【2642】 ○ 小津 安二郎 「東京暮色 (1957/04 松竹) ★★★★

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後期作品の中では異彩を放つこの"暗さ"は、小津安二郎の悲観的な結婚観に符合する?

東京暮色 1957.jpg 東京暮色  1957.jpg 東京暮色 j.jpeg 東京暮色 有馬稲子 .jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「東京暮色」」「東京暮色 デジタル修復版 [DVD]」 山田五十鈴・原節子 有馬稲子
東京暮色_AL_.jpg東京暮色_640.jpg東京暮色157a.jpg 杉山周吉(笠智衆)は銀行に勤め、停年も過ぎ今は監査役の地位にある。男手一つで子供達を育て、次女の明子(有馬稲子)と静かな生活を送っている。そこへ、長女の孝子(原節子)が夫との折り合いが悪く幼い娘を連れて出戻ってくる。一方、短大を出たばかりの明子は、遊び人の川口(高橋貞二)らと付き合うようになり、その中の一人である木村憲二(田浦正巳)と肉体関係を持ち、彼の子を身籠ってしまう。憲二は明子を避けるようになり明子は彼を捜して街を彷徨う。中絶費用を用立てするため、明子は叔母の重子(杉村春子)に理由を言わずに金を借りようとするが断られ、重子からこれを聞いた周吉は訝しく思う。その頃、明子は雀荘の女主人・喜久子(山田五十鈴)が自分のことを尋ねていたと聞き、彼女こそ自分の実母ではないかと孝子に質すが、孝子は即座に否定する。喜久子はかつて周吉がソウルに赴任していたときに東京暮色8.jpg周吉の部下と深い仲になり、満洲に出奔した過去があったのだ。明子は中絶手術を受けた後で、喜久子がやはり自分の母であることを知って、自分は本当に父の子なのかと悩む。蹌踉として夜道へ彷徨い出た彼女は、母を訪ねて母を罵り、偶然めぐりあった憲二にも怒りに任せて平手打を食わせ、そのまま一気に自滅の道へ突き進んで行った。その夜遅く、電車事故による明子の危篤を知った周吉と孝子が現場近くの病院に駈けつけたが明子は既に殆ど意識を失っていた。その葬儀の帰途、孝子は母の許を訪れ、明子の死はお母さんのせいだと冷く言い放つ。喜久子はこの言葉に鋭く胸さされ東京を去る決心をする。また、孝子も自分の子のことを考え、夫の許へ帰り、家は周吉一人になった。今日もまた周吉は心侘しく出勤する―。

2018年・第68回ベルリン国際映画祭(ヴィム・ヴェンダース監督・坂本龍一氏(審査員))
Tokyo-Twilight_0 - コピー.jpgTokyo-Twilight_0.jpg第68回ベルリン国際映画祭ヴェンダース監督・坂本龍一.jpgTokyo-Twilight_4.jpg 1957年公開の小津安二郎監督で、今年['18年]開催の第68回ベルリン国際映画祭のクラシック部門で、ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」('87年)などと併せて選出され、プレミア上映されました。小津安二郎監督作品のデジタル修復版は、2013年のベルリン国際映画祭の「東京物語」から世界三大映画祭クラシック部門で7作目の選出となり、小津安二郎の世界的な評価の高さが窺えます(ヴィム・ヴェンダースに至っては、「小津安二郎は私の師匠」と以前から公言し、同映画祭においても審査員の坂本龍一氏を前に、"天国の大島渚"にごめんなさいと謝るジョークを交え、"小津愛"を繰り返し吐露している)。

East of Eden.jpg ジェームズ・ディーンの代表作「エデンの東」('55年)の小津的な翻案とされ、どちらも父親の妻(つまり母親)が出奔していて、「エデンの東」における兄弟が原節子と有馬稲子の姉妹に置き換えられている作りですが、内容が暗いばかりでなく、実際に暗い夜の場面も多く、有馬稲子が全編を通して全く笑うことが無くて、その最期も含め作品の暗さを補強している印象です。ちょうど、「風の中の牝雞」('48年)までの小津作品に見られた"暗さ"の部分を継承している感じでしょうか。そうした暗さもあってか、一般の人気は芳しくなく、キネマ旬報のベストテンでも19位と圏外となり、小津安二郎自らも自嘲気味に「何たって19位の監督だからね」と語っていたとのことです。

東京暮色7.jpg東京暮色 nakamura .jpg しかしながら、戦後期の大女優山田五十鈴(1917-2012)が出演した唯一の小津作品であり、姉妹の実母で雀荘の女主人・喜久子を演じたそのリアルな演技はさすが。夫役の中村伸郎も、後の出演作に多く見られる会社役員や大学教授の役ばかりでなく、こういった市井の人を演じても上手いということがよく分かります(まあ、「東京物語」('57年)でも下町で美容院を営む杉村春子の夫役だったが)。加えて、小津安二郎自身が小津作品における「四番バッター」と評した杉村春子も相変わらず世話焼きおばさんぶりが上手く、こうなるとむしろ原節子の比較的パターン化された演技や笠智衆の一本調子が物足りなくなってくるほどです。

