【2596】 ○ 連城 三紀彦 「少女」―『少女』 (1984/05 光文社) 《 少女」―『少女ミステリー倶楽部』 (2017/10 光文社文庫)》 ★★★☆

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"援助交際"という言葉が流行る12年前の作品で、"援交"の上を行く「少女」。

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少女』(1984)『少女 (光文社文庫)』(1988)『少女 (光文社文庫)』(2001)『少女ミステリー倶楽部 (光文社文庫)』(2016) 連城三紀彦(1948-2013/享年65)

 「わたしと寝ない?」うらぶれたバーテンの「彼」が喫茶店で新聞を広げているところに、少女が突然、声をかけてきた。その日暮らしで、最初から金を払うつもりなどなかった「彼」だったが、やりようはあった。ことを果たした後、少女の隙を狙って、彼女の定期入れから2万円を盗んで逃走した。が、その札番号が郵便局強盗の奪った番号と一致したため、「彼」は警察に連行される。やがて、強盗の容疑は晴れるが、納得のいかぬ「彼」は少女を探す―。

 連城三紀彦(1948-2013/享年65)が「小説宝石」の'84年6月号に発表した作品で、短編集『少女』として'84年5月に光文社より刊行されています('88年/光文社文庫、2001年改訂)。

 冴えない中年男が売春少女から金を盗んだことを自ら証明しなければならなくなるという逆説的な展開がちょっと可笑しかったです。「少女が男を買ったからと言って、われわれにはどうすることもできないんだ...」という刑事の言葉に、「刑事さん、ホントにそれでいいの?」って思わず突っ込みたくなる気もするかもしれませんが、当時「買春」は禁じられてはいたものの罰則はなかったので、実質"犯罪"としては扱われていなかったし、この話の場合、大の大人を"買った"のだから、"児童買春"にも当たらないのだろなあ。

 因みに、現在は、18歳未満の少女少年と金銭を払って性的関係を持った場合には、児童買春となり青少年保護育成条例違反となりますが、恋愛関係にある場合には、18歳未満の女性と性行為を行っても青少年保護育成条例に違反することにはならないそうです(従って、金銭が支払われたかどうかがカギとなる)。

少女~an adolescent(.jpg少女~an adolescent.jpg映画「少女~an adolescent」(2001)

 「少女」は16年前にこの作品と出会って共感を受けたという俳優・奥田瑛二の監督・主演で映画化されていますが、主人公の男性は警官という設定になっています。奥田瑛二の監督デビュー作でもあり、第17回パリ国際映画祭でグランプリ受賞作品となっていますが、個人的には未見です(共演は小沢まゆ、小路晃、夏木マリ、室田日出男)。

 短編集『少女』に収録された他の作品は、「熱い闇」「ひと夏の肌」「盗まれた情事」「金色の髪」で、何れも官能小説の色合いが濃く、この内、「盗まれた情事」が三浦友和主演で1995年にテレビ朝日系でドラマ化されていますが、これも未見です(共演は余貴美子、高島礼子)。

 「少女」以外の短編集所収作品は、変態性欲を扱ったものなどどぎつさもある作品が多く、但し、ミステリーとしての面白さもそれぞれありますが、作者の文章に一番マッチしているのは「少女」ではないかなと思いました。風俗を描くという面でも、"援助交際"という言葉が流行語になったのが1996年で、それより12年前にこういうのを書いていた訳だから、かなり先駆的だったかも。しかも、この「少女」は見方によっては"援交"などより上を行っていることになります。それでいて、"少女"にどこか哀しさがあるのが、この小品の味なのかもしれません。

 この作品は2017年刊行の光文社文庫『少女ミステリー倶楽部』にも、同じく都会に棲む若者の生態を描いた笹沢佐保の「六本木心中」(1962年発表)などと併せて収録されています。

【1988年文庫化・2001改装[光文社文庫(『少女)]/2017年再文庫化[光文社文庫『少女ミステリー倶楽部』所収]】

《読書MEMO》
●『少女ミステリー倶楽部』 ('17年/光文社文庫)
オルレアンの少女(江戸川乱歩)/少女(連城三紀彦)/うす紫の午後(仁木悦子)/少女と武者人形(山田正紀)/五島・福江行(石沢英太郎)/白い道の少女(有馬頼義)/路地裏のフルコース(芦辺拓)/汽車を招く少女(丘美丈二郎)/老人と看護の娘(木々高太郎)/笛吹けば人が死ぬ(角田喜久雄)/バラの耳飾り(結城昌治)/白菊(夢野久作)/六本木心中(笹沢左保)

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This page contains a single entry by wada published on 2017年11月11日 22:39.

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