【2499】 ○ 赤川 次郎 『東京零(ゼロ)年 (2015/08 集英社) ★★★★

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面白かった。出来過ぎ感、非現実感は、娯楽小説、近未来小説とみれば許容範囲内か。

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東京零年』(2015/08 集英社)赤川次郎氏[デジタル毎日](吉川英治文学賞受賞)

 2016(平成28)年・第50回「吉川英治文学賞」受賞作。

 駅ホームから転落した学生の生田目健司を24歳の永沢亜紀が救った。その亜紀の父親で、脳溢血で倒れ介護施設に入所しているかつての社会運動家・永沢浩介は、ある男がTV番組に写り込んでいるのを見て発作を起こす。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から「ゆあさ」という言葉を聞く。それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。健司の父親で、元検察庁特別検察官・生田目重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。時は遡り数年前、エリート検察官の生田目重治、反権力ジャーナリストの永沢浩介、その補佐を務める湯浅道男ら、圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた―。

 雑誌「すばる」で約2年半に渡り連載され社会派サスペンス小説で、2011年の東日本大震災以降、この作家は社会的な発言を結構するようになっていますが(立場的にはリベラル?)、作品に反映されているものを読んだのは、個人的にはこれが初めてでした。面白かったです。何よりもテンポがいい。500ページを超える大作ですが、平易な文体ですらすら読めます。

 やや話が出来過ぎた話の印象もありますが、エンタテインメント小説として許される範囲内でしょうか。むしろ、リアリティの面でどうかというのがありますが、これ自体「近未来」という設定のようなので、近未来小説として読めばこの点でも基準をクリアしているように思えました(一番出来過ぎていると思ったのは、永沢亜紀がターゲットである相手とぶつかりざまに隠しマイクを取り付けるところか。素人がやってそんな上手くいくかなあ)。

 でも、近未来の日本を描いたものでありながら、今でも起こりうると思われる部分もあって(未来の監視社会の恐怖と言うよりは、検察・警察権力の暴走の怖さを描いている)、作者の作品群の中で相対評価すれば、星5つあげてもいいくらいかなあと思ったりもしました。

 プロットの展開は、この作家の持ち味と言うか、やはり上手だと思います。一方で、この作家独自の「軽さ」のようなものもどこかにあって、読んでいる間は面白いけれど、テーマの重さの割には、時間が経ってからどれぐらい心に残るだろうかというのもあって、星4つとしました。

 Amazon.comのレビューを見ると、自分より辛い評価のものも若干ながらありました。その中で、「確かに検察・警察権力が暴走しているのだが、やり方があまりにも粗暴かつ幼稚で現実感がない」というのがありました。批判的にみればそうなのだろうなあと思われ、その辺が「軽さ」感に繋がっているのかもしれません。でもこの「軽さ」は、個人的には、娯楽小説、近未来小説としての許容範囲内ではないかと思います。

【2018年文庫化[集英社文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2016年12月24日 00:12.

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