノベーション論」の講座を受講してみるのが一番なのだろなあ。本書でもシズル感はそれなりに伝わるよう工夫はされていますが。

《読書MEMO》
●収録されている全12講と講師
(1)経験学習とOJT研究の現在~育て上手のマネジャーの指導法
 北海道大学大学院経済学研究科教授 松尾睦
(2)「非日常のアドベンチャー」を通し、「できる自分」に出会う
 玉川大学学術研究所・心の教育実践センター准教授 難波克己
(3)日本型戦略人的資源論とはなにか
 一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博
(4)やる気をひきだすマネジメント~社員自ら創り育てるわたしたちの働く場
 スターバックス コーヒー ジャパン (株)人事本部人材開発部部長 久保田美紀
(5)ネットワーカーとしての人材開発部門のあり方
 SAPジャパン(株) 常務執行役員人事本部長 ほか アキレス美知子
(6)提供価値(デリバラブル)と支援を手かかりに人材開発部門のあり方を考える
 神戸大学大学院経営学研究科教授 金井壽宏
(7)「職場の学び」を科学する
 中原淳
(8)知識創造理論の現在~知識創造をめざす「場」のデザインとは
 東京工業大学大学院准教授 妹尾 大
(9)創造的なコラボレーションを生む~インプロビゼーション(即興演劇)の展開
 東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野 准教授 高尾隆
(10)研修のデザイン~教えることを科学する
 中原淳
(11)"成長するしかけ"を創る
 (株)サイバーエージェント 執行役員 人事本部長 曽山哲人
(12)特別対談 ラーニングの現在~企業に「実験室」はあるのか
法政大学経営学部教授 長岡健×中原淳

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