【2527】 △ 吉田 修一 『橋を渡る (2016/03 文藝春秋) ★★★

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新機軸への意欲は買うものの、その試みは必ずしも成功しているとは言えない。

橋を渡る 吉田.jpg橋を渡る 吉田修一.jpg橋を渡る』(2016/03 文藝春秋)

 2014年春、都心で妻と暮らす新宮明良は、ビール会社の営業課長で、部下からも友人からも信頼される男。そんな彼の家に謎めいた贈り物が続く。「家の前に日本酒が置いてあるけど」「こんどは米?」妻・歩美の経営する画廊に絵を持ち込んで断わられた画家・朝比奈達二の仕業か? 2014年夏、東京都議会議員の夫と息子を愛する赤岩篤子。息子のスイミングスクールに付き添い、ママ友とボランティア活動に打ち込む良妻賢母だが、彼女には、夫が都議会でセクハラ野次を飛ばした本人ではないかという不安があった。やがて彼女は、大切な人の不正や裏切りを知る。愛する人を守ろうとしながら、篤子は心身のバランスを失っていく。2014年秋、テレビの報道ディレクター里見謙一郎は、正義を追い求め、歌舞伎町で生きる女の子や香港の雨傘革命を取材している。万能細胞の研究者・佐山恭二教授にも、「STAP騒動のように、興味本意で番組を制作するつもりはありません」と粘り強く交渉している。ある日、謙一郎は、「週刊文春」編集部につとめる友人の水谷から、結婚を控えた薫子が、和太鼓サークルの主宰者・結城と会っているのではないかと仄めかされる。そして、冬―。

 「週刊文春」に2014年から2015年7月まで約1年間連載された小説。ビール会社の営業課長・新宮明良が主人公の「第1章・春―明良」、都議会議員の妻赤岩篤子が主人公の「第2章・夏―篤子」、結婚間近のフィアンセがいるテレビ局のディレクター里見謙一郎が主人公の「第3章・秋―謙一郎」と、何れも現代(2014年)を背景としたそれぞれ別々の話があって、次に第4章「そして冬」で話は一気に70年後の第1章から第3章の登場人物の孫の世代まで飛び、別々だった登場人物が絡み合うとともに、何と第3章の主人公が70年後の世界にタイムスリップしてきます(ここで初めてSFだったのかあと)。

 芥川賞作家の青山七恵氏が読売新聞に絶賛に近い書評を書いていましたが(まあ、書評というのは大概は褒めるものだが)、個人的には、新機軸を打ち出そうとする意欲は買うものの、その試みは必ずしも成功しているようには思えなかったです(「橋を渡る」というタイトルに込められた意味も、今一つぴんとこなかった)。

 第1章から第3章までのバラバラな話が第4章で収束していくわけですが、第1章から第3章で書かれていることのうち、第4章の伏線になっているのはごく一部であり、それ以外の無駄な話が多かったように思います。そのため、第4章で全てが明らかになったというスッキリ感よりも、繋がりのない3つの話をダラダラと読まされたのは何だったのかという疲労感の方が残ってしまった印象です。

 Amazon.comのレビューでも評価が割れていましたが、個人的には完全に「失敗作」であるとは言わないまでも、それに近いと思いました。但し、青山七恵氏に限らず、Amazon.comのレビューでも絶賛しているものが少なからずあり、まあ、この手の作品(ある種技巧を凝らした作品)に対する評価は、読む人によるのだろうなあと思います(この人の作品『愛に乱暴』についても、同様の事が言えると思う)。

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和田泰明

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