 小津映画で原節子が主演した"紀子三部作"のうち、「晩春」('49年)、「麦秋」('51)が、娘が結婚に行くか行かないかという話でしたが、この「東京暮色」は、原節子が夫と夫婦不和で、半ば出戻り状態のようになっていて、何だかそれら前作の続きのような印象も受けます(情にほだされて結婚してしまったような「麦秋」とも繋がるが、父親を同じく笠智衆が演じている「晩春」とはよりよく繋がる感じも)。前後の小津作品も、多くが主要登場人物の結婚をテーマにしながら、「晩春」にも「麦秋」にも「秋刀魚の味」('62年)にもAkibiyori (1960) 2.jpgその結婚式の場面が無いのは(「秋日和」('60年)のみ例外で、司葉子と佐田啓二の結婚式の場面がある)、それらが何れも結果として"不幸な結婚"となることを暗示していて、小津安二郎が結婚の"現実"に対して悲観論者であったためとも言われています(小津安二郎自身、実人生において、噂のあった原節子と結婚することもなく、生涯独身を通した)。もしそうだとしたら、この「東京暮色」は、そうした小津安二郎の悲観的な結婚観に符合するともとれます。

小津安二郎 志賀直哉.jpg その意味でも興味深い作品ですが、評価が当時は芳しくなかったことに懲りたのか、小津安二郎はもうこの手の作品は撮らず、志賀直哉に「里見弴君が仕事が無くて困っているから彼の作品を使ってくれ」と言われ、里見弴の原作作品を「彼岸花」('58年)、「秋日和」、「秋刀魚の味」と3作も撮り(ただし、小津安二郎自身も10代の時から里見弴の作品を愛読していた)、「晩春」「麦秋」以来の娘が結婚に行くか行かないかという話を、これらでまた3回も繰り返すことになりました。小津安二郎自身、「俺は豆腐屋だから豆腐しか作れない」と言っているわけですが、結果としてどれも似たような感じになり、それぞれに一定の完成度は保っていますが、続けて観るとやや飽きがこなくもありません。個人的には、こうした「東京暮色」のような暗くてドラマチックな展開の小津映画ももっと観たかった気がしますが、結局この類の作品はもう作られることはなく、この「東京暮色」は、小津安二郎の後期作品の中では異彩を放つものとなったように思われます(「東京暮色」のIMDbスコアを見ると、他の小津作品に比べむしろ若干高い評価にある)。
       
小津4K 巨匠が見つめた7つの家族.jpg「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」<生誕115年記念企画>2018年6/16(土)~6/22(金)新宿ピカデリー、6/23(土)~7/7(土)角川シネマ新宿 有馬稲子
【上映作品】 「晩春 4K修復版」「麥秋 4K修復版」「お茶漬の味 4K修復版」「東京物語 4K修復版」「早春 4K修復版」「東京暮色 4K修復版」「浮草 4K修復版」

山田五十鈴 in 成瀬巳喜男監督「流れる」('56年)/小津安二郎監督「東京暮色」('57年)/黒澤明監督「用心棒」('61年)
流れる 1シーン.jpg 山田五十鈴 東京暮色.jpg 用心棒01.jpg

笠智衆(杉山周吉)・山村聰(友人・関口積)/杉村春子(孝子・明子の叔母・竹内重子)/高橋貞二(遊び人の川口)
東京暮色 笠智衆 山村.jpg東京暮色 杉村春子.jpg東京暮色 高橋.jpg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅角川シネマ新宿  0.jpg角川シネマ新宿 .jpg角川シネマ新宿 2.jpg原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):角川シネマ新宿(シネマ1・小津4K 巨匠が見つめた7つの家族)(18-06-28)((評価:★★★★)

角川シネマ新宿 シネマ1.jpg 角川シネマ新宿(新宿3丁目「新宿文化ビル」4・5階)シネマ1(300席/右写真)・シネマ2(56席)  2006(平成18)年12月9日〜旧文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」として、旧文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」として再オープン、2008(平成20)年6月14日「新宿ガーデンシネマ1・2」が「角川シネマ新宿1・2」に改称)


《読書MEMO》
●小津安二郎の1949年以降の作品(原作者)とIMDbスコア及び個人的評価
・1948年「風の中の牝雞」[7.6]★★★☆
・1949年「晩春」(広津和郎)[8.3]★★★★☆
・1950年「宗方姉妹」(大佛次郎)[7.5]★★★☆
・1951年「麦秋」[8.2]★★★★☆
・1952年「お茶漬の味」[7.9]★★★☆
・1953年「東京物語」[8.2]★★★★☆
・1956年「早春」[8.0]★★★☆
・1957年「東京暮色」[8.3]★★★★
・1958年「彼岸花」(里見 弴)[8.0]★★★★
・1959年「お早よう」[7.9]★★★☆
・1959年「浮草」[8.0]★★★☆
・1960年「秋日和」(里見 弴)[8.2]★★★☆
・1961年「小早川家の秋」[8.0]★★★☆
・1962年「秋刀魚の味」(里見 弴)[8.2] ★★★☆

         
 



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和田泰明

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