【2504】 ○ 桐野 夏生 『バラカ (2016/02 集英社) ★★★★

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川島の女性憎悪キャラが立っていた。面白かったが、終盤ややバタバタバタと慌ただしかった。

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バラカ』(2016/02 集英社)

 ドバイの赤ん坊市場で買われて日本に来たバラカは、東日本大震災で養親と生き別れ、警戒区域内で豊田老人に保護される。幼くして被曝した彼女は、反原発/推進両派の争いに巻き込まれ、災厄のような男・川島に追われながらも、震災後の日本を生き抜いてゆく―。

 雑誌「小説すばる」で2011年8月号ら2015年5月号に渡り連載された長編小説で、2011年の東日本大震災以降、多くの作家が自らの作品に所謂〈3.11〉を反映させていますが、この人もやっぱりすぐに...。でも、さすが実力派という感じで、650ページの大作ですが飽きずに読め、面白かったです。

 物語は、老人ボランティアの豊田が警戒区域で孤児を保護するプロローグから始まり、続く第1部で大震災前に時間が戻り、第2部が震災時、そして第3部が大震災の8年後という構成。日系ブラジル人のパウロとロザ夫妻の間に生まれてドバイの赤ん坊市場に売られ、日本人に買われるも震災で新たには母となったばかりの女性を失う少女・バラカこそが、プロローグで豊田が保護した孤児だったということです。

 その孤児を買ったのは木下沙羅というテレビ局勤務の女性で、親友の出版社勤務の田島優子の彼氏である川島と関係して妊娠し、子どもを堕した過去があり、恋愛や結婚よりも子どもに執着していて、それで沙羅が養子を"買い"にドバイに行くのを(この辺りは金があれば何とでもなるというバブル期世代の面影を感じる)、優子が雑誌の企画モノとして取材するという微妙な関係。更に、バラカ(本名ミカ)の実父母の日系ブラジル人夫妻の関係に割って入る牧師から、反原発派の運動にそれぞれの形で関わるサクラという女性や豊田老人に近い立場の健太・康太兄弟など、登場人物は多彩。概ね、娘を探すパウロ側の話と、その件の娘であるバラカ側の話が字縄のように交互に展開しますが、最後に1つに収束していきます。

 こうした多くの登場人物の中でもキャラが際立っていたのが、沙羅と結婚してバラカの義父となる川島の女性憎悪(ミソジニー)の権化ぶりで、その卑劣さが強烈なインパクトとなって物語を牽引していると言ってもいいくらいでした。こうした残虐性の描き方はこの作家の得意とするところでしょうが、露悪趣味としての残虐性ではなく、一人の男の持つ残虐性を通して、日本の社会の奥底にある普段は隠蔽されている偏見のようなものを象徴的に浮き彫りにしているのが優れている点でしょう。

 そうしたことも含め、期待を裏切るものではなかったですが(それどころか大いに楽しめた)、パウロと川島の住まいが偶々隣同士になるなど、終盤においてストーリーを収斂させるためにやや強引な(悪く言えばご都合主義的な)展開が見られたように思います。エピローグにかけて話がややバタバタバタと片付いていくような(ストーリーだけを語っているような)慌ただしさがあり、この点は読む人によると思いますが、若干余韻を損ねたように思いました。作者の最高傑作とする人もいますが、個人的にはそこまではいかなかったかなあ(「星5つ」ではなく「星4つ」)。



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2017年1月 3日 22:40.

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