【2625】 ◎ ウォン・カーウァイ(王家衛) 「ブエノスアイレス」 (97年/香港) (1997/09 プレノンアッシュ) ★★★★☆

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地球の裏側が舞台だけに、一人でいることの孤独感がひしひしと伝わってくる。

ブエノスアイレス 1997 .jpgブエノスアイレス 00.jpgブエノスアイレス_d15.jpg
 ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)
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ブエノスアイレス_d5.jpg 香港から地球の裏側に当たるアルゼンチンをブエノスアイレス_d11.jpg旅するウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)のゲイのカップルは、それが「やり直す」ための旅行にもかかわらず、イグアスの滝へ行く途中で道に迷って荒野のハイウェイで喧嘩別れしてしまう。一人になったファイは旅費不足を補うためブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとしてブエノスアイレス_d12.jpg働くが、そこへ白ブエノスアイレス 02.jpg人男性とともにウィンが客として現れる。以降ウィンは何度もファイに復縁を迫りその度ファイは突き放すが、嫉妬した男性愛人にケガを負わされたウィンがアパートに転がり込んで来たため、やむなく介護する。ウィンブエノスアイレス 09.jpgとの生活にファイは安らかな幸せを感じるが、ケガの癒えたウィンはファイの留守に出歩くようになり、ファイは独占欲からウィンのパスポートを隠す。一方、ファイは転職した中華料理店の同僚で台湾からの旅行者のチャン(チャン・チェン)と親しくなり、そんなファイのもとからウィンは去っていく。旅行資金が貯まったチャンは南米最南端の岬へ旅立ち、チャンの出発後、ファイは稼ぎのいい食肉工場に転職、旅費が貯まりイグアスの滝へと旅立つ。香港への帰途、ファイは台北のチャンの実家が営む屋台を訪れる―。

ウォン・カーウァイ「ブエノスアイレス」.jpgブエノスアイレス 11.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1997年の香港映画で、同年の第50回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。主演のトニー・レオンは、1998年・第17回香港電影金像奨で最優秀主演男優賞を受賞しています。中華圏の監督による同性愛をモチーフとした映画は、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)やアン・リー監督の「ウェディング・バンケット」(93年/台湾・米)が既にありましたが、「さらば、わが愛/覇王別姫」は1920年代の中国の京劇団が舞台で、「ウェディング・バンケット」はアメリカが舞台、一方、この「ブエノスアイレス」はタイトル通りアルゼンチンが舞台で、最後の方に台湾が出てきます(香港は出てこなかった)。

 ゲイ・ムービーですが、男同士の恋人感情の揺れやぶつかり合いが丁寧かつ生々しく描かれていて、恋愛映画としてもよく出来ているように思いました。監督の狙いも、異性間の恋愛感情と何ら変わることがない普遍性を示すことにあったのではないでしょうか。ただ、やはりゲイ・ムービーということもあって、公開時は男性には敬遠され、そのかわり女性客が押しかけたようです(「シネマライズ」で約10万人を動員し、これは同館の歴代上映作品の観客動員数の第5位にあたる)。

ブエノスアイレス_d17.jpg 撮影は難航したようで、トニー・レオン(梁朝偉)は「同性愛者役はできない」と一旦出演を辞退したものの、「亡父の恋人をアルゼンチンに探しに行く息子の物語」に書き改めた新企画を示されて了承、ところが現地に着いてみるとストーリーは大きく変更されていました(監督に騙された?)。男同士でのラブシーンにはかなり抵抗があり、撮影後に呆然としてしていたそうです。

ブエノスアイレス_de.jpg また、相方役のレスリー・チャン(張國榮)は、映画俳優と人気歌手の掛け持ちで、撮影当時コンサートツアーの予定があり、遅延を重ねた撮影の途中でやむを得ず香港へ帰国してしまい、収拾のつかなくなったストーリーを完結させるために、兵役直前で休業に入る予定だった台湾出身のチャン・チェン(張震)と、香港出身の歌手シャーリー・クワン(關淑怡)が招集されましたが、チャン・チェンが中華料理店でのファイの後輩にあたるチャンの役でかなり重要な役どころで出ているのに対し、シャーリー・クワンの出演シーンは本編ブエノスアイレス_d16.jpgでは1カットも使われていません。チャン・チェンはカンフー俳優でもあり、兵役からの復帰後、アン・リー監督の「グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾レスリー・チャン3.gif・米)などに出演し、近年ではウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演の武術映画「グランド・マスター」('13年/香港・中国)にも出演しています。レスリー・チャンは「さらば、わが愛/覇王別姫」で既に同性愛者を演じていましたが、2003年に香港の高級ホテル「マンダリン・オリエンタル」から投身自殺を図り、46年の生涯を終えています。

