【2599】 ○ 石原 慎太郎 「太陽の季節」―『太陽の季節』 (1956/03 新潮社) ★★★☆

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"妊娠小説"としての戦後日本文学の代表作。風俗をよく描いている分、古さは否めない。

太陽の季節 (1956年) _.jpg太陽の季節 新潮文庫.jpg太陽の季節 (新潮文庫).jpg 石原慎太郎 裕次郎L.jpg
太陽の季節 (新潮文庫)』 石原慎太郎・石原裕次郎
太陽の季節 (1956年)

 1955(昭和30)年・第1回「文學界新人賞」受賞作、1955(昭和30)年下半期・第34回「芥川賞」受賞作。

 窮屈な既成の価値や倫理に反逆し、若い戦後世代の肉体と性を描いて、戦後社会に新鮮な衝撃を与えた作品であるとされています。また、そればかりでなく、「芥川賞」の話題性を決定づけた作品でもあります。新潮文庫解説の奥野健男は、昭和32年の時点で、「僅か二年前の小説だが、既に歴史的な作品ということができる」としています。

 当時の芥川賞の選考では、最終的には藤枝静男の「痩我慢の説」との対決となり、この2作に対し選考委員の意見が分かれ、委員のうち舟橋聖一、石川達三がそれぞれ欠点を指摘しつつも「太陽の季節」を終始積極的に支持し、一方、佐藤春夫、丹羽文雄、宇野浩二が強く反対したものの、最終的には瀧井孝作、川端康成、中村光夫、井上靖が前者の支持派に同調したという流れだったようです(2対3から6対3に逆転したということか)。

太陽の季節es.jpg 作品が世間で話題になったのは、裕福な家庭で育った若者の無軌道な生活を描いたものであり、また、当時としては"奔放な"性描写が含まれていたこともあるかと思いますが、今読むと、それほど過激でもないという印象です(その分、先の時代を予言していたと言えなくもないが)。'56年に長門裕之、南田洋子主演で映画化されたものも(あまり印象に残ってないが)おとなしい内容だったのではなかったでしょうか(石原裕次郎が脇役で映画初出演、兄・慎太郎もチョイ役で出てる)。「日活100周年邦画クラシック GREAT20 太陽の季節 HDリマスター版 [DVD]

斎藤美奈子.jpg 齋藤美奈子風に言えば、女性が予期せぬ妊娠をすることで男性が悩むという"妊娠小説"ということになるのでしょう。齋藤氏によれば、この"妊娠小説"の典型例が森鴎外の『舞姫』であり、村上春樹の『風の歌を聴け』などもそうであるとのことで、日本の小説の伝統的(?)流れとして綿々と連なっているのだなあと思わされますが、その中でも戦後日本文学の代表作的位置づけにあるのが、この「太陽の季節」ではないかと思います。

石原慎太郎 裕次郎.jpg 素材としては、作者自身の体験ではなく、作者が弟の石原裕次郎から聞いた話が題材になっているそうですが、兄・慎太郎の方は弟・裕次郎よりずっと神経質そうな感じがします。当時ほとんど他の作家の作品などは読んでいなかったと公言していたとは言え、気質的にはどことなく神経質な文学者気質が感じられます("しばたき"に象徴されている)。政界に進出するなどし、無理して強気の姿勢を表に出し続けて何十年、結果として、ああいう豪放磊落なオモテと多感多情なウラを併せ持ったキャラになったのではないでしょうか。

 「太陽の季節」の翌年に発表された「処刑の部屋」の方が、やや完成度が高いかもしれません。かつてこの人の『完全な遊戯』(1957)や『行為と死』(1964)なども読んだりしましたが、個人的にはこの両作品の間の頃は結構良かったように思います。但し、風俗をよく描いている分、後になって読めば読むほど古さは否めなくなり、この「太陽の季節」にもそれは当て嵌まるような気がします(作者の「青春とはなんだ」などに通じるものも感じられる)。

青春てはなんだ 太陽の季節 行為と死 .jpg とは言え、田中康夫氏が言う「新人に必要なのは、若者であること、馬鹿者であること、よそ者であること」の三条件を、当時まさにぴったり満たしたのが、この「太陽の季節」であったと思います。以降、芥川賞は、毎回ではないですが、何年に一度か、そうしたことを意識した選考結果になることがあるようにも思います(なかなかそうした作品はないけれど、期待はしたい)。

 因みに、作品集『太陽の季節』は、1956年3月刊行の新潮社版は、「灰色の教室」(1954年)、「太陽の季節」「冷たい顔」(1955年)、「奪われぬもの」「処刑の部屋」(156年)を所収、1957年8月刊行の新潮文庫版では、「太陽の季節」「灰色の教室」「処刑の部屋」「ヨットと少年」(1956年)「黒い水」が収められており、若干ラインアップが異なっています。

現代長編文学全集〈第44〉石原慎太郎 (1968年)青春とはなんだ 太陽の季節 行為と死

【1957年文庫化・2011改版[新潮文庫]/1958年再文庫化[角川文庫(『太陽の季節・若い獣 他五篇』)]】

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和田泰明

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