ブエノスアイレス sessi .jpg 元から撮影現場で脚本決めをしたりするところがあるウォン・カーウァイ監督なので、レスリー・チャンが現地に留まっていればストーリー的には違った展開になっていたと思われます。この作品のメイキング映画「ブエノスアイレス 摂氏零度」('99年/香港)によれば、シャーリー・クワンはファイの妻役で登場し、チャンとも絡みがある一方、ウィンとウィンのケガを診察した女医とファイとの間で三角関係になるようなシナリオが用意されていたようです。

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 結局、ファイはウィンと別れた後、チャンへとその想いを転じましたが、それはあくまでプラトニック・ラブということなのでしょうか(因みにプラトン自身は同性愛者で且つ実践派だった)。この終わり方に美学を感じる人もいれば、ウィンがフラれた形で可哀そうと思う人もいるかもしれません。でも、ファイは常に仕事をしていたのに、ウィンは仕事もしないで、ヒモみたいな暮らしぶりだったからなあ。ヒモだってウチを守るくらいのことはするだろうけれど、勝手に出歩いてファイの気を揉ませていたし、その癖、ファイへの猜疑心や嫉妬心は強かった...。

ブエノスアイレス_d24.jpg こうしたことも含め、全編を貫いているのは、人間は孤独であり、その辛さに耐えられるかという問いかけではないでしょうかか。舞台が地球の裏側だけに、そのことが一層ひしひしと感じられます。そうした中で、一人では生きることが出来ないのがウィンブエノスアイレス ges.jpgで、次第に破滅に向かって行くタイプかも(ラストの方では、男性の愛人を仮想ファイに見立てていた)。一方で意外と逞しいのが中華料理店の後輩のチャンで、先輩の代わりに南米最南端の岬へ行って悩みを捨ててきてあげるからとファイにテープレコーダーブエノスアイレスes.jpgを渡しますが、ファイはテープレコーダーを握りしめるも言葉はなく、涙を流すしかありませんでした。それまで何となく距離を置いてこの映画を観ていたつもりが、このシーンではこちらもブエノスアイレス_d27.jpg泣けました。ファイが仕事に打ち込んできたのは、ウィンとの別離の痛みを忘れるためというのもあったのではないでしょうか(でも忘れられないでいる)。というわけで、チャンは約束通りしっかり南米最南端のエクレルール灯台まで行き('97年1月)、そのファイが"自らの悩みを吹き込んだ"カセットを聴くも、そこにはファイの言葉は無く、泣き声のようなものしか聴こえませんでした。

ブエノスアイレス_d25.jpg 一方のファイも最後には、貯めた金で中古車を買って旅の目的地だったイグアスの滝へ行っており、そこでウィンの不在を再認識しながらも彼との過去を封印したような感じで、更に帰国時には台北に寄って('97年2月。テレビでは鄧小平死去のニュースが伝えられている。この辺りは物語が撮影とリアルタイムになっているようだ)、チャンの実家が営む屋台を訪れ、チャンの写真を一枚盗むことで、「もし会おうと思えば、どこでだって会うことができる」と確信します。こうした行為は何れも自らの過去を整理するための(同時に未来へ向けての再生のための)儀式のように思えました。

花様年華75.jpg そう言えば、「花様年華」('00年/香港)のラストも、トニー・レオン演じる主人公がわざわざアンコールワット(こちらもイグアス同様に観光名所)まで行って、ある人妻女性との過去を封印したように見えました。マギー・チャン演じる当の相手女性はいちいちそんなことをしません。ひとり親として頑張って息子を育てていくのみ。よく女性は失恋旅行をすると言われますが、「ブエノスアイレス」と「花様年華」の2作を観ると、この種の儀式的行為をするのはむしろ男ではないかと思ってしまいます。ファイが、香港で父親の会社の金を盗み勘当されたと思われる、その父親に手紙を書くシーンがありました。人は一人では生きられない、では現実の孤独とどう向き合うか、ということと併せ、自らの過去とどう向き合うかというのも、この作品のテーマかもしれません。
「花様年華」より
チャン・チェン(張震)
ブエノスアイレス チャン・チェン(張震).jpg「ブエノスアイレス」●原題:春光乍洩/HAPPY TOGETHER●制作年:1997年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽:ダニー・チョンほか●時間:96分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/トニー・レオン(梁朝偉)/チャン・チェン(張震)/グレゴリー・デイトン/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:1997/09●配給:プレノンアッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(18-02-17)(評価:★★★★☆)

        
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和田泰明